「う~ん……新作への道は険しいです……」
「何悩んでるの?」
厨房の片隅でうんうんと唸るカーマに声をかけるオオガミ。
カーマはそれに気付くと一瞬驚いた顔をするも、すぐに不満そうな顔になり、
「どこから聞いてたんですか」
「どこからって……その新作らしきドーナツを作ってる辺りから」
「ほぼ最初からじゃないですか! なんですか! 邪魔しにきたんですか! 生憎まだ完成してないので帰ってください!」
「いや、邪魔しにきたのなら完成してないからこそでしょ。というか、お菓子の補充に来ただけなんだけど……」
「はぁ? 補充?」
「うん。作ったやつは全部捌けきってるからね。自分用は別で用意しなきゃな訳です」
「……さては商売敵ですね?」
「うぅむ納得いかない」
ただ声をかけただけで敵対されてしまうのはどこか納得がいかないオオガミ。
とはいえ、カーマはもとからこんなだった気もするので、強く気にしてはいないのだった。
「で、新作はどうダメなの?」
「む。そうです。これだとリソースが足りずに女神の神核を貫通できないんです。なのでこれじゃあただの美味しいドーナツ……私の目指すものではないんです」
「なるほど。それはまた悪意に満ちて……うん。まぁその失敗作は美味しそうだから貰っていくね」
「あっ、ちょ! 勝手なことをしないでください!」
「いやいや。考えてほしい。コレが広まって美味しいと判断されて、しかも害はない。ならばとまた貰いに来る人に完成品を渡すことで、皆疑いもせずに食べまくるという事ですよ。どう思う?」
「むぅ……なんだか言いくるめられてる気がするのが何とも言えないですが……まぁ良いです。その案に乗ってあげます。と言っても、そもそもそんなに数は無いですし効果は薄いでしょうけど」
「うん。じゃあ貰っていくね~」
そう言って去っていくオオガミを胡乱な目で見送ったカーマは、一つ大きなため息を吐くと、
「いやほんと、なんで私はこんなの作ってるんでしょ……そもそもこれを選んだのは私じゃなくてバラキーですし……うぅ……なんだかだんだん絆されている気がして、あまりいい気分じゃないんですけど……良いように使われてません? 私」
そう言いながらも、一つ、また一つとドーナツを作っていくカーマ。
ぶつくさと文句を言いながらも、その動きに無駄は少なく、何度も練習したのであろう事は明らかだった。
「ん~……やっぱり生地に大量のリソースを混ぜ込んで、油にも入れますかねぇ……揚げるときに油を吸収して程よくなりますかねぇ……」
「うむ。なら、それは吾が喰う。全部寄越すが良いぞ。カーマよ」
「……いきなり出て来ないでくださいよバラキー。まだ出来てないです。完成まで待ってください」
後ろからひょっこり現れたバラキーに、カーマは若干嫌な顔をする。
だが、バラキーは楽しそうに笑いながら、
「いやなに、マスターがうまそうなドーナツを持っていたのでな。聞けばカーマが作ったという。なら食べるしかないだろう? うむ。旨かった。という事で、おかわり」
「え、全部食べたんですか?」
「いや、新しい方が旨いと言われたから、すぐにこっちに来た。だから、楽しみにしてるぞ」
「……はいはい。じゃ、席に座って待っててください」
カーマに言われてバラキーは笑いながら厨房を出ていき、カーマは困ったように笑うと、
「全く、ああやって純粋に来られるとやりづらいです。ま、今度こそでっぷりとさせてあげますとも」
そう言って、カーマはドーナツを作っていくのだった。
最近カーマとバラキーも仲良すぎでは。何があったんだこの二人。
そして安定のヤバめの新作ドーナツ。ダミーで心を掴んでからの満を持して本命。全サーヴァントぶくぶく計画……許されない……