「ふふん。借金取りになんか負けないわよ」
「あぁ全く、本当に度し難いな汎人類史。まさか菓子の為にあそこまで躍起になるとは思わなかったぞ」
「いやまぁ、彼女が特殊なんですけど。むしろ秦は彼女の逆鱗だと思うんですけど……」
そう言って、復刻クエストの文系バーサーカーとファイナルを消し飛ばした始皇帝と、借金取りとジャガ村を海に沈めたラムダに微妙な笑みを浮かべるオオガミ。
「分かるわ。あそこは完全栄養食こそあれど、特に変わらないサイクルを繰り返す面白味のないところだもの。甘味もないし、何が楽しいのかサッパリよ」
「ふむ……だがやはり、周りとは違う美味なるものがあれば、それだけで闘争は起こる。ならば、やはり無い方が良いに決まっているだろう。争いが起こらなければ滅びたりはせん。確実な生存はそうする他なかろう?」
「だからって、それで欲を失くしちゃ世話無いわよ。無意味無価値。欲望こそが人を生き物足らしめ、思考こそが人を人足らしめる。それなのにそのどちらも奪われたら、それは人ではなく自律した人形そのものね。あぁ全く。私の目指した理想のようで、かけ離れたくそみたいな世界だわ」
「ほぅ……言ってくれるではないか娘よ。儒こそ人、争いこそ生き物か。世界のバグから作られたにしては、中々な答えよ」
始皇帝の言葉に、ラムダは一瞬目を大きく見開き、次の瞬間にはメルトリリスとしての霊基に変質させ、殺意のこもった視線で、
「……次同じ事を言ってみなさい。ぶち殺してあげる」
「ふむ。どうやら逆鱗に触れたようだ。それはすまん。何分そなたとはあまり話す機会がなくてな。あまり調べてもおらぬゆえ、何が悪かったのか……あぁいや、待てマスター。朕も事を構えようと言うわけではない」
「なら良いんですけど。まぁ、次始皇帝を呼ぶときにはメルトがいないときにしよう。うん。それが一番な気がする」
オオガミはそう言って一人頷き、今まさに噛みつかんとしているメルトをお姫様抱っこで抱えあげると、始皇帝に笑顔をみせ、
「じゃあオレはこれで。また何かあったら呼びますね。始皇帝」
「うむ。困ったのなら遠慮なく呼ぶが良い。許すぞ」
始皇帝に言われ、一礼してその場を後にするオオガミ。
当然メルトは不満で、今にも暴れだしそうな勢いのまま、
「ちょっと! アイツに一撃入れられないじゃない!
そうオオガミに文句を言うと、
「大丈夫大丈夫。そのうち仕返し出来るときが絶対来るから。確実に、来るから」
「っ……そ、そう……まぁ、それなら良いわ……」
オオガミの顔を見て、メルトは思わず視線を逸らすのだった。
なんで秒で喧嘩になってんのこの二人。何をしたらこうなるの。あとメモリアルクエストを楽しみにしないでオオガミ君。始皇帝とか二度とやりたくねぇから。