「い、いやあ、琴葉さんはよく食べますね...」
私は茜ちゃんの食べっぷりに感嘆してそう言った。茜ちゃんは自分の分を食べたかと思うと、さらに追加で私と同じパンを食べ始めた。これだけで私の昼食分の量はあるだろうか。この小さな体にどこにそれほどの容量があるのか分からないが、茜ちゃんは飛び切りの笑顔でパンを頬張っている。
「ほほのパンはおいひぃなぁ~。」
口にパンを頬張ったまま喋ったので若干言葉が砕ける。
茜ちゃん可愛いなぁ―――。
いつも良い笑顔をする茜ちゃんだが、美味しい物を食べているときの茜ちゃんの笑顔は小さな子供の様な純粋さ、明るさを伴って、私の心に可愛さを突き立てるが如く強烈に響いた。まずいこれ以上は耐えられない。これまでにないほどに最高な笑顔の茜ちゃんに私の心は耐え切れず口元が緩み、にやける。瞬間、アカネチャンはそれを見逃さなかったようで、瞳の輝きが増した。
「あー、ゆかりさんが笑ったー。初めてみるなぁ、ゆかりさんが笑ったところ。」
私の笑うところを見られた。恥ずかしい、はずかしい、ハズカシイ。私の思考は刹那の内に真っ白になり、蒸発。霧散した思考の中でなんとか表情筋を動かし、顔を整え、冷静を装う。クールな先輩を演じてきただけにこれ以上のキャラクターの崩壊は避けたい。いや、クールなのを演じてきたのは私がコミュ障で話すのが苦手なのを克服せずに来ただけと言うのもあるのだが。しかし、ここまで演じてきたものを崩して一からやり直すと云う事は殊更にコミュ障故に困難である。あぁ、どうしてこんな事に。茜ちゃんが可愛いせいであるが、可愛いからこそ私が幸せな気持ちになってきたのであって。そんな堂々巡りの思考を霞のように薄く残された思考力で行っていると、
「あれれー。ゆかりさん。どうしたんや、もしかして怒らせちゃったかな...」
茜ちゃんが少々不安げな顔で問いかける。私のせいで茜ちゃんを不安にさせたのは私の気分がよくない。すぐに取り繕って、
「あ、大丈夫ですよ。ちょっと昨日考えた小説の文章がいい文章でにやけちゃっただけです。」
苦しい言い訳なのは分かるが、通るだろうか。どうだ...
「そうやったんかー。ゆかりさんの笑ってるところ初めて見たからちょっと嬉しくなっちゃって...」
通った。そして、そう思ってくれるなら私も嬉しいよっ―――。
湧き上がる喜びを噛み締め、表に出ないように抑えつつできるだけ平静にする。
「ありがとう。琴葉さん。それではそろそろ行きましょうか。」
茜ちゃんが食べ切ったのを見計らって、店から出るのを促す。一度は危機を乗り切ったが、二度目を乗り越える自信はない。
「うーん、もうちょっと食べたい気もするけど、まあええかー。」
茜ちゃん、恐ろしい子―――。
無限の食欲を持つような錯覚を覚えて、頭がクラっとしつつも茜ちゃんと店を出た。