ふたりの恋愛前線【完結】   作:Kohya S.

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 東京駅を定刻通りに発車した新幹線は(なめ)らかに加速を続けていた。日曜夜のこだま号は観光客もビジネスマンも少ないのだろう、車内は空席ばかりだ。僕はスーツケースを頭上の棚に乗せて座席に座る。

 

 やがて訪れる、新幹線独特の浮遊感のある乗り心地。そして車窓を流れる街の灯り。僕の心は自然と二年前のことに流れていく。(よみがえ)る彼女の面影がちくりと痛い。

 あのときも僕は同じように夜の新幹線で三島駅へ向かったのだった。

 

        ・

 

 二年前の春、都内の大学を卒業した僕は地方の民間気象会社に就職した。簡単にいえば、地域密着で天気予報をする会社だ。

 特に業種を絞って就職活動をしたわけではなかったが、いくつかもらった内定のうちの一社がここだった。在学中に興味本位で取った気象予報士の資格が役に立ったのだと思う。いろいろな条件を(はかり)に掛けて、僕は就職先を決めた。

 

 四月から本社で研修を受けて、六月に決まった配属先は、沼津市にある支社だった。

 

 六月初めの土曜日(このときは土曜日だった)の夜、僕は新幹線を三島駅で降りた。そこで在来線に乗り換えて沼津駅へ。さらにバスで目的地の内浦に()いたころには時刻は午後九時を過ぎていた。ずいぶん遠いところだな、と思ったのは否めない。

 

 住むことになるアパートの部屋(会社の借り上げだ)にはしっかりと「田嶋(たじま)」と表札が出ていた。

 翌日の日曜日は先に送ってあった荷物の片づけで終わった。

 

 月曜日の朝、部屋から一歩踏み出すと、さわやかな空気が僕を包んだ。そしてかすかな潮の香り。

 支社までは徒歩で数分の距離だが、出社時刻までにはずいぶん余裕があった。初めての出勤でさすがに遅刻はまずいし、これから住むことになる――そして予報を出すことになる――内浦の空気をしっかりと感じたいと思っていた。

 

「天気、晴れ。雲量2。北東の風、3メートル。気温20度、湿度60パーセント……ってところかな」

 

 僕はそうつぶきながら、住宅街の道を歩いた。少し進むと県道に出て視界が開け、同時に潮の香りがぐっと強くなった。道路のすぐ目の前が、もう海だった。

 車に注意しながら片側一車線の道路を渡り、海岸に突き出した十メートルほどの短い防波堤をなかほどまで行ってみた。

 

 僕のいるところは小さい湾の内側だった。海岸線は左手で大きく弧を描き、ぐるっと正面まで戻ってきている。そこの岬の上は小高い丘だ。湾の差し渡しは数百メートルほどだろうか。右手は駿河(するが)湾に開いている。

 湾の中に動きは見えなかった。すでに高くのぼった太陽の光に波がきらきらと輝いた。

 

 手元の紙――ネットからダウンロードして印刷してきた天気図だ――を開く。この晴天は関東の(みなみ)海上(かいじょう)の高気圧のおかげだ。ただ西の空には薄い雲が見える。あまり長くは続かないだろう。

 

 空の観察を終えて僕はしばらく、そのままぼうっとしていた。海の青と空の青。同じ青でもまったく異なる色彩がそれぞれ美しかった。

 

 どのくらいそうしていただろうか。僕は気配を感じて振り返った。

 

 制服姿の少女が歩道に立ち、同じように海を眺めていた。肩から鞄をさげている。制服には当然ながら見覚えがなかったが、雰囲気からして恐らく中学生ではなく高校生だろう。

 

 肩に掛かるかどうかの長さの髪は光の加減かアッシュブロンドめいて透き通り、整った顔立ちに少し青みがかった目が印象的だった。そしてスカートから伸びるすらりとした、それでいて女の子らしい柔らかな曲線を(えが)く脚。

 

 目があうと彼女はにこりと微笑み、なにごともなかったように県道を歩いていく。僕はそれをしばらく見送ってから、ふたたび海に視線を戻した。

 海と空の美しさは先ほどまでと変わらない。でもなぜか、僕の頭からは彼女のイメージが離れなかった。内浦の海と彼女は、妙に似合うような気がした。

 

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 それからは毎朝少し早く出て、遠回りして出社するのを日課にした。新しい土地で初めての道を歩くのは楽しかった。とはいっても内浦は海と山に(はさ)まれた細長い地形なので、ルートは限られていたけれど。

 

 数日後、アパートからふたたび海沿いの県道に出ると、ちょうどすぐ近くのバス停に南行きのバスが止まったところだった。何人かの客が降りてきて、そのなかに彼女がいた。制服に鞄という前回と同じ姿だ。

 彼女はバスが去ったあとの道路を渡り、歩道を歩き始めた。

 僕は思わず小走りで彼女の後を追っていた。

 

 先日の防波堤で彼女に追いつく。彼女は手庇(てびさし)で海を眺めていた。視線の先にあるのは駿河湾を行くフェリーだろうか。

 

 ああ、と思い至る。あのとき僕は、彼女の特等席にお邪魔していたんだな。

 

 短いスカートから――それでも都内の高校生よりはいくぶん長いだろうか――(のぞ)く脚がまぶしかった。

 

 僕に気づいたのか彼女は振り返ると、すこし驚いた顔をした。僕はまた邪魔をしてしまったことを申し訳なく思いながら軽く会釈した。

 なにかいわないといけない気がして口を開く。

 

「ここ、眺めがいいですね」

「はい、お気に入りです」

 

 彼女は前回と同じように微笑み、ぺこりと頭を下げてから僕のわきをすり抜けて道路に戻った。

 

 僕はあえて彼女から視線を離して海を見つめた。今日もよく晴れそうだった。

 

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 翌週、もう一度同じルートで会社へ向かった。住宅街を歩きながら彼女との出会いを期待している僕がいた。

 二回出会っただけなのに、彼女のことは不思議と気になった。

 

 果たして目の前をバスが通過していき、県道に出ると防波堤に立つ彼女の姿が見えた。

 県道を渡り防波堤のたもとから思い切って声を掛ける。

 

「おはよう」

「おはようございます」

 

 彼女は顔だけで振り返り、にこっと笑った。意外そうな顔はしていなかった。

 

 僕は彼女の右斜め後ろから海を見つめる。彼女もふたたびそちらを向いた。

 

 薄曇りの空から太陽が柔らかく湾内を照らしていた。ただ風は少し冷たくて、彼女のスカートを絶え間なく揺らした。海面にも白い泡がはじけている。

 

「うーん、天気、悪くなりそうだなあ」

 

 彼女は誰にいうともなくつぶやいた。

 

「だと思うよ」と僕。

 

 こちらを向いた彼女の、うながすような視線に僕は続ける。

 

「低気圧が近づいて来てる。進路にもよるけど、夕方には降り出すかな」

「やっぱりそうかー。そんな感じがしたんだ。今日、プール開きなんだけどな」

「ん、日中はなんとか持つと思うけど」

「でも、この感じだと……これから寒くなりますよね」

 

 彼女は風を感じるように目を閉じて鼻をひくひくさせる。

 

「うん、今日はこれ以上は上がらないだろうね」

 

 今日の最高気温は朝に出る予報だった。なるほど、プール開きだと気温も重要か。

 

「それじゃ、中止かなあ」

 

 彼女はあーあというように首をふった。よほど楽しみだったのだろう。

 

「低気圧が通過して、あさってには持ち直すから」

 

 (なぐさ)めになっているのかどうか疑問だな、と思いつつ話した。

 

「そっか。それまでの辛抱だね」

 

 彼女はうんうんとうなずいた。いつの間にか笑顔が戻っていた。

 

「ありがとうございました」

 

 彼女は会釈すると僕の返事を待たずに道路に戻り、速足で歩いていった。

 

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 次に会ったのは翌々日で、昨日までの雨はすっかり上がっていた。

 

「おはようございます」

 

 防波堤で天気図を開いていると背中から快活な声が聞こえた。

 

「おはよう」

 

 振り返ると、そこには今までと同じ笑顔があった。

 彼女は僕の横を通り防波堤の先端までたたっと走った。光る海にまぶしそうに目を細める。

 

「んー、いい天気」

 

 大きく深呼吸する彼女。僕もちょうど手が届かないくらいの距離を置いて、隣に立つ。

 

「そうだね」

 

 風は穏やかで空気も()んでいた。空は天頂から水平線にかけて、深い青から白へとグラデーションを(えが)いている。

 

「今日の天気はどうかなあ?」

 

 彼女は期待するような目で僕を見つめる。

 

「今日は一日、晴れると思うよ」

 

 いまは涼しいが日中には暑さを覚えるほどになるだろう。プール開きには最適な日だ。

 

「そっか。うん、私もそう思う」

 

 彼女は嬉しそうに微笑んでから、僕の手元に目を止めた。

 

「それって、なんですか?」

「ああ」僕は彼女に手渡した。「天気図だよ」

「あ、私も天気図、見るの好きなんだよね」

 

 彼女は紙を顔に近づけてじっくりと眺めた。

 

「あれっ、この記号、見たことないんだけど」

 

 僕に向けた彼女の顔には疑問が浮かんでいた。僕は興味を示してくれたことが嬉しくてつい得意になる。

 

「国際式天気図っていうんだ。日本式よりずっと、細かいんだよ」

 

 国際式の記号は新聞やテレビに出てくる日本式天気図とはまったく異なる。また各地の天気、気温、気圧だけでなく、雲の状態や降水量、過去の天気なども記されていて、気象予報には不可欠だ。

 

「へーっ」

 

 彼女は感心したようにしばらく見入ってから「ありがとうございました」と僕に紙を返した。

 

「プール開き、できそうだね」

 

 受け取りながら僕はそういう。

 

「えへへ、渡辺(よう)、本領発揮であります」

 

 彼女――曜は笑い、右手で敬礼をしてみせた。僕はどうしていいかわからず、とりあえずうなずいた。

 

「あ、そろそろ行かなきゃ。私、渡辺曜です。曜日の曜」

「ん、僕は田嶋」

「田嶋さん。また天気の話、聞かせてください。それじゃ」

 

 曜は手を振ってから歩道を駆けていった。

 

 どうやら天気のことに興味があるらしい彼女に、僕は親近感を覚えた。若い女性には珍しい――と思う。それともたんに海辺の町の子だから、だろうか。

 

 渡辺曜、か。僕は口のなかで繰り返し、彼女の背中が小さくなっていくのを見守った。

 

        ・

 

 内浦に来てから二週間もすると支社での仕事にも慣れてきた。気象予報士の資格があるとはいえ、新卒の駆け出しには実際の予報を出すのは難しい。大まかな予報は本社が数値計算とベテラン気象予報士でおこない、それを支社の先輩予報士が、内浦の状況を考慮して微調整していた。

 

 僕は予報の元になるデータを整理したり、顧客への配信やサポートをしたりといった業務を任されていた。まあ雑用といっていいだろう。

 

 朝の通勤ルートもだいたい固まった。僕は県道に出てから会社へ向かうことにした。

 曜とは二日に一度ほど一緒になった。

 

「おはヨーソロー!」

 

 いったん顔なじみになってしまうと曜は敬礼とともにそう挨拶してくれた。敬礼で(こた)えたほうがいいのだろうか、といつも思いながらも、僕は「おはよう」と普通に返した。

 

 曜は僕の考えた通りに高校生で、内浦のはずれの(うら)(ほし)女学院の一年生だった。学院は防波堤から見える、湾に突き出した丘の上にあった。

 僕が気象予報士だというと、曜は思いのほか食いついてきた。

 

「すごいじゃないですか! だからあんなに天気に詳しいんですね」

「いや、まだ新人だから、本当の予報には関わらせてもらえないんだけど」

「でも、田嶋さんの予想、いつも当たるし。尊敬しちゃいます」

 

 気象予報士の資格を取ったと友人に話しても――意外に試験の難易度は高い――反応は薄かったので、曜の賞賛の言葉ときらきら輝く瞳はこそばゆかった。

 

 僕が会社の名前を出すと意外なことに曜は知っていた。

 

「あ、うちに届くファクスに書いてあったのと同じだ」

「渡辺さんのうちも漁業関係なのかな?」

 

 ネットのある時代だがやはり紙がいいという客も多いらしく、支社では気象概況などを毎朝ファクスで送信するサービスをおこなっている。

 

「ううん、私のお父さん、定期船の船長をしてるんだ」

「へえ、すごいね」

 

 おそらく曜の父か、フェリー会社が、うちの会社と契約しているのだろう。

 

「それじゃ、渡辺さんはお客様か。いつもご利用いただき、ありがとうございます」

「えへへ」

 

 僕が大げさに頭を下げると、曜は照れくさそうに頭をかいた。そんな曜を僕は可愛いと思う。

 

「……それで、気象予報士って白衣とか着ないんですか?」

「えっ?」

 

 顔を上げた曜の意外な言葉に一瞬、戸惑(とまど)った。

 

「ほら、科学者って白衣のイメージ、あるじゃないですか。かっこいいですよね」

「気象予報士っていっても、サラリーマンだからね。普通は着ないかな」

「そっかー。スーツも悪くないんだけど、制服っぽさからすると白衣のほうがいいかなあ」

 

 曜は僕の服をちらっと見て残念そうに首を振った。

 

 まあ、白衣も悪くないかもな。僕はそう思った。

 

        ・

 

 その年の梅雨入りは平年よりも少し遅かった。

 

 雲の多いある日の朝――雲量7というところだ――僕は悩んでいた。いまは雨は()んでいるが梅雨前線の動き次第ではいつ降り出してもおかしくなかった。

 防波堤にやってきた曜に、僕は素直に予報が難しいことを話す。

 

「……僕はたぶん、午後から雨になると思うんだけど」

「んー、そうだなあ」

 

 曜は首をかしげてから、背後を振り返り指をさした。

 

「あそこの山、見える?」

「うん」

 

 僕たちがいる東側の山並みが一部で低くなり、その隙間からより遠くの山が白っぽく見えた。

 

「あの山に東から雲がかかってると、その日はだいたい、持つんだよね」

 

 曜のいうとおり、山頂のあたりはクリームでデコレーションしたように雲に(おお)われていた。

 

「へえ、そうなんだ」

「田嶋さんは雨っていってたっけ」

「まあ、ね」

 

 自信はあまりなかったが。

 

「私は今日いっぱいは降らないと思うな。明日、答え合わせだね」

 

 結局その日は、日中は雨は降らず――降り出したのは日付が変わってからだった。

 

 翌日、曜はライトブルーの傘をくるくると回しながら防波堤へやってきた。

 

「ほら、当たったでしょ」

 

 挨拶もそこそこに曜は勢い込んでいった。

 

「うん、脱帽だよ」

「えへへ」

 

 僕が肩をすくめてみせると曜は胸をそらし得意そうに笑った。愛らしい笑顔だった。

 

「ほかにもね、いろいろあるんだ」と曜。「たとえば淡島(あわしま)がぼうっとして見えると次の日は晴れとか、フェリーの霧笛(むてき)がよく聞こえると雨、とか」

観天望気(かんてんぼうき)ってやつだね」と僕はうなずく。

「……かんてんぼうき?」

 

 口を軽く開きキョトンとする曜。

 

「天気にまつわることわざ、かな。有名なのだと、夕焼けの翌日は晴れ、ツバメが低く飛ぶと雨、なんていうでしょ」

「あ、なるほど。そっか、私のも観天望気ってことか」

「うん。やっぱり天気って、地域に密着したものだから……その地方にそれぞれの観天望気があるんだ。そういうのって、科学的にも正しいのが多いんだよ」

「へえーっ」

「さすが、渡辺さんは地元の人だね。それに、よく観察してる」

「えへへ、いやー、照れますなあ」

 

 曜は頬を赤らめて下を向いた。嬉しそうに唇が(ゆる)んでいる。飾らないその笑顔に僕の胸は温かくなった。

 

 曜は顔を上げて続けた。

 

「あ、それと、曜でいいよ。渡辺さん、なんて、むずがゆくて」

「渡辺さんがそういうならいいけど……」

「いやいや、だから曜でいいって」

「わかった。曜さん、次は僕も当てるからね」

「私も、負けないからね」

 

 曜はにこりと笑ってから軽い足取りで防波堤をあとにした。途中、一度こちらを振り向いて僕に手を振ってくれた。

 

 曜の天気好きはどうやら本物らしいとわかり、僕は初めてできた天気友達――同期の社員は友達とはいえないだろう――の存在が楽しくて仕方なかった。

 

        ・

 

 防波堤から支社までのルートは、曜が学院まで通うそれと途中まで同じだった。僕たちは出会ったときには、そこまで一緒に歩くようになった。

 曜の降りるバス停から学院まではそれなりに距離があった。不思議に思って曜に聞くと、クラスメイトと一緒に登校するために手前で降りているとのことだった。

 

 曜とは天気のことだけでなくいろいろなことを話した。

 

「それでね、冷凍ミカン争奪戦になったわけ。千歌(ちか)ちゃんのジャンケンのときの目、本気だったね」

 

 曜の話題の中心は高校のことだった。僕にも覚えがあるがその年頃の世界は学校を中心に回っているのだと思う。

 中でもよく出てくるのは高海(たかみ)千歌という子だった。一緒に登校しているのは彼女らしい。分岐点からすこし先までついていけば彼女に会えるのだろうが、さすがに()めておいた。

 

 曜はたいていいつも(ほが)らかだったが、ときどき不機嫌だったり、落ち込んでいたりした。

 

「もう、千歌(ちか)ちゃんったら、水泳部、やっぱり入らないっていうんだ。高校に入ったら考えてみる、っていってたのに」

 

 そう話したときの曜は本当に残念そうだった。

 

 どうして曜が僕にそこまで親しくするのかはわからなかった。なんのしがらみもないぶん、話しやすかったのかもしれない。

 逆に僕も、ときどきは職場のことを曜に話した。今夏の三か月予報が難しいこと、天気のことで文句をいってくる客のこと、なかなか予報に(たずさ)われないことなど――曜は真剣な表情で聞いてくれた。

 

 いつの間にか僕のなかで曜の存在がどんどんと大きくなっていった。

 曜に会えた日は、それこそ陽が差すようだったし、会えなかったときには心に雲がかかる思いだった。

 

 慣れない土地で人寂しかったのも理由のひとつだろう。彼女とは年齢差があったけれど、職場の先輩社員は男女問わずかなりの年上ばかりで、彼女とのほうがまだ差は小さかった。研修中にはすっかり打ち解けた同期の社員たちも、沼津や他の都市に配属になっていた。

 

 彼女の快活な笑顔、素直な性格に僕はすっかり好意を抱いていた。しかしこのときはまだ、僕はその好意の正体に気づいていなかった。

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