東京駅を出発してから一夜が明け、トンネルを走る寝台特急・北斗星はやがて海峡を抜けて北海道へと上陸した。
「うわぁ…ここが北海道かぁ!」
「それにしても運が良かったね。函館への旅行券が貰えるなんてさ」
福引きで北海道への旅行券を当て、俺を含めた二年生組とルビィちゃんの五人は長めの休みを利用して函館へ旅行に来ていた。
「うん!果南ちゃん達も来れればよかったのにね」
「都合が悪いんだろ?それならしょうがないな」
本当は全員で来れればよかったけど果南姉さんは家の手伝い。鞠莉さんやダイヤさんは学校で仕事があったりと他のメンバーは都合がつかなかったのだ。
「函館かぁ…理亞ちゃん達にも会えるっていうから楽しみだなぁ!」
「うん!あ、聖良さんからメールが来てるよ。なになに~遠路はるばるご苦労さまです。列車がつく時間には函館駅に理亞といるので合流しましょうだって!」
「そっかぁ…それなら安心だね!」
「えっと…P.S.最近は不可解な事件が多発しているので気をつけてくださいねって。なんだろう?」
「わからん…何かあってからじゃ遅いし警戒はしておこうか。到着まで時間あるし俺は便所に行ってくるよ」
「あ、私も行っとこうかな」
俺達は別々に分かれて便所へと向かった。そこには俺と同年代と思われる青年もいた。彼は軽く会釈をしてきたので俺も返す。
「こんにちは。観光ですか?」
「ええ、友人達と旅行に。あなたもですか?」
「そんな感じですね。あとは調べ物を…」
「…やっ…いやぁぁぁ!!!」
その瞬間、女子トイレの方から梨子達の悲鳴が聞こえた。かなり怯え、慌てているのが声の様子から伺える。それと同時に俺は聖良さんからのメール内容を思い出した。
「………まさか!」
「事件でもあったのか…急がないと!」
俺とまだ名前も聞けていない青年は悲鳴のする方へ揃って駆け出した。
「声の主は君の友人かい?」
「そのようです。無事ならいいが…」
ドアを蹴破り、中へ入ると千歌は恐怖で腰を抜かし、ルビィちゃんは怯えて涙を流していた。
「どうした?何があった?」
「あ…あそこ…」
青ざめた曜が指差す方を見るとそこには血塗れの男性が便座に寄りかかるようにして気を失っていた。
「こ、これは…急いで救命しないと…」
「いや、もう亡くなっている…俺は警察に連絡をしてきます。これ以上被害を出さないように…」
辛うじて話のできる状態であった梨子が言うには電車の大きな揺れで唯一閉まっていると思われた個室の扉が開き、その中に男性の遺体があったという。
「り、龍吾くん…怖かったよぉ…」
「そうか。怖かったよな…みんなが無事で本当によかった…」
「でもなんでこんな所に…もしかしてトイレの個室って密室だからそれを利用されて…」
「確かに…」
しばらくするとさっきの青年が警察への連絡を済ませて戻ってきた。
「あなたはその子達を連れて部屋に戻っていてください。あとは俺が何とかします」
「わかりました。それとあなたは…一体何者なんですか?」
青年は懐から手帳を取り出して言った。
「申し遅れましたね…俺は
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「そうですか。それは災難でしたね」
函館に着き、Saint Snowの二人と合流した俺達は列車内での出来事について話していた。
あの後は南と名乗る探偵が迅速に対応して処理を行ったため列車の混乱は最小限に抑えることができたようだ。
「私達も困っているんです。この周辺だけではなく北海道の各地で謎の事件が起こってて…」
「犯人についてもまだ不明で東京の方から腕利きの探偵達が来て捜査を助けるらしいの」
「そうだったんですか…俺達も明日には釧路の方に移動するから気をつけないとな…」
スケジュールの都合により函館には一日しかいることが出来ない。明日の昼前には釧路方面に移動しなくてはならないからだ。
「何事もなく過ごせることをお祈りしています。これからは事件のことなんて忘れて私達と函館の街を見て回りましょうよ」
「ありがとうございます!何かあったら絶対に龍ちゃんが守ってくれるから大丈夫です!」
「事件のことなら私達は気にしてないからさ、行こ!」
「…そっか。ならいいかな?」
その日は聖良さん達と函館を観光したが、心の底から楽しむということが出来ないまま次の日を迎えた。
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翌日、聖良さん達と別れた俺達は昨日とは別の特急に乗って釧路へ向かっていた。
「聖良さん達、元気そうでよかったなぁ…」
「そうだな。あとはこの旅が何事もなく終わればいいけど…」
しばらく千歌達とぼーっとしているとドアの窓から見覚えのある横顔が通り過ぎるのが見えた。
「ちょっと出てくる。すぐに戻ってくるさ」
そう言い残して部屋から出るとすぐにその人を発見することが出来た。
「南さん…あなたも釧路の方へ向かうんですか?」
「あなたは確か…海藤さんだったかな?」
そこにはやはり彼がいた。北斗星の車内で出会い、共に事件の発見者となった南という男だ。
「どうです?昨日の事件については?」
「あの事件の捜査は北海道警察の捜査一課が調べてる。遺体の目撃者ということもあって昨日は捜査に協力する名目で一人函館に残ったんだ。おかげさまで一緒に来ていた友人に置いてかれてしまったんだ」
「そうだったんですか。大変ですね…」
「釧路に行くということは湿原に行くんですか?それとも摩周湖?」
「両方ですね」
南さんの話によると帯広と釧路の方でも事件が起きており、先に向かった友人、そして捜査一課と合流するために釧路へ向かっているらしい。
「おっと話してる間に到着したようだ。降りようか」
「本当だ。友人達がいるから部屋に戻らないと…」
「俺は人を待たせているから先に行くよ。君達はゆっくりと旅を楽しんで。それじゃまた会おう」
龍吾と別れた南が現場である摩周湖に向かうとそこには先に捜査を進めていた北海道警察の鈴木刑事がいた。
「南です!鈴木刑事、橘警部はいますか?」
「遠路はるばるご苦労様。橘警部なら石井警部補と一緒に防犯カメラの確認をしてる。そろそろ終わると思うんだけど…」
「ありがとうございます」
すると車の中から二人の男性…橘警部と石井警部補が出てきて南に言った。
「南くん、カメラは確認させてもらったよ。犯人の特定はほぼ完了したと言ってもいい」
「わかりました。すぐに犯人確保へ動きましょう!」
「彼の住所は既に調べてある。君の言う通りすぐに向かった方がいいな」
四人は車に乗り込み犯人の自宅まで向かった。南が部屋を訪ねると中から一人の男性が出てきた。カメラに写っていたの人と同じ顔だ。
「貴方がこの事件に関与している疑惑が浮上しました。詳しく聞きたいので署までご同行願えますかね?」
犯人と思われる男性は摩周湖での事件の他に特急内での殺害も自供したためそのまま逮捕されることになった。
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「ふぅ…やっと解決しましたね…」
「捜査に協力してくれて本当にありがとう。これからはゆっくり北海道の旅を楽しんでくれ」
「警部、何かあったらまた連絡してください。どこにいてもすっ飛んで行きますから」
「それはありがたいな。また頼むよ」
橘警部は南を駅で降ろすとそのまま走り去って行った。
「さてと…全部終わったしあいつらに連絡しないと。しばらく放置しちゃったから怒ってるよなぁ…」
南は携帯を取り出し、ある番号へ電話をかけた。
「もしもし俺だ。ああ、連絡遅れたのは俺が悪かったからそう怒んなって。事件も解決したからこれからそっちに向かうよ」
そのまま電車を待ちながら友人と通話を続ける。彼は旅の途中で出会った人物のことを思い出して言った。
「そうだ。旅の途中で面白い人にあってさ、確か海藤くんって言ってたかな?聞きたいか………穂乃果?」
南の旅はまだまだ続く。
普段やれないようなことが沢山出来たので楽しかったです。新庄さん、ありがとうございました!
それではまた