桜色の君と過ごす日常   作:大天使

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お久しぶりです。

梨子ちゃんだけではなく他のメンバーにもスポットを当てたいなと思うけど全員分考えるのは難しいですね。



6話 葛藤

「おはようみんな!」

 

「おはようございます、海藤さん!」

 

「朝から元気だな。先に体育館に行ってシューティングでも始めたらどうだ?」

 

日曜日。世間一般では休みとなる日だがインターハイ出場を目指す彼らにとってそんなのは関係ない。今日も朝早くから厳しい練習が始まろうとしていた。

 

「最近はチームの纏まりがすごくいいです。これも海藤さんの友達が作ってくれたお守りのお陰かもしれませんね!」

 

「そうだな!俺は女子からの贈り物なんて初めてだったからめっちゃ嬉しかったぜ!」

 

「琉空…そんなに嬉しかったのか…?」

 

「ほっとけほっとけ」

 

琉空を完全に無視して練習の準備を始める龍吾の手にもお守りが握られていた。あれから彼は片時もこのお守りを肌身離さずに持ち歩いている。

 

「本当によかったんですか?俺達まで貰っちゃって…」

 

「いいに決まってんだろ!俺らは仲間じゃねーかよ!それに全員分だってこの前も言っただろうが!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

仲間。そう口に出すのは簡単なことだ。だけど心の底からそう思える人ってのはそうそういないもんだ。でも俺は言い切ることが出来る。こいつらは最高の仲間だと。

 

「よし、早く練習するぞ!インターハイ予選まで時間ないんだからな!」

 

「わかってるって!さ、行こうぜみんな!」

 

「はい!」

 

孝至の指示で俺達は一斉に彼の元に集まっていく。予選までもう時間はないんだ。一秒だって無駄にはしてられない。正直不安はあるけど負ける気はないしこのチームでなら絶対にインターハイに出ることが出来る。そう思いながら俺は練習へ加わっていった。

 

─────────────────────

 

場所は変わってここは数時間後の学校の屋上。今日もAqoursの9人はラブライブ本戦に出場するための練習を早くから行っていた。

 

「みんなお疲れ!休憩しよ!」

 

果南の一言で他のメンバーは休憩モードに入る。彼女らの顔にさっきまでの真剣な表情はなくなり普通の女子高生の顔に戻っていた。

 

「今日の練習も大変だね…」

 

「ラブライブに出場するためだからね。少しキツくても頑張らなきゃだ!」

 

「うん!でも…」

 

千歌は梨子の方をチラリと見る。歌やダンスに問題は無かったが梨子の様子がいつもと違う事に千歌は気づき、少し違和感を覚えていた。

 

「梨子ちゃん?」

 

「………はぁ」

 

「梨子ちゃんってば!」

 

「あ、千歌ちゃん。どうしたの?」

 

「梨子ちゃんがなんか浮かない顔してたからどうしたのかなって思って」

 

「そ、そう?普通だった気もするけど…」

 

「そっか、ちょっと心配したけど梨子ちゃんがそう言うなら大丈夫だよね!」

 

「ごめんね?心配かけて」

 

梨子はその場で作れる精一杯の笑顔で笑う。幸い千歌には気づかれていないようだ。梨子は千歌達に聞こえないようにそっとため息をつき小さく呟いた。

 

「海藤くん…」

 

─────────────────────

 

場所は体育館に戻る。今日の練習も順調に進み、今は5対5のミニゲームを行っている。

 

「へい!」

 

「海藤さん!」

 

ガードの選手からのパスを受けノーマークでランニングシュートをうつ。難しいものではなく普段の彼なら外すことは無い。しかし今日は違った。少し力みすぎたのかボールはリングにすら触れずに落ちてしまった。

 

「あれ?」

 

「龍吾!どうしたんだ!あんなに簡単なシュートを外すなんてお前らしくないぞ!」

 

「………ああ、すまない」

 

しかし彼の普段なら絶対にしないようなファンブルやパスミスを連発。チームメイトも信じられないというような表情を浮かべるが一番驚いていたのは他でもなく龍吾本人だった。

 

(なんなんだよさっきのプレイは…ふざけてるわけじゃない。今まで練習で手を抜いたこともない。常に限界まで自分を追い込んできたつもりなのに何故だ…)

 

そんな龍吾に不満を持っていたのか普段はほとんど喋らない真一が珍しく口を開いた。

 

「さっきのプレーもそうだ。あのパスは一体なんだったんだ?こんな体たらくがここにきて通用するわけがない。そんなことはお前が一番よくわかっているはすだ」

 

「本当にすまねぇ…気合い入れ直すわ…」

 

龍吾の顔には珍しく焦りの色が見えていた。普段なら絶対に見せない彼の様子に他の部員も戸惑っていた。

 

「海藤さん!大丈夫ですか?」

 

「体の調子でも悪いのか?」

 

「いや…そんなことは無いはずだ」

 

(くそ…下級生にまで心配されちまってる…これが俺のあるべき姿なのか?いや、このままでいいわけがねぇ!)

 

「うーん困りましたね…」

 

そんな彼の様子をコートの外から場所から見ている人がいた。バスケットボール部の監督である石崎だ。

 

「海藤くん。君と少し話したいことがあります。時間いいですか?」

 

「監督…わかりました」

 

龍吾は石崎に連れられて体育館の外へ来た。

 

「監督、話ってなんですか?」

 

「話というより質問ですね。海藤くん…心に迷いが見えます。何か悩みや心配なことがありますね?」

 

「迷いですか?そんなことは…」

 

彼の心には確かな迷いがあった。しかし彼自身がその原因に気づけないでいた。石崎はその事も既に見通していたのだ。

 

「そうですか…君はその事に気づけていないみたいですね。とりあえず今日は練習を切り上げて休んだほうがいい。君はうちのエースです。エースがそんな状態ならばいない方がいいし他の人の迷惑にもなりますよ」

 

「………はい」

 

俺は監督に対して何も言い返せなかった。結局俺の心のモヤモヤが晴れることはなく、俺はそのまま体育館を後にした。

 

「はぁ…このまま帰るのもあれだしスクールアイドルの様子でも見に行ってみるか…」

 

彼は校門へと向かおうとしていた足を止め、歩いてきた道を戻ってAqoursが練習をしている屋上に向かった。

 

「あれ?龍ちゃん、部活はどうしたの?」

 

「ああ…ちょっとな。今日はもう終わりなんだ」

 

「へぇー大会も近いのにわざわざ来てくれてほんとにありがとう!」

 

「ま、まぁ一応スクールアイドル部の一員なんだからたまには顔ださきゃ悪いだろ」

 

龍吾は軽く笑ってみせるがそれが作り笑いであることにはみんな気づいていた。あの千歌も彼の様子がおかしい事はすぐにわかった。

 

「龍くん、何かあったの?」

 

「曜…俺にもよくわからない。監督にも言われたよ。何か悩みとかあるんじゃないかって。自分の事なのに全くわからないって情けないな…」

 

「大丈夫!そういう日は家に帰ってしっかり休むのだ!ゆっくり過ごせばきっとリフレッシュ出来るよ!」

 

「はは、ありがとな」

 

彼の表情は少し和らいだが物事の根本的な解決にはならなかった。

 

「そろそろ休憩は終わりにしますわよ。練習を続けましょう!」

 

「はーい!」

 

ダイヤの合図で再び練習が再開される。龍吾はその場に座り彼女達の練習を見始めた。何か参考になるかもしれないと思いながら。

 

「………龍吾?」

 

そんな彼の様子を離れた位置から静かに見守っていた人間が一人いた。

 

─────────────────────

 

それから数時間後、今日のAqoursの練習は終わってそれぞれが帰り仕度を始めていた。

 

「龍ちゃん!またね!」

 

「ああ、また明日!」

 

龍吾も自分の支度を終えて帰ろうとする。そんな彼を呼び止める人がいた。

 

「ねぇ龍吾」

 

「どうしたの………果南姉さん」

 

「ちょっと二人で話したいことあるんだけどこれから時間あるかな?」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

いつもと変わらない朗らかな笑顔で果南は言う。龍吾には断る理由も無かったので彼女の言う通りにしようと考えていた。

 

「ありがと♪私の家でいいかな?」

 

「了解だよ」

 

龍吾は果南に連れられて彼女の自宅のダイバーショップまでやってきた。

 

「お邪魔します。ここに来るのも久しぶりな気がするなぁ…」

 

「確かにね。最近全然遊びに来てくれないからちょっと寂しいよ?」

 

「あはは、またそのうち遊びに行くよ。…それで俺と話したいことってなに?」

 

「単刀直入に聞くよ。龍吾はやっぱり我慢してるよね?」

 

「が…我慢?何のことだ?」

 

「梨子ちゃんと一緒に過ごせずにいること」

 

果南には全てお見通しだったようだ。龍吾にはインターハイ出場、梨子にはラブライブの予選を突破することを目標としている。今会うことはお互いにとって良い結果を生むことにはならないだろう。龍吾はそう考え少しの時間距離を置くことにしたのだ。

 

「うん…その通りだね。だけど俺の方からから少しの間距離を置くことにしたんだ。今さら手の平を返すことなんか出来ないよ」

 

「梨子ちゃんは距離を置くことなんか望んでないよ」

 

「梨子が…?」

 

龍吾は心底驚いたといった表情で果南の顔を見つめた。

 

「今日…というか最近ね、梨子ちゃんの様子が少しおかしかったんだ。すごく寂しそうで龍吾が屋上に来た時なんか遠くからずっと見つめてたんだよ?今は練習に支障をきたす程じゃないけどこのままだったらどうなることか…」

 

「そう…だったのか」

 

「余計なお世話かもしれないけどさ、少し梨子ちゃんと会って話してみたらどう?龍吾はお互いに自分の目標に向けて集中したいって思ってたんでしょ?龍吾の考えも悪くは無いと思うけど根を詰めすぎるのも良くないと思うなぁ…」

 

龍吾が果南から言われたことは前に自身が梨子に言ったこととほとんど同じだった。

 

「そっか…そういうことだったのか。監督が言ってたことにも納得したよ。ありがとう」

 

「気にしなくていいよ。お姉さんのこれまでの人生経験を生かした知恵袋的な?」

 

「ちょっと意味がわからないけどなるほど。ためになったかもね」

 

龍吾は果南と話をしながら軽くアップを始める。これから梨子の家までダッシュで行くつもりのようだ。

 

「俺、もう一度梨子に会って話してみる。それで俺達が何をすべきなのか考え直してみるよ!」

 

「うん!そうした方がいいよ…ほらさっさと言っちゃいなよ。善は急げって言うじゃん!」

 

「今それ関係あるかな…」

 

龍吾は全力で梨子の元へ駆け出す。と思いきやすぐに身を翻し果南の元へ戻ってきた。

 

「果南姉さん、いや果南…」

 

「なに?」

 

「……………ごめん」

 

その言葉を聞いた果南が目を背けた一瞬のうちに龍吾の姿は果南の前から無くなっていた。

 

─────────────────────

 

龍吾が走り去ったあと、果南は一人で自宅のベランダから静かに海を見つめていた。

 

「龍吾…」

 

果南は最後に聞いた龍吾からの言葉を思い出す。

『果南、俺は君を絶対に幸せにしてやるって誓ったのにその約束を守ることが出来なくて本当にごめん…』

 

「ううん、龍吾はなにも悪くない。だってその関係を終わらせたのは私なんだから…」

 

二人の関係はかなり前に終わりを告げていた。あの時間が戻ることはもう二度とない。

 

『果南…大好きだよ!』

 

『私も龍吾のことが大好き。これからもずっと一緒に過ごせたらいいね!』

 

「………」

 

果南は龍吾と過ごした楽しかった時間を思い出しながら静かに涙を流す。彼女の部屋の隅には今でも二人で撮った写真がひっそりと飾られていた。

 

「自分から突き放しといてこんなこと思うなんて烏滸がましすぎると思うけど…それでも…それでも!やっぱり私を選んで欲しかった…」

 

彼女が止まらない涙を拭ってほしいと思う人間はこの世にただ一人。しかしその人間が自分の元へ来ることは決してない。何故なら彼女はとうの昔に手放してしまったから…

 

「………龍吾…大好きだよ…」

 

微かに唇から漏れたその言葉は誰の耳にも届くことはなく夜の海へ消えていった…

 




それではまた。
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