インターハイ予選まであと一週間。俺達の練習は質の濃く過酷なメニューから試合に向けて調子を整える程度の軽めの物になっていた。いよいよ戦いが始まる。去年の雪辱を果たす時が遂に来た。これから俺達は試合に集中するためにバスケのことだけを考えて他のことは完全にシャットアウトする…
だったはずなのだが…
「龍ちゃん!ここのは終わったからすぐ移動するよ!時間ないから早く!」
「はぁはぁ…ちょっと待てや…」
幼馴染みの
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話は数時間前に遡る。本来だったら今日は試合前最後の一日OFFだった。これからも休息の時間はとるが完全なOFFは今日だけなのでしっかり身体を休ませるようにという監督からの指示だった。
「休めるのはいいけど…暇だな」
午前中をのんびり過ごして思ったことはとにかく暇だということだ。普段だったらテレビゲームや映画を見たりして過ごしているのだが両方とも気が乗らないというか飽きたのだ。そろそろ軽くシューティングでもしに行こうと思っているのだが。
「なーんか休みの日を有意義に過ごすためには何すりゃいいのかわかんねーなぁ…」
そんなことを考えていると携帯に着信が来ているのに気がついた。
「誰だ…?千歌?」
相手は千歌だった。千歌達は今頃練習中のはずだから少し疑問に思ったがとりあえず出てみる。
「もしもし?」
「お願い!今日だけはどーしても人手がいるの!だからすぐに来て!」
「は?」
「大切な用があって三津シーにいるんだけど思ってたより人手が足りなくて…無茶なお願いだってわかってるけど来てくれたら嬉しいな…」
本来は試合までの一週間はダイヤさんと鞠莉さんと相談してAqoursの練習には参加しない事にしていたはずなのだ。
「ダイヤさん達はなんて言ってるの?」
「本来だったら龍ちゃんはお休みだけど今回だけはやむを得ないって」
「まぁ退屈してたし行ってもいいよ。だけどあんまりハードなのは勘弁してくれ」
「いいの?ほんとにありがとう!まぁ試合前最後の息抜きってことで!」
「仕事あるから呼び出すんじゃないのかよ…だけど千歌はなんだかんだ言って俺のことを気遣ってくれていたみたいだな。ありがとう…」
「え?なんで龍ちゃんがお礼言うの?普通だったら私が言うべきだよね…?」
「なんかそんな気分なんだよ。とにかくすぐに行くから待っててくれや」
「うん!入口付近で待ってるね!」
そう言って電話を切った。俺はとりあえず軽く身支度を整えて外出の準備をする。
「それじゃあ行きますか!」
数分後にはひと通り準備を終えたので久しぶりに愛車に跨り、三津シーに向かって出発する。
が、その瞬間
ガンガンカンガン!シーン…
「は?ちょっと待て。まさか…」
愛車のエンジン付近から謎の音がするのがわかった。俺は冷や汗を流しながら確認をしに行く。嫌な予感は的中した。
「おい、嘘だろ…Dioォォォ!!!」
気づいた時にはもう遅かった…
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「むー…遅い!」
「そろそろ着いてもいい頃なのに…」
「何かあったんじゃないの?」
目的地の三津シーにではすでに龍吾を除く9人が集まっていた。千歌が龍吾を呼び出してから1時間近くが経つのでそろそろ着いてもいい頃だろう。
「もしかしてあれ?走ってきてるやつ」
「あ!ほんとだ!龍ちゃーん!」
「す、すまねぇ!」
「もう!遅いよ!」
「仕方ねーだろぉ!俺の愛車が急に故障しちまったんだよ!それで仕方なくここまで走ってきたんだよぃ…」
龍吾はそう言いながら右腕に付けているリストバンドで額の汗を拭う。
「おー、おつかれー」
「せっかくの休みなのにこんなに疲れてちゃ意味無いだろうがぁ…」
幸いにも愛車はそこまで深刻な故障ではなかったのですぐに修理が終わるそうだ。
「それにしてもここに来るのは久しぶりだね!」
「昔はよく行ってたよね!私と曜ちゃんと果南ちゃんと龍ちゃんで!」
「あと頃から随分成長したよね。私達…」
「ま、千歌は昔と全然変わってないけどな」
「ちょっと龍ちゃん!それどういう意味?」
「そうかもねっ」
「果南ちゃんまで!」
千歌達の脳裏には幼き頃の思い出が蘇っていた。4人で遊んだこと。悪戯をしたこと。今となってはどれも大切な宝物になっていた。
「それで、ここでの予定ってのはいったい何なんだ?」
「ふっふっふっ、私達はこれからPVを撮るのだ!」
「PV?そういえば少し前にそんなことを言っていたような気がするな」
「この前作った新しい衣装もこのためだったんですよ!」
最初に学校で撮影したPVの評判がかなり良かったのでメンバー達と相談して新しいのを撮ることにしていた。今回のテーマはAqoursというグループ名に因んで水をテーマにすることにしていて、色々考えた結果ここを撮影場所にしたのだ。
「それで俺は何をすればいいんだ?ビデオカメラで撮影すればいいのか?」
「そうだね!あとは機材とかも運んでくれたら嬉しいよ!」
「了解!それならお安い御用だよ!」
この時、俺はまだ知る由もなかった。PV撮影がそんなに簡単な仕事ではなかったことを…
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「はぁはぁ…ちょっと待てや…」
龍吾はクタクタに疲れていた。
「こんな仕事はお安い御用じゃなかったの?」
「思ってたよりしんどい…」
理由は彼が思っていた以上に移動する距離が長かったということだ。正直そこまで色々な場所は回らないだろうと思っていたが、センターである曜のソロの部分や全体でのダンスシーンなどとにかく動くことが多かった。機材をすべて抱えてだ。
「キツい…」
「龍ちゃーん!そこまで時間あるわけじゃないから急いで次の場所行くよ!」
「待ってくれぇ…」
「あれ?もうへばっちゃったのかなん?まったく情けないぞー現役バスケ部!」
普段から走り込みをしている身であるので体力的にはまったく問題はなかった。だがこれに加えてかなりの重さがある機材を持って動き回るのは相当辛い。練習で重みのあるボールを使うこともあるが、それもここまで重くはない。
「なんでみんなはそんなに元気なんだよ…俺なんかよりよっぽどキツイことしてるっていうのによ…」
「毎日練習で鍛えてるからね。龍吾だってそうでしょ?」
「鍛えてるけどさ…」
「仕方ないなぁ…千歌!少しだけ休憩にしない?撮影係がへばってたら意味ないし」
「そうだね!休憩にしよう!」
果南姉さんと一言で少しだけ休憩を貰えることになった。俺は慎重に機材を置くとその場に座り込んだ。
「ほんとやめたくなりますよォ…仕事…」
「海藤くん!」
「梨子か!どうしたんだ?」
「海藤くんも試合近くて大変だと思うけど私達のために撮影とか色々やってくれてありがとね♪」
「そうだな。お疲れ様…」
俺は梨子の頭を軽く撫でてやった。
「ひゃっ!もう…擽ったいよぉ///」
「ははっ、梨子は可愛いなぁ…」
人目もはばからずにイチャつく二人を遠くから呆れた顔で見ていた人もいる。
「まったく、疲れてんのに梨子ちゃんとイチャつく元気はあるんだね…」
「ちょっと龍ちゃん!こうなったら…後で扱き使ってやるんだから!」
千歌の宣言した通り、龍吾の仕事がこのあとさらにきつくなったことは言うまでもない。
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「よし!撮影はここまでだよ!みんなお疲れ様!」
辺りもだいぶ暗くなってきた頃、ようやく全てのシーンの撮影が終了して後片付けも終わったあと、水族館をあとにすることになった。
「ほんとに疲れたよ…」
「龍ちゃんもお疲れ!ほんとに助かっちゃったよ!この調子で試合も頑張って!」
「これからは試合に向けて頑張ってくださいね!」
「ふふ、貴方にはペルセポネの加護がついているわ…負けることなんかないわよ!」
仕事のあとにみんなから三者三葉の激励の言葉を貰った。その言葉が俺を大いに奮い立たせたのは言うまでもない。
「みんなありがとう!絶対に勝つよ!静岡からインターハイに行けるのはたったの二校だけど俺達はその座を掴み取ってみせる!」
「やっぱ龍くんはこうじゃなくっちゃね!」
「みんなから貰ったお守りは大切に持っておくよ。あれがあるんだから負ける気はしない!」
「それなんだけどさ、龍ちゃんに渡したい物がもうひとつだけあるんだ。ね、梨子ちゃん!」
「うん…ねぇ海藤くん…」
「梨子?」
「これ、私からのプレゼント!試合中に付けてくれると嬉しいな…」
それは梨子のイメージカラーであるサクラピンクを元に作られたリストバンドだった。リストバンドの表側には水色の文字でAqoursという文字が。裏側には俺と梨子の名前が刺繍してあった。
「梨子………ほんとにありがとう!最高のプレゼントだよ!」
「私も海藤くんに喜んでもらえて嬉しい!」
「よかったね龍ちゃん!だけど元々付けてたのはどうするの?両方付けるのがいいと思うけど色が違ったらちょっと不自然じゃない?」
すでに俺の右腕には青色のリストバンドを身につけている。浦の星と海の色を元にしてかなり前に部員全員で作ったものだ。
「そりゃ二つとも付けるさ。だって両方とも俺の大切な仲間達からの貰った大切な贈り物なんだからな!」
俺は早速新しいリストバンドを身につける。左右で色が違うこともあり少し不自然なものになってしまったけどそんなことはどうでもよかった。なんだかこれを付けてるだけで元気がみなぎってくるような気がするよ。
「よし!今度は絶対に悔いは残さない!ライバルを全員倒してインターハイに出てやるぞ!」
決戦まであと一週間。
Dioとは某自動車会社で作られているバイクのブランドの一つです。急に変なネタぶっ込んですいませんでした(土下座)
あ、浦の星学院のイメージカラーは勝手に青ってことに決めました。近くの海との相性もいいかなと思ったので…
それではまた。