序章:温もりを忘れた青年が提督になるまで   作:影乃と月ノ神

10 / 37
記念すべき(?)第十話であります!
その割には8300字と少なくなってしまったのであります!

はい、誠に申し訳ございませんでしたm(_ _)m

代わりといっては何ですが、キャラ紹介と用語集を後書きに載せておきますのでそちらもお楽しみに

※9話と同じ内容を投稿してしまいました。修正しましたが、今後はこのようなことがないように気を配ります。


10:届かぬ想い

「雨、止まないな…」

 

 逃げ帰るようにして紫の住む集合住宅から飛び出した吉川玲奈は、強くなる雨足から一度避難するために、学校の下足棚の近くに腰を下ろして外の様子をぼんやりと眺めていた。制服は既にぐっしょりと濡れており、早い所着替えなくては風邪をひいてしまうだろう。教室まで戻れば自分の体育着が置いてあるので、それに着替えればいいのだろうが、依然としてそうする気力がなかなか出てこない。走り通しで疲れてしまったのもあるが、一番は心に受けた衝撃が余りに多く、大き過ぎたことが原因だ。あんなにも信じ難く、受け入れ難い現実は今まで遭った事がない。

 

「お、吉川じゃないか。どうした、帰らないのか?」

 

 耳に馴染んだ声に反応してふと後ろを振り返れば、例の数学教師だ。たまたま通りかかったのだろう、爪先は職員室の方を向いている。

 

「あ、先生……もう少し、こうしていたい…」

「何かあったのか?それによく見れば随分濡れてるな、早く着替えた方がいいぞ。今年は最後の年なんだし、何度も休むことになったら後々面倒だからな。」

「はーい…」

 

 そう言って教師は職員室へと行ってしまった。少し冷めた所のある人物ではあるが、彼なりの気遣いだというのは何となくわかる。多感な時期の生徒達を多く見てきているからだろう、女子がずぶ濡れのままぼんやりしているだけでも何があったかは大体お見通しなのかもしれない。

 

「私、男を見る目が無いのかな〜…」

 

 思えば小学校低学年の時からそうだ。好きだった男の子の机にラブレターを入れたところ、それをクラスのど真ん中で声高らかに読み上げられて笑い者にされたのが始まり。そして同年代はダメだと近所の中学生にアタックするもいいように弄ばれて、結局その彼は県外の高校へ進学して下宿先に移り住んでしまった。そんな残念な経験を経て中学生になり、絶対に彼氏は作らないと決心したものの、クラスの女子から一目置かれている男子から告白を受け、決心などどこ吹く風と快諾。しかし、テスト期間だろうが受験期だろうが会いたいだの遊びに行こうだのとしつこく誘ってくるので、キッパリと縁を切ることにした。

 

 そして晴れて虹明(こうめい)高校へ無事に入学し、何のしがらみも無く新しいスタートを切れると張り切り、それなりに良い縁にも恵まれるのではとバスケ部のマネージャーに。運良くエースと持て(はや)され顔も整った先輩と交際を始めるも、その実これがタチの悪い女(たら)しで、すぐに目移りするためまたもや自ら縁を切ることになってしまい、結局その後マネージャーも辞退した。

 

 高校二年生の時は色恋沙汰も無く、女友達と一緒にいる事が多かったので比較的穏やかな時期だったが、冬の終わりに同じクラスの研二が自分に気があるらしいという噂が立ち始め、周囲の(いらない)後押しもあって付き合いが始まった。今まで出会った中では一番まともで、優しくそれなりに良好な関係を築けていたとは思っていたが、そこへ先月の事件だ。身を呈して庇ってくれるわけでもなく、こちらの身を案じて迎えに来てくれるようなことも無かった彼への想いはすぐ様霧散した。元々周りにくっつけられたのが始まりだったのでそれも当然と言えようが…

 

「で、最後は紫君か…」

 

 思えば一年の時から二年三年と同じクラスになっているが、それまではずっとよく倒れる変な奴程度にしか考えてなかった。鉄分取ればいいのにとかそんな勝手なことを言って、彼をからかう他の男子達に便乗していたことも否定しない。

 

 けれど、彼に助けられた時は心の底から嬉しかった。絶望と恐怖に押し潰されそうになっていたところを救ってくれた。今まで生きてきて出会った男性の中で、お伽話に出てくる白馬の王子に最も近い存在だったと、その時の彼を形容しても良い。単純な自分の心はすぐに彼に釘付けだ。

 

「まあ、また失敗だったけどさ…」

 

 予感はあった。以前から彼の目線の先には茜の姿があったし、彼女以外のどの女子生徒に対しても、紫は一様に無関心か素っ気ない態度を貫いていたのだから。だがそれ故に、茜と彼との間にすれ違いがあったことを知った時は、言葉は悪いが嬉しかった。自分にもチャンスがあると思えたし、何より他にライバルなど居ようはずがないと確信があったからだ。

 

 今度こそは、今度こそは……何度も何度も繰り返してきた呪いの言葉を、彼ならば呪縛から救ってくれるんじゃないか。そんな淡く切ない願いを叶えるべく、勇気を出した。

 

 だが、結果として彼には自分が受け入れられなかった。知らぬ間に異形に成り果ててしまった彼を受け止めるには、自分という人間の器が小さすぎたのだ。自分を拒絶しようとしていたあの時の彼は、何て恐ろしく、冷たく……そして、悲しい顔をしていただろうか。まるで、お伽話に出てくる野獣の様だった。自分では彼の凍った心を融かすには遠く及ばないと、ハッキリわかってしまった。

 

 自分と茜は、一体何が違うのだろうかと考える。確かに紫は少し気難しそうな男子だ、頭もすこぶる良く此方の考えを見透かしているかのような顔は、少し居心地が悪いものがある。だが、茜と話している時の彼は無邪気で、まるで幼稚園児のような無防備な表情をすることもある。本当に、茜に心から信頼を置いているのだと、直に伝えられずとも、彼女と一緒にいる時の空気で感じ取れた。

 

 その信頼が、自分には向けられなかった。確かに、此方の一方的な好意で突然接近した所で、それは滅多に会わない人見知りの甥っ子を可愛がろうとするようなものだというのはわかっているが、それだとしても会いに行く頻度を増やしたところでどうにかなるようなものには、間近に迫ってみた感じでは到底思えなかった。

 

 直感で感じたことを言葉にすることは極めて難しいが、敢えてそれを具体的に形容するとすれば、彼は箱庭の中にいて、その限られた空きスペースを今尚茜で埋めているような、それでもって満足し外部との繋がりを必要としていないような印象だった。

 

 つまり、席取りにはとうの昔から負けており、茜と自分を比べる事自体既になんの解決にもなり得ないということになる。完全敗北だ、考えた所で仕方のない事案になってしまった。

 

「……着替えよ」

 

 のそのそと、人の目線を避けるように、また重たい腰をさも気怠げに上げるように、教室の個人ロッカーに入れてある体育着の袋を取りに行く。意外と盗難被害の多い学校ではあるが、有難いことに個人ロッカーには全て鍵が付いており、私物は気兼ねなく仕舞っておける……まあ、職員室に置いてあるマスターキーを悪用する不埒な輩も、年齢を問わずごく稀にいたりするのだが……

 

 完全に周囲の人気は失せたとはいえ、部活動で校舎内に残る生徒も多くいる中、教室で着替えるという判断は下せない。また、びしょびしょになってしまった制服もそのままには出来ないので、悩んだ末保健室で着替えることにした。学校医は皆女性だし、もしも他に誰か来たとしてもカーテンで目隠しが可能というのが一番の理由だ。因みに、次点にくるのは学校医の優しいながらもあれこれ根掘り葉掘り聞いてこない気遣いの良さと、着替えを入れられるビニール袋を提供してもらえるだろうという、少々便利屋扱い的な成分が含まれる考えだ。

 

 思惑通り、その四つの観点全てをクリアしてくれた保健室で着替えを済ませると、今度は職員室に向かった。依然として勢いが弱まりそうにない雨の下を、傘無しで歩くのは着替えた意味も無くなってしまいメリットがない。だから過去に誰かが忘れて、そのまま預かりっぱなしになっているであろう傘を借りに行くのだ。忘れ去られたとは言え人の物である以上、貰い受けることは出来ないだろうが、明日返すと言えば大抵は借りられる。

 

「傘か?ああ、この間まとめて処分したぞ。」

「え、じゃあ一本も無いんですか?」

「増えて行く一方で、置いておけなくなってな。」

 

 運の悪いことに、この間業者に頼んで一斉処分をしてしまったらしい。確かに、一度も片付いた所を見たことがない程乱雑に物が置かれた職員室で、忘れられて持ち主もわからない大量の傘を置いておく理由は無い。だが、そうなると傘を手に入れる手段が断たれたということになる。友人を頼りたいところではあるが、普通予備で学校に一本置いておくようなことをする生徒はいない。

 

「……そうだ、そう言えば俺の机の引き出しに折り畳みのやつが入ってたな、良かったらそれ使うか?」

「え、いいんですか?」

「まだ当分帰れないからな、帰る頃には止んでくれることを祈って貸してやる。」

「ありがとうございます…」

「その代わり、しばらく手伝ってもらうからな。」

 

 絵になってないウインクを添えて、不吉な文句を口にする教師。辞退して他の先生から借りようかと一瞬迷うが、まあ折角貸してくれると言ってくれたのだし、それを断るのも悪い気がしたので、結局その一度も開かれていないらしい真新しい傘を受け取った。教師曰く、過去に教え子にもらったまま放置してしまっていた物なんだとか。折角の贈り物だというのに、贈り主の意図を丸無視する彼のスタイルは、彼らしいと苦笑する他ない。

 

「気をつけて帰れよ。」

「うん、ありがとうございました。」

 

 いつになく丁寧にお礼を言ってみる。本当はそれが正しいのはわかっているのだが、目の前の教師にそれをするのは、家族に敬語を使うようでなんだかムズムズするのだ。けれども、今はそれがすんなり言えた。それは人生の先輩である彼に、素直に敬意を払おうという気になったからかもしれない。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「なんだろ、本当にしつこい雨だな〜。」

 

 いつまで経っても止む気配を見せない雨。ほんの十数分で勢いが弱まってくれるだろうなどと甘い考えは持ってはいないが、何処と無く、それこそ人類が叡智を代償に捨てた第六感が、異常だと訴えかけているようだ。

 

「雨は雨なんだろうけど…」

 

 思えば、この雨は先程天凪 紫の部屋で彼から拒絶を受けた時から始まったものだ。偶然にしては出来過ぎているタイミングで窓を叩いた風雨、予報とも大きく異なっており、不自然と言えば不自然である。

 

「まさか……なんて、紫君が風神様だったりするわけないか。」

 

 お伽話だ、天気が誰かの意図するままに動くわけがない。『旧時代』にすでにそれは証明された、バタフライ現象という言葉もあるように、どんな天候であれ、なんらかの気象学的な原因があってそれは起こるのだと。不自然は全て自然なのだと。予報はたかが予報なのだと。

 

「……?」

 

 中までぐしょぐしょに濡れてしまって滑りが悪くなった靴に無理やり足をねじ込んでいると、不意に誰かの視線を背後に感じた。後ろを振り返ってみるが、誰もいない。きっと偶々通りすがった生徒が自分を見ていただけのことだろうと、無視して歩き出す。

 

 一歩歩くごとに靴底からジュワジュワ水が滲み出てくるのが何とも不快だが、家に帰るまでの辛抱と我慢する。とは言っても、不快なものは不快なのでその顔は渋面に形作られてしまう。側から見れば、今の顔はさぞやブチャイクなものになっているだろう。

 

 低い気温も相まってどんどん熱を奪われる足が痛みだして来た頃、また背後に視線を感じた。気のせいでは無いだろうとわかる程度にはハッキリとしたそれを直感が感じ取り、しかし振り返れば誰もいない。だがまた歩き出せば視線が飛んで来て、首筋の辺りに舌で舐められたような嫌な寒気が走る。気味の悪い気配を連れて歩くうちに嫌な予感は増幅し、その視線正体が俗に言うストーカーだと気づくのに、そう長い時間は必要としなかった。

 

 雨音に紛れて微かではあるが足音まで聞こえてくるようになり、徐々に徐々に間隔を詰めてきているのがわかる。大声を出して逃げようかとも思ったが、相手を刺激して追いかけられた場合、ただでさえ足の速さには自信が無いのに濡れた靴で逃れようがなく、すぐに捕まってしまうだろう。万が一上手く逃げられたとして、相手のストーキング行為がより一層悪質なものになっても困る。

 

 気付かないフリをして、今は取り敢えず尻尾を出すのを待とう。そう思って近くにあったコンビニに駆け込み、しばらく様子を伺うことにした。流石に相手も人目につくような場所には入ってこようとは思わないだろうし、何より体力的精神的に少し疲れてしまった。

 

「あれ、玲奈?もう先に帰ったと思ったのに。」

 

 入ってすぐ、買い物途中だったらしい友達の青山 千里が目を丸くして話しかけてきた。彼女とは、先日化け物達に襲われた時に紫に自分を探すよう頼み込んでくれたと聞き、元より仲の良かったのが一層仲良しになった。そんな親友レベルの知人の顔を見て、今まで肩にのしかかっていた緊張が一気に解けていく感じがした。危うく目から涙が溢れそうになり、頰を張ってそれを止めようとする。

 

「何々急にどうしたの?そんな二匹も顔に虫が停まった?」

 

 てんで的外れなその問いに思わず吹き出すと、堪えていた涙が支えを失って両目から落ちていく。泣きながら笑っている奇妙な自分の顔を見て、千里も笑った。やはり友達はいい。誰かに恋をして結ばれるのも良いが、自分にとっては友人との時間の方が何倍も楽しい。

 

 菓子をいくつかと、旧時代の頃より愛されて止まない黒色の炭酸水、それから季節外れだがこんな肌寒い日には嬉しい肉まんを購入して、千里と二人でそれを頬張りながらしばらく話をした。内容はどれも他愛もない、クラスメイトや教師のこと、雑誌のこと、天気の事、どれも些細で一々記憶するような価値も無いが、それが一番良いのだ。オチは無いが面白く、そしてコロコロと目まぐるしく話題が変わり飽きることがない。いつしか今日起こった辛いことも忘れ、絶えることのない笑いに酔って時間を忘却の彼方に置いた。おかげで、危うく借りた傘を置き忘れるというトンチンカンなことをするところだった。

 

「それじゃあまたね〜。」

「うん、また明日。」

 

 会話のボルテージも最高潮に達しそうになった辺りで、不意に冷静になった千里が用事を思い出し、名残惜しくもそう言って別れることとなった。だが、腹も心も満たされ十分幸せであったし、気分も先程よりすこぶる良い。濡れた靴も気にならない程だ。

 

 鼻歌交じりに帰路について、雨の音に耳を澄ませていると、また吹き付ける風とは違う背中を撫で回されるような寒気に襲われた。恐る恐る後ろに視線をやると、有頂天になってすっかり忘れていたストーカーの視線が、後方の曲がり角からこちらに真っ直ぐ向かっていた。深く上着のフードを被っていてその表情は見えないが、間違いなく目が合ったのはわかった。それだけで脳が恐怖を呼び起こすのには十分で、堪らず駆け出してしまう。幸い家まではあまり遠くない、全力で駆ければ間一髪で家の中に飛び込める。

 

 冷静に考えれば甘過ぎるとわかるのに、余裕の無くなった心は逃げろと強く何度も何度も訴えかけてきて、水を吸って重たくなった靴を履く足を無理矢理動かさせる。どんどん追いついてくる足音に心臓が早鐘を打ち、恐怖と焦燥で思考が埋め尽くされていく。嫌だと、助けてと、そう叫んでも足音は濡れたアスファルトを叩き続け、周囲からは救いの手は差し伸べられない。

 

 逃げ走ることに我武者羅になり過ぎて、少しでも早く走ろうと傘を投げ捨て、まだ中身の入ったボトルを手放すも、重い靴が足を引っ張ってよろけ、勢いが殺されることもないままその身をアスファルトに投げ出してしまう。立って再び逃げ出そうにも、擦れて血の滲んだ手や肘、膝が痛み立てない。

 

(早く逃げないと、早く…)

「転んだの?大丈夫?」

 

 ハッとして後ろを振り返ると、フードを深く被った男がすぐ傍に立っていた。本気で身を案じているようには到底思えない口調に、脳が危険信号を発するのがわかる。

 

「にしても、傘を投げ飛ばすなんて危ない。当たったらどうすんのさ。」

「あ、あんたが追いかけてくるからでしょ…」

「逃げられたら当然追わない?普通。なんで俺の目を見た瞬間逃げ出すんだよ。」

「ストーカー、私が気が付かなかったと思ってたの?」

「質問をしてんのはこっち…ねえ!?」

 

 無骨な手でこちらの頰を掴んだかと思えば、額を打つけてくるかのようにその顔を近づけてくる。当然そんなことをされれば驚くし、怯みもする。怖くて堪らないが、強引に見せつけられたその顔に、どこか既視感を覚えた。

 

「隣のクラスの…」

「へえ、覚えてないフリなんかしてたんだ。マジで腹立つなあ。こっちはこんなに好きでいてやってんのに?」

「んなっ、好きな相手にこんなことする?」

「玲奈が全部悪いんだろ、いつもいつも他の男とつるんで、俺のことは見もしない。こっちがどれだけ想いを踏みにじられたか知らないで…!」

 

 名前は忘れた、だが去年同じクラスにいた男子の一人だ。その彼が、射殺さんばかりの強烈な怒りを宿した目でもって理不尽な事を言う。恐怖と、目の前の男から押し付けられる処理が追いつかない感情、それらから逃げたいと切望する声にならない叫び。それらがごちゃ混ぜになって心を潰しにくる。

 

「す、好きならなんで今までそう言わなかったの…?言ってくれれば…」

「言いたかった、けどお前は何度も拒んだろ。誰かと約束があるっていつもいつも…!」

 

「俺はさ、お前のこといつも見てたんだ。授業中も、休みの時間も放課後も!けど、一度も振り返っちゃくれなかった、そんなに俺の事が嫌いか?親の仇同然に憎いか?」

「少なくとも、好きだからってつけ回すような人私が好きになるわけないでしょ!?」

「……っ、まあいいさ。どうせまた新しい男探してんだろ?いつもと違う方向へ歩いて行ったと思ったら、万年寝坊助の紫の家なんか行ってさ。」

「違っ…確かに紫君の家に行ったけど、別に付き合っちゃ…」

「あ〜もう良いって弁明しなくたって、そうやって俺の事見向きもしないで他に男作り続けて失敗する。ははっ、いい加減嫌になるだろ。」

「何言ってるの…?」

 

 明らかに前後の繋がりが見えない台詞を口にする彼。怖い、ただひたすらに何をしようとしているのか、何を考え動いているのか全く理解できない目の前の男子生徒が恐ろしくて堪らない。叶うならば逃げたい、助けて欲しい、これ以上こんな男の前に居させられたらもう気が狂ってしまいそうだ。

 

「さて、できるなら人目につかない所が良いけど、まあサクッとやれば問題無いわな。」

 

 コミカルな擬音語が、後ろに続く台詞によって凶相を形作る。やる=殺る、だというのは簡単に理解できるし、何より彼が懐から取り出した、生に対する尊厳も有り難みも全く考慮されていないであろう狂暴なデザインのサバイバルナイフが、その思考を肯定してくれる。

 

「俺を好きになってくれないお前はもう要らない、せめて一番綺麗なまま思い出になってくれよ。」

 

 叫ぶ

 

 恐怖から、この理不尽から、絶望から

 

 誰か救い出してくれと喉を壊す勢いで、あらん限りの力をもって叫ぶ

 

 嫌だ!

 

 助けて!

 

 殺さないで!

 

 死にたくない!

 

 少しでも距離をおこうと濡れた地を芋虫のように意地汚く這うが、男に髪を鷲掴みにされて停止させられる。痛い、髪ばかりでなく、潰れそうな喉のみならず、心が痛い。

 

 誰かに殺意を向けられることが辛い、苦しい。幼少の頃より散々な想いをさせられてきたと言うのに、この仕打ちは一体どうしたことだろう。もしもこの世に神がいるならば、これはあんまりだ。一体いつ、見放されるだけの罪を犯したか、身勝手な願いをして叶えられなかったことを恨んだことは勿論ある、だが誰しもが一度はそうだろう。万民に等しく訪れるそれを、何故自分だけ許さないのか。それ程までに自分はこの世に生を受けた瞬間から神に疎まれていたとでも言うのか。

 

 声にならない叫びを、その神が聞き届けることは無論無い。だがそれも無理からんことだ。今の世は、神の怒りに触れた愚かな祖先達が招いた最悪の結果から生み出されたのだから。惨めにも生き残ったそれらの末裔など、気にもかけないのは至極当然だ。

 

 古来より、それこそ世界が破滅を迎えるよりも果てしなく遠い過去より、心の拠り所として縋ってきた物を失い、壊れた音響機器のように金切声を上げながら、腹部を切り裂こうと迫る銀の輝きを見た。

 

 死ぬ、間違いなく

 

 人生で二度目、そんな確信をして、最後の最後にかの王子の姿を思い出す。理不尽よりか弱きを救う英雄に見えた彼は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が霧散する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 細胞を切り裂かれる痛みに、受け止めきれなくなった害意に、溢れ出す血に、耐え難い絶望に

 

 だが、それで良かった。そうでもならなかったら、きっと今頃踠き苦しみ、呻き、

 

 

 

 

 天凪 紫を心より恨んだだろうから。

 

 




お騒がせして、本当に申し訳ございませんでした(土下座)


第十話でありました、まあ内容は物語に沿ってますのでだから何だということはありませんでしたが…

四月に始めていつの間にかここまで進んでおきながら、一向に艦娘の出番が少ないし、一体いつになったらタイトルを回収する気なのか。ご不満な点はございましょう、けれどもここまでやれたのも、これからも続けようと思えるのも読者の皆様のおかげであります。この場をお借りして感謝申し上げます、ありがとうございますm(_ _)m

さてさて、前置きが長くなりましたがここからキャラ紹介に移ろうと思います。駄文だらけではありますがどうぞごゆるりと


天凪 紫
読み方:あまなぎ むらさき
歴とした主人公、頭が良く、やる時やればモテるという羨ま爆発しろ的なアビリティを持つ

紫「ちょ、僕のことをそんな風に考えていたの?」

ナルコレプシーを患っているが、最近「俺は、人間を止めるぞ!(ry」をしてコントロールする術を身につけた模様。外に出る度「お日様ありがとう」と言う変な習性まで獲得した

紫「僕主人公だよね、何だかとっても不名誉な紹介されてる気がするし、なんかさらっと嘘かかれた気が…」
作「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすものよ」
紫「いつの間にか嫌な人の息子になっちゃたなぁ…」


南谷 茜
読み方:みなみや あかね
紫のお世話係、とある男子生徒主催の『話しかけられるだけでも十分幸せだけどワンチャンあるなら彼女にしたい系美人女子ランキング』で堂々の3位という破格の容姿を持ちながら、今まで一切の告白を受けたことがないのは、オカン的世話焼きたがりと少々不思議ちゃんな性格のせいだと専らの噂

茜「でもヒロインだもん。」

と本人はそう供述しており…

茜「じゃないー!女性キャラとしては初登場だよ!因みに文脈繋がってないよ!」
紫「でも他の候補の方が有力じゃない?メイドさんは僕と息ぴったり、玲奈さんは最近出番多いし、電ちゃんは艦娘だし。」
茜「紫までそんなこと言う!?もう、私怒ったから。紫の部屋の冷蔵庫に鍵かけてやるから。」
紫「うわぁ、それ流石に横暴すぎ…」
作「あ、パスワード後で教えといてね。」
紫「そこ止めなさいよ。」


メイドさん
紫が廃材から制作したコンピューターのこれまた自作のアプリケーション。正式名称はデスクトップマネジメントアプリ。本当は英単語の頭文字を並べてMEIDOさんにしようかと思っていたが最初のmanagementを思いついた時点で面倒になりやめたという経緯がある。

メ「面倒にならないでくださいよ!」
紫「僕的にはやめてくれて良かったけどね、紹介する時面倒だから。」
メ「ええ〜、折角格好良くなれるところだだったのに〜酷いではありませんか!」
作「僕も書くのが面倒だからね、仕方ないね。」
茜「私はローマ字で無骨になっちゃうよりかは、メイドさんの方が可愛いから良いと思うな。」
メ「面倒になっていただき誠に有難うございました!」
作「随分現金なアプリだね。」
紫「昔はこんなんじゃなかったんだけどなぁ…」


用語集

万が一艦これを知らない方がいた場合のことも考えて「艦隊これくしょん」の用語も、僕の解釈を若干交えて紹介します

『旧時代』:世界崩壊前の時代を指す。ほとんどの場合は平成以降の時代を言うことが多い。

『艦娘』:艦隊これくしょんのメインキャラクターで、世界大戦時に活躍した様々な艦種の軍艦を擬人化したものの総称。プレイヤーは戦闘や建造(まだ未登場故説明省略)によって獲得し、最大六隻からなる艦隊を組んだり育成する。艦だった時代の記憶を断片的に覚えている、または性格にそれが投影されることが多い。

『深海棲艦』:艦隊これくしょんの敵キャラクター、魚のようなものから人型まで様々な姿が確認されている。禍々しいながらもクオリティの高い絵に魅せられる提督も少なくないので、敵キャラクターとしてはかなり根強い人気を誇る。この作品においては、世界を滅ぼした元凶のうちの一つであり、広大な海を支配下に置いて人類を苦しめる敵として長年殲滅が目論まれているも、未だ戦局に大きな変化は見受けられない。

『虹明高校』:紫達が通っており、旧帝大の一つ、東京大学の跡地に建てられた高校。全国一二を争うようなレベルではないが、進学校ということでそれなりに偏差値は高い。


今回はこの辺で終いにします。投稿が遅れてしまい、昼に待機していた方には申し訳ございませんでした。次回はキャラ紹介無しで、用語集のみ記載させていただきたいと思います。それではまた次回お会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。