「ふむ……力になれなくて申し訳ないが、こりゃ私の対処できる範疇を超えてる…」
「そう、ですか…」
「第一、こんな全身冷え切った体で生きてる人間なんて前例が無いし、かと言って検査で何があるわけでもない…一応、大学に勤めてる知人へあんたの血液サンプルを届けてみるが、結果は推して計るべきでしょうなぁ。」
横須賀第三鎮守府の医務室にて、血液検査を受けた紫は、軍医にそう告げられた。だがその言葉を裏返せば、健康上は問題が無いということになる。そのことにまず安堵した。
「何か、こんなことになってしまった原因に心当たりは?」
「……いえ、何も。」
嘘だ
既に心当たりはあり、確信も持っている。だがそれを敢えて口には出すまい、それは元凶とは言えども、今の自分に無くてはならない物だ。
「まあ、何かあれば知人を頼りなさい。念のため紹介状は書いておこう。」
「ありがとうございます…」
「……気を落とさんことだな。そのうち治るかもしれんし、そうでなくとも、少しばかり独特な個性が一個増えただけだと思えばいい。」
「……」
「気にするなとは言わんけど、良く見りゃお前さんいい面してんじゃないの。少なくとも、
和ませようとしてくれたのであろう冗談に、下手な愛想笑いで返す。少しぶっきらぼうだが、悪い人ではない。医師らしいと言えば、そんな感じだ。
医務室を出ると、扉のすぐそばに電がいた。心底心配してたと言わんばかりに、その顔は不安で彩られている。
「何とも、なかったですか?」
「うん、健康上は何も問題無いって。おかしな個性が増えただけだってさ。」
「い、電は、紫さんの手嫌いじゃないのです。」
社交辞令のようなものか、単なる気遣いか。目を見る限りでは、本心でものを言ってるようにしか見えない。まあ、目の前の少女が虚言を使うような子には見えないし、そう言ってはずっと待っていてくれた彼女に失礼だ。
「ありがとう。それじゃあ戻ろっか。」
「はい」
差し出した手をおずおずと、けれども先の言葉を嘘では無いと証明するように勢いよく繋いできた。少しばかり熱い。けれども心地よい熱を感じる。
応接室に戻った頃には、手はそれとなく解いてやった。手を繋いだまま入るのは恥ずかしいだろうという電への気遣いだ。
「失礼します、今戻りまし…」
帰還の挨拶を告げる相手は、しかしながら応接室には誰一人としていなかった。織部中将がいないのはわかる、彼は立場が立場なのでとても忙しい人のはずだ。検査結果をこの部屋で待っていられる程、悠長にはしていられないのだろう。だが、電の三人の姉達の姿が見えないのは一体どうしたことだろう。
「…ん、こんな所に付箋か。」
テーブルの上に貼ってあった、装丁に合わないシンプルな付箋を手に取り、それに書かれた文に目を通す。
「非常事態につき司令室へ向かいます。電は直ちにブリーフィングルームに出頭するように、紫君はそこで放送の指示があるまで待機せよ……緊急事態だって?警報は鳴ってなかったのに…」
「鳴らす場所を制限したかもしれないのです、医務室のある辺りは、普通の人達が多いですから。」
「電ちゃんのことを呼び出さないといけないはずなのに、そんな気を遣わなくても…」
あまりこちらの心配事を増やしたくなかったのか、それとも電を側に置いといてくれたのか。いずれにせよ気の回し過ぎだ。
付箋の指示通りに港へ向かうと言ってその場を去った電を見送り、一先ず紫もソファーに座って同様に指示を守って待機することにした。耳を澄ませば、確かに非常事態を警鐘するアラームが遠くで鳴り響いている。
不意に、呼び出しに応えて駆けていく少女の後ろ姿を思い起こし、忘れかけていた胸の取っ掛かりに気付く。
「なんで、あんな小さな子が戦わないといけないんだろう…」
推察ならいくらでも出てくる。だが、そのどれに対しても納得はできなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「状況は?」
「はっ、大規模な深海棲艦の艦隊が横三の監視下にある安全海域内に侵入、距離8000とのことです。」
「いつの間に……」
不思議なことに体が冷え切ってしまった青年の診断結果を待っている間に、久しぶりに館内を見回っていようかと廊下を歩いているところを、急に鹿島に捕まえられ、そのままいつになくガチガチに張りつめた空気が漂う司令室に来ることになった。そして、そこで突如として深海棲艦が攻めて来たと言われ、急遽作戦指揮を執ることになってしまったのだ。青年の具合が気がかりではあるが、メモ書きを鹿島に渡しておいたので、彼が何事も無く応接室に戻ることになったら、そこに書かれた指示通りに動いてくれるだろう。
「数は?」
「偵察によれば、六隻からなる艦隊が五つ、総計三十隻とのことです。」
「哨戒機と、レーダーによる監視はどうなっていましたか?」
「双方共にこれだけの大船団に攻め込まれていながら、一切の艦影を発見できておらず。三十分前の定期連絡時には『異常無し』のみを報告しておりました。」
「以前と似たような状況ですね……それにしても三十隻とは、軍門に入ってから何年も経ちましたが、これだけの規模は前例がない…」
遭遇し得る敵の最大戦力と言っても、今までであれば精々が二艦隊からなる連合だ。それでもしばしば厳しい戦いを強いられることがある以上、前例が無いため今現在襲いかかって来ている敵の戦力は推して計るのは難しいが、かなり強力なものと見て間違いない。下手をすれば、横四の後を追うことになるだろう。
「現在こちらで出せる戦力は?」
「待機中の第一艦隊はすぐにでも、第三艦隊は今東京へ遠征中ですので呼び戻す必要有り、第ニ艦隊並びに第四艦隊は補給が完了すれば出撃可能です。」
「横ニに至急応援を要請してください。また、館内の非戦闘員と近隣住民へ避難勧告を。」
「はっ!」
「総員第二種戦闘配備!盟約上繰り出せる艦隊は少ない!万が一の場合に備え迎撃態勢を整えよ!」
そうそうアナウンスされることのない第二種戦闘配備のアラート。しかし、ここは数ある鎮守府の中でも十の指に入る実力を誇る横須賀第三鎮守府だ、その程度のことで狼狽える軟弱者など誰一人としていない。職員全員が迷いのない動きでそれぞれの持ち場に就く。
「第四艦隊は今から編成の変更を行います、旗艦鹿島、続いて飛龍、蒼龍、高雄、愛宕、夕立。」
「あんまり鹿島贔屓だと、また嫁に叱られますよ中将!」
その一言に司令室にいる者達が一斉に失笑する。こんな時だと言うのに、困った仲間達だ。だが、おかげでギュッと張りつめた緊張感が少し緩んだ。持てる力を発揮するのに大変ベストな状況、オペレーターとして駆け出しのころから共にいる彼には、一体何度こうして助けられただろうか。
「提督、敵の戦力が確認できました。駆逐艦五隻と軽巡または雷巡からなる水雷戦隊が二つ、正規空母二隻と軽空母一隻に駆逐艦三隻の航空戦隊が一つ、戦艦二隻と正規空母二隻に重巡二隻、それに加えて軽巡ニ隻と駆逐艦四隻の主力と思われる連合艦隊が一つです。また、姫、並びに鬼級の姿は確認されていないとのこと。」
「識別名まで知っておきたいところではありますが、それだけ揃えば十分です。引き続き偵察は厳にお願いします。」
個々の艦隊を見ればいたって普通、いずれも十分な戦力を整えておけば大物狩りの前座程度にしかなり得ない。よく考えればこれだけの規模だ、量ばかりで質までは上げられないだろう。
(ただ、問題なのは数ですね…)
戦場において質はそこまで求められない。質の良い戦力が大勢いれば良いのは当然のことだが、1+1が2よりも大きい価値を持つため、質の悪さは数を揃えられるのであれば簡単に補えるのだ。いくら熟練の艦娘を多く擁しているとは言え、数的不利に立たされている以上侮れない敵であることには変わりない。
「今から五分以内に大まかな戦略を練る!敵の陣形は?」
「送られてきた情報によりゃ奴さん、かなり急拵えで揃えてきたって感じですぜ、流石に三十隻なんてデカい艦隊の陣形なんて考えられなかったらしい。」
「……前線に水雷戦隊を二つ単横陣で互い違いに配置、それを隠れ蓑にして後ろに航空戦隊と連合艦隊…確かに、ぱっと見じゃ張りぼてみたいな印象を受けますね。」
「しかし、これはこれでかなり厄介ですよ。真正面からぶつかれば十二隻から放たれる雷撃を浴びせられることになります。」
「横ニの応援に期待しましょう、正面に対して厚い陣形ですが、後ろからならばかなりの打撃を与えられそうです。大本営に掛け合って基地航空隊の使用願いを申請してください、初手で敵の前線を崩します。」
「敵の対空力は侮れません、熟練した機体をどれだけ失うか…」
「それはこの際無視しましょう、資材にも糸目をつけません。負けて失うのは誇りなんて軽いものだけじゃない、ここを盾と認め信頼してくれる一般人の方々のためにも引くわけにはいかないんですから……未来ある命、今度は一つたりとも落とさせませんよ。」
呟きに近い、それでも緊張感に溢れ喧騒の無い司令室には良く響く最後の言葉を聞いた職員の目が変わる。皆が皆自分のように若い者達ばかりではない、それこそ今日訪ねてきた青年と同じ年頃の子供を持つ者もいる、肉親を喪う悲しみを知る者だって少なくない。
「ですが中将、これだけ多くの敵の軍勢、いかにこちらが精鋭を揃えた所でどれだけ保たせられるでしょうか。」
「せめて近隣住民と、館内の非戦闘員の避難が完了するまでは時間を稼ぎたい。敵の進攻速度は?」
「おおよそ20ノット程度、約十二分後にはここへ到達してしまいます。」
「時間がありませんね……仕方ない、ともかく今は出撃させましょう。第一艦隊、第二艦隊へ出撃命令を!第四艦隊も準備が出来次第支援に向かうよう指示!あと二分待って大本営から許可が下りない場合、私の独断で基地航空隊を出動させます。」
オペレーターがヘッドセットを装着し、第一艦隊の旗艦、長門と連絡を取り合う。その横では、もう一人が第二艦隊の旗艦大淀と連絡を取り合っている。基本、作戦中は大まかな指示をこちらで出し、後の細かい判断は現場にいる旗艦に任せることにしている。故に密度の高いやり取りが欠かせないのだ。
『ゲート開きます、第一艦隊出撃してください!』
威勢の良いアナウンスを合図に、けたたましいアラームを鳴らして巨大な鉄の引き戸が持ち上がる。そして、完全に開かれた門から六隻の主力艦隊が発艦した。思い返せば、この瞬間に憧れて、横須賀の鎮守府を目指し精進したものだ。通常、港にゲートが設けられているような鎮守府や警備はまず無い。大体が人力または開けっ放し、あるいは格納庫と別個に作られていて天井が無いなんてのもざらだ。何度も繰り返しているうちに慣れてしまってはいるが、今でもこれを我が物にした時の高揚感は忘れてはいない。
『続いて第二艦隊発艦用意、カタパルト射出準備。』
先の第一艦隊も同様の手順を踏んでいるのだが、今回のような迅速な行動を要求される場合に限り、重量級の艦の発進を手助けするカタパルトが使用されている。駆逐艦クラスの大きさであれば、速度の上げ下げは簡単に行えるのでそこまでメリットになり得ないのだが、加速のし難い低速艦にとって初速が有るか無いかでは大きな差となる。戦艦娘は勿論のことだが、足の速い軽巡や駆逐艦といった随伴艦にしてみても、あまり待ち惚けを食らわずに済むと好評だ。
『第二艦隊出撃してください!』
三度目のアナウンスで第二艦隊も出撃する。今度は先の第一艦隊よりも足が速い。それもそのはず、第二艦隊は夜戦時に強い軽巡や駆逐艦を起用するからだ。
夜戦時には第一艦隊ではなく第二艦隊が代わって戦闘を行う。これに関しては、そのようにして行うとルール決めがされているだけであって(破ることは許されない)、第三鎮守府で方針として決めているわけではない。よって何故と問われれば反応に困ってしまう部分ではあるのだが、自分なりの答えとして、第一艦隊は昼戦での火力を重視して重量級の艦艇で編成し第二艦隊はそれの援護をする、そして夜戦時には隠密性を高めるために数を減らし機動力のある第二艦隊で戦う、といった合理的な考えの元考えられたルールだと考えている。
まあそんな憶測の話はさておき、比較的足の遅い第一艦隊を先に出しておけば、合流はすんなりと行えるだろう。重量級の艦艇の補助に使うカタパルトをわざわざ軽い第二艦隊にも使わせたのは触れないのがお約束。(彼女達だって使いたいのだ)
「織兵衛殿、大本営より基地航空隊の使用許可が降りました。」
「直ちに発進用意、座標指定は任せます。」
「第四艦隊が全員港に結集、間も無く支援任務を開始できます。」
「任務概要を伝達、航空隊と共に援護射撃を行なった後に直ちに帰投するよう。」
「第一艦隊旗艦長門より、第二艦隊との合流が完了したそうです。」
「進路を東寄りに、出来る限り正面衝突は避けて第四艦隊と挟撃させます。」
ここまでは良い、机上の空論ならいくらでも打破する算段をつけられる。しかし、実際の戦闘は頭の中で、または戦略ボードの上で行われるものではない。根本的な力の大小から些細な気象情報まで複雑に絡み合って常に局面が推移する、後は現地の彼女達の力量次第だ。
「……少し空けます、すぐに戻りますがその間任せてもいいですか?」
誰に言うでもない、その場にいる者達に向かって言ったのだ。それをある者はこちらの目を見て、ある者は手を挙げてそれを振り、ある者は小さく頷いて承諾の意を示した。仲間と呼べる者達だからこそ、織部もそれを許す。仲間も、彼を信じるがため、またバックアップ体制が既に整えられているが故に彼が司令室を離れるのを許す。
改めて自分の置かれている環境に感謝し、織部は司令室から飛び出して行った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
第三鎮守府、その地下牢。普段あまり人が出入りすることも、また滅多に収容される者の訪れることの無い場所に、小鳥遊織部は来ていた。たった一人、先日入れられたその者に会うために。
「中将……久しいですね、あれから一度もお会いしてなかったもんだし…一体どのくらい経ちましたか?」
「三週間、時が過ぎるのは早いものです。」
「ええ、全くだ……ところで、中将自らおいでとは、いよいよ私の命もここまでですかい…?」
「貴方は、それだけの事をした。軍にとっても、由緒ある横須賀第三鎮守府にとっても……そして若い彼らにとっても。」
「仰る通りだ、とうにこの命差し出す覚悟はできてますよ。」
あの日、夕暮れの茜色も闇色に染まって熱りが冷めた頃に、彼はのこのこ帰ってきた。こちらは事後処理に追われている中、彼の捜索隊まで手配して散々心配をかけられたと言うのに、事件の最中どこに行っていたのかと問うてみれば、「深海棲艦の砲火が届く場所での指揮は初めてで恐ろしくなった」という言い訳が帰ってきた。無論、これには織部を含むその場にいて事情を聞いていた全員が激怒し、即刻身柄を拘束しここに放り込まれたというわけである。
その時はすぐ様大本営に連行し、査問会に掛けて厳罰を下すべしという過激な案も出されたが、彼の今までの功績を考慮し、今は幽閉と経過観察のみが科さられている。
「貴方とは、昔からあまり馬が合いませんでしたね…」
「中将もお人が悪い、これまた耳の痛くなる話だ。」
「着任当初は私が上の立場にいることに猛反発、肩書きで呼んでくれたのは、どのくらい経ってからでしたっけ。」
「一年と少し、自分でも驚きの強情ぶりでしたよ。でも、それは中将がいつまで経っても爪を隠したままでいたのも悪い。」
「自分は天才と呼ばれる部類の人間じゃありませんからね、元よりそんなものは持ち合わせてないんですよ。」
「どうだか、悪いけど私はあんたが中将にまで上り詰めてここに配属されるなんて、夢にも思わなかった。」
「夢に生きるってのは、時として大切なことかもしれませんよ。」
「夢ね……餓鬼の頃の思い出と一緒に、どっかに置き忘れちまいましたよ。」
自嘲気味に笑う大田、今でこそ何だか話ができているように感じられるが、そこには明確な思想の食い違いが感じられてしまう。実際のところ、階級が同じなら以前と同様啀み合いしかできないような間柄なのだ。階級の違いが、彼を今のように真摯な受け答えで会話することを強制しているのであり、そこに個人の好き嫌いは勘定されていない。さぞ窮屈なことだろう、いけ好かない相手だろうが噛み付かないで済むやり過ごしかたなどいくらでもあるだろうと、織部はそう思って止まない。しかし、やはりそれは個人の思想に過ぎない、彼には伝わらないし上に彼がそうなることも無いだろう。
「で、非常事態の警報が鳴るような状況の中、一番司令室にいないといけないであろうはずの中将が、なんでまた話したくもないだろう私の元へ?」
「別に話したくないなんて思いませんよ?寧ろいつになったら打ち解けられるかなぁと思っています。」
「愚問だ、こっちはとうに諦めてます。」
「それは残念……でも、やはり貴方は横三に必要な人間だ、今一度力を貸してはくれませんか?」
「修羅みたいな顔で怒鳴り散らしてきた人の言葉とは、到底思えませんが。」
確かに大田に事情を聞いた時、人生でこれ程までに怒ったことがあったかと聞かれてほぼ無いと言えてしまう程には、かなり強烈に怒った自覚がある。自分自信、これだけ声を荒げることができたのかと驚いた位だ、場にいた他の者も全員、さぞかし衝撃を受けたことだろう。鬼の紅助と仏の織兵衛、周囲ではそんな妙な役割分担がされていたのだが、おかげでその認識が少なからずズレてしまったらしい。ほんの一部だが、織部の機嫌を伺う者も出るようになった。
だが、後悔は無い。織部とて人の子であり、沸点が異なるだけで怒る時は怒るし、それが全く無い人間など居ようはずがない。そして今こうして紅助の力を求めてやって来たのだって、嫌々などでは断じてない。此度の襲撃は折り合いを付ける丁度良い機会であり、また私怨でいつまでも知り合いを拘束していられる程図太い神経を持ち合わせていなかったからだ。
「正直、自分は貴方が苦手です。」
「私は……どうも中将のことが好きになれそうにない。」
「構いません、今更好かれようとは思っていませんよ。でも背中を預けられる男にはなりたいものですね。」
「預けるだけ預けておいて、一向に貸そうとしないのはどこの誰です?」
的を射ている、貸そうとしたことが無いのは少し誤解があるが、確かに預けっぱなしだ。しかも、また預けるためにここに来たのだから、世話がない。
「……まあいいでしょう、咎人で良けりゃあその背中、また預かりますよ。」
「失敗も、逃げることも、もうできません。我々も含め、死ぬことになるかもしれない。」
「我が身が可愛いのは当然、けれどそう言われたら、もう諦めるしかないようですなぁ。」
「諦めきれますか?」
「そしたらあんたがまた怒るでしょうに。」
「そりゃあ勿論、人生は命あっての物種です。」
「はっ…本当、中将は付き合いにくい人だ。」
チョイチョイと手招きして、手枷を外せと強請ってくる。意味するのは勿論逃せではない。
「沿岸に防衛部隊を配置しています。」
「それを指揮しろと、本当にまあよくぞこんな臆病者にそんなことをさせられる。」
「もう逃ないでしょう?それに、自分も離れられない場所がありますし。」
「やれるだけのことはしましょう。中将の言う通り、汚名は返上させてもらいますよ。」
そう言うと、彼は鈍った体を伸ばしながら牢から出た。節々からボキボキと音が鳴るのを、思わず吹き出しそうになるのを堪えて、彼の制服を手渡してやる。笑われたのに気づいたらしい彼は、それを無理やり引っ手繰るようにして受け取る。実は大田が織部のことを好かないのは、この織部の笑いのツボの浅さにもあったりするのだが、織部本人は全く気がついていない。
「……織部中将。」
「はい……?」
「死ぬんじゃないですよ。」
「貴方こそ、二階級特進なんかして僕に肩を並べないでくださいよ。」
「中将を顎で使うまで生きるつもりですよ。」
合わないし、合わせようともしない二人だが、違いに認めている。旧時代であれば縁起でもないと言われるであろうやり取りだったが、
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「間も無く、予想会敵地点に到着します。」
「索敵機、発艦始め!発見しだい先制攻撃!」
「第四艦隊、合流まであと九十!同じく基地航空隊も到着します!」
いよいよだ。提督として配属され、もう幾度となく艦隊の指揮を執ってきたが、未だに緊張する。無論、緊張は良いことだ。緩み切った態度で臨むなど決して言語道断である。ただ、意図せず握りしめた手が、気づいた時にはじっとりとした嫌な汗で濡れるような緊張は、今尚心を縛りに来る。相手が強大なものとなれば、それによる悪影響はずっと顕著だ。肩に乗せられた期待と責任、そして非力な人間に代わり砲火を交える彼女達一人一人の命の重さに、自分の弱い部分が苦しいと喘ぎ、放り投げてしまいたくなる衝動に駆り立てるのだ。
だが、自らに課した重く堅い楔が、現実から背けそうになる目を正面に向け、背中を見せて走り出したくなる足を踏み止まらせてくれる。抜こうものなら血を流して散々に心を傷つける厄介なものだが、おかげで今日という日までずっとこの場に立ち続けることが出来た。
「第一艦隊瑞鶴より通信!目標、敵の大艦隊を発見!」
始まる、今度は今までとは比較にならない犠牲も伴うことだろう。だが、ここで逃げる
「基地航空隊攻撃開始!第四艦隊は支援射撃用意!第一艦隊正規空母瑞鶴、翔鶴に通達!敵前線の水雷戦隊を優先攻撃目標に指定、これを殲滅せよ!」
耳も目も届かぬ所で、今、自らの命をも賭けた戦いが始まった。
やはり戦闘シーンとなると、なかなか難しいものです。もっと勉強してきます
さてさて今回のキャラ紹介はあの四人に登場していただきましょう!
暁「暁型駆逐艦の一番艦、ネームシップの暁!」
響「同じく二番艦、響だよ。」
雷「三番艦の雷!」
電「末っ子の電なのです…」
皆「四人そろって、第六駆逐隊!」
ドンドンパフパフー!
作「でした」
暁「ちょっと!ちゃんと紹介しなさいよ!」
作「四人分って割と面倒なんだけどなぁ〜」
紫「そんな下らない理由でサボっちゃダメでしょ。」
作「でも時間が…」
電「あ、あの…さすがにそれは不公平だと思うのです…」
作「仰る通りです、僭越ながらやらせていただきましょう。」
紫(あ、こいつ電ちゃんLOVE勢か…)
暁
読み方:あかつき
作者が敬愛するとある方に非常に愛されており、あからさまな子供扱いネタを書いたことに多少なりビクビク
この場を借りて謝罪したい…
響
読み方:ひびき
おとなしい声色から、表情の変化に乏しいキャラとして創作界で取り扱われることが多い。聡く冷静なキャラと、何を考えているかわからない破天荒なキャラで大きく別れるが、この作品では後者として描かれるもよう(俗に言うフリーダム響)
雷
読み方:いかづち
ダメ提督製造機で有名なオカン。作中では織部中将のことをオリバー司令官と呼ぶ等、かなりフレンドリーというか怖いもの知らずに書かれている
電
読み方:いなづま
THEエンジェル、かなり贔屓されて書かれる恐れがあるが、それはご愛嬌。読み方だが、現在稲妻は「いなずま」と呼ぶが、公式では「いなづま」となっている。うろ覚えではあるが、正直どちらでもいいらしい。
皆漢字一文字で済むため、後書きが非常に見やすい
暁「私だけ紹介になってないじゃない!」
作「尺的な都合上だからね、仕方ないね。」
響「そうだ電、預かっていた魚雷返すよ。」
作「ん、響それで何を…」
響「いや、君の天使直々に裁きを下してもらおうかと思ってね。」
作「えええ!?待ってそれはシャレにならない!魚雷はあかん魚雷は!」
電「目を閉じておいてくださいね…?」
作「御慈悲を!御慈悲をおおお!!」
紫「電ちゃん」
作「ああ紫君助け…」
紫「脳天にぶち当たるようにすると良いよ。」
電「了解なのです。」
作「あああああああ!!」