序章:温もりを忘れた青年が提督になるまで   作:影乃と月ノ神

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遅れて申し訳ない、お待たせしました17話です


3幕
17:敵はどこにある?


 

 

 あれから数日、転校を考えていた紫はひたすら住居の整理をしていた。元より二年と数ヶ月程度しか住んでいなかった場所である。そこまで引っ越しに抵抗はなかった。交友を絶った親友との思い出が失われる、なんて妙にセンチメンタルな考えが足を引っ張ったりもしたが、彼女のためでもあるとして割り切った。残る問題は転校先と、叔父叔母をどう説得するかだ。と言うのも、叔父叔母夫婦は昔身寄りの無くなってしまった自分を引き取って育ててくれた、紫にとって第二の両親である。養子として迎え入れられた以上、未だにこの呼び方は申し訳ない気持ちも少しあるが、 二人はそれを甘んじて許してくれている。紫の元々の家族がどれだけ円満で仲睦まじく暮らしていたかを知っているからだ。叔母は他の兄弟姉妹の中でも父と一等仲が良く、叔父も父は兄貴分だと言って慕っていた。また叔父と叔母には子供がいなかったことから、我が子のように自分にとっても良くしてくれる。病気を患っている自分をこうして遠隔地への進学を認めてくれたのも、信頼し尊重してくれればこそだ。

 

 だが、今回の転校を考えるようになった事の顛末を、一体どのように説明すれば良いのかわからない。そこそこの頻度で連絡を取り合ってはいたが、心配をかけたくなかったため、体調や交友関係についても当たり障りのない返答をしていたので、急に転校したいなどと言えば驚かせてしまうだろう。金銭面の話はまた別として、話が通っても呼び戻され二人が住む地元の高校へ通うことになるかもしれない。だがそれでは困る、呪いを二人の元へ持ち込むような真似はしたくない。

 

「マスター、そろそろ私の移植を始めてはいかがでしょうか。PCの荷造りを後回しにすると面倒ではありませんか?」

 

 淡々と部屋の調度が片付けられていくのを今まで黙って見ていたプログラムのメイドが、片付け具合を見て声を掛けてきた。確かに本の選別が終わった頃合いだし、それに取り掛かっても良いだろう。指先だけを使えばいいので、ちょっとした休憩にもなる。

 

「そうだな…じゃあデータ整理と並行してやろうか。そっちの準備もお願い。」

「かしこまりました。」

 

 彼女がそう言うと、液晶の電源が一度落ちて、代わりにローディング中を知らせる画面が表示された。正式名称をデスクトップマネジメントアプリ、通称メイドさんは文字通りデスクワークを補助するシステムで、細々とした面倒な事を代わりに行ってくれる便利ツールだ。言語解析能力とAIを搭載した結果自我を持ったかのように振る舞うことが多く、従順ではあるがしばしば命じていないことを勝手にやってしまうことが多い。今表示されている画面だって、メイドさんが空の段ボールに荷物を詰めているシュールな様子が映し出されており、無論紫はそんなプログラムを作った覚えはない。荷造りなんて必要ないだろうとツッコむと、遊び心だとの返答があった。AIが遊び心を持つようになる、また自らプログラムを生み出してしまうなど、当初は信じられなかったが、今ではもう慣れてしまった。もし紫が研究熱心な性分であれば、この現象を解明し世の中の役に立てる物作りに励むのだろうが、昔からどうも飽き性なので、やる前からとっくに諦めてしまっている。

 

 彼女の準備が終わるのをPC画面の前で待ち、段ボールにガムテープで封をしたのを見届けて作業を始める。移植とは、メイドさんを携帯端末に移動させることであり、これによってPCが使えなくともメイドさんを連れ回す事ができる。作業と言っても、圧縮は先程メイドさんがやってくれたので、あとはデータの転送及びバックアップと、携帯端末にメイドさんが勝手に加えたもの+移植に必要なプログラムを書き込むだけでいい。いつも携帯に住まわせておけばこう言った手間は省けるが、いかんせん携帯端末には負荷がかかり過ぎ、電源を切って放置しておくだけでもバッテリー消費が馬鹿にならない。過去にも幾度か移植したおかげで、既に端末は買い替えどき寸前なのだ。

 

 作業が終わってから、既に忘れて一時間経ってしまった昼食を、買い貯めたインスタント食品で済ませ、まだ片していない布団の上に転がって微睡んだ。

 

 意識が明滅するような、非常に眠いながらも頭のどこかが起きている、そんな時間が紫は好きだった。夜は義務付けられているような気がするし、そして寝た自覚もないのにいつの間にか朝になってしまうからそこまで好まない。

 

 非常に不毛な時間を、惰性の赴くままに過ごす背徳感に浸りながら、現実か夢かわからない靄のかかった白い世界を眺めていると、不意にインターホンの音が聞こえた。無視しようかと思ったが、眠りに落ちきれていなかった脳がそれに叩き起こされてしまったので、寝るのを諦めて渋々ドアへ向かう。若干後ろ髪が乱れているのに気付いたが、少々の苛立ちに任せてそれを無視する。欠伸一つを飲み込んだ後、ドアを開けて来訪者におざなりな歓迎をした。

 

「どちら様ですか…」

「天凪 紫だな?」

 

 こちらの姿を見るなり、名乗りもしないで気安く名前を確認する男に少々腹が立ったが、男の服装を見てそれを心の内に留めた。二、三人の男達が着ていたそれは軍服だ、それも海軍の。襟章からして紫に声をかけた男は少尉、下っ端ではなくまさかの士官様のお出ましだ。如何にも寝起きですと言った具合の顔を見られた以上、手遅れな気もするが、姿勢を正して礼節のある対応を取る。

 

「その通りですが、海軍の少尉殿が僕にどんなご用件でしょうか?」

「大本営より召集状が来ている、同行してもらおうか。」

 

 思わず素っ頓狂な声が出そうになるのをぐっと喉元で食い止め、頭の中で状況の整理を手短に始める。

 

 海軍の士官に訪ねられる覚えは?

 →以前深海棲艦との戦闘に介入し、また織部とも接点があるのであり得る

 

 大本営直々の使者であるとすれば?

 →先述の事に関して何かしらのお咎めがあることは覚悟していたが、それ程大ごとになるとは予想していない。よって意外の一言に尽きる。

 

 彼らの目的は?

 →非公式に戦闘に介入した自分を査問会にかける、または自分の持つ力に関することが起因すると思われる

 

 その情報はどこから?

 →不明、しかし横須賀第三鎮守府に所属する人物から伝わった可能性大

 

 従うべき?

 →大本営からの召集であれば任意同行であるはずがなく、こちらに拒否権は無し

 

 抵抗は?

 →相手は火器を携帯しているだろうが、今現在帯刀はしているため十分可能。しかしその後逃走したとなれば指名手配される可能もあるので非推奨

 

「……身支度をする時間をください、そう長くはかかりません。」

「良かろう、我々はここで待つ。」

 

 首を横に振ることができるはずもなく、急いで支度をする。私服ではまずかろうと高校指定の制服に着替え、洗濯物を室内に移してから玄関を出る。刀は没収される恐れがあるので置いて行くことにした。持病の発作が出るのはあまり望ましくないが、それを携行することによって抑えられる、と言って説明しても信じてはもらえないだろう。気休めにメイドさんの入った携帯をポケットに突っ込んで、それから軽く髪を整えて玄関を出た。

 

 マンションの前に駐められていたのは、VIPが乗るような送迎用の車ではなく、見た目はいたって普通のバンだった。だが、普通と違う点を挙げるとすればフロントガラスを除く全ての窓がスモークガラスになっていて、そのゴツい外見もさることながら重罪人を乗せて走るような独特の威圧感がある。

 

 少尉がまず助手席に座ると、紫はお供二人に挟まれるような形で乗せられた。運転手含めて五人を乗せたバンは、大本営に向かって走り出す。誰も彼も一切口を開くことなく、身じろぎ一つ許されないような重苦しい空気が車内の人間を緊縛する。360°あらゆる方向から誰かに見つめられているような、気の狂いそうなほど居心地の悪さに耐え、努めてフロントガラスを流れる景色だけを眺めた。今にも泣き出しそうな黒い雲が空を覆い、人気があまりなく閑散とした街並みが走馬灯のように変わり映えしないまま、記憶に残されることもなく過ぎ去っていく。退屈なことこの上ないが、ほんの少しでも気が紛れるならそれでいい。

 

 途中何度か意識を持病で持っていかれ、その度に隣のお供の男に揺すり起こされながら到着を待つこと一時間、紫を乗せたバンは明らかに歓迎の意思が見受けられない裏口を通って大本営の地下に消えた。地下の駐車場は、国の重要機関にしては随分と明かりが少なく、蛍光灯の微かな光が駐車場の概形をぼんやりと照らすのみで、先導する者がいなくては迷ってしまいそうである。隣に座っていたお供の男に半ば強引に腕を引かれ、館内への出入り口と思われる酷く無骨で所々錆びた鉄扉をくぐる。すると、駐車場の暗さに慣れ始めた目に白昼の室内と変らぬ量の光が飛び込んできて、目がくらんだ。

 

「ご苦労様であります。」

「指令通り、青年を連れて来た。」

「話は伺っております、後はお任せください。」

「ん、頼んだ。」

 

 そう言うと、少尉は今まで紫を連れていたお供の男共々どこかへ行ってしまった。そして、バトンタッチを受けた男が代わりに紫の腕を掴んで、行き先を告げることなくまた黙々と引っ張っていく。どこに向かっているのか、また何があるのかを尋ねたが、黙ってついて来いと言って一向に答えようとはしなかった。見た所大した地位にいる人物では無さそうだったので、上から口止めをされているかそもそも要件を知らないかのどちらかだろう。

 

「着いたぞ、入れ。」

 

 端的にそれだけ伝えられると、油の切れた音がする鉄扉の奥の、薄暗い部屋に押し込められた。酷くカビ臭く、湿っぽい空気が漂うその部屋には簡素な机と椅子が一対、年季の入った電気スタンドがあるのみで、生活の気配というものに欠けていた。あまりにも寂し過ぎるその空間を前にして呆然と立ち尽くしていると、突然後ろから鉄扉が邪魔だと言わんばかりに背中をど突いてきた。

 

「いつまで突っ立っているつもりだ、早くそこに座れ。」

 

 顎をしゃくって促す中年に従い、やたらギシギシと煩いパイプ椅子に座る。面倒で仕方ないとでも言いたげな顔でどっかりと腰を下ろした男は、手にしていた薄いファイルを開くと、人相など道端に捨てたといった風の目でこちらを睨みながら口を開いた。

 

「天凪 紫で間違いないな?」

「はい。」

「お前には深海棲艦から送り込まれたスパイだという疑いがかけられている。そのことについて3日後に査問会が行われるが、その前に幾つか質問させてもらおうか。」

「そんな、待ってください!僕がスパイだなんて…!」

「黙れ、お前がいくら弁解しようとそれを証明する手立てなどここには存在しない。だからお前は質問されたことに答えるしかないんだ、いいな?」

 

 その後は、それはもう語るまでもない程の酷い扱いを受けた。事実確認、そんなものは既に建前で、尋問役の男は何が何でも自分が深海棲艦のスパイだと認めさせようと躍起になっていた。何時間も同じような質問を、それもこちらの足元を掬わんと小賢しくトラップの仕掛けられたものを延々と繰り返され、痺れを切らせば途中から参入してきた他の男に頭を机に押し付けられたり、時には拳で殴られた。時間感覚など簡単に消し飛んでしまうような薄暗い部屋で、有りもしない事実の自白をほのめかされ、それに大人しく従わなければ苦痛を与えられ、身も心も疲れきった状態で中年男の尋問に一度のミスも許されない回答をする。そんなことを頭の中でルーチンが完成する程繰り返し、やがて中年男が退出したかと思えば、また次の尋問役が来て同じことを始める。激しい空腹と睡眠欲求に襲われるが、寝落ちすればバケツ一杯に入った水を頭からかけられ、腹の虫が煩く鳴ればパンを一つ噛みちぎる暇も与えず無理やり押し込まれ水で流させられて食事とされた。無論吐いて戻すことは何度もあったし、その度にまた強かに殴られた。

 

 気が狂いそうな程の時間をそうやって過ごし、もう尋問役が何回入れ替わったのかも忘れた頃には、圧倒的な睡眠不足と栄養不足で判断能力が完全に低下し、また激しい咳や脳が壊れるのではないかと思う程の頭痛に苛まれ、もう質問の内容はおろか、目の前の人間の風貌すら脳が処理できなくなってしまっていた。

 

 流石にこれ以上は何を言っても無駄と判断されたのか、尋問、もとい拷問はそこで終了し、紫は独房に監視付きで入れられた。これだけ衰弱してまだ脱出するだけの力があると思ったのか、それとも死なないように見張らせるためだったのかはわからないが、監視役の男が軍医を呼んでくれたのは、まさに僥倖と言うべきだろう。またその男は、意識が若干回復した時に査問会は延期されたということを伝えてくれた。

 

 ようやく訪れた、幾万年ぶりのようにも感じられる安息を手に入れた紫は、しばらくの間そのまま意識を現実から切り離し闇に放り込むことにした。

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「はぁ……」

「ん、湊どうした?」

「いやぁ、それがなぁ……」

 

 看守長に交代を言い渡され、看守の任から解放された相沢 湊(あいざわ みなと)は、丁度仕事を終えたらしい同期の葡萄 智彦(えびぞめ ともひこ)に連れられ、自販機の側でそれぞれ柄の違うコーヒー缶を手に腰掛けていた。いつもは仕事から解放されたぞ!という気分になれるこの一杯が、今日はどうも手をつける気になれない。そんな自分を不可解に思ったのか、案じてくれている様子の智彦の言葉には躊躇いがなかった。腐れ縁で特別親しいと言うわけではない間柄だが、何かとすれ違う度に互いに声をかけ合って仕事している彼はデリカシーという物が無い。別段それを不快に思うことはないのだが、少しは察する能力を身につけては如何だろうかと思わずにいられないのもまた事実だ。だがまあ、今回に関しては聞かれて困るようなことで悩んでいるのではないので、話をしても良いかもしれない。

 

「お前らしくないな、溜め込んだっていいこと無いだろ。」

「そうなんだけどなぁ…お上に知れたらマズイ気もするわけだこれが。」

「うわ、お前何やらかしたんだよ。」

「逆だよ逆、俺が口外したのがバレたらマズイかも知れないんだって。」

「へぇ、じゃあ聞いてないフリしとくわ。」

 

 自分も処罰の対象となるかもしれないというのに、智彦は迷う事なく隣に居座った。格好こそそっぽを向いて黄昏ているように見えるが、耳はちゃんと此方に傾けている。そこまでされては仕方ないと、なるべく人が近くにいないタイミングを見計らって、それでも極力小声で悩みの種を口に出した。

 

「高校生くらいの奴が、今俺が担当してる独房に入れられてる……すげえ具合悪そうでさ、医者呼んだら肺炎にかかってるって。」

「ふ〜ん、そんな時に捕まるなんてついてねえのな。」

 

 折角こちらが声を潜めてると言うのに、ドキリとする程普通のテンションで話すので堪らず冷や汗が出てきた。落ち着かないあまり、付近に人影がないか首がもげる勢いで左右確認していると、それを目に留めたらしい智彦は不審者みたいだなどと言ってくる。誰のせいだと思って…

 

「で、馬鹿やらかした奴が具合悪そうだからって可哀想だとでも思ったのか?」

「そこなんだよ、俺が悩んでるのは…」

「ほっとけ、手ぇ出したらお前の方が危ねえぞ。」

「違う、そっちじゃない…」

「はあ?どっちのことだよ。」

「あいつは何もやってないらしい、むしろ被害者なんだよ…」

 

 聞いてないフリをすると言ったのは一体何だったのか、智彦は顔も臍もガッツリこちらに向けて話を聞き始めた。まあ、側から見れば彼がでかい独り言を言っているようにしか見えないのでこの方が良かった気もするが。

 

「……大本営(ここ)があいつを無理やり召集したんだ、しかも肺炎にかかったのも拷問も所為だって…」

 

 言ってしまった。直接は言われてないが、看守長が眼力をもって封じた口は簡単に開かれてしまった。隣で聞いているのが上官なら即罰則物だ。そう思うとまた怖くなって周囲を見渡す。問題はなさそうだ、どっかの鎮守府の艦娘と思しき女性が歩いてるのみで見知った上官はいない。ふと、先程から黙りこくっている智彦が気になり彼に視線を向けると、手に握りしめられた缶が潰れており、その表情は憤怒に染まっていた。そして急にベンチの座面を叩くと飛び上がるような勢いで立ち上がった。

 

「智ひ…」

「次の交代いつだ!?」

「な、何だよ急に…」

「何って、助けてやんないと駄目だろ!高校生たってガキが拷問されて病気になって、挙句そのまま捕まってんだぞ!?」

「落ち着けって、まず声がでけえよ。」

「落ち着いてられるかよ、お前そんな酷えこと平気でできるようなお偉いさんの下で働いてるのが恥ずかしいと思わねえのか?」

 

 珍しく声を荒げる智彦を前にして思考が一瞬停滞する。それを意外に思う一方で、同時に自分の中で納得がいった。怒っているのだ。見ればわかることだが、そうじゃない。昔あんなにも国のため人々のために自分達も戦おうと、そのために軍に入ろうと口癖のように言っていた彼が、結果として戦闘員ではなく裏方の仕事をすることになってもそれすら誇りに感じていた智彦が、今軍に対して怒りを露わにしているのだ。何がここまで彼を突き動かしたのかは測りかねるが、こちらを見る目の奥に並々ならぬものを感じた。

 

「湊、お前はどうする?お前はどうしたいんだ?」

「どうって…」

 

 当然、助けてやりたいと思う。あと二年もすれば成人になるであろう青年だったが、成熟していれば多少の横暴が許されるなどとはこれっぽっちも考えていないし、見過ごせば自分も同類と彼に後で見なされるのも御免だ。だが、その手段がわからない。彼を解放するだけならば立場上やり方は色々ある、だがその後が問題だ。上に解放しますから許可をくださいなどと言って通る可能性がない以上、非公式かつ秘密裏に行う必要がある。しかし、それではいずれ上層部にバレて逃した犯人の捜査が始まる。大本営に留まる以上そう時間をかけずに自分達の行いが発覚し、上からお咎めが下されるのは自明のことだ。我が身可愛さは勿論、智彦も同罪扱いされるのは嫌だし、また看守長も責任を問われてしまう。気難しい人だが、あれでいて温かい家庭を持つ三児の父親で、もうすぐ末の娘が結婚するという。そんな時に親族に悲しみを負わせたくない。

 

「なあ、俺達がここにいるのって国の人達を守るためだろ?俺頭悪いから上の考えてることなんてわかんねえし、捕まってるそいつだってすげえワケありなのかもしれねえけどさ、そいつだって俺達が守ってやるもんじゃねえの?」

「けど智彦、そしたら後でお前も処罰されるかもしれないんだぞ?お前もうすぐ子供産まれんだろ。」

「そしたら嫁の口からお前の父ちゃんはかっこいい奴だったんだぞって言ってもらう。」

「父親の顔知らないなんて可哀想だと思わないのかよ。」

「後で俺の父ちゃんこんなかっこ悪い奴だったのかよって思われる方が嫌だね。」

 

 これは言っても聞かなそうだ。見ず知らずの他人にここまで言えるなど、尽々馬鹿としか言いようがないが、今はそんな彼が何となく羨ましかった。

 

「上に殺されるかもしれないんだぞ、本当にそれでもいいのか?」

「撃たれる直前に鼻で笑ってやるよ、お前かっこ悪いなって。」

「俺はお前に死んで欲しくなんかないからな。」

「ただの腐れ縁だろ、そんなに情けかけなくていいぞ。」

 

 わかってない。いや、わからなくて一向に構わないのだが、どうしてここまで鈍いのだろうか。まあ、小っ恥ずかしいのでだからと敢えて口には出さないが。

 

「わかった、でもやるからには絶対助けるぞ。」

「当然だろ。そういや、そいつの名前聞いてなかったな。なんて名前だよ。」

「名前、名前か…なんて言ったかな、確か…何とかゆかり?」

「ゆかり?男じゃなかったのか?」

「男なんだけど、漢字がそのまま『紫』だったもんだから。まさか『むらさき』って読ませたり?」

「むらさき?」

「オゥッ!?」

 

 青年の名前について話していると、突然横から女性に話しかけられた。驚いて妙ちきりんな奇声を発した後、グギッと音を立てるレベルの速度で声の方へ首を捻った。あまりの痛みに悶絶し、女性から哀れみの言葉をかけられるが、更に残念なことに90°右に曲がったままの首は痛みに阻害され元に戻ってくれなかった。

 

「い、医務室までご一緒しましょうか?」

「ああ湊なら問題無いっすよ、こうしてやれば……」

「あいだだだだだ!!」

 

 そのままポロっと地面に落ちるのを覚悟する程の痛みを伴って、智彦に無理くり180°反対に首を向けられるという荒治療を受け、漸く首が元どおりの可動域を得た。何たる醜態だろう、もうこれは完全にお婿に行く資格を失ったかもしれない。

 

「急に何てことするんだ!もげるわ!」

「治ったからいいだろ。」

「あまり乱暴はいけませんよ?」

「大丈夫っすよ、こいつ小学校の時三階から飛び降りてちゃんと生還しましたから。」

「どうでもいいわ!今更両足骨折して説教くらった黒歴史なんて思い出したかねえ!……というか智彦っ、早く敬礼しろ!」

「はい?」

「馬鹿っ、この人横二の秘書艦だぞ!」

「え、うそっ!」

 

 言われてやっと気付いた智彦共々、今更感満載の遅すぎる敬礼をする。アッシュブロンドのふんわりとした髪に、女神級に優しそうな目を銀縁の眼鏡で型取ったできる秘書然とした艦娘、香取だ。横須賀第二鎮守府の提督と連れ立って歩いているのを何度か見たことがあるので間違いない。

 

 こちらが大急ぎで作った敬礼を、非常に優雅で、それでいて艶かしい手つきの敬礼で返した彼女は、先程自分の粗相で有耶無耶にしかけてしまった問いを改めて訪ねてきた。当然最初は非常に迷った、彼女がこちらの企みを上層部に報告する可能性が高いように感じられたからだ。だが囚われた青年(紫は「むらさき」と読むらしい)と知り合いだと本人が言ったこと、また上手くいけば現在療養中の提督の代理ということで事実上の横二のトップである彼女の助力が得られるという二つの点をもって、先程智彦に打ち明けたことを同様に説明することにした。

 

「つまり、あなた方はこれから彼のことを助けようと?」

「その通りです、でもこのことはどうかご内密にお願いします。」

「まあ終わったらどうせ首ちょん切られますけどね。」

「わかりました、でも安心してください。彼のことは私が何とかしてみせます。」

「本当ですか!?」

「はい、私どもの提督は彼のことを気にかけていますから、そんな彼を私が蔑ろにするわけにはいきません。」

「そりゃ助かります、何しろ頭も悪けりゃ権力(ちから)も無いただの一兵卒ですから。」

「どうかよろしくお願いします、香取さん。」

 

 と、ここで向こうから上官の人間が歩いてくるのが見えたので、香取は何気なくそっと立ち去った。何をボサッとしているんだとお決まりのような小言をその上官に言われ、智彦共々その場を離れることにした。

 

 ふとさり気なく香取の方を見ると、丁度彼女もこちらを振り返っていたようで、目が合うとこっそり、ほんの一瞬だけ目配せをしてその後普通に歩き始めた。そんな彼女の仕草に堪らず「いいなぁ…」と呟く自分を、智彦はニヤけた顔で見ていた。

 

「イヤな奴だな。」

「横二の提督様には黙っててやるよ。」

 

 それを聞いて、今度の宴会は欠席することに決めた。誰がやたら腹の立つ顔に加えて妙に似せた声で「いいなぁ…」と言う腐れ縁の姿を見たいと思うだろうか。そんな自分の考えを見透かしたのか、「宴会の席はちゃんと空けといてやるとよ」という智彦の申し出には、丁重に断っておいた。

 

 

 

 




先週はまことに申し訳ございませんでした。今後も何度かこういったことがあると思いますが、その時はまたお待ちいただければ幸いですm(__)m

さてさて新たに3幕も始まり、最初の17話をお届けしたわけですが、いかがだったでしょうか?何分最近本も読めないわ物語れないわでかな〜り下手になってしまった自覚はあります。リハビリ、頑張りますね。
少しメタイお話ですが、実は今回のお話18話まで持ち越す予定ではありませんでした。前半無計画に文字数を、足らない語彙を使って入れるはずのないシーンを追加することで増やしまくった結果という、完全に不手際であります(^_^;)
内容が濃くなった(?)から良いのではと勝手に納得させていますが、これからは計画性のある執筆も課題になりますね。

さて、ここいらで今回もキャラクター紹介に移りたいと思います。今回はこの姉妹でありますどうぞ!

『香取』
読み方:かとり
香取型練習巡洋艦のネームシップ
時に優しく偶に厳しく指導してくれそうなお姉さん先生というのが作者の見解。ぶっちゃけた話原作でもネタ要素が少ないのでいつものようにふざけられないのが悩み

香「あまりお堅い紹介でなくて結構ですよ?」
作「そのお堅くない紹介ができないから困ってます。」
紫「まあまあ、偶にはいいんじゃない?というかいつもこうであって。」
香「あら、提督の伴侶ということで同じように賑やかな紹介をなさってくれると思ってましたのに残念…」
紫「香取さん目を覚ましてください。どう見てもあれはただ不名誉なだけです。」

『鹿島』
読み方:かしま
姉を差し置いて某コンビニとのコラボを果たす等、実装当時から提督達に絶大な人気を誇る
にも関わらず作中での出番が未だに紫を魅了しかけただけという、ちょっとした作者の胸のつっかかり

鹿「あの時は本当に照れちゃいました〜」
作「流石主人公、見ず知らずの女性を惑わすなんて、男の敵志望は構わないけどあんまりやると刺されるぞ♡」
紫「刺させないでよ!?それに男の嫉妬は醜いってそれ一番よく言われてるんだよ!?」
電「実はもう自分で刺しちゃってるのです、だから問題無いですよ?」
紫「そうだけど……なんか、このコーナーの電ちゃん怖い。」
作「それでも可愛いMy ANGEL!Fooooo!!」
電「紫さんちょっと失礼するのです。あの変態さんをまそっぷしてくるのです。」
紫「何言ってるかわからないようでわかったよ、行ってらっしゃい。」
香「やっぱりこういう賑やかなのが楽しいわよね、鹿島。」
鹿「ここ、私のコーナーなんだけどなぁ…」

実は鹿島より若干香取派だったりします。それではまたじk…
電「まそっぷ!」
作「ぎゃあああああ!!」(CV:森田成一)

電「またご覧くださいなのですm(_ _)m」
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