序章:温もりを忘れた青年が提督になるまで   作:影乃と月ノ神

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19話です!どうぞごゆるりとm(__)m


19:物語の始まり

 

 軍医や、たまに訪れる香取の手厚い看護のおかげで、牢に入れられてから四日目にして、紫は立ち歩けるくらいにまで回復した。正直まだ本調子ではないが、いつまでも香取に頼るわけにはいかないので、人目がある時は無理にでも回復しきった様子を演じた。演技力に自信があるわけではなかったが、幼少の頃より猫を被るのが得意だったのでそれの応用で誤魔化した(香取はハナから信じなかったが…)

 

 そしてその様子が伝わったのだろう、海軍総帥である海鎮 群青(かいちん ぐんじょう)大将に呼び出され一等執務室へ出頭することになった。粗方の事情は香取と相沢という名の親切な看守に教えられていたので知っている。香取の反対を、強烈な理不尽と苦痛に耐えた反動からやってくる怒りと恨みの力で、我ながら驚く程穏やかに押し切り、執務室へ向かった。ある程度時間に余裕があったので、身嗜みを整えるのを忘れない。一等執務室へ行く、ということで借りることができたシャワー室で垢にまみれた体を丹念に洗い流した後、制服に付着した汚れを払ってズボンのシワを伸ばす。ここのところずっと履きっぱなしだったのですっかりくたびれてしまったが、ベテランの主計科のおばちゃん(本人がその呼び名に拘った)の協力により何とか体裁を保つことができる程度にはなった。

 

 指定時間十分前きっかりには一等執務室のドアの前に着くと、丁度謁見が終わったらしい将校が出てきて、目が合うなり当然の如く睨まれた。まあ学生の身なりをした子供が、今元帥の地位に最も近い人物がいる場所の前にいるのをいきなり目の当たりにすれば、誰だって訝しむし、地位もプライドも高い人間なら同時に気分が害されるだろう。しかし何も声をかけて来ないのをいいことに、そのままスルーする。変に荒波は立てるべきではない。

 

 時間になりノックをして中に入ろうとすると、突然後ろから肩を掴まれて止められた。何事かと振り返れば、少将らしき人物が渋面を作って首を振る。

 

「君、ここは一等執務室だ。君のような若造が来る場所ではない、早く立ち去りなさい。」

 

 心配して、というよりかは悪戯をしようと企む子供を嗜めるような口調でそう語る初老の男は、何も事情を知らないようだ。先程のこちらを睨んできた将校もそのような感じだったが、香取が助けようとしてくれたのだから、紫はてっきり他の人々にもある程度自分の存在は認知されていると思っていた。だが虚偽の容疑で学生を強制的に連行し、拷問にかけて投獄したという事実が明るみに出れば、軍の看板を背負う立場にある大本営にとって目の上のこぶにしかならないだろう。秘匿されていたところで不思議はない。

 

「群青大将に召喚されてきました、もう指定時間ですので離していただけますか?」

「利口そうな顔をしていると思えば、何を言い出すのかね。あまり大人を揶揄うものじゃない。」

「この場で揶揄うならもっと現実味のある文句を使うでしょう。ご理解いただけないのであれば、お手数ですが群青大将に確認をとっていただければ間違いありません。」

「最近の若者は中身が無いくせに口だけは達者だ…悪い事は言わない、私より血の気の多い者に見つかる前に早く家に帰りなさい。」

 

 聞く耳持たないと言うのはまさにこの事だろう。年を経るほど人間は知識を蓄えることでより聡くなるし、そういった人間は尊重されるべきである。しかし、自らの経験を信用するあまり考えが凝り固まって自分の意見を何としても貫こうとする傾向にあるのも、また事実だ。そしてそういった場合正しい意味での論争は不可能であり、論破しようものなら不毛な時間を過ごすこととなる。そう言うのは、侮っているわけでも軽んじているわけでもない、祖父に反骨心を抱く父の背中を幼い頃に見ていたが故の結論だからだ。二人が生きていた頃は、子供心ながらにもっと父が祖父と楽な関係を作れる方法はないものかと、床に就き二人の怒声を聞きながら考えていたことがある。

 

 もう既に隅に追いやられた記憶ではあるが、そんなこともあって年配の男性というのは苦手だ。極力関わりを持つことなく、時にのらりくらりと、時に縮こまってやり過ごしてきて、今また対応に困っている。いっそ振り切ってドアを開けてしまおうか、などと考えていると、急にドアが開け放たれ中から一人の男が出てきた。

 

「ん、何だもう来ていたのか。来たならすぐに入りたまえ……竹内少将、こんな所で何をしている。」

 

男が顔を出した瞬間、部屋の中から身も凍るような、とはまた違った、全身を包む気体が個体に成り代わったかのような重苦しい空気が吹き出して言い争う二人を一瞬沈黙させる。ちらと少将の顔を窺うと、そう大して気温は高くないのに、頰を一筋の汗が流れていた。

 

「こ、これは群青大将。子供が執務室に入ろうとしていたので諌めておりました。」

「それには及ばない、彼は私が呼んだ。そう言えば少将は夕刻ここを立つ予定だったな、ご苦労であった、そちらの艦娘達にもよろしく言っておいてくれ。」

 

 それを聞いた少将の顔が、一瞬にして不可思議な超自然の現象を目の当たりにした人間のような表情で染まる。からくり仕掛けの人形のように、大将らしきその男と紫の顔を交互に見る少将を放って、男は手招きで紫を部屋の中へ誘った。

 

「ご忠告感謝します、少将殿。自分はこれにて。」

 

 未だに信じられていない様子の少将にそれだけ言って、男の後を追う。意地の悪い一言かなとは思ったが、まあ黙って別れるのは目覚めが悪いので、何か一言残すならこれがギリギリのラインだろう。

 

 大本営の一等執務室というだけあって中は豪華絢爛、といっても目の眩むような煌びやかさは無く、落ち着きがあり洗練された、この部屋全体が一つの美術品として完成し、家具から調度全てに至るまで雰囲気が画一化された、それはそれは見事なものだった。

 

 だが、この部屋の主人はそれすらも脇役に霞ませる程の異様な存在感を備えており、音が凍りついたかのようなこの場の空間において、それが更に際立っている。まるで世界が彼を選び祝福しているかのような、それでなければ世の理からかけ離れた異形として拒まれているかのような、何にせよ彼の周りだけ部屋の空間に馴染んでいない、そんな感じがした。男の雰囲気に半ばのまれたような形で沈黙を選ぶと、徐に部屋の主が口を開いたので、負けじと同調する。

 

「アレに悪気があったわけではない、悪いのは私だ。本来なら君をここに呼ぶべきではないし、こういうのは他に任せるべきなのだ。だが、どうしても昔から何でも自らやらねば気がすまない性分でね。」

「少将殿には、いらぬ恥をかかせてしまいました。」

「気にする事はない、運が悪い時くらい生きていれば幾らでもある。さて、それでは面接を始めるがその前に自己紹介が必要だろうな。私が横須賀第一鎮守府の提督にして現海軍の総帥、海鎮 群青(かいちん ぐんじょう)だ。」

 

 耳に入ってくる彼の言葉が重い。一字一句聞き逃すことさえ不可能にして脳に焼け付けるような、そんな強烈なプレッシャーを感じる。見た目四十前半から半ばぐらいだというのに、あまりに不相応な威圧感と貫禄が彼の年齢をボカす。彼とこうして対面していると、脳が否が応にも彼を軍の総帥として認識させられていくのがわかる。とんでもないカリスマ性だ。

 

「天凪 紫です。大将閣下とこうしてお会いできたこと、誠に光栄に存じます。」

「具合はどうだ?見た所、大事無さそうではあるが。」

「おかげさまでだいぶ回復しました。御計らいに感謝します……が、僕を不当に連行し拷問にかけ、監禁したことを、閣下がどう説明なさるか。今貴方は大変無防備な状態です、この場で僕がどういった行動に出るかはお言葉次第となりましょう。」

 

 胸の中でドス黒くなった負感情が波打つ。のたうつ蛇のように荒れ狂うそれを、僅かばかり心の器から溢れさせると、眼球の裏側を舐るような熱を感じた。愛想笑いを虚ろに染め、目の奥に小さく灯った邪気に満ちた紅い眼光で、群青大将を睨め付ける。見る者を本能的に震え上がらせるであろうこの威嚇行為は、以前第三鎮守府で技術科の男達を脅迫した時と同じ手法だ。前までは例の刀を帯びている時にしか使えなかったが、ここ数日のうちに刀に奪われずにいた負感情が溜まりに溜まったことで使えるようになったらしい。だが、そんな異形の業を目の当たりにしても、群青大将は片眉一つ動かすことなく紫と向き合っていた。恐ろしいまでの胆力である。

 

「ふっ、確かに復讐の矛先が私に向けられるのは仕方のないことだ。だが私を殺したところでお前にはデメリットしかないはずだが?」

「やり場のないこの感情の捌け口となっていただければ、それが僕のメリットです。」

「恐れいった、なら言葉には気をつけよう。心細いことにたった今私が使える武器と言えば、この拳銃くらいしかないからな。」

 

 そう言うと、ヒラヒラと腰から取り出した拳銃を振ってみせ、それを手元に置いた。別にそんなものが無くとも、彼の腰掛けているデスクのすぐ隣にある扉から、何かあればすぐボディーガードが飛び出してくるだろう。まあ、先程からカサカサと摩擦音を立てながら聞き耳をたてるような、自らの存在を隠せないボディーガードが何の役に立つのかは疑問ではあったが。

 

「さて、まずはお前の逮捕の件だが、これに関しては私を含む上層部はほとんど関与していない。これは完全に一個人の暴走と言っておこう。」

「知らなかった、だから許せと?」

「いや、違う。今回の件、一度外部へ漏れるようなことがあれば、それによる我が軍の損失は計り知れない。私の監督責任が問われるのは当然だ。そして逮捕後の対応も酷く不当なものであると認めている。」

 

 案外腰の低い群青に少しだけ驚いたが、かと言ってそれに免じて水に流すことはできない。人が本来生まれ持つはずの負感情の処理能力が、現在紫には欠如しているのだ。忘れようとも忘れられずに蟠り続ける憎しみが、目の前の男を許さない。

 

「未成年の身で理不尽な扱いを受けたこと、さぞ根に持っていることであろう。私はそれを不憫に思うし、同情している。このような愚行を許したことを謝罪したいところではある。」

「でもできないと?」

「そうだ、面倒なことに私には身内を庇う義務もある。そして軍の面子を保つこともしなくてはならない。だから…」

 

 だから、と言う前に紫は動いた。刀が無いのでそこまで速くはなかったが、それでも常人を超えた速度で、群青と自分を隔てるデスクを飛び越え彼を豪奢な椅子から引きずり降ろしヘッドロックで拘束する。

 

「ははっ、見かけによらず血の気が多いな。」

「いたって温厚な性格だという自負がありましたが、今はどうも虫の居所が悪いようです。」

 

 動けば締めるついでにそのまま捻じ切るぞと首の拘束を少しきつくする。だがそれでも彼は眉をほんの少し寄せるだけで声の一つも上げなかった。群青を引き剥がす際に蹴飛ばした椅子が倒れる音を聞きつけ、待機していたボディーガードと思しき人間達が一斉に紫と群青を囲む。やはり遅い、紫が殺す気で動いたなら確実に群青は死んでいたところだ。

 

「動くな!その方を何方と心得る、今すぐ拘束を解きなさい!」

「優位を取られた状況で、よくそのような口がきけますね。」

「何を!」

「よせ、こいつが本気なら私はもう死んでいる。素晴らしい運動能力だ、素直に賞賛に値する。」

「その言葉が最後の言葉でよろしいですか?」

「大将!」

「まあそう急くな。短気は損気と言う。お前達ももう下がれ、未成年に殺されるような者が総帥であれるはずがない。自分でどうにかしよう。」

「そうはいきません、大将の身を守るのが我々の使命。それが果たせぬなら潔くお供しましょう。」

「まったく、力を持ちすぎるのもまた困り者だな……いいから引け、命令だ。」

 

 その一言で、紫に銃を向けていたボディーガードが皆怯み、すごすごと退散し始めた。命運を握られているのにも関わらず、危うく腕の力を緩めてしまいそうな気迫を発せられることに驚くが、紫の群青に対する拘束には一分の隙もなかった。

 

「話を続けても良いかな?」

「その大胆さに免じて許しましょう。下らないと判断すれば首が着脱式になりますが。」

「ふむ、肝に銘じよう。まずお前を連行した者が受けた指令はこうだ、『深海棲艦のスパイの疑い有り、詳細な取り調べを行うべし』」

「聴取の際に何度も何度も言いましたが、全くの濡れ衣です。」

「そう言うのが普通だろうな、私も眉唾な容疑だと思う。」

 

 なら擁護のしようがないのではないか、と言うと群青はデスクの上のパソコンを指差した。仕方ないので彼を一度解放し、操作させる。当然だが、その際銃は没収した。まだ火薬の匂いが群青の制服の中からしたが、少しでも怪しい挙動を見せれば頭に風穴が開くことになる。

 

 一通り作業を進めた群青は、椅子を引いてモニターを紫に見やすいように傾けた。どこかの海上を写した静止画が、画面いっぱいに映っている。灰色の空の下、ドス黒くなった波の上に、深海棲艦と思われる奇妙な、生物か無機物かわからない残骸が浮いているのが、見てとれた。

 

「つい先日、横須賀第三鎮守府で起きた襲撃戦をとらえた写真だ。丁度その頃、お前はそこを訪ねていたらしいな?」

「それを聞いて、何になるのですか?」

「この数多の死骸、これの原因がお前にあるという報告が上がっている……ああ、別に戦闘への参加に関してはどうでも良い。戦場での生死くらい本人の好きにさせよう。しかし、素性を見ればただの人間でしかないお前が、こんな怪物だったら…私はそちらの方が気になって仕方ない。」

 

 そう言うと、今度は動画を再生し始めた。同じ場所、同じ日に撮影されたものだという。遠く離れた場所から撮影しているのか、画質は悪くブレも酷い。だが、必死に何かを捉えようとしているのはわかった。そしてそれが何なのかも。

 

 一人の男だった。血に濡れ所々焼け焦げてはいるが、辛うじて制服とわかる衣服に身を包んだ、そこまで体格は優れていないものの背が少し高い男。紅く妖しく発光する刀を片手に持ち、あり得ない速度で怪物を屠る男の姿が、途切れ途切れに映されていた。そして群青が徐ろに映像を停止させると、その男の顔がよく見えるように拡大する。ほとんど四角で構成されたような画像が画面いっぱいに広がった瞬間、心臓が一瞬ドキリとした。

 

「お前の顔写真に非常に酷似していると、撮影者は言っていたそうだが……この片目の輝き、先ほどお前が見せたものに良く似ているな。」

 

 確かに良く似ている。だが、空中に軌跡を残すその紅い光は、それこそ本当に炎が目玉一個を焼き尽くそうとして燃えているのではないかと思うくらいには光量が段違いだった。それに、仮にこれが紫だったとて、紫はこの場面を知らない。紫の記憶にあるのは襲いかかる深海棲艦の軍勢を前に、己の無力を痛感したことだけだ。

 

「この男と同一であるという決定的な証拠は無いが、戦闘後同じような格好をしたお前の姿が、横三の監視カメラにも捉えられている……何故、お前に深海棲艦側のスパイであるという容疑をかけたかはわからん。しかし、その可能性を私に信じさせるだけの狂気に満ちたお前の姿がこれだ。」

「知らない…僕はこんなの、知りません。」

 

 認めたく無い。だがよく目を凝らせば凝らすほど、男の姿は自分にしか見えなくなる。あの時、知らない間に本物の怪物と成り果てた時間が存在した、それを思うと、喉の水分を搾り取られるような渇きと、心臓が軋む音が聞こえてきそうな動悸、そして肺が泥で満たされたような息苦しさが襲いかかった。

 

「随分と動揺しているようだな。これだけの力を有していることがそんなにお気に召さないか?」

「貴方に何がわかると言うのですか…」

「さあ、私には力を求めても才が無い故に苦しむ、そんな凡人の気持ちしかわからんよ。」

 

 才を持つ側の人間を毛嫌いしているとも捉えかねられないその台詞は、凡人と呼ばれる者達と変らぬ無力感に苛まれ、その上代償と銘打った神罰とも形容すべき苦境にいる自負のある紫の心を逆撫でした。それと同時、ドス黒い負感情の渦から這い出た途方も無い破壊衝動が、脳に喰らい付いてくる。一つ気を抜けば目の前の人間を、骨の髄まで打ち砕いてしまいそうな、怪物の狂気が思考を席巻しようとする。

 

「まあそういきり立つな、私にとってお前が何者かどうかなど、正直この際どうでも良い。」

「……いきなり何を仰られますか。」

「言ったでろう、これは面接だ。ここはお前を我が手駒にするかどうか、それを判断する場所だ。」

「隙あらば襲いかかるかもしれないこのバケモノを、雇い入れるおつもりですか?なら、正気の沙汰ではないでしょう…」

「だがお前はそうなることを嫌っている。万が一という可能性は勿論あるだろうが、当分の間その心があるなら問題なかろう、というのが私の見解だ。」

 

 この時、紫の心は二つに分かたれた。片方は、欲望に従い目の前の男を殺すこと。もう片方はこれを機に軍門に入り呪いを愛する者達から遠ざけること。当然前者は常軌を逸しているし、真の紫の意思ではない。だが、もう自らの力では御すことが困難な程膨れ上がった負感情が、それをせがんでくる。怪物に堕ち、負感情が暴れるままに身を委ねることの()()を思うと、心の歪んだ紫はその選択肢を捨て切れない。

 

「今一度、お前に問おう。我が軍門に下り、その力を振るう気はないか?何、兵士としての待遇だけではない。その優秀な頭脳を持ってすれば高い地位も約束されるだろう。望むなら戦乙女達に囲まれる楽園をもその手にすることができる、男にとってこれ以上名誉なことはあるまい。」

 

 下卑たセールスポイントを挙げる男に、いよいよもって命を奪わんとする衝動が、手にした拳銃の引き金を引かせようとする。だが、結局紫は男の言葉に従った。野蛮な衝動をねじ伏せたというよりかは、より血を求める為の道だと説き伏せた結果だった。どんどん理性が力を失おうとしているのがわかる。だが、頼れなくなった以上もう紫はそれを使う選択肢を取れなかった。

 

「それでは、改めて歓迎するとしよう。今また新たに、若者が国のために発起したことを祝して。」

 

 ワザとらしい口調に、笑顔になりきれていない笑み、グラスを傾けるジェスチャーをとりながら群青大将は紫に目を向ける。付き合いのし易さで言えば、この男は相当面倒なタイプだろう。たとえ軍に入ったとして、そうそう会うことは無い人物ではないだろうが、この男の支配する組織もまた、面倒なことが多いような気がしてならない。

 

 余談だが、正式に軍に入る前の準備として紫は軍の経営する第一海軍学校への転校を言い渡された。軍門を目指す者達が集う学舎(まなびや)で、将校のみならず技術科や主計科等様々な職種への進路指導も充実している、言わば軍人の卵を育成する場だ。高等学校と同等の扱いを受けているが、通常の高校と履修科目が異なるため、基本転入は認められていない。だが今回は特例として試験で優秀な成績を修られればそのまま転入、しかも第一学年からではなく一番年長の第三学年へ入ることができるという。後者に関しては通常不利にしかならないが、そこは努力如何でいくらでもどうにかできる。自慢じゃないが暗記能力等様々な能力に覚えがある紫にとって寧ろ好都合だった。

 

 他にも転入必要な手続きはほとんど肩代わりしてくれる等々、まさに至れり尽くせりな申し出を、群青大将は提示してきた。叔父と叔母にする説明にも協力してくれるそうだ。

 

「…一つよろしいですか?何故僕にそこまで?」

「優秀な手駒を欲する気持ちは、いつの時代も変わらんと思わないか?」

「とは言え、そちらが予め目を付けていたわけでもなければ、何かしら僕が軍にパイプを持っていたわけでもない。あまりに不自然極まると思いますが。」

「あまり深く考えず、時には天運に身を任せるのも必要だと言っておこう。」

 

 つまりこれ以上聞くな、ということらしい。軍のトップにそう言われては黙るより他ない。だが、胸につかえた疑問は、執務室を出ても無くなることはなかった。

 

 

 




19話でありました。サブタイトルの通り、次回からちょっとずつ艦これらしいこと書いていく所存であります。お待たせしました(とは言っても好きで書いていたから満足はしてます)

正直時間もないので、次回の後書きで色々やります。それではまた次回お会いしましょうm(__)m
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