艦娘もまた新たに登場するのでお楽しみに
「香取さんに、鹿島さん…?一体どうして…」
「あれ、紫君二人ともうお知り合いだったっすか?」
「以前横須賀第三鎮守府でお会いしたはずですが…」
「いいえ、私達は横三の所属ではないんです。」
「たぶん、紫さんが会ったのは私達じゃない『私達』だと思いますよ。」
私達じゃない『私達』、その言葉を聞いた瞬間得心がいった。艦娘と人間の大きな違い、全く同じ容姿同じ名前を持った者が大勢存在するという特徴が彼女達にはあるのだ。クローンなのか、それとも何か特殊な複製技術が存在するのかは未だに謎とされているが、今現在紫が目の当たりにしているように第三鎮守府に所属している香取達がいれば、交換のためにこうして勉強している香取達もいる。さらに言えば既に交換で外国に行った香取達もいるだろう。こうして全く同じ
「もう、そんな顔したらダメっすよ。二人は二人、紫君が前に会った二人とは別人っす。そこはきちんと割り切るっすよ。」
「……そうですね、すみません不躾な真似をしました。」
「はじめてなら仕方ないですよ、ねえ香取姉?」
「そうね、私達も偶然他の私達に出会ったりしたらビックリしてしまうものね。だから気にしませんよ。」
知っているはずの人物を、全くの他人として扱わなくてはいけないことに戸惑いながらも、授業中偶に話しかけられた時の対応はそれなりにできた。気のせいかもしれないが、第三鎮守府にいる香取達とは若干会話の距離感に違いがあるように感じた。自分達と同じような年齢の生徒達と沢山触れ合うからなのだろうか。もしかしたら純粋に仕事場とそうでない場の違いかもしれない。まだまだわからないことは山積みだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
山葵から様々な情報を得ながら、順調に時が過ぎていった初日。初の体験が多かったせいか、珍しく陽が傾くのが遅く感じられた。来た時はあまり感じなかったが、やはり転校したばかりというのは周りが非日常の世界に見えるものなのだろう。
寮に戻るも、多少の気疲れもあってすぐに何かをする気になれなかった。授業の復習があると言うのに、頭は睡眠を欲している。結局、夕飯の時間になっても食堂へは行かず部屋に留まった。そして食材はあるので腹が減れば自分で作れば良いだろうという考えに従い、軽く仮眠をとる。慣れない布団が、深い眠りに落ちるのをずるずると先延ばしにし、必死に休もうとする頭をイラつかせる。
二、三十分は経っただろうか、肩の凝りのせいで寝苦しくなってきた頃合いで目が覚める。まだ眠たかったが、腹も空いてどの道眠れそうにもなかったので、軽く夕飯を作るために簡素なキッチンに立つ。手入れが行き届いていないのが少し気になるが、食堂があるこの寮で調理する者などまずいないのだろう。次の休みの日はこれの掃除で潰されるかもしれない。
寝る前に炊いておいたご飯を、塩昆布とピザ用のチーズを一緒に混ぜ合わせる。それを握り飯のようにまとめたら、あとはチーズを溶かすようにフライパンで軽く焼き目が付くまで焼く。簡単にできてボリューム的にも嬉しい塩昆布チーズおにぎりの完成だ。チーズがあまり市場に出回らないので作れる頻度はそう多くないが、腹を手軽に満たしたい時には非常に重宝する。香ばしいチーズの旨味と昆布の塩気がベストマッチした逸品である、これを考案した主婦の方には敬意を表したい。ささっと味噌汁も作ってしまって、適当に野菜を切って盛ればそれで夕飯の支度はお終いだ。茜がいる時は彼女の胃袋を預かる身としてちゃんとメニューを考えていたが、最近は専ら手を抜いている。栄養価の偏りをメイドさんに指摘されることも多くなってしまったが、やはり一人だとどうも面倒になってしまう。
『ああ!マスターまた手抜き飯ではないですか!?』
「お願いだから大声出さないでくれるかな、ここ一人部屋とはいえ寮だよ?」
『面倒ならキチンと食堂を利用なさってくださいませ!ヘルスケアを任されている身として、最近のマスターの手抜きは見ていられません。』
「う、わかった…なんかゴメン。」
仕方なし、別に自分に何か不利益があるわけでも無いのでこれからは真っ当な食事生活を心がけよう。また怒鳴られて隣の部屋の住民に殴り込まれたりしても困る。
それから後片付けに部屋の掃除、授業の予復習や入浴を済ませると、いつの間にか消灯の時間が迫っていた。軍人は時間に厳しい。朝も早くから起こされるそうなので早々と就寝の準備に入る。明かりを消すと、もう既に周囲は静かだった。人の足音も無い、ただ虫の鳴き声だけが響く空間。と思っていたが、暫くのすると遠くから近づいてくる足音が一つあった。寮監が就寝の確認をしに来たのかとも考えていたが、どうも様子が違う。極力靴底が鳴らないように忍ぶ歩き方、そしてどの部屋の前でも止まらずに真っ直ぐこちらを目指し、もう既にドアの前にいた。ドア越しでもわかるどこかで感じた事がある威圧感が、部屋の空気をピンと張り詰めさせる。
咄嗟に起き出して刀を手に死角に隠れ、相手の出方を窺う。マスターキーを所持していたのだろう、鍵を掛けたはずが勝手にシリンダの回転する音が聞こえロックを解除される。そして、何の躊躇も無く中に入り込んで来た。
「……そこか。」
スラリと音がした瞬間、真上から風を切る音が襲いかかってきた。咄嗟に鞘を抜いていない刀で以って防ぐ。
「随分と優秀な野生の勘をお持ちですね…」
「この寮の部屋の構造は大部屋、二人部屋、一人部屋で異なるがそれぞれは全く同じ造りだ。いつでも奇襲を仕掛けられるような死角ぐらい把握している。それにしてもこんな夜更けに起きているとは、そちらこそ勘が働くようだな。」
「生憎耳が良いものでしてね、忍ぶ時間を間違えたのでは?」
「成る程、噂以上に
「お互い様でしょう、『次期元帥候補』様。」
第一海軍学校には、名実共にとんでもない力を有した生徒がいる。それが今忍び込んできた男子生徒、第一海軍学校の生徒会長でありその素性はかの海軍総帥
「その肩書きを持ち出してどうする、お前も七光りだの何だのとでも言うのか?」
「はっ、まさか…ただ境遇が似てるなと思ったまでですよ。」
「……」
きっと生まれる前から、人生が決まっていたのだろう。代々元帥に君臨してきた海鎮家の子だ。周囲の願いが、知らぬ間に自分の願いになってしまったであろうことは容易に想像できる。そして自分は、不本意にこの道を選ぶことになった。たとえ呪われていなくとも、家族が息災であったとしても、彼と同じような道を辿った。
「……ついて来い、話がある。」
それが用件だと言わんばかりに、黒条は何も言わずさっさと部屋の外へ出た。仕方なく、それを紫は追う。寮監に見つかってはたまらないので、成る可く死角を進む。どうやら少し歩くらしい、鬱蒼とした茂みの中に彼は消えていった。
音を頼りに彼を追っていると、不意に開けた場所に出た。何らかの修練場らしい、傍に古びた道場が建っている。
「呼んだのは他でもない、少しお前の実力を見ておきたかった。」
道場から弓矢と刀剣を持って黒条が現れる。どちらも実戦用だろう、弓は兎も角として刀剣の方は明らかに真剣だった。
「話関係ないじゃないですか。」
「いや、まずは礼を言おう。お前が松野を成敗したと聞いた。あれは俺のクラスの生徒でな、粗暴で俺も手を焼いていた。」
松野と言うのは、あのガキ大将のことだろう。目の前の生徒の手を焼かせるあたり、案外実力者だったらしい。
「で、その問題児に手を焼く程度の君が、僕に挑みますか。とても利口な人間の行動とは思えませんが。」
「俺は恐怖で支配するのは嫌いだ、だがあれは言論に耳を貸さない。事実、一度も手を下さない俺のことを甘く見ていただろうな。」
「なら、その温情を僕にも分けて欲しいものですね。別に誰かと諍うためにここへ来たわけじゃないんです。」
「馬の骨に出し抜かれたとあらば、残念ながらその醜聞を不愉快に思う者も多い。」
「だから白黒つけようと?」
「そうだ……まあ、それはただの建前だがな。本音を言うと俺は今興奮している。手の届かぬ境地にいる相手にようやく見えたかもしれないのだからな。」
さっきの紫の言葉を思い出してもらいたいものである。これから先嫌というほど戦いに明け暮れるかもしれないと言うのに、何故この様な場所でまで戦わないとならないのか。しかも相手は名高き海鎮家の跡継ぎだ、下手に勝とうものならどんな報復があるかわからない。かと言って、手を抜くのは黒条が許すはずがない。
「全く、とんだ戦闘狂ですね……」
「闘争心の無い人間は淘汰される、それが今の世界だろう?」
「そんな殺伐とした世界、僕は御免ですよ。やり合うなら深海棲艦相手にしてください。」
「いずれ我々は深海棲艦に打ち勝つ、ならその時のために王を決める必要がある。」
言うや否や、黒条が迫る。ガキ大将、もとい松野とは段違いの瞬発力に速度、言うだけあってかなりの強者だ。これは自分の力に酔うのもわかる。とは言え、その目には隙が無い。酔うには酔うが、慢心はしていない。至極面倒な相手だ。
「はぁ……『ゆかりの鬼』、一撃だけだ…」
黒条が振り抜いた刀を回避し、その隙に刀を抜く。だが初太刀の勢いを殺すことなく、すぐに連撃に繋げた黒条の刀の切っ先が、利き腕の手の甲を切り裂いた。
「うっ…」
「剣道は相手に力強い一撃を見舞うことを重視する。だが実戦ではそんなものは必要無い、小手先の技で手を傷つけるだけで十分なアドバンテージが生まれる。」
「どちらかと言うと、抜刀術から連撃に繋げたその手腕に驚きですよ…」
肘にぬるりとした感触を感じる。傷口を見ればどくどくと血が溢れ出ていた。すぐにでも応急処置をせねばならないだろう。一撃必殺の抜刀術としては、太刀筋が読み易い点でまだまだ未熟だが、意外性という意味では合格点だろう。でなければこんな傷を負うことは無かった。
こちらが負傷に動揺しているのを見て、黒条が更に畳み掛ける。対人戦での斬り合いに慣れていない紫は、延々回避に徹した。『ゆかりの鬼』に力を借りるのは易い、けど一撃と決めた以上それはしない。『怪物』でいる時間を見られるのは、一秒だって惜しかった。
「何故手を抜く!」
「人間の僕が君と戦って、まだ傷一つで済んでるだけでも僥倖なんですけどね…!」
体力を代償に、動体視力をフル活用して全ての太刀筋を見切ることはできている。だが実戦経験の少ない紫は、受けはできても攻撃に転じることができないでいた。今の技量で押し返すには、数分と経たないうちにスタミナ切れに陥る程の体力を奪われる。だがこうして粘っているだけでは何れにせよ血が枯渇する、早々に決着をつけなくてはならなかった。一度力任せに黒条の刀を弾き返し、距離を取る。
「驚いた、こんな力を隠していたか。」
「このくらいで済むなら、まだ人間でいられたんですがね…」
「なに?」
「本物の怪物がどんなものか、見せてあげます。」
半分空っぽになった心の器の底から、ドス黒い感情が湧き出る。それは器を再び満たして尚止まることがなく、溢れ出した毒が器ごと負の感情で染め上げた。煌々と赤黒く輝く片目から覗く景色が醜く見える、穢れた紅蓮の炎を上げて燃える刀を持つ片手が破壊の衝動で震える。
「構えてください……でないと殺してしまう」
闇夜に一筋の紅い軌跡が走る。そのほんの一瞬の煌めきが消えると、甲高い金属音が静寂な闇の訪れを告げた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
黒条の刀は折られた。主人をその身を呈して護り、中程から先が闇夜に紛れて消え失せた。一方、黒条はその場を動けないでいた。衝撃をそのまま受け止めた四肢が痙攣し、瞬きの間に終わってしまう寸劇を目の当たりにして、多大な驚きを処理し切れずに思考が白熱してしまった。
「…いつまで突っ立っているつもりですか?」
「……」
「決着はつきました、もう僕は寝ます。」
「……何故、刀だけ……」
「武士の魂、って昔から呼ばれてるらしいですよ。なら君を傷付けなくとも良いでしょう?」
「……はは、ははは……参った、これは弓を持っても敵いそうにない……」
「人に手を抜くなとか言っておいてそれですか。」
「いや、間近で戦うことで、強さを肌で感じてみたかった……もっとも、距離を取っても無駄だっただろうが……」
節々が固定された人形のように、後ろ向きになって地に倒れ臥すと、黒条はそのまま月のない空を見上げた。紫も彼の視線を追い、美しく広大な宇宙を眺める。何者に侵されることなく輝く幾万の星を見ていると、人の営みが酷く矮小なものに思えて仕方なかった。
「紫だったか……これだけの強さ、一体何に使うつもりだ……?」
「間接的に、君の願いを叶えてあげることになるかもしれません。
「願い……ああ、そうか……紫なら深海棲艦をも討てるのか……この世は残酷だな、求める者は得られず、拒む者程得られる……」
「逆です、得られないから求め、得てしまったから拒む。」
「得た者の言葉だな」
「既に得ている人の言い方とは思えませんがね。」
「……別に、地位など要らない……ただ、力があればいい。」
「ほら、知らずのうちに手に入れたからそうやって拒む……だから僕と君は似た者同士、いずれ君も怪物になる。」
「怪物か……父のようになるなら、そうかもな……」
それっきり、黒条は黙り込んだ。そんな彼を、紫は放って部屋に戻った。明日もまた授業がある、居眠りはしてられなかった。未だ血が溢れる手の甲を、ちぎり取った服の切れ端で強引に止血する。血の流れが滞ってジンジンと痛む、治るまで使用を控えなくてはなるまい。字を書くのは逆の手で我慢しよう。
(それにしても、得た者か……嫌な言葉だな。)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次の日
「何、これ……」
放課後になって、偶々掲示板の前を通り過ぎたら、そこに群がっていた生徒達が一斉にこちらを振り返って周囲に包囲網を形成した。一瞬、あの松野というガキ大将が全戦力を投入して復讐を始めたのかとも思ったが、違った。皆敵意や害意ではなく、興味の眼差しでこちらを見ていたからだ。
「なあなあ!黒条を倒したって本当か!?」
「何ですか、いきなり。僕は知りませんよ…」
「嘘っ!じゃあこの記事は?」
生徒の一人が指し示す先には、掲示板に貼られた新聞らしき紙があった。校内で発行されているものなのだろう、『青葉週間』という聞き覚えのない名前が印刷されている。だがそれよりも目を引いたのは、号外の文字の後にデカデカと書かれた『英雄王降臨か!?転入生黒き巨星を破る!』の文だった。驚きのあまり駆け寄って内容を読むと、何処から見ていたのか、昨晩の黒条との戦いが克明に記されていた。そればかりか松野を粛清した正義の使徒などと謳われており、やたら上手く撮れている顔写真もセットだった。これでは完全にヒーロー扱いではないか。それに、黒条のことをあたかも悪であるかのように書く文体も気に入らない。
「凄えなお前、しかも黒条より頭が良いって…」
「今すぐこの新聞の記者の所へ連れて行って下さい。」
「へ、青葉ちゃんの所?無理無理、新聞部は関係者以外立ち入り禁止…」
その言葉を聞き終える前に、強引に人混みを突破して新聞部の部室へ向かう。マップを頭に入れておいて正解だった、何の迷いもなく目的の部屋の前に到着する。
「失礼します、ここに青葉さんはいらっしゃいますか?」
「ああダメですってば!ここは一般生徒立ち入り禁止……あれ、まさか紫さんでは!?」
中から出て来たのは薄いピンクに染まった頭髪と、これまた学校指定のものとは異なるデザインのセーラー服にキュロットスカートを纏った美少女だった。少女と言うには些か豊満な気がする体型を持つが、全身から溢れる能動的な雰囲気が彼女を大人に見せるのを妨げる。まあ何はともあれ、彼女もまた艦娘なのだろう。青葉と言えば、青葉型のネームシップであり、かの不死鳥にも迫る異様なまでの強運で数々の死線をくぐり抜けた猛者だ。そんな彼女が何故このような場所で、カメラなど首から
「そうですよ、ご存知の通り天凪 紫です。」
「おお!まさかこんな早くヒーローにお話が伺えるなんて!ささ、どーぞどーぞ中に入ってください!」
半ば強引に新聞部の部室の中に連れ込まれると、妙に座り心地の良いソファーのある一角へ通された。部屋の中は冷房も効いており、なかなか居心地が良い。
「まずは新聞部の部室にわざわざ足を運んでいただき、ども、恐縮です!そして私の名前は青葉です、どうぞよろしくお願いします!」
眩いばかりに輝く屈託の無い笑顔、堅苦しさが無く何故か愛嬌さえ感じられる敬礼、そして何よりグイグイと迫ってくるような威勢の良い声色。出会ってきた中では初めてのタイプの美少女だった。(心なしか声色が暁に似ている気がするのは気のせいだろうか…)恋愛対象というよりかは、愛玩動物の如く周囲に愛されるタイプだろう。
とまあ、そんなことは今はどうで良い。早速本題に入り、あの新聞を……
「お茶も出さずにいきなりですみませんが、何故貴方はこの学校へ転入を?」
「え……いや、僕はインタビューを受けに来たわけじゃ…」
「この時期に、しかも三年生で転入されたとなれば、それはそれは深いワケがあったんじゃないですか?それとも何か貴方の心に劇的な変化をもたらすような何かがあったとか。はっ、もしや愛する者を喪い失意の中軍人になる道を仄めかされ、燃え上がる復讐心を糧に力を叡智をもその手に掴んだという熱いドラマがあったとか!?」
「それは…」
「それとも、以前いた学校でその才を持て余し、退屈な日々を送ることに嫌気がさした貴方は艦娘と共に学ぶこの学校の存在を知る。難解な試験にも見事合格しその才を知らしめ、さらに強者と呼ばれる者達を次々と薙ぎ倒すことでこの学校の頂点に君臨し、我が校の美女美少女達に囲まれるハーレムを作り上げようとしているとか!キャー、私初めてだから優しくしてくださいー!」
「えっと、あの…」
「いやいや、まさかまさかのこれは甘く切ない恋物語!将来を誓い合った幼い二人はいつしか疎遠になってしまう。けれど諦めきれなかった貴方は彼女を想う一心で生傷の絶えない苦労を重ね、ここへ転入してきた。ああ、一体この人にそこまで情熱を注がれる人とは一体誰なので」
「いい加減にしてください!」
「ひょわあ!?」
「僕はインタビューを受けに来たんじゃありません、勝手に話を進めないでください。」
「す、すみません…つい……」
先程まで威勢良く根も葉もない憶測を並べ立てていた彼女が、まるでオジギソウのようにしゅんと縮こまってしまう。そんな彼女を見ていると、なまじ美人なので邪険に扱うのは酷く罰当たりに思えてしまう。愛らしいというのは、本当にズルい。少し怯えた様子の目でこちらを窺う彼女から、居た堪れなくなって目をそらし、話を切り出す。
「まず昨夜僕が黒条君と対決したこと、それを貴女は何故知っているのですか?」
「それは…規律とか絶対に破らなさそうな黒条さんが急に寮を抜け出したって聞いて…これは何かあるのかなぁと思ってこっそりついて行ったんです…そしたらお二人の対決が始まって…」
「……何で黒条君の様子が貴女に伝わるんですか。」
「いやぁ、彼ってずっとこの学校のスターでしたし、実際何かと話題に事欠かない人なんですよ。だから彼の様子は新聞部総出を上げていつも見逃さないようにしてるんです。」
ドヤ顔でそう言うのだが、これは完全にストーキングとなんら変わらないではないか。いや、しかもそれを記事にするのだからこれはもはやパパラッチである。組織としてそれをやってるのもそうだが、このように一寸も悪いことだと思っていないあたり非常にタチが悪い。
「はぁ…まずいいです。で、本題は何故あのような記事を書いたかですよ。正直僕はあんな風に記事に書かれて嬉しくはありませんね。」
「ええ!?どうしてですか!」
「何でって、僕はヒーローになるためにここに来たんじゃありません。それに、ここに来て早々深夜に寮を抜け出したのがバレてしまえば黒条君同様ここに居づらくなります。それに、あんな風に黒条君を貶めるような書き方、僕は許したくありませんね。」
「で、でも…ああいうのって誰かが泥を被った方が皆さんにウケるというか、それに紫さんここに来たばかりだから少しでもみんなと仲良くなるお手伝いができればと思って……」
「ウケるウケないで記事を作る?書かれた当人の気持ちなんてまるっきり考えもしないくせにですか?僕らは見世物じゃないんです、誰かの笑い者にされるために剣を取るんじゃありません。真剣勝負の意味がわかりますか?結局どちらも死ななかったとは言えあの瞬間は命のやり取りをしているんですよ?それを娯楽のネタにする権利なんて貴女には無い。」
「……」
「僕のことは良いです…信念なんて持ち合わせてはいませんし。けど、黒条君は違う。親族の人達から押し潰されそうな程の期待を背負って、周りからは七光りだって陰口たたかれて、それでも強くなりたいって必死に足掻いて今があるんです。それを、僕に負けたからって貴女は踏みにじった。その上、彼の親族まで貶したりして…」
「ごめんなさい…私そういうの考えてなかったです……」
思いの他、彼女は素直に謝った。それだけで悪気があったわけじゃないことはすぐにわかる。けれど、ただ伝えることだけが、それで支持を得る事だけが広報のすることじゃない。
「今からでも遅くはないでしょう、あの新聞を全部撤収してください。」
新聞部として受けるには随分勇気がいるだろう。言った紫本人も、これは随分酷い申し出だと思っていた。けれど、彼女は頷いた。ちゃんと非を認めた。なんて謙虚なのだろうか。普通人間ならそう簡単に頷いたりしない、自分の名誉が傷つくからだ。けど、彼女の良心は紫の怒りに真摯に答えた。
回収に向かうと言う彼女を、撤収を願い出た手前放っておけず、紫も手伝いのために同行した。非常に気まずいが、これが通すべきこちらの筋である。
「……やっぱり、駄目かぁ……」
「やっぱり?」
傾きかけた陽の光が差し込む廊下を並んで歩いていると、微かな声で青葉はそうため息混じりに呟いた。
「いや、その……言っても仕方ないことですけど、最近新聞の評価良くなくて…このままだと予算降りないって言われてまして…」
部活動はボランティアではない。学校から降りる活動資金の上に成り立っているのは、どこの学校も変わらないだろう。新聞部ともなれば、印刷物を取り扱う以上予算の有無は死活問題だ。それが無くなるということは、部が廃止される可能性もある。
「だから少しでも良いネタが集まるようにみんなで走り回ったり、もっといい文章書けるように頑張ってきたんですけど……私向いてないかもしれないですね、好きでやってきたけど、がむしゃらになり過ぎて大事な事忘れてましたし……」
気がつけば、彼女の目には薄っすら涙が溜まっていた。今にも溢れてしいそうなそれを、しかし彼女は一粒も溢さなかった。夕焼けを浴びて輝く彼女の顔はとても美しく、とても強かで、つい魅入ってしまいそうになる。だが、それ以上に彼女にそんな顔をさせてしまった自分が嫌になった。あんなにも生き生きとした表情がよく似合う彼女の顔に影を落としてしまったことに、この上ない罪悪感を感じた。
彼女の書いた新聞の撤収を手伝っている最中も、自己嫌悪は消えてなくなることは無かった。あれだけ人の負感情を喰っておきながら、意地悪な刀はこの感情を持って行ってはくれない。
手伝いが終わると、回収した新聞を一先ず寄せておくためにまた青葉と共に新聞部の部室へ戻った。気がつけば、随分陽が傾いている。橙色の空が綺麗だった。
「随分貼っていたんですね。」
「そりゃあ勿論、配るだけの部数を発行できない以上大事なのは目につくことです。」
「……ごめんなさい、僕の身勝手で。」
「いえいえ!これで良いんですよ。よくよく考えたら、黒条さんのご家族って代々元帥の家系じゃないですか。そんな人をこんな風に書いちゃったらどんな目に遭うか。」
オーバーに体を震わせてみせる青葉を横目に、今一度回収した新聞に目を通す。内容はあまり好まないが、よく見ればちゃんと書けている。記者を目指したって良いかもしれない。改めて彼女の苦労を水泡に帰してしまった事が悔やまれた。そして、気がつけばこんなことを言ってしまっていた。
「インタビュー、受けてもいいですよ。聞きたいことがあれば、できる限りで答えます。」
「え、本当ですか!?」
「そりゃまあ、折角書いたものを台無しにしたわけですし…」
「……いぃぃぃいやったあ!!そうと決まれば早く行きましょう!聞きたいことが山程あるんです!今夜は寝かしませんよ!!」
「あ、ちょっと!そんなに答えるつもりはありませんよ!?」
正直、軽はずみに言ってしまったことを後悔した。
21話でした、ちょっと批判的な内容も含まれていましたが、あれは一個人の考えであります故、あまり深く考えないようお願いします。
ここから先ポンポン新キャラ登場する予定ので、今回もサクッとやってしまいましょう。キャラ紹介ですどうぞ
『海鎮 黒条』
読み方:かいちん こくじょう
海軍総帥である群青の息子
「ぐんじょう」と「こくじょう」でちょっと紛らわしい
裏話をすると、最初「海鎮家」ではなく「黒条家」にしようかと思っていたが、どこぞの幻想破壊屋さんと被る上、下の名前を個々に考えるのが面倒になってやめたという経緯がある
紫「名前考えるの面倒くさがり過ぎ……」
黒「別に構わない、名が何だと言うのだ」
作「あ、この色が並ぶ感じいいね。折角だから茜も呼ぼうか」
紫「え、茜…」
茜「やっほー紫、久しぶり」
黒「なんだ、お前恋人がいたのか」
紫「そんなんじゃないですよ。」
茜「そうそう、私は紫のお世話係ですから。ね、紫?」
紫「う、うん…そうだね」
黒「なんだ?つまり使用人か?」
紫「まあ、色々あるんです…(なんか、茜が茜じゃない)」
作「よく考えたら色合い最悪だね」
紫「なら最初からやめて、気まずい…」
茜「?」
『青葉』
読み方:青葉
多くの提督に愛されてやまないパパラッチ
原作はそんなんじゃないのにどうしてこうなった…
青「パパラッチとは失礼ですねえ」
紫「人のことつけ回すあたり十分だと思いますけど」
黒「同感だな」
青「じゃあ堂々としてれば良いんですね?わかりました、じゃあまずは紫さんの部屋に居させてください」
紫「お断りです」
黒「俺もだ」
青「む、そんなこと言ってると後で怖いですよ」
黒「なら、俺は問題ないな。捏造しようものなら部ごと潰せばいい」ゴゴゴ
紫「うわ物騒…まあその時はしっかり話し合いをしましょうか、ねえ?」ゴゴゴ
青「なんか、今私ピンチです?」
何だか今回色ばかりになりましたね、いつもより見やすいかもです。それでは今回はこの辺で、また次回お会いしましょう