序章:温もりを忘れた青年が提督になるまで   作:影乃と月ノ神

24 / 37
24話です、ようやく月曜日に投稿できてホッとしておりますw


24:悪い夢

 

 

 

「ん……ここは……?」

 

 ジトジトして妙に肌寒く、潮の香りを嫌な成分だけ濃縮したような生臭い匂いが漂う空間に、古鷹はいつの間にか寝かせられていた。光源らしいものは何一つ無いこの場所に至った経緯は全く覚えておらず、また古鷹自身この場所を知らなかった。自分の置かれている状況を把握しようと首を持ち上げ周囲を見回す。たったそれだけの動作なのに節々が痛んだのは、長時間冷たく濡れた岩肌の上に横たわっていたからだろう。筋が酷く凝り固まっていた。

 

 目覚めたばかりということもあって、嫌に冷静でいられる思考回路でここに来る以前のことを思い起こす。確か、学校の遠征の実習授業に参加していたはずだ。それなのにどうしてこんな暗がりにいるのかが、どれだけ思い返してみてもわからない。実習中に何かがあったとしか考えられないが、その何かが起こった部分だけ記憶に靄がかかったように不明瞭だった。それから居ても立っても居られなくて、少しその場を歩いてみる。夜目が効く人間でも周囲の様子を知るのに苦労しそうな場所だが、幸いにして左目は探照灯の役目を果たしてくれる特別製だ。艤装がいつの間にか何処かに消えてしまっていたが、光源くらい自力で用意できた。しばしば周りから訝しげな目線を送られることがあるこの目に、以前は少なからずコンプレックスを抱いていたこともあった。けどそれを解消して、特別な個性だと思わせてくれたのが、別人ではあるが青葉だった。そして妹の加古と離れ、一人異国へと旅立つことが決まって落ち込んでいた時に支えてくれたのが、今共に新聞部にいる青葉だ。そんな彼女が行方不明だと聞かされた時のあの焦燥と絶望と言ったら、かつて経験したことのないと言っても過言ではなかった。訳知り顔で不穏なことを口にしていた紫に、自分でもよくわからないことを口走ったのは仕方のないことだったと思う。そのくらい取り乱していたのだ。今でこそ落ち着きを取り戻してはいるが、青葉のことを思うといつも不安な気持ちになる。せめてどこかで生き延びていて欲しいと思うより他は無いのが、歯痒くて仕方なかった。

 

 しばらく歩いていると、目の前に巨大な水溜りが広がり、そこから足場が途絶えてしまった。見た所、他に道もなく先へ進むには泳いでいくしかなさそうだった。幸いギリギリ足が届きそうだったので、服が濡れるのも厭わず先に進む。元より海上を戦場にして戦うのだ、濡れた生地が肌に張り付く感覚はどうと言うことは無いし、寒さだっていつもの事だった。ゴロゴロとしたものが沈殿した足場の悪い水溜りを進んで行き、向こう岸にたどり着く。だが、体を対岸に上げ足を水溜りから出そうとしたその時、冷たい手のような感触のあるモノに凄まじい力で足を引っ張られ、抵抗もできないまま水溜りの中に引き摺り込まれてしまった。潜水艦ではないので潜水可能な時間は長くなく、また体を岩に打ち付けられた衝撃で息を吐き尽くしてしまい、すぐに息が苦しくなる。何とか謎の手から逃れようと必死にもがくが、もがけどもがけど手は足を離すことはなく、段々と意識が遠くなっていった。

 

 意識の途切れる一瞬前、不意に自分の体を抱いて泣く紫の姿が瞼の裏に浮かんだ。彼の言った自分におこるとされる不幸がこれならば、なんてこの世は残酷なのだろうか。くしくも、光の届かない水溜りの中は、彼に抱かれた時のような冷たさだった。

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「……かさ……ふ…鷹さ……古鷹さ……古鷹さん!」

 

 気がつくと、目の前でもう何日も見ていない懐かしい顔が、自分の名を呼んでいた。色の割には派手に感じないピンクの頭髪、好奇心が強い小さな子供を彷彿とさせる愛らしいまん丸な目、そして黄色いスカーフが特徴的な、学校で一番の友達。そそっかしくて危なっかしい、けど何事にも一生懸命なお調子者の青葉の姿が、自分の目の光に照らされていた。夢ではなかろうか、いや、夢なんかにはさせない。そう思って、咄嗟に彼女に抱きつく。体に伝わる細いが柔らかな感触、鼻腔に漂う人の香り、よく梳いてあげた癖の強い髪の手触り。あらゆる要素が、彼女の存在を間違いなく現実のものだと教えてくれる。それだけで、嬉しさのあまり涙がでてきた。

 

「良かった…生きてた、青葉が生きてた…!」

「…はい、卒業するまで青葉は古鷹さんと一緒ですよ。」

 

 今この手を放してしまえば、お伽話のように彼女が泡となって消えてしまうような気がして怖くなり、今一度彼女の体を強く抱きしめる。当然青葉は消えて無くなったりしなかった、寧ろ自分の中で存在がもっと強固なものになっていく。普段と逆になった立場にほんの少し動揺したらしい青葉だったが、それらしく頭を撫でていつもの自分を演じてくれる。安心しきって、危うくまた眠ってしまいそうだった。

 

 しばらく熱い抱擁を交わした後、彼女が消えた日のこと、そして今まで一体どうしていたかについて尋ねてみた。

 

「それが、あまりよくわからなくて…気がついたらいつの間にか艦隊から離れてて、そしてまた気がついたらここにいたんです。」

「私と同じか…じゃあ、ここにいる間ずっと何をしてたの?」

「実は…」

「やぁっとお友達も来てくれたみたいですネェ。」

 

 突然、どこからかそんな二人のものとは違う声が聞こえてきた。悪い意味で道化師のような、聞く相手をおちょくるかのごとく酷く真面目さに欠けた抑揚の付け方だった。ネチネチとした声で、男のものにしてはいやに中性的であり、声の主の性別がどちらなのかイマイチ判別がつかない。

 

「ここですヨ〜、やぁですネェ無視されるのは。」

 

 真上から声がしたので咄嗟に、天井を見上げると、頂点の辺りで一人の男が()()()になっていた。否、正確に言えば天井に足を付けるようにして()()()おり、まるで蝙蝠か何かのようだった。

 

「どぉしました?天井に立てるのが珍しいでぇすか?」

 

 そう言ってニタッといやらしい笑みを浮かべた男は、身をかがめてそのまま落ちてきた。天井の高さは10メートルはありそうで、人間であれば背骨が粉々になってあっという間に絶命してしまうだろう。血の花を咲かせ肉塊と化すその瞬間を見たくなくて目を背ける。

 

「あ〜ぁもう、折角のパフォーマンスなのに最後まで見ないと損でぇすヨォ?」

 

 視線を戻すと、いつの間にか男は何事もなかったのように落下地点に立っていた。物音一つ立てずに降り立った男を目を丸くして見やると、男はまたいやらしい笑みを貼っつけて紳士ぶった深いお辞儀をする。

 

「ヨォうこそ、憎き人間共の手先よ。改めて歓迎しよぉうじゃありませぇんカ。」

「あなたは一体誰ですか、ここは一体どこ?」

「これは失礼千万、わぁたしはカワイイ海の戦士を束ねる者。あなたガァタの言わば敵ですネェ。」

 

 そう告げた男は、指をパチンと鳴らすと突如として煙のように姿をくらましてしまった。それと同時に、周囲の岩壁に幾つも穴が空き、そこから幽鬼のような灰色がかった白い子供達が何人もわらわらと這い出してくる。どれも骨ばったミイラのような体躯で、とてもではないがどれも人間とは思えなかった。

 

「いずれはセクシィィで強いレディになる卵達、あなたがぁたには彼女達の練習相手になってもらいまあぁすヨ。」

「何、あれ…」

「古鷹さん、早く逃げてください…」

「青葉?ねえまさか、ここにいる間ずっと…!?」

「辛いのは私だけで十分です…だから、早く逃げて…!」

 

 青葉が逃げろと訴えかけてくるが、既に周りは子供達で囲まれてしまっている。光のない目を一様にこちらに向け、蹌踉めき這いながらジワジワと距離を詰めるその様はアンデットそのもので、深海棲艦のそれとはまた異なった生理的嫌悪感が恐怖をもたらす。個々を見れば、踏んだだけで絶命しそうな貧弱な体を持っているが、男が言う海の戦士が深海棲艦のことならばこれらはその幼体、一筋縄にはいかないのだろう。

 

 やがて一体がこちらの足を掴みにかかる、それを避けて蹴りで応戦するが、相手の数が多過ぎた。次から次へと伸びる手は凄まじい力で白い子供達の海へと引きずり込む。四方八方から皮と骨が一体化した腕に掴まれ、デタラメに引っ張られた。皮が破け、関節がありえない方向へ曲げられ、健が引き千切れ、骨が折られる。激痛に喉から血が出るほど叫ぶが、それでも止まらない。終わらぬ苦しみに絶望し、気を失う。だが、目覚めると傷は癒え何処もかしこも元どおりにされていた。

 

「一回で壊すなぁんて勿体無いマネはしませぇんヨ?もぉっと苦しんでいただかなぁいと。」

 

 再び男が指を鳴らすと、白い手の波がまた迫ってきた。そして同じように為すすべも無く呑み込まれ、全身を壊される。限界を超えた苦痛は、何度も何度も目覚める度に繰り返され、終わることがなかった。

 

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「う〜ん艦娘さんたぁちはどれもこれも素晴らし〜いですネェ。これだけ繰り返してもまぁだ使える。使い捨ての人間とは違って効率が非常によろし〜い。」

 

 あれから何度も何度も子供達に襲われ、その度に体を治され、また目が覚める。隣では青葉もグッタリとしていた。壊れないように設計された心のおかげで、青葉はこれを一週間も前から繰り返されている。それを思うと、あの男に対する憎しみが増える一方で、青葉を助けに行けなかった自分の不甲斐なさが身に染みた。勝手な都合で国際交流のダシに使われることになり、語学を学ぶことを強制されたせいで肝心な戦闘能力が弱い、なんて悲劇のヒロインに甘んじ、言われた事以外何もしてこなかった自分が恥ずかしかった。助けられなかったばりでなく、今この瞬間でさえ青葉を守れない自分が情けない。あんな明確に悪だと断言できる男にいいようにされる現状も、悔しくて悔しくてたまらなかった。

 

「さぁて、あの子達も休憩が終わったようでぇすし、また再開しますヨ。」

 

 もう聞いただけで泣きたくなるあの指の音が鳴り響き、再び白い悪鬼達の手が伸びてくる。心なしか肉が付いてきたようで、腕周りの骨が少しずつ隠れ始めていた。

 

「順調順調、こぉれは次の世代にも使えるといいですネェ。」

 

 絶望的な文句に堪らず涙が溢れるが、それでも手は止まらない。再び襲いくる苦痛に備え目を瞑り歯を食いしばる。それが今できるせめてもの抵抗だった。そして間も無く冷たく骨ばった一本の手に掴まれ、恐怖の時間がまた始まるのだと覚悟したその時、不意に腕の力が弱くなったかと思えばそれっきり体に触れる腕は一本も無かった。

 

 何事かと恐る恐る目を開くと、暗い空間に重油のようなどす黒い血と白い肉片が幾つも宙に舞っているのが見えた。寂れた空間が一変、血肉の降り注ぐ地獄へと様変わりした。近くにいる青葉を抱き寄せて、その様子を注意深く眺める。蠢く幼体達もおぞましいものだったが、これもまた身の毛もよだつ凄まじい光景だった。潮の匂いで溢れていた空間が黒い雨の放つ血生臭さで満たされ、つい先ほど前まで動いていた幼体が足の踏み場も無いほどにその肉塊を散らしている。世にこれほど凄惨な光景が他にあるかと聞かれて、あると答える者は少ないだろう。

 

 やがて黒い雨も止み、動く幼体が一体残らず全て肉塊になった後には、身を寄せ合う青葉と古鷹、そして一人の刀を持った男が残った。血のような赤黒い炎を立ちのぼらせて燃える刀を手にし、ドス黒い血を全身に浴びたその男は、遠目でも恐れを抱かせるだけの鬼気を纏っていた。この惨劇を起こした張本人が彼だとしたら、それはもう人ならざる者で間違いない。

 

「ああああああああ!!私の!!私のおおおおお!!かわいいかわいい子達がああああああ!!おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれええええええ!!殺してやる!!殺してやるうううううううううううう!!…ガハッ!?」

 

 奇声を上げ叫狂うあの男の絶叫が突如止んだかと思うと、妖しく燃える刀が一振り喉から生えていた。否、正しくは投げられたそれによって貫かれたのだが、瞬き一つしている間に飛んで行ったそれが、古鷹には突然生えたかのようにしか見えなかったのだ。足場のない壁際に張り付くようにして立っていた男は、それっきり刀によって首を貫かれたまま磔にされ絶命した。言動がすこぶる珍妙な男だったが、死に様もまた珍妙だった。

 

 幼体を屠った男は、壁の男が絶命したのを見届けると、こちらに向かって歩いてきた。咄嗟に警戒して立ち上がろうとするが、先ほど目の前で起こったことが凄まじく、腰が抜けてしまい立てなかった。しかし、その警戒が必要なかったことにはすぐに気がついた。驚くべきことに、血に塗れたその男は紫だった。こんな得体の知れない場所に、彼はたった一人で助けにきてくれたのだ。

 

「良かった、二人とも生きていてくれた…」

「紫さん!」

「帰りましょう、もう悪夢はこれで終わりです。」

 

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「大手柄だったな、古鷹のみならずもう誰もが諦めかけた青葉まで救いだすとは、英雄と呼ばれるのも無理はないか。」

「……」

「父もご満悦だ、正式採用の前に名を上げるなんて、羨ましい。」

「……」

「どうした、随分辛気臭い顔をしているな?」

「いえ、本当の事を話せば幻滅するだろうと思いまして…」

「本当の事か?」

「……何でもありません、もう疲れたので寝ます。」

「それがいい、明日からはまた授業に戻ることになる。祝いの席を設けると言う話があるが、少し先延ばしになるらしいからな…」

 

 だがその言葉を言い終わる前にはもう、紫の姿は無かった。

 

「もっと勝ち誇っても良いだろうに、素直じゃないな。」

 

 あれだけ苦心しておいて、こうもあっさりと解決してしまった彼は、やはり軍において期待以上の人材と言えるだろう……が、彼に対する評価を思うと少々嫉妬せずにはいられなかった。

 

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「あ、紫さん!こんな所に!」

 

 入渠も終わり、事情聴取も粗方全て終わった古鷹は、一時寮に戻る事を許され、その途中紫を見つけた。戻ったら改めて礼を言おうと思っていたので、ナイスタイミングだ。けど、対する紫の方は声をかけても反応が薄く、そしてかなり疲れているようだった。顔色も悪く、ごっそりと生気を抜き取られた後のような雰囲気を醸している。

 

「あの、ありがとうございました。今日の恩は忘れません。」

「構いませんよ、借りを返しただけですから。」

「…でも、かなり無理をしたんですよね?」

「このくらい、少し寝れば問題ありません。それより青葉さんは?」

「まだ寝てます、久しぶりに帰ってきて安心したみたいで。」

「何事もないなら、それでいいです。」

 

 じゃあと、そう言って紫は男子寮へ向かおうとした。疲れている彼を休ませてあげたいのはやまやまだったが、こちらとしてはまだ礼がし足りない。それに、折角二人きりだと言うのになんたる甲斐性なしだろうか(強気に迫られたらそれはそれで困るのだが)。少し困らせるのも悪くない、なんて珍しく顔を出した悪戯心に任せてあの時彼にしたように、今度は倒さない程度に後ろから抱きついてみる。

 

「古鷹さん、何を…?」

「その、ちょっとした出来心で…困りました?」

「困りました、折角打ち払った呪いがまた貴女に降りかかるかもしれません…」

「それは…その、ごめんなさい。」

 

 しまった、苦しい思いはしたものの全て丸く収まったことが嬉しくてついその事を忘れてしまった。また紫に迷惑がかかる、そして自分にも…しかしそんな不安は、紫が一言で片付けてくれた。

 

「まあ、今は取り敢えず大丈夫でしょう。たった一回の信憑性に欠ける経験則ですが、不幸に見舞われた直後なら触れても問題無いようです。」

「良かった…」

「でも、油断はできません。今後は僕への接触は厳禁です。」

「はい…」

「なら、そろそろ…」

「待ってください!その……本当にありがとう、来てくれて本当に嬉しかった…」

 

 顔も見ず、背中に額を押し付けたままという至極不躾な礼の言葉を、紫は黙って受け取ってくれた。涙を隠していたのが、どうもバレてしまったらしい。

 

「…そうだこれ、紫さんに返します。ご友人に貰った、大切な物でしたよね。」

 

 わざわざ紫を引き止めたのには、もう一つ、彼からお守りだと言われて預かったストラップを返すという目的もあった。舵輪を模した可愛らしいサイズのストラップで、普段から肌身離さず持っている大切な物なのだそうだ。

 

「良ければ、あげますよ。」

「いえ、ご友人に悪いですから、お返しします。それに私より大切に思ってくれる人が持っていた方が、これも嬉しいでしょうから。」

「なら、ありがたく返していただきます。」

 

 大切そうに手で包んでポケットに仕舞うその仕草を見て、それを紫にあげた人物とはどの様な人なのか気になった。大切にしていると言うことは、それほど彼にとって大切な人なのだろうことは容易にわかった。いつかその人の事も彼の口から聞けるようになれれば良いなと思っていると、徐に彼はこちらを振り向き、両手で以ってこちらの体を包み込んだ。冷たい、しかしあの怪物の幼体達とは違って、明確な思い遣りを感じる優しい腕。

 

「これが最初で最後です。僕が心から触れ合う事を求め、そして抱くのは……だから嫌でなければ、もう少しだけこのままでいてください。」

「…はい」

 

 抱きしめる力が強くなり、こちらも身を寄せて応じる。普段であれば抗うはずの自分がどうしてこうも大胆でいられるのか、それが不思議でたまらない。だがこれが恋というものが掛ける魔法だと言うなら、それでも良かった……けれどそうでなかったとしたら、それは多分、いつまた彼があの時見た悪夢に現れそうな怪物へと変貌するかわからない恐怖を、悪夢で終わらせたかったからなのだろう。

 

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「青葉、見ちゃいました。」

「山葵、見ちゃったっす。」

 

 一人とっとと寮に戻ろうとしていた英雄の後を追いかけていた二人は、彼と古鷹が熱い抱擁を交わす瞬間をバッチリ目撃していた。方や明日出す号外の記事を書こうと虎視眈々と狙っていたパパラッチ、方や他人の色恋沙汰には首を突っ込まずにはいられない野次馬である。何も見なかったことにして、二人の事をそっとしておくなどという選択肢はあろうはずがなかった。

 

「そそくさと寮に戻る素ぶりを見せたと思ったら…」

「こんな所で逢引とは、なかなか紫君もプレイボーイっすね…」

「くっ、こんな時にカメラを持っていないとは何たる不覚…」

「ふっふーん、カメラなら丁度ここにあるっす。」

「おお!現像したら是非私にも!」

「お高くなるっすよ〜」

「ええ!そんなぁ!」

「嘘にきまってるじゃないっすか、こんな面白いシーン晒さないでどうするっす。」

「やった!じゃあとびきりの一枚を!」

「了解っす!」

 

 ファインダーを覗き、山葵は二人のいる方へレンズを向ける。電灯にライトアップされた場所で、ドラマのワンシーンのような絵を作る二人の姿は、このカメラで永遠のものとされる…はずだった。

 

「あれ真っ暗、キャップは外したはず…ああちょっと、青葉ちゃんどこ行くっすか?」

「そこで何をしているんですか、山葵君?」

「ひぃっ!!む、紫君!?」

 

 ほんの少し目を離しただけなのに、紫はまるで瞬間移動したように、山葵の目の前に仁王立ちしていた。完全にバレていなかったと思っていた上に、すぐに逃げられるよう安全な距離で眺めていたつもりだったので、山葵は焦る。

 

「覗き見に盗撮、随分と趣味が悪いですね。」

「いやぁ、それが青葉ちゃんに取材を手伝ってと頼まれちゃって…」

『こんな面白いシーン晒さないでどうするっす。』

「な、なんでそのセリフ!?」

「全部丸聞こえでしたよ。」

「何それチートじゃないすか!!理不尽にも程があるっす!」

「理不尽も何も、先に妙な企みを起こしたのは君でしょう?今日は見逃しますから、君もとっとと寝ることですね。」

「うう、完全敗北っす……って青葉ちゃんは!?」

「面倒なので追いかけません。」

「ちょ!?僕だけっすか?それ男女差別っす!酷いっす!この女たらし!変態紳士!」

「言われなくても、明日あったら説教です。それとも何か、君が彼女の分まで説教されたいですか?なら丁度いい、女性には手を挙げづらいですからね。」

「ひいい!!悪口言ってすみませんでした!もう言いませんから助けてー!!」

 

 不穏なセリフを言いながら睨みつけてくる紫に恐れ慄き、山葵もまた逃げ出した。残った紫は、そのまま自分の部屋に戻る。その後、深夜になって悪びれた様子もなく取材させろと言って入ろうとしてきた青葉は、簀巻きにされて丁重に部屋に送り返されたそうだ。

 

 





やっと青葉が見つかりました。
解決の仕方雑ですって?そりゃ、なんで急に見つけられたのかって疑問に思われるでしょうけど、そこは珍しく伏線張ってるので今はご想像にお任せします。(伏線って自分で言っちゃったよ)

さてさて、今回はこれと言って何かやる事も無さそうなので、非常にあっさりとした後書きですが、ここまでとさせていただきます。次回は少しアップテンポで話を進めたいなと思いますが、やはりどうなるかはわかりません、だって気まぐれ屋さんなんですもの。

それではまた次回お会いしましょう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。