あ、因みにサブタイに深い意味はありません、あしからず
短めではありますが、どうぞごゆるりと
とあるよく晴れた日曜日、栄えある横須賀第一鎮守府に所属する
「12時の方角!敵影確認しました!」
『陣形を単縦陣に変更、先制魚雷用意。射出タイミングは任せます。』
「よしきたー!全艦単縦陣!魚雷装填、放てぇ!」
幾筋もの白線を引いて、銀色に輝く円筒が次々と扇状に放たれる。戦いの中で一番緊張し、それでいて一番心踊る瞬間だ。この初手の一撃がどれだけ相手に打撃を与えられるかが、この後の戦況を大きく揺るがすと言っても過言ではない以上、絶対に失敗したくはないし、そして何より成功した時の達成感はえも言われぬものがある。しかし、到達に時間のかかる魚雷の行く末を、いつまでも気にしていられる程の余裕は無い。敵の艦隊から黒い飛行体がいくつも飛び立つのが見えた。
「敵艦隊から艦載機の発艦を確認!これより迎撃を開始します!」
『輪形陣に移行し、同時に敵の魚雷を警戒してください。敵機迎撃後は複縦陣に変更し、最大船速で接近、短期決戦を狙います。』
「わかりました!陣形を輪形陣に、迎撃の準備よ!」
腹に爆弾を付けた何機もの爆撃機めがけ、その倍以上の弾を一斉に放つ。けれど身に付けている艤装はどれも対空をあまり意識していないものばかりなので、あまり撃ち落とすことができず、いくつもの爆弾が頭上から降ってきた。足の速い艦ばかりの編成が幸いし、被害は軽なものだったが、もう少し堕としておきたかったのが本音だ。攻撃を終えて母艦に帰投する敵の機体を見送ると、丁度水柱が何本か、敵の艦隊がいるあたりで起こった。沈めた艦こそいなかったようだが、それなりにダメージを与えることに成功したらしい。思わずガッツポーズだ。
「迎撃完了、あと魚雷の目標到達を確認しました!」
『では先程の言葉通りに……そうだ、決して無茶をせずに、退く時は引いてください。堅実な判断による戦果を期待しています。』
とって付けられたその言葉に、内心少しばかり驚く。初めて会った時から一度も笑ったところを見たことがない、と言うか表情が変わった所すら見たことが無かったものだから、てっきり情のカケラも無いような冷めきった人だと思っていたのだ。たぶん、感情を表に出すのが極端に苦手なだけで、ちゃんと暖かい心の持ち主なのではないだろうか。
『どうかしましたか?』
「ああいや何でも無いです!それでは行ってきます!」
行ってらっしゃい、なんて戦場とは思えない返答を背に受けて駆け出す。いきなり敵の懐に突っ込めとは、なんて大胆な戦術だろうか。そりゃまあ、あまり艦隊指揮の経験なんてないだろうけど、普通こちらより装甲の厚い艦が多い艦隊に対して短期決戦なんて仕掛けたりしない。しかもほぼ捨て身同然の作戦だというのに、無茶をするなとは、それこそ無茶というものだ。
「ま、そういうの嫌いじゃないけどね!折角の新人さんの初陣、みんなで勝たせてあげよ!」
『はい!』
こういう時でも意気揚々とついて来てくれる僚艦の存在は本当に有難いものだ。下手すれば姉妹揃って一緒にいる時間よりも長い付き合いのある駆逐艦の子達との時間は、いつだって楽しい。だから勝ってもっと楽しくなりたい、そう思えるともはや負ける気がしなくなってくる。
「全艦最大船速!一気に駆け抜けるよ!!」
その掛け声と共に、少女達が一斉に速度を上げる。息のあった六人は、まさに一陣の風となって猛攻を開始した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『敵艦隊壊滅…やりました、私たち、勝ちましたよ…』
「お疲れ様です、素晴らしい活躍でしたよ。」
『えへへ、じゃあこれから帰投します…』
「お待ちしてます。」
くたびれながらも、どこか誇らしげに戦果を報告してきた長良を労い、通信を終える。ヘッドセットを外すと、監督官が若干躊躇いながらも賛辞を送ってきた。本当は声を大にして言いたい、と言った感じだが、まあ対戦の相手が相手だ、立場的にそれは難しいだろう。一礼をして部屋を出ると、向かいの部屋から遅れて黒条も出てきた。
「まったく、あんな無茶をしでかす相手に負けるなんてな。」
「この手のことに関しては、君の方が上手です。なら奇策の一つでも使わないと。」
「あれは奇策じゃなくて猪突猛進だろ。」
「不意を突けた時点で奇策と言っても問題ないと、屁理屈の一つでも申し立てておきましょう。」
「ははっ、本当に屁理屈だな。屁理屈だが、あながち間違いでもないのが面倒だ。」
苦笑いした黒条はこちらの健闘を讃えた、あまり悔しがった様子を見せないのが、彼の器の大きさを感じさせる。まあ、次戦う時までにはこちらを打ち負かすための策を練りに練ってくるのだろう。こちらももっと知識を得て対抗できるようにせねばなるまい。
さて話すのが遅れてしまったが、この日は実際に艦隊の指揮を執り学徒同士で腕を競う演習体験の日だった。有力な鎮守府に所属する艦娘を借り受けてその艦娘達の一日司令となり、他の生徒と競わせると言ったもので、指揮官としての技能を身につける他、実戦の空気を感じたり、艦娘との接し方を学んだりと言った、数ある実技の授業の中で最も人気がある授業だ。しかしながら鎮守府から艦娘を借り受ける都合上、そう何人にも受けさせるわけにはいかず、僅かな成績上位の者だけが休日を利用して課外授業という体で受けられる特別な授業となっている。それ故にこの授業の前の週には学徒全員死に物狂いで勉強に励む姿が見られる。特別とは言っても頻度はそれなりに高いので、一度でも選ばれる確率は絶望的というほど低くはないため、下位の者はただ上を目指し時には徒党を組んで上位者打倒を目論み、上位者は上位者で下克上を何としてでも阻止しようと更に自己を高めることに専念する。おかげで在学生の学力、モチベーション共に素晴らしい水準を維持しているわけだが、ただの一度も選出されなかった生徒も数多く出てしまうので、在学中にやさぐれてしまう者も多い。脱落組、と呼ばれる生徒が例年異常に多いことを助長しているという見解もあり、少なからず問題視はされているようだ。
話を戻して体験の少し細かな説明をしよう。先程艦娘を借り受けると言ったが、この時好きな艦娘を指定して、というわけにはいかない。予め水雷戦隊、空母機動部隊とくいった、希望する艦隊の種類を選択し、その要望に合わせて組まれた艦隊が派遣されてくる。因みに言うと、先の演習で紫が指揮したのは水雷戦隊、対する黒条は駆逐艦、巡洋艦、戦艦、空母と悪く言えば雑多、良く言えばバランスのとれた混成部隊だった。通常、黒条のような編成はあまり見られないのだが、どのような艦隊が相手であろうと柔軟に対応できるため、今回のような場合にあっては有効だ。何かに特化させることで明確な弱点を作るのを嫌うあたり、彼らしい選択と言える。
「それにしても水雷戦隊か…お前らしいな。」
「それはどういう意味で?」
半ば呆れたような顔でそう言い放った黒条に問いかけたのは、言葉の真意を確かめるため、と言うよりかは、他人から見た自分のことを知りたかったという方が正しいだろうか。空になってしまって、個性を計る物差しを失ってから、どうも昔の自分に近づけようとするキライが、今の自分にはあった。他のことにはまるで執着できないのに、自分の身の振り方だけには敏感だ。本能的な面で、アイデンティティを取り戻そうと躍起になっているのかもしれない。感情を失っては、もう取り返しようが無いというのに。それを知ってか知らずか、黒条は含むところ無く話した。
「駆逐艦や軽巡洋艦は装甲が薄い、魚雷一本で簡単に沈むから、その隠密性と機動性を生かせなければ最悪咬ませ犬で終わる。だから時として無謀な戦術を強要されることもある。それに対してお前は、いつも無茶ばかりだ。自分の力を過信して何度も体当たりしては、自分の命を削って無理やり結果を持ち帰ってくる。」
「まあ、人間の枠からちょっとはみ出した程度の身ですから、そのくらいしないと何も得られないんですよ……それ故か、彼女達を扱うのは不思議と頭に馴染みましたが。」
「ん、突っ込んでくると思ったが、まさかノータッチか。」
「力の過信なんて、むしろ当たり前のようにやらないと。弱いと思い込んでいては前に進めませんから。」
「それ、いつか死んでも手放したくないモノができたとき、苦労するぞ。」
「人外が人並みの幸せを願っていいはずがないでしょう。」
「その言葉、山葵の前では言ってやるなよ。」
黒条は自分が怪物だとわかっている。人間として接してはいるが、本来トモダチなんて関係を築くことはできない相手なのだと理解しており、それは柘榴も同じだ。だが、山葵はそうじゃない。常人にはあり得ない超回復も、ただの人間には任されるはずのない作戦へ参加した姿も、常軌を逸した鉄面皮も見せてきたのに、それにも関わらず彼は自分を人間だと信じ込もうとしている。まるでそうすればいつか自分と同じ場所に立てるようになると、そう本気で思っている。何がそうさせるのかはわからないが、そこまで執念を見せられると、もう無闇に突っぱねたところでどうしようもないと感じた。非情だが、いつかそれを彼が後悔する時までは、彼の理想に付き合うと決めている。
「自然と、関係が消えれば良いのですがね。」
「無理だろうな、人間としてこの世に生まれたなら、それからどう変わっても業には逆らえないだろう。」
完膚なきまでに人間を捨て去れたのならば、その
「そう言えば、もうすぐ柘榴君が実習を受ける時間ですね。」
「ああ、山葵と対戦するらしい。見ていくか?」
「いや、僕は長良さん達と約束がありますから。甘いものをご馳走する約束をしているんです。」
「ははっ、相手の士気が異様に高いって報告があったのはそのせいか。これは一本とられた。」
「良い指揮官の条件は、結果に拘り貪欲に勝利を求めることではなく、まず味方の信頼を得ること、そして士気を高めること。それを僕なりの形で実行したまでです。それに、これもまた戦略の一つでもあります。」
「指揮官と言っても、それは前線に立つ人間のやる事だが…まあ参考にさせてもらうとしよう、折角だから俺も付き合っていいか?負けたとは言え懸命に戦ってくれた、その分をちゃんと労ってやらないとな。」
「構いませんよ。争いの後は仲直り、子供でもできる人間の法に準拠するとしましょう。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「まだ見つけられないか?」
『申し訳ありません、全力で索敵をしていますが、依然として発見できておらず…』
「元々相性が悪いからそれは責めない。けど海面はよく見張れよ。」
『了解です。』
モニターを睨みながら報告を聞く柘榴は、少し焦っていた。待てど暮らせど一向に戦闘が始まらないのだ。早いうちに叩いて勝負を決めたいのだが、演習の開始を告げられてからかれこれ10分は過ぎた、普通ならばとっくに会敵し、砲火を交えていてもおかしくない頃合いだというのに、そうならない。時間制限があるわけでもないので、その気になれば延々この不毛なかくれんぼを続けても良いのだが、敵が敵だ、そんな悠長に構えていられない。
「くそっ、
いつも、黒条と紫なんて一人だけですら胃もたれするような規格外のコンビにくっ付いてるくせして、ちょっと驚かしただけで喚く度胸の無さに、やたらめったら笑顔を安売りする、正直言って嫌いなタイプの男だ。いっそ女に生まれれば良かったようなものを、あれがいずれ家長になるというのだから、親もさぞガッカリしていることだろう。
そして、そんなへっぽこに対して遅れをとらされているこの状況、もはや苛立ちを通り越していっそ自分が哀れに思えてきてしまう。
「やるだけやる、か……索敵を距離1000前後を重点的に行え、速度は低速を維持しろ。ソナーは常時使用、常に水面下の動きに…」
注意しろ、という前に、耳をつんざくような破裂音がヘッドセットのスピーカーを震わせた。鼓膜の痛みすら覚える爆音から逃れようと、思わずヘッドセットを放り投げそうになるも、すんでのところで再び耳元に引き寄せる。
「何があった!?」
『魚雷です!後方から何本も…きゃあっ!!」
繰り返される爆音に混じって他の艦娘達の悲鳴が聞こえてくる。恐れていた事態が起こってしまったらしい、こちらが発見できないうちに準備を整えられてしまった。逃げろという叫びも、パニック状態に陥った彼女達には届かない。水の弾けるような轟音を何度も聞かされ、それが止むころには耳に入ってくる音にジリジリとした雑音が混ざるようになってしまった。
「……大丈夫か?」
『はい…なんとか…けれど機関が損傷してしまって……』
「いや、もういい。俺達の負けだ…」
『そんな、動けないだけでまだ艦載機は…!』
「お前の役割対象は潜水艦じゃないだろ、そういうのは駆逐艦の仕事だ。けど、その肝心の随伴艦だって全員動けない違うか?いいから黙って帰ってこい。」
蚊の鳴くような声で了解の意を示した旗艦との通信を切り、最後にプツリと音を鳴らしたヘッドセットを頭から引き剥がす。悔しい、山葵に負けたどうのではなく、純粋に敗北が悔しい。奥歯をギリギリと噛み締め、テーブルに額と拳を打ち付ける。勝手にこちらが見切りをつけただけで、まだ終わったことになっていないのだが、それでも頭がはち切れそうな程増幅した衝動を抑えられなかった。堪らずもう一度、それでも飽き足らずもう一度、額よ割れよと言わんばかりに、無骨な鉄板の張られたテーブルに、激情をぶつける。痛い、まだ完治の診断を下されていない腕の患部も、まだ終わっていないと諌めようか悩む監督官の視線も、自尊心を切り裂く自虐も。
「くそっ、なんだよ!なんだよ!なんだってんだよ!なんだって何やっても弱いんだよ!俺は!!」
四度叩きつけた頭部を起こすと、目元にぬるりとした生暖かいものが流れてきた。人間の本能が嫌悪するその紅い液体が口の中に入り込むと、塩辛い鉄の味で口内を満たし、すぐさま昂った心を凍結させた。たかが体液を舐めたくらいでこうもあっさり怒りを解いてしまう本能もまた腹立たしく、八つ当たりの代わりに怒気をたっぷり含ませた溜息を、肺を空にする勢いでつく。
「……俺の負けだ、降参する。」
「は、はい、わかりました…!」
恰幅だけは良い監督官はテラテラした脂汗を流しながら、嫌に這いつくばった態度で言葉を絞り出す。まだ20歳にも満たない自分によくそこまで腰を折れたものだ。そんなことだからいつまでも大したことのない階級に据えられ、新人のお守りなどさせられるのだろう。
みっともない猫背をさらに丸めながら机の上のマイクに向かって演習の終了を告げた監督官は、こちらを一瞥するなり薬箱を取って来ると言って、そそくさと部屋から出て行った。大袈裟だとは思ったが、試しにグイと額を手の甲で拭うと、はたして黒く変色しつつある血液がべっとりと付いていた。血ぐらい何度も見てきたので、今更その程度では狼狽えたりしないが、今回の結果がどれだけ悔しかったかが確認された。再度湧き始めた苛立ちに従って血濡れた拳を机に打ち付ける。生乾きの血が拳の形を机に刻み込んだ。
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天井に付けられたスピーカーから演習の終了、それに伴ってこちらの勝利を告げる放送を聞いた山葵は、次の指示を待つ艦隊に帰還を命じた。まだ暴れ足りないらしかったが、柘榴側の艦隊に大きな被害を与えていたことも耳に入っていたし、何より柘榴自ら投了したと聞いて満足したので、ほんの少し強めの口調で、それこそ手間のかかる妹に言って聞かせるようにして、帰ってくるよう伝えた。
今座っている椅子に初めて座った時から続く緊張からの解放、また酷くあっさりと終わってしまったことに対する拍子抜けから、背中を思いっきり背もたれに押し付けて天井を見上げる。
「柘榴君、悔しがってるだろうな…けど、君が水雷戦隊を連れて来たって、僕は負けてあげないっすよ。」
思いがけず口からそんな言葉が漏れてしまったことの照れ隠しに、勢いよく立ち上がると、防音処理のせいでどこか圧迫感のある小さな司令室から出ようとドアノブに手をかけた。向かいの部屋にいる柘榴と鉢合わせたらどうしようかと思いもしたが、時間を置いたら逆に顔を合わせてしまう気がしたのでやめた。
「なんか甘いのが欲しいっすね…折角だしどっかに寄るっすかね〜。」
その後向かった甘味屋で、預かった艦隊の少女達と賑やかに話をしている紫達と出会って、慌てて自分の艦隊も呼んだのだが、彼女達が到着する前に紫達は出てしまった。仕方ないなと思ってそのまま続行したのだが、いかんせん潜水艦の少女達というのは、見た目年齢にそぐわないグラマラスな体型をしている上にやたら甘えてくるものだから、周りの逆に犯罪者でも見るような目を向けられてしまったのだった。
33話でありました、しばらくはこんな感じで紫君達が普段どんなことしてるのかを書いていきたいと思います。
最近体調が優れないことが多く、尚且つまとまった時間が確保できないのが活動する上で大変辛いですが、それでもなんとか続けていきたいと思いますので、更新した際にはお手にとっていただけると幸いです
次週はお詫びも兼ねてちゃんと投稿しますので、お楽しみに