序章:温もりを忘れた青年が提督になるまで   作:影乃と月ノ神

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ここ、何も書かなくていいような……

まあ、なんとなく空白があると個人的に寂しいのでこれからも何かしら書いておきますね


4:常世との狭間で

 

 夕暮れ、それも空が紅に美しく染まる時間ではなく、夜の獣が闊歩しはじめる逢魔時(おうまがとき)。一等星も顔を出しはじめるそんな時間、古びた灰色の施設の周りの土地は辺り一面を煌々と照らされていた。撮影に使うような大掛かりな照明器具があるわけではないし、陽も水平の彼方に沈んでその姿をくらましている。それでは何故明るいのか、焼き払われた大地が僅かに残された最後の草木を燃やしているのだ。

 

 いや、草木だけではない。硝煙の臭気が漂うこの地には、人間と(おぼ)しき数時間前まで生きて砂浜を駆け回っていた生命が、動かぬ肉塊となって転がされていた。その幾つかに燃え移った炎が、こうも大地を美しく、残酷なまでに神秘的に輝やかせているのだ。

 

 漠然と冥界を彷彿とさせるようなその地を、彼らと同様先程命を奪われた天凪 紫(あまなぎ むらさき)は、その場にいても欲しくない顔を求めてノロノロと徘徊していた。何故探しているのかはわからない、ただ呆然と歩き、見つけた死人の顔を覗いてはこれでもないと他を当たる。死んだ自覚すらないのに、これではまるで亡霊だ。我ながら気味が悪い。

 

 それを思ってもなお歩き続ける体に黙って従うと、やがてこれから炎が乗り移ろうとしている死体の元に辿り着いた。柔らかな光に照らされる横顔を見て、それが自分の探していたものだとすぐにわかった。先ほど身代わりになることでしか救えなかった自分の大切な無二の親友、南谷 茜(みなみや あかね)だった。余程恐ろしい目に遭ったのか、それか突然命を絶たれたのか、もう話しかけてくることのない彼女の目は見開かれたまま、虚をつかれたような、それでいて何かにすがろうとしていたかのような表情で生の時間を終了させられていた。

 

 虚ろに水平線を見つめ続けるその瞳を閉じてやると、それまで体を支配していた何かが抜け落ち、代わりにそれまで押さえつけられていた感情が目から溢れ出てきた。拭っても拭いきれない雫は、既に冷え切った彼女の肌に僅かな温もりを伝えようと留めなく降り注ぐ。こうしていればいずれ彼女の身体に熱が蘇り(まぶた)が勝手に開かれるのではないか、という非現実的な淡い思いが僅かな希望を生んだが、すぐに敢え無く(つい)えてしまった。死者は死者、自分と同じようにもう戻ることはないのだ。

 

 不意に横を見れば、あのメイドが入っていた携帯端末が転がっていた。ど真ん中を撃ち抜かれて風穴が空いている、これでは中にいたアプリケーションも元に戻せない。これもまた、救えなかった物の1つであるらしい。

 

 遺骸の側で悲しみにくれていると、いつの間にか誰もいなかったはずの炎の地に誰か立っていた。軍の人間だろうかとよく見てみたが、あの特徴的な白や黒の軍服を着ていなかった。自分と同じように、いたってラフなシャツに薄手のパーカーという出で立ちだ。フードを深々と被っているせいか、目元まではよく見えない。

 

「何で泣くんだよ?お前も既に死んだ人間だろうに。」

 

 自分の側まで近づいてきたその人は、遺骸を挟んで目の前に立つと、そう声をかけてきた。男だった。何処かで聞いたことがあるような、かと言ってあまり知らないような若い青年の声。ともかく、知人の誰かではない。

 

「見知った人間が死ねば、誰だって悲しいだろ。」

「そうか?寧ろ仲間が増えてよかったじゃないか、日頃の行いが良ければみんな仲良く天国とやらにいけるぜ?」

「黙れよ、天国なんて地獄となんら変わらない。」

「永遠に楽できるんだ、お前としては万々歳だろ?」

「僕はそんな終わりのない退屈なんて望んでない、生きれるものなら生きたかったさ。」

「じゃあこいつを見殺しにすれば良かったろ、お前ならあの状況でも簡単に生き延びられた。」

「黙れ」

 

 悲しみの代わりに湧いて出てきたドス黒い感情が、目の前の男を()め付ける。人の感情をまるで無視した反論を並べ立てるこの男が、いっそ喉元を喰いちぎってやりたい程に憎らしかった。

 

「おーこわ、でも睨むだけか?なら全然怖くねえ。」

「そう、じゃあ一度死んでみるといいさ。」

 

 男が逃げる前に的確に喉を鷲掴みにし、そのまま持ち上げる。普段であれば、死んだ身なのに何故実態を持って触れることができるのか疑問に思うところだが、今は目の前の男への憎悪で頭がいっぱいでそれどころではない。

憎しみと怒り、また情けない自分への侮蔑、友を殺したのは自分ではないという事実を求める渇いた欲求、それら全てが坩堝(るつぼ)と化した脳で混ざり合い、混沌を生み思考を狂わせる。先程の男の言動は、そんな危うくなった精神の地雷を見事に起爆させた。だから殺すという選択肢がとれる。目の前の生命が人の形をしていようが、()()()()()のフォルダに登録された時点でその選択肢に変更はない。

 

啖呵を切っておきながら顔を青くしてもがく男の首を、頚椎を砕かんばかりにさらに締め上げると、諦めたかのか、はたまた強がったのか、ニイッと口角を上げてまた語りかけてきた。

 

「流石に…純粋な悪意だけあって、強えな……」

「死を侮辱したんだ、ならそれ相応の覚悟があると見なすよ。」

「ははっ、かはっ…じゃあ茶番はもうこの位にしておくか…」

 

 そう言った男が不意に指を鳴らすと、彼の後ろに映る全ての背景が黒に染まった。足元で辺りを照らしていた炎も何処かへ行き、完全な闇の中に呑まれた。

 

「……何をしたの?」

「いい知らせと悪い知らせがある、悪い知らせは…」

「っ!……消えた?」

 

 確かにこの手で掴んでいたはずの男が、忽然と姿をくらましてしまった。かと思えば右斜め後ろ、耳のすぐ側で男の持つ狡猾さが垣間見える耳障りな声音が聞こえてきた。

 

「お前に俺は殺せない。」

「へぇ、超常的な存在だから許されるってことか…」

 

 瞬間移動など生まれて初めて見たが、タネも仕掛けもないのだろう。マジックかなんかだと思いたいが、現に自分が意思と実態を持って動いていることがマジックで説明できるとはとても思えない。たった一瞬の間に毒気を抜かれてしまった紫は、この男には勝てないと訴える本能に従い、白旗を揚げた。

 

「で、いい知らせは?」

 

 そうこないと、とでも言いたげにニヤリとする男にまた神経が逆撫でされるが、感情に任せて話しが聞けなくなるほど、自制が効いてないわけではないので、苛立ちを押し殺して話を聞く。

 

「実はお前がさっき見ていた光景、あれは全部嘘っぱちだ。俺が見せていた。」

「どう言うこと?じゃあみんなは、茜は今どうしてるの!?」

「まあまあ落ち着けよ。実を言うと、お前が死んだのはついさっきの事だ。ほんの1分程前。」

「じゃあ茜は生きてるの!?」

「お前らを襲った化け物に食われてなければ、まあ少なくともまだ死んじゃいないだろうな。」

 

 茜が生きている、それだけの事実がこの時どれ程の希望となったかは計り知れない。つい先程見た悪夢ですり減った心が再び元の形に戻ろうとしているような心地さえした。

 

「大層喜んでるみたいだな、だがそう浮かれてばかりじゃいられないぜ?さっき見せたのは嘘っぱちって言ったが、これから起きる未来の話でもある。」

「じゃあ、結局茜は死ぬの?」

「お前がここで大人しくくたばっていればな。」

 

 何となく、この男が何を言いたいのか読めてきた。思わせぶりなこ言葉からしておそらくだが、この男はざっくり言えば自分の復活を望んでいる。そこになんの利益があるのかは知らないが、そういうことなのだろう。でなければ、態々こんな手の込んだ真似はしないと、勝手に頭の中で解釈しておく。

 

「なら教えろよ、茜を助ける方法。」

「話しが早えな。ま、そういうのは嫌いじゃねえけど。だけど、本当にいいのか?俺の言う通りにすれば、この先日常なんてものとは程遠いお前が生きてきた場所とは真逆の世界が待ってる。どれだけの災厄が降りかかるかもわからねえ。俺なら、今すぐここで手を切って仏さんの所に行くけどな。」

 

 それならば何故こんな話しを持ちかけたのか聞くと、あっけらかんとした表情でただ退屈しのぎとだけ言った。こんなわけのわからない男の良いように使われるのは至極癪であるが、茜を救う手立てがあるならば、それに乗らない道理などこの時は無かった。

 

「いいよ、君の手を取る。茜を救えないまま永久に後悔するより、災いが降りかかるほうがマシ。それにもう誰かを失うのは御免だ。」

「じゃあ交渉成立だな、ええと・・・」

「紫、天凪 紫だよ。」

「御大層な名だな。まあいいさ、お前の()になってやるぜ紫。ついでだが俺は名前がねえ、後で勝手に付けといてくれ。」

 

 そうして、また謎の男が暗がりの中に消えた。かと思えば、自分の意識もまた闇の中に溶けていったのだった。

 

 




ここ数話、嫌に中身が薄いなぁと思っております、どうも影乃です。

前回のコメントで、「題名がナルコレプシー等の病気を患っている方々を皆ダメ人間扱いしているようで嫌な気分になる」とのご指摘がありましたので、題名を変更させていただいております。もし同じように不快な思いをされた方がおりましたら、この場をお借りしてお詫び申し上げます。大変、失礼いたしました。悪意があったわけでは当然ございませんが、これからはそう言ったことに対して細心の注意を払えたらと思います。
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