序章:温もりを忘れた青年が提督になるまで   作:影乃と月ノ神

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艦娘はまだ出ません!本当に申し訳ない!
それでも良いよって方!早よ出せって方!読んでくださるその両方の方が僕は大好きです!(もちろん他の方も大好きです!)


5:遺されて

 状況は最悪だ、遠くで撃ってきていたと思っていた化け物はもう浜のすぐ近くまで迫ってきており、既に何人もの生徒が凶弾によって倒れている。メイドさんが教える道の通りにみんなをまとめて逃げているが、向こうの射程距離が長く、いつまで逃げればいいのか全く見当もつかない。メイドさん曰く、逃げた先には既に廃業してもぬけの殻になった工場施設があるそうだが、着弾した地点のアスファルトをいとも容易く(えぐ)ってしまう怪物達の砲弾の前に、工場の壁がどれだけ信用できるかわからない。それに、海の方を振り返れば空に沢山の黒胡麻のような点が見える。はっきりとは見えないためその容姿はわからないが、きっと化け物が持つ航空兵器に違いない。仮に工場がやつらの射程圏内から外れていても、飛んできたあれで蹂躙されるだろう。

 

(それでも逃げなきゃ…!私が死んだらダメなんだ!)

 

 きっと、今死ねばあの世で彼に説教されてしまうかもしれない。下手をすれば永遠にごめんなさいをしなければならないのではないか……いや、どうだろう。勝手に庇っておいて死んでしまったのだから、非はあちらにあるのではなかろうか。となれば予め説教の文句を考えておく必要がありそうだ。

 

(ん?いやいや何言ってるんだろ私、何死ぬ前提で考えてるの?)

 

 自分なんかよりこの状況下でずっと役に立てるはずなのに、それを理解した上で尚、最後まで苦しい思いをして自分を助けてくれた天凪 紫(あまなぎ むらさき)という自分の大切な親友、否もう1人の家族が自分を生かしてくれたのだ。だから、それに応えてちゃんと生き延びる義務が自分にはある。やはり死んだら彼の説教を頂戴しなくてはならない。

 

「茜様!工場までの距離残り100です!」

「あいつらの攻撃届く!?」

「わかりません!ですが先程よりかなり精度が甘くなっています!そろそろ射程限界かと!」

 

 それならば、まだ希望はあるかもしれない。少しでも長く工場の中でやり過ごして、その間に軍の人に化け物を倒してもらえばいい。それでみんな助かる。

 傷付いた者を庇いながらも、ようやくたどり着くことができた廃墟に、みんなして転がり込む。もうみんなはヘトヘトに疲れてしまっていた。運動部に所属していればまだ余裕があったかもしれないが、その場合はその場合で怪我人の杖を任されて結局疲れていただろう。

 

「お疲れ様です茜様。」

「ねえメイドさん、ここ、どのくらい、保つかな…」

「元々は火薬の製造をしていたそうです。建築に関してはあまり存じあげませんが、万が一の時を想定して、それなりに耐久性を持たせていると思います。奥の方の倉庫なら、ここよりも丈夫な造りになっているはずなので、休息をなさるのであればそこの方がより安全でしょう。」

「火薬、引火したりしない?」

「正規の手続きを踏んで廃棄された施設ですから、当然原材料から製品に至るまできちんと処分されているはずです。ご心配なさっているようなことはないかと。」

 

 それを聞くと、できる限り早く呼吸を整えて、一足先に起き上がる。そして全員が落ち着くのを待った。しっかりしないといけないのは自分だ、メイドさんを預かった自分はみんなをまとめ上げなくてはならない。先生がいるからと言って任せてしまってはダメなのだ、彼らは緊急事態のプロじゃない。メイドさんの方が断然頼りになる。

 場にいる全員の呼吸が整ったのを見計らって、怪我人から優先的に倉庫に運ぶように指示を飛ばす。ある程度なら手元にあるものでも手当てすることが可能だし、ここでビクビクしているより、倉庫の方がまだ安心して手当てに専念できるだろう。

 

(でも、偉そうに指図してるけどこれ全部メイドさんの指示なんだよね…)

 

 完全に伝書鳩のようになってしまっている自分の状況にかなり歯痒いというか情け無さを感じるが、まあ仕方ない。教師にも敵わない相手に自分が敵うはずがないのだから。故にそこは、所詮一般ピーポーの女子高生なのだと頭の中で割り切ってしまう。

 倉庫に移動した後も、みんなが落ち着くことはなかった。だがそれも当然だろう、誰しもあんな化け物に襲われた経験など持ち合わせてはいないし、逃げてくる途中言葉は悪いが嫌なものだって見たり聞いたりした。それに加えて、外からは未だに砲撃の音が聞こえてくる。リラックスしろなんていうのが無茶なのだ。

 

(みんな怖いよね、私だって怖い……でも、お互い怖いこと共有したって、意味ないじゃんね……)

 

 

(紫は、こんな時どうするかな……)

 

 

だが、それはとんでもない迂闊だった。何故そのようなことを今この場で考えてしまったのだろうか。他に考えることがあるのに、考えてはいけないことだったのに。しまったと思ったが、気付いた時にはもう目頭が熱かった。逃げる途中は恐怖で麻痺していた感情が、怒涛のように溢れてくる。

周りの生徒に気づかれないようにそそくさと倉庫を抜け出し、工場の中を走った。どこでもいい、取り敢えず誰にも見つからない所が良かった。

 

(こんな時に、何やってるんだろ私…)

 

 残された古いコンベアの下に、縮こまれば入れそうな空間があったので、その中に潜り込む。ここなら、誰にも見つからない。

 

 最初はちょっとだけだった。だが次第にサラサラと、最終的には大粒の涙がボロボロと膝の上に落ちて、溜まる場所も知らずに我慢できなくなった嗚咽と共に下に流れていった。

 

「茜様?泣いておられるのですか?」

 

 パーカーのポケットから、不意に声が聞こえてきた。無視したい気分だったが、相手がメイドさんならそうもいかない。けど、今の自分に普段通りの答えの選択肢など、頭の中に用意されていなかった。

 

「見りゃ、わかるじゃん…」

「申し訳ありません、でも…」

 

 そうだった、メイドさんは携帯のカメラ越しにしか外を見られないのだった。先程の一言が、一体どれだけ意地悪に聞こえただろうか。

 

「……ごめん、嫌な態度、取っちゃった。」

「いえ、こちらこそ無神経が過ぎました。非礼をお許しください。」

「それさ、メイド道も大事かもしれないけど…もう私達、そこまで(かしこま)るような仲じゃなくない…?」

「その仲故に、この口調を許してくださっていると認識しておりますから。」

「そっか…じゃあもう言わない。」

「ご厚意、感謝致します。」

 

 不思議だ、メイドさんと話していると心がすごく軽くなる。辛いし、悲しいのは変わらないが、どうも彼女の前では笑顔でいなくてはならない気がする。

 

「メイドさんはさ、紫が死んじゃったこと…悲しくない?」

「申し訳ありません、私は悲しみという感情を、まだあまり理解できていないのです…」

「じゃあ、寂しいとかは?」

「1人で待つことがほとんどですので……でも、あんなんですが、私を生み出してくれたマスターであることに変わりありません。喪失感であれば、ある程度は。」

「そっか…」

 

 少し、ホッとした。答えは大体予想がついていたし、何より恨まれているのではないかと思っていたのだ。自分が無理に連れていこうとしなければ彼が死ぬことはなかったと言われるのが怖かった。

 

「誰も恨んではおりません…マスターも本望だったと思います。」

「あはは、顔に出ちゃってた?」

「はい、茜様はお顔まで正直な方ですから。」

「そんなにわかりやすいのかな…」

 

 そう言えば彼が死ぬ前にも、彼に顔に出やすいから気をつけろと言われた気がする。成る程、ポーカーをやらせたらなかなか勝てないわけだ。

 

「マスターは、いつも茜様に恩返しがしたいと言ってました。」

「十分にしてもらってたけどね。ご飯作ってもらって、勉強見てもらって、メイドさんと遊ばせてもらって。」

「茜様は、欲が少ないですね。」

「そうかな?」

 

 部屋に上がり込んでまで勉強を教えてもらい、更には家の事情を口実に夕食までご馳走になっている。だから十分に自分は図々しく欲ぶかいと言われても仕方ないと思っていた。だろうに、このメイドにはそうは見えないらしい。こう言うところは、なんだか紫に似ている気がした。

 

「マスターはそのことが恩返しになっているとは、ちっとも考えていませんでした。もっと茜様を心から喜ばせられることをしてあげたいと、いつも頭を抱えていましたよ。」

「……その答えが自分の命を捨てることだって言うの?」

「それは…」

 

 駄目だ、また酷いことをいってしまった。だがそれを聞けばこそ、琴線を刺激された心はまた感情に火を点けてしまう。先程途中まで燃やして短くなった導火線は、今度こそ爆弾の中にまで到達してしまった。

 

「自分の身を犠牲にしてまで助けることが恩返しになるとでも思った…?そんなの恩返しでもなんでもないよ!私だけ遺されたって、そんなの私が紫を殺したんだってこの先ずっと自分のこと責め続けるに決まってるじゃん!!」

「茜様……」

「周りの人だって、優秀で学年トップどころか一年生の時点で学校でトップに立っちゃうような紫より、私の方が死ねば良かったってみんな思うよ!そんな辛い未来押し付けるくらいならいっそ一緒に殺してよ!!でなきゃ……!」

 

 かっこ悪い、こんなに怒鳴り散らしておいて急に目頭が熱くなってしまった。制御しようにも、タガが外れてしまった頭じゃもう涙腺が決壊するのを待つしかない。

 

「でなきゃ、一緒に生きようよ……紫のいない世界なんて、私嫌だよ……」

 

 ここまで来たら、あとはもう泣くしかなかった。一言も話さず、ただただ赤子のように泣き(じゃく)った。

 

 こんなに泣くのはいつ以来だろうか、今まで生きてきて、泣く機会なら何度かあった。映画を見た時、1番仲良しだった友達が転校してしまった時、卒業式で部活の後輩から涙を伝染(うつ)されたとき・・・思い出すのも億劫になるくらい、数えられないほど涙を流す機会はいくつもあったが、ここまで泣いたのは物心ついてからは無かった。いや、昔大好きだった祖母が亡くなった時はこのくらい泣いた。そのおかげで、親戚からは泣き虫という後生残る根強い印象を残してしまった。だが、共働きの家に生まれた自分を育ててくれていたのは紛れもなく祖母であり、幼心にも非常にショックな出来事だったのだ。

 

 今は、その時に勝るとも劣らない程の衝撃を受けて泣いている。おそらく、倉庫から離れたのはあまり意味を成さなかったかもしれない。誰もこちらに来る気配がないのが、唯一の救いだ。

 

 携帯端末からこちらを見ているメイドさんは、何も話しかけてはこない。だが、あまりバッテリーが長持ちしてくれないと紫がよくぼやいていた端末の画面を真っ黒にすることなく、姿を現わすことはないがカメラ越しにこちらをずっと見ていてくれた。もしも彼女が生身の人間だったら、寄り添って頭を撫でるオプションは付けてくれただろうか。

 

 ひとしきり泣くと、閑散とした施設に響くのは、しゃっくりの混じった嗚咽と、涙を貯めに貯めて垂れそうになった鼻水をすする音だけになった。誰かにティッシュを差し出してもらいところだったが、代わりにメイドさんがパーカーのポケットに入ってることを指摘してくれた。自分で入れていたのを忘れて、他人の物を求めたことが恥ずかしくなったが、別に周りには馬鹿にする者はいない。メイドさんは笑ったが、意図するのは違うところだろう。

 

「ごめんねメイドさん…ずっと点けっぱなしだと、バッテリーやばいよね。」

「まあ、いつになっても新しいパックに交換しないマスターのせいですし、まだ保ちそうではあるので、お気になさらず。落ち着いたらコードに繋げてくださいませ。」

「うん、そうする。」

 

 だが改めて現実に立ち返ってみると、あまりそう気軽に約束を交わせる場面ではない。窓の外を見ると、すぐ近くの上空にぱっと見た感じ、黒い甲虫のような形をした物が飛んでいる。あれがあの化け物達が使役する艦載機というやつだろう、自分達を探しにきたのだ。

 

「バレないかな?」

「倉庫は扉を閉めておりますし、一応私達がいるここは死角です。万が一誰かが外に出ない限り……」

 

 そこから先の言葉を、メイドさんが遮断した原因はすぐにわかった、窓の外にクラスメイトがいたからだ。ここまで逃げる最中派手に転倒して、酷く負傷した彼女の足取りはおぼつかない。それでも、止めようとしている教師の制止を振り切ろうとしているのは一体何故なのだろうか。だが、そんなことを考えている余裕などなかった。もめる二人の姿は悪目立ちし過すぎており、このままではあっという間に標的にされてしまう。片方が満足に動けない二人がなす術も無く喰い散らかされるのは、火を見るよりも明らかだった。

 

 咄嗟にその場から飛び出して、すぐ近くの引き戸から外に出る。それと同時に、二人は飛行する使い魔に発見されてしまった。

 

「う、うわああああ!!」

「こっち!早く逃げて!!」

 

 いち早く気づいた二人は、一目散にこちらに駆け寄ろうとしたが、負傷している方は教師の急な動作に追いつけず、転倒して一人取り残されてしまった。

 

「先生待って!」

「しまっ…うわあああ!!」

 

 慌てて引き返そうとした教師だったが、転んだ女子生徒との間に化け物が放った火線が横切り、行く手を阻まれてしまった。怖気付いた教師はみっともなく叫んで、彼女に手を差し伸べることもなく施設の中に飛び込んでしまう。

 

「待って…!きゃあああああ!!」

 

 起き上がることも出来ない彼女に、弾丸が降り注ぐ。微塵の慈悲も持たない悪魔は、彼女のすぐ上をけたたましいエンジンと砲の音を撒き散らしながら通り過ぎていった。偶然にも伏せたおかげで命中しなかったようだが、次に旋回してきた時は確実に胴を蜂の巣にされてしまうことだろう。

 

「ああ、早く中に入れて差し上げないと……茜様、何を!?」

「ごめんメイドさん、ここにいて。」

「いけません茜様!やめてください!あなたまで死んでしまいます!茜様!」

 

 必死に叫んで止めてくれようとしている彼女の声から耳を背け、倒れたクラスメイトの元へ駆け寄る。今ならまだ助けられそうな自信があったし、何よりもまた目の前で人が死ぬなんてまっぴらごめんだった。

 

「茜ちゃん!助けてえ!!」

「今行くよ!!」

 

 運動神経には自信がない、それでも何とかしなくてはならない。助けられるのなら、助けたい。

 そう思って懸命にクラスメイトの元へ走ったが、今日の神はとことん自分に優しくしてくれる気はなかったらしい。気がつけばクラスメイトのすくそばで倒れていた。何が起きたかわからず、再び起き上がろうとしたが、力を入れた瞬間、足に強烈な刃物と高熱の痛みが襲ってきた。再び地面に突っ伏すと、頭のすぐ上からあのエンジン音が聞こえて通り過ぎた。新たに出現した方に、ふくらはぎを撃ち抜かれたらしい。見れば教師を震え上がらせた方はまだ遠くで旋回をし終えたばかりだった。

 

(そんな、このままじゃ…)

 

 間違いなく、二人とも死んでしまうだろう。これでは犬死にだ、結局誰一人として救うことはできないということらしい。

 

「茜ちゃん!茜ちゃん!どうしたの!?茜ちゃん!」

「ごめん、撃たれちゃったみたい…」

 

 それを聞いたクラスメイトの顔が、一瞬で絶望の色に染まった。本当、期待外れもいいところだろう。もう一人の自分が側で見ていたら、ただの間抜けとしか評価できないのではないだろうか。

 

「いや…死にたくない!!死にたくないよ!!」

 

 悲痛に叫ぶクラスメイトの言葉は、こんなにも自分が無力なんだという現実をまざまざと見せつけ、心をえぐり傷つけた。悔しくて、たまらなかった。身代わりになることが()()()彼をもう責めることなどできない。ただただ無力な自分は、身代わりになることすら許されないのだから。

 

 旋回を終えた死の甲虫が放つエンジン音はどんどんその音を高くし、鼓膜の振動をより激しいものにしていった。おそらく、もう既にこちらに照準を合わせているだろう。携えた機関銃が一度唸りを上げれば、這って逃げることのない二人の体は一瞬にして穴だらけになり、おびただしい血飛沫を吹き出して地を染め上げるのだろう。

 

(ごめん紫…せっかく繋いでくれた命、守りきれなかったよ…)

 

 敵の射程圏内に入った刹那の時間、届くはずのない謝罪だけ頭の中から捻り出し、間も無くやってくる死神の鎌の痛みを待った。

 

 

 

 




次の次で、艦娘の登場になります。お待たせしてます、申し訳ない気持ちで一杯であります。それでも、僕はこれまで書いてきたことに、何の後悔もありません!書きたかったから書いた、それだけなのです。だから今しばらく、お付き合い願いたいm(_ _)m
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