肉塊か、奴隷か、権力者か。【1部完】   作:まさきたま(サンキューカッス)

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第一部最終話です。


結末。

 少女は唄う。高らかに。

 

 胸に狂気を、心に歓喜を。その両手で掲げた旗に、友愛を。

 

 少年は吠える。雄々らかに。

 

 目に憧憬を、敵に処刑を。その両肩に背負う細剣は、少女の為に。

 

 それが始まりだった。終わりの、始まりだった。2人は行く、己のために。

 

 己のために敵を愛する。やがて、それが自由と安寧の翼となる。これぞ、最低最悪の反逆組織、「自由連合(プロテスタント)」の創始であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暖かく、柔らかな寝床に身を委ねる僕は、窓から燦々と照り付けるまっさらな光に全身を包まれて、やっと重い瞼を開けた。どうやら昨夜は、とても良く眠れた様だった。小柄な僕の体躯を、優しい幸福感が包んでいるのがその証拠だ。まだ、本音を言うと起きたくは無い。

 

 そんな風にボンヤリと頭がよく働かないまま、時計で時刻を確認した僕はギョッと飛び起きることになる。しまった、どうやら寝坊と言っても良い時間に目を覚ましてしまった様だ。このままだと、雇い主様に怒られてしまうかもしれない。仕事は時間の厳守が基本。早く準備をしなければ。

 

 幸いにも、失った時間は仕事に間に合わない程では無い。少々急ぎ足で着替えと食事を済ませれば、十分間に合うだろう。

 

「おはようございますエルメさん、申し訳有りませんが急いで食事の支度をお願いします。」

 

 部屋にいたメイド服の少女に僕はそう告げ、僕は彼女が用意していた仕事用の服に着替える。質素で、それでいて仕事相手に会うのに失礼ではない程度の、僕らみたいな人種がよく着ているスーツの様な服だ。

 

「ああ、ナタリ。君は留守番をしてください。僕はエルメさんを連れ、直ぐに仕事に行かねばなりません。」

 

 服に着替えている間に、僕はナタリにも指示を出しておく。今は一刻が惜しいのだ。同時に出来ることは、同時にこなしておく。服の袖を通し終えると、何やらエルメはチョンチョンと僕の脇腹を突いて、その後食卓の机を指し示した。

 

「おや、食事の支度はもう出来ていましたか? ありがとうございます、では頂きましょう。2人も食べて構いませんよ。」

 

 食卓には、既に食事は用意されていた。まだ、昨日の料理の残りが冷蔵庫にしまってあったようだ。着替えを終え、僕は普段よりペースを上げて食事をノドに通す。

 

 それにしてもパルメ、本当に子宮無かったんだな。少し、損をした気分だ。まぁ、子宮はあまり美味しい部位では無いのではあるが。

 

 

 ・・・この部屋の生ゴミ入れには、縮れた毛が少しばかりはみ出していた。

 

 

 

 

 

 

 一週間前。

 

 ロシェンヌとロックの“闘い”は幕を下ろし、僕はあの狂気に満ちた家から無事に解放された。“闘い”勝利の結果として僕が得たモノは、わずか1月分の食料と、あまり有能では無い人的資源を2つ程だけだった。即ち、ナタリとエルメだ。

 

 無能な人的資源2つとは言え、コイツらは比較的若い。鍛え込めば、肉壁程度には育ってくれる・・・と、思いたい。今後の僕の戦闘スタイルとして、ズラリとロックの様に傀儡を並べる戦法をメインに据えるつもりだ。その為に、僕を守る肉壁は必要不可欠なのだ。もっと強い人的資源が得られればお役御免となるが、暫くはこの2人を使っていくしか無い。よって、コイツらを食料とせず生かしておく方針とした。

 

 それに、僕は別に女に興味が無いでは無い。まだ年頃ではないので、そこまで欲望が強くないだけだ。あと数年もすれば、そちらの目的で使うことも多々あるだろう。

 

「ご馳走様です。エルメさん、では行きましょう。」

 

 ペロリと朝食を平らげると、僕はエルメに声を掛け部屋の扉を開ける。今日の僕の仕事は、ロックから依頼されたモノだ。“闘い”が終わって以来の暫くぶりにリリアンに会うことになる。リリアン自身には何の興味も無いが、僕にとって成り上がる第1歩目の貴重な踏み台となってくれた少女だ。一応は、礼を尽くしておこう。

 

 僕はそう考え、わざわざリリアンが愛用していた化粧品を入手してから、ロックの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに西の外門へ行くと、いつかのロックの店の店員が僕を出迎えてくれた。コイツはひょっとして探査系統の魔法をつかえるのだろうか。一応は、目立たぬように魔法で対策して来たつもりだったのに。

 

 彼に一時労働者として登録して貰い、僕はまた住宅街エリアへと入り、ロックの店へと向かう。リリアンに案内された道を、リリアンに会うために再び案内されることになるとは。運命とは数奇なモノである。

 

 ロックの店の所在は、住宅街エリア内の一角にある。位置としては、旧ロシェンヌ邸のすぐ近所であった。彼は薬屋として勢力を拡大し続けており、既に何件も商人や貴族の家を併呑し続けていた。その敷地面積たるや、今や個人商店としては西の区画でも1、2を争う規模だ。

 

 ロシェンヌ邸の前を通り過ぎると、既に取り壊しは始まっていた。ここも、彼の店の一角となるのか、はたまた倉庫になるのか。

 

「ロック様。D-4が到着致しました。」

「ご苦労である。入ってきたまえ。」

 

 僕は店員に導かれ、店の奥にある大きな建築物へと足を進めた。どうやら、ここがこの店の住居区画のようだ。前世で言うアパートの様に、窓が沢山ついた直方体の建物だった。おそらくロックの本邸ではなく、従業員用なのだろう。本当にここが目的地なのだろうか? 一応、店員に尋ねてみよう。

 

「リリアン様は、ここにいらっしゃるのですか?」

「貴方の問いに肯定します、D-4。」

 

 ふむ、そうなのか。そう言えば、ロックの息子が、現在従業員達の管理を任されているという情報を聞いていた。となると、ロックの息子もここに住んでいるのだろう。

 

 こうして僕は、依頼を達成するためにロックの息子に会いに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

「ギース・バーレイだ。よろしくな、坊や。」

「はい、本日は雇って頂き誠にありがとうございます。」

「おう、存分に感謝しろ。さて、仕事だ。ついてこい!」

 

 ロックの息子、ギースはロック本人によく似ていた。強いて違う所を言うなら、ギースには髭が無いくらいだ。一目で親子だと判断出来る程度にはそっくりだった。

 

「リリアン様のご様子は如何ですか?」

「リリアン・・・様? なんだ、お前ってば面白いな。モノに敬語つかうのか。フハハハハ!」

「ええ。何せ、尊敬すべきギース様の所有物でございます。」

「ほほう! 良い心がけだな。また貴様に仕事を振ってやってもいい。」

「光栄の極みでございます。」

 

 ギースは・・・見た感じでは平凡な印象だ。ロックが持つ、生き馬の目を抜く様な鋭さを感じない。だが、真に能ある者は自身の有用さを上手く隠すと聞く。この男、どちらなのだろうか。

 

「さて、ここにアレが置いてある。頼むぜ、結構“お気に”だったんだ。つい、はしゃぎすぎてしまった。反省だぜ。アレの様子が知りたいんだったな? ご覧の有様だよ。」

「ふむ、了解いたしました。お任せ下さい、コレなら何とかなるでしょう。」

 

 リリアンの姿は、変わり果てていた。全裸で乱暴に吊られている、今の彼女を正気のエルメが見たらどんな反応をするのだろうか?

 

 綺麗に揃えられていた彼女の赤髪は所々引き抜かれて禿げているし、全身の皮膚の至る所が破れている。そして何より目立つのは、顔の部分の右上部だ。黒く焦げていて、目玉がそげ落ちてしまっていた。酷い有様だ。

 

「・・・エルメさん、鞄に詰めてください。」

 

 僕に今日依頼された仕事は、()()()()()だった。性的な目的に使用される人形として加工されたリリアンは、ロックの息子、ギースにいたく気に入られた様で、この一週間は毎日のように使われ続けたと言う。

 

 それにしても、ギースは随分と激しい行為がお好みのようだ。・・・顔の焦げた部分は、人工の皮膚を用いて目立たぬよう作り直すしか無いな。上手く化粧で誤魔化せば何とかなるだろう。目玉も新しいモノを用意せねば。恐らく、一週間程で何とかなるだろう。

 

「いやー、元々の顔の写真撮っとくべきだったよ。いざ修復しようとしたら、元の顔が分かんなくなってたんだもんな。お前がいて助かったわ、ちゃんと修復してくれよな。」

「ええ、リリアン様の顔はよく覚えております。完璧にしてお返し致しましょう。」

 

 僕はそう言ってエルメからリリアンの入った鞄を受け取った。荷物持ちなんかはエルメにさせるべきだが、こう言うのもトレーニングだと考えているので僕は自分で運ぶ様にしている。

 

「にしても、可哀想だよなぁ。このお嬢様貴族ってば、高貴な家系に生まれて気高く育て上げられて、末は商人の性人形だ。オレだったら耐えられないね。」

 

 ぼそりと、ギースは彼女を嘲った。その目には侮蔑の感情が色濃く見える。・・・いちいちモノを見下すなよ。

 

 本当に、コイツは平凡に見えるな。狙ってやってるとしたらかなりキレる、要注意としておくか。

 

「そうでしょうか? 彼女は、きっと本望でしょう。」

「ん? 何言ってるんだお前、そんな訳無いだろ。」

 

 そんなギースに、僕はお嬢様の擁護をしておく事にした。特に意味は無い。

 

「だって彼女は、とても好きだったんですよ。人形。」

 

 そう、あんなにも()()()()()()()()()()()()()。大好きなモノ(にんぎょう)になれて、本望だろう。

 

 僕のその言葉を聞いて、ギースはたいそうおかしかったようで。僕の肩をガシガシと叩き、むせるような勢いで大笑いしたのだった。そんなに、僕は面白い事を言っただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────私は、全てを失った。

 

 父と母は、殺された。

 

 旦那様や奴隷仲間達は、奪われた。

 

 皆が外道(ロック)の所有物に成り下がった。生まれて始めて理解する。自分が、どれ程恵まれていたのか。旦那様が、どれ程すばらしい人間であったのか。

 

 ここは、この国は、地獄だ。分析魔法と言う“生かしておく利点”が有ったからこそ、私の命は助かった。それだけで、私は今も生きている。

 

 そんなものを持っていなかったお嬢様は、目の前で頸を落とされ、全身の皮を剥かれ、みるみるうちに物言わぬ人形に変貌した。その光景は、どこか現実離れしていたから、不思議とショックは少なかった。

 

 暫くして、外道の息子が尋ねてきた。お嬢様の、顔を覚えているか、お前は人形を修復出来るかと。・・・その時のお嬢様のお姿を私は覚えていない。脳が、目の前の現実を受け容れることを、拒絶した。その日も、普通によく寝られた。

 

 この時、やっと私は気が付いた。ショックを受けなかったのでは無く、既にこれ以上無いくらいに、私の気がおかしくなっていたのだと。

 

 そしてようやく、私は泣いた。お嬢様の事では無い。自らが狂ってしまったことが、哀しかった。お嬢様を悼めない自分が哀しくて、泣いた。

 

 ロルバックは私と同様に生かされ、黒服を着て外道の護衛の一人となっている。その姿を見る度、どうしようも無く切なくなった。私と違って、彼は意識を残されていない。私は、命令には逆らえないものの、分析魔法を行使するため最低限の思考回路を残されている。これは、果たして幸なのか不幸なのか。

 

 エルメは、奴に飼われる事になった。そして、まだ生きているかは、分からない。食われているかもしれない。玩具にされているかもしれない。奴の考えていることなど、私には何一つ分からない。

 

 裏切る筈が、無かった。アイツは、信用に値する筈だった。何故、奴はあの日、旦那様の頭を撃ち抜いたのか。私の魔法が間違っていたのか?

 

 ・・・人間が信じられなくなった。何故、私は今生きているのだろうか。何のために、ここに存在しているのだろうか。

 

「仕事だ。分析4番。」

「はい分かりました。」

 

 ふと、私を呼ぶ声がする。私に命令を告げに来た男が居る。私は、逆らえない。黙って、その男についていく。

 

 私は、何をやっているのだろう。ここに、暖かな愛や慈しみの感情は存在しない。誰も、何も言葉に感情を乗せない。回り全員が、奴に見えてくる。

 

 恐ろしくて、何も考えたくは無い。いっそ、私の思考回路も奪ってくれたら良かったのに。私も、物言わぬ人形に加工されてしまえば良かったのに。

 

 誰か、助けて。

 

 私は男に連れられて、外道(ロック)と合流する。今日は、外に商談に行くらしい。其処に私をついて来させ、相手の情報を抜くのだそうだ。精々、感情を抜くことくらいしか出来ないのに、私を連れて行って如何するのだろう。

 

 いや、そうか。商談ともなれば、言葉に感情が乗るのだろう。とても醜く、欲望的な感情が。

 

 コレから私が読み続けるのは、暖かな思いやりの感情では無く醜い欲望だけなのか。・・・きっと、そうなのだろう。

 

 誰でも良い、助けてください。

 

 私を、この地獄から解放してください。

 

 

 

 そんな少女の心の慟哭は、誰にも届かず陽炎のように消えゆく運命にある。今日の商談の資料をニヤニヤとしながら眺めるロックのすぐ後ろに、小柄な少女は付き従う。

 

 彼女にこの先の未来などは無い。彼女はただの、モノなのだから。

 

────その筈、だった。

 

 

 

 

 

 

「汝、隣人を愛しますか?」

 

 突然の声に、少女は目を見開く。ロックの歩く道の先に、唐突に一人の女性が姿を現した。白髪で、髪の長く、まだ若いと言って良い年齢の女性だった。目を閉じたまま、長い髪を揺らしてこちらへ歩いてくる。

 

 彼女は衣服を身に着けていない。かと言って裸でも無い。大きな白い布を1枚纏って、体を隠している。

 

 怪しいとしか言い様が無い。だが、不思議と心の落ち着く声だ。彼女のその言葉の節々には、たっぷりと“慈愛”の感情が読み取れた。何者なのだろう、この人は。

 

 彼女が現れてすぐさま、黒服達がロックの回りを固めた。どうやら、彼女を敵性の存在だとロックは判断したらしい。黒服達は服の中に手を入れ、何時でも銃を取り出せるようにしている。

 

「何か俺に用か? そこの女。」

「これは、ただの世間話。汝、隣人を愛しますか?」

「・・・ふん、なぜ隣人など愛さねばならん。隣人とは即ち、俺の獲物だ。」

「まぁ、大変!」

 

 ロックの答えを聞いたその女性は、パンと両の手を合わせ音を立てた。

 

 

「貴方はきっと、今の今まで愛を知らずに生きてきたのね。でも大丈夫。今日から貴方は、私が愛してあげましょう。」

 

 そう言って、女性は微笑んだ。優しく、暖かな笑みだった。そして彼女の言葉には、虚偽の感情は見られない。・・・この人は本気で、そんなバカみたいな事を言っている。

 

「ふふふ、大好きですよ、そこの銃を構えたお方。そこで、剣を抜いたお方も、皆に守られている貴方も。何も見返りは求めません。何の要求もありません。ただ私が、無償で貴方を愛するだけなのです。どうです、今のご気分は如何ですか?」

「・・・どうやら、この女はただの狂人のようだな。相手にする時間が惜しい、無視して先へ進むぞ。」

「素晴らしい気分でしょう? 人に愛されることは、とても尊い事でしょう? ああ、神様。私はこの方々を愛します。私はこの方々に、この身すべてを捧げましょう。ああ、ああ────」

 

 ロックの言う通り、本当にこの女は狂人らしい。私達を見て自らの肩を抱き、顔を赤らめ恍惚としている。いっそ、私もここまで狂えればよかったのに。

 

 

 

「それは悔しい。とても妬ける。やめてくれ、マリア。」

 

 

 

 その直後の事だった。ロックの頭が、頸を離れ空に舞ったのは。

 

 いや、ロックだけでは無い。・・・黒服達もみな、いつの間にやら地に伏していた。誰一人として、頸と頭が繫がっていない。・・・あんなにも強かったロルバックが、あっさり死んでいる。

 

 私の体も、気付いた時には血塗れだった。ロックに着せられた外出用の華美な服が、体のラインが浮き出るほどにびしょぬれになっていた事に、今まで私は全く気付けていなかった。

 

 そして気が付けば、何人もの人間が私の回りに立っていた。それぞれが手に血に濡れた武器を持ち、物言わぬ死体を見下ろしていた。この人達が、やったのか。この惨状は。

 

「何てこと! シモン、あなたはまたヒトを殺しましたね! もう殺してはいけないと、あれ程言ったでは有りませんか!」

「マリア、許して欲しい。私は君を愛する余り、嫉妬に狂って君に愛される彼等を殺してしまった。」

「ああ! 何と、素晴らしい答えでしょう。そうでしたか、あなたの行動原理は愛でしたか! しかし、もう2度とヒトを殺してはいけませんよ。ヒトを殺してしまっては、そのヒトからの愛は失われるのですから!」

「約束するよ、マリア。私は2度と、ヒトを殺したりはしないさ。」

「ならば、汝の罪を許しましょう。私の愛するシモン、約束ですよ。」

 

 その中心で抱き合う一組の男女。それを見て微笑む周りの集団。

 

 何なんだろう、この人達は。一体何を言っているんだろう。言葉に乗っている感情は真摯である。男は女への愛情を乗せている。女は男の言葉を純粋に喜んでいる。だが、理解が出来ない。

 

「ボス、もう通報されてるっぽいぞ。逃げねぇと。」

「またシモンさん、女を殺してないし。マリアさん、逃げといてください。ささっと彼女の口封じ、しときますので。」

「はーい。ところで、口封じって何をするのかしら?」

「指切りゲンマンですよ。」

「あら、私それ大好き! じゃあシモン、行きましょ?」

「分かった。」

 

 そう言って、2人の男女は去って行った。残された人の殆どは、黒服の持っていた武器や黒服達の肉片などを拾い集めている。・・・そして一人は、私に銃口を向けている。デュフォーと年も変わらないほどの、若い少年だ。

 

「さてとお姉ちゃん、悪く思うな。オレ達、自由連合(プロテスタント)に目を付けられる様な事をしたのを、来世でキッチリ反省しろや。」

 

 自由連合(プロテスタント)、という名に私は聞き覚えがあった。確か、こいつらは政府に対し反逆の意志を示すテロリスト共。

 

 すぅ、と息を吸う。うん、体は自由に動く。恐らく、口も自由にしゃべられる。私に対する傀儡化の魔法は、術者が死んだ為にもう解けている。

 

「待って、私はまだ殺されるわけにはいかない。お願いよ、私をあんたたちの仲間に入れて。」

「あん?」

 

 私は、ここで死ぬ訳にはいかない。ロックが死んだのなら、私を縛るものは何もない。人間というのは欲深い生き物だ。あんなに、殺してくれと心で叫んでいた私が、どの面を下げて死にたくないと彼らに訴えるのか。

 

 でも。

 

「姉ちゃんよ、オレ達はテロリストだぜ。潜伏してる場所をチクられたら終わりなの。仲間にするにはな、それはもう厳重な審査が・・・。」

「あんた達、傀儡化が使える奴が居るのでしょう? だったら私を傀儡にでもなんでもなさいよ。私はかなり使えるわよ?」

 

 確か、テロリスト共は傀儡を代わりにテロの実行犯に仕立て上げる手段をよく使うらしい。それに、今のもデュフォーが好んで使っていた認識阻害魔法によく似ていた。恐らく、似たような使い手がいるはずだ。

 

「おいおい。」

「ここで死ぬ訳にはいかないの。どうしても、やらなきゃいけないことがある。」

 

 私は、その場で頭を地面に擦り付けた。自分より年下であろう少年にだ。意地も誇りも何も要らない。たった一つだけ、私にはやらねばならない事がある。

 

「やらなきゃいけねぇ事、何だよ? 言ってみな。」

「デュフォーを、ある男を、殺さないといけないの。」

「へぇ。うちのリーダーの話聞いてたか? 人殺しはお嫌いだそうだぜ?」

「それでも、アイツだけは殺さなきゃいけない。アイツだけは、許してはおけない。アイツだけは! 八つ裂きにしないと気が済まない!!」

 

 私は、叫んだ。抑えていた感情が暴走し、気付けば声の限り叫んでいた。地面に顔を擦り付けたまま、半ば泣きながら、私は絶叫した。

 

「うっわ! 静かにしろってば。掃除屋どもがここに集まってくるだろうが!」

「資源回収、しゅーりょー。チーフ、帰ろ?」

 

 頭の上に、小さな少女の声が加わった。どうやら、もう色々と拾い集める作業は終わった様だ。

 

「ああ、終わったか。・・・ルター、この姉ちゃんの話、どうだ?」

「ん。・・・マジ。」

「ふむ。・・・悪いな、姉ちゃん。」

 

 プライドを捨てた私の必死の嘆願もむなしく、その男は無情にも剣を抜いた。どうやら、ここで私は殺されるみたいだ。・・・元々、旦那様が負けた時点で私も死んでいたようなものだ、諦めも付く。だがデュフォーの件だけが心残り、それだけだ。

 

 男はそのまま剣を振り下ろし、地面に這いつくばっている私の首筋を振り抜いた。私は、その間ピクリとも動かなかった。処刑で、首を落とされるときに中途半端に避けると、苦痛が長続きするだけだと知っていたからだ。

 

 生暖かい血飛沫が頭にかかり、熱く鋭い痛みに頸を横切られ、私はそのまま死を迎え・・・。

 

 

 

「ほい、終わったぜ姉ちゃん。」

「・・・あれ?」

 

 ・・・なかった。私は、どうやらまだ生きているらしい。

 

「え? 今、私は斬られて・・・?」

「ん。・・・これ。」

 

 混乱している私の傍に立っていた、眠そうな顔をした女が私に何かの残骸を見せる。どこかで見たことがあるような。これって確か・・・。

 

「生体に埋め込まれる情報チップ?」

「おう。これが有ると簡単に政府に追跡されちまうからな。オレ達の仲間になるには、先ずはコイツは抜いてもらわなきゃいけねぇのさ。」

 

 なるほど。首を切り落とす為じゃなく、これを抜き取るために剣を抜いたのか。

 

「ルターの奴が回復呪文の使い手でな。斬って、チップ抜いて、直ぐ治す。どうだい、いい手際だろ。」

「え、ええ。ありがとう。」

 

 なら、先に言ってほしかった。無駄に覚悟を決めたじゃないか。

 

「あんたを信用するぜ、オレは。名前はエルって言うんだ。よろしくな。」

「・・・よろしく。私はレヴィよ。」

「ふぅん、レヴィね。可愛い、良い名前じゃねぇの。」

 

 そういってニカッとその少年は笑った。

 

「オレにもな、やらなきゃいけねぇ事が有るんだわ。オレは生き別れた姉を探してる。そこに居るルターもそうだ。ここに居る皆、何かしらこの世界で理不尽に襲われて、ソイツと闘うために自由連合(プロテスタント)に所属してる。レヴィ、つまりあんたもココに所属する権利があったってことだな。」

「・・・そうなのね。」

「うん、そうなのだ。よし、じゃあそろそろ逃げるぜ? 流石に時間ギリギリだ、急げ皆!」

 

 少年の一声に皆が応じ、互いに手を繋ぎ合う。私の手も、エルにしっかり握りしめられた。・・・ここから、逃げるのではなかったのか?

 

「手を離すなよ、レヴィ。ヨハネの透明化と認識阻害のコンボだ。これで安全に逃げれるってな。」

「・・・成る程。」

 

 そのまま、ざっと7―8人程で手を繋ぎながら私たちは一列に進みだした。やがて、ぞろぞろと掃除屋共が駆けて来たが、私達の横をすり抜けロック達の死体へ行ってしまった。私達には、まるで気付いていない。見事な魔法の腕だ。

 

「改めて、よろしくなレヴィ。あんたの復讐が実現する事、心から応援してるぜ。」

 

 エルが、握った私の手を揺らしながら、人懐っこく話してくる。この少年の言葉は、常に暖かな気持ちが乗っている。きっと、良い子なのだろう。

 

「ありがとう。私も、あんたの姉ちゃんが見つかる事を祈ってあげるわ。」

「サンキュー。ま、正直生きてる可能性は低いとは思ってるがな。ただ、どっかで剥製にでもされてたら、何としても取り戻すつもりだわ。ああ、そうだレヴィ、そのオレの姉ちゃんの事なんだがな・・・。」

 

 そして彼は、思いだしたかのようにその特徴を私に告げた。

 

「黒いメガネかけてる、元料亭の娘のエルメって女の子知らないか? ちょうど、生きてたらレヴィと同じくらいの年齢だわ。」

 

 

 

 

1章終了時点でのD-4の所持品

 

職業用服

水入れケース(数日分)

1月分ほどの肉塊

身分証明書(労働者)

人的資源(ナタリ)

人的資源(エルメ)

 

健康状態:正常

精神状態:正常

LP:10000(支出:住居借賃3000LP、服や家具など雑費:700LP)




第二部は、プロットが完成してから再度執筆を再開します。申し訳ありませんが、しばらくお待ちください。
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