「なにか言うことは?」
「ゼル伝ブレスに夢中になっていた。馬で草原を駆けて敵をブッ飛ばすのは快感だった。アサシン楽しい」
「エヌマ・エ○シュ」ドドドドド
「な、何をするだァーーーッ!!」チュドーーーン
コメント、評価ありがとうございます。タグのご指摘ありがとうございました。修正いたしました。
帰りは真っ直ぐ帰りましょう
中学三年。春。
振り返るとあっという間だったこの中学三年。春の麗らかな風に頬を撫でられるまま、天色のグラデーションで彩られた空を見上げた。
周りはいつになく騒々しく、浮き足立った雰囲気の中で一人頬杖をついて窓の向こうを静かに見つめる姿はどう映るだろうか。
間違いなく「あいつボッチじゃね?」である。
誤解しないでほしい。友人と呼べる存在は今現在トイレへと出掛けているだけで決して、決してボッチな訳じゃない。そう頭のなかで一人芝居をしていると、友人が帰ってくると同時に担任も入ってきた。朝のHRの鐘がなる。ギリギリだなぁ。
教卓へと辿り着くと今日の予定から雑談、それから進路の事へと話題は移っていった。
「そういえば、ヒーロー志望の奴はどれくらいいるんだ?」
その声と同時に挙げられた手は見渡す限り教室全体で挙げられている。嫌な予感がするその光景を眺めていると後方から不穏なざわめきが聞こえてきた。
「おいおいマジかよ緑谷!!お前無個性の癖にヒーロー志望なのかよ!」
「ぅ、うん……」
やっぱり。予想通りの周囲の反応に思わず目を細めた。
小さな肯定と頷きにまた嘲笑が響く。言われた本人は肩身を狭くして机の上を見詰めていた。原作ではたしか、この後かっちゃんに絡まれる、という展開があった気がするが、生憎ともう本物の爆豪勝己ではないのでノート爆破事件、なんてのはないだろう。そして、爆豪勝己を世間に知らしめ黒歴史とさせたあのヘドロ事件も起こりうる可能性は限りなく低い。極力原作通りにしようとはいえ、誰が好き好んで事件と関わるか。ドマゾじゃないのでさっさと帰ろう。うん。
「勝己?どした?もうHR終わってんぞ」
「おう」
ひら、と眼前で緩く振るわれた掌に面を上げて横に掛けてあった鞄を掴んだ。教室内はもう半数以上が居なくなっており、残るはもう僕と友人、そして緑谷だけ。今日は午前だけで終わりの予定だった。なにせ始業式だし。
帰ったら何しようか、なんて考えながら友人の話に適当に相槌をうつ。この友人、良い奴ではあるんだが如何せん爺婆かと云うくらいに同じ話をするので、最初は真面目に聞いていた僕もこの頃ではへー、ふーんとしか言わなくなった。こんな僕と付き合ってくれている以上良い奴であるのには違いないんだけど。
上の空での相槌は、後ろから呼び掛けられた小さな小さな声によって途切れ、意識はそちらへ向かう。
「ぁ、あの、かっちゃん」
「…………」
おずおずと呼び止めるその声に軽く驚きと懐かしさを感じながら、話があるようなので体の正面を幼馴染みへと向ける。隣の友人は僕が体の向きを変えたことで、緑谷へと気が付いたのか少々ムッとした顔をした。話遮られて気分良くないのは分かるけど少しは取り繕ったほうがいいのではと友人の顔を横目に出久へと向き直り眼で話の催促をする。
彼はわたわたと忙しなく手を動かしながら口を開いた。
「か、かっちゃんはさ……どこの高校志望なの?」
なんだそんなこと、いや、本人にしちゃ大分重要な話なんだよ、ね……?
一先ず雄英を志望していることを伝えると何処と無く彼の周りの空気が震えたのがわかった。ぇ、なにその反応。ちょっと怖い。
どうやら質問はそれだけだったようで、あとは何もなく両者互いに別れの挨拶をして教室を出た。
いやしかし、何だったんだろう。
***
友人と駄弁りながら帰る商店街。なんと良いものか!
身ぶり手振りで面白可笑しく話す友人との会話はとても楽しく、帰りたくないなぁなんてことまで考えてしまうほどで。
いやさぁ、だって久し振りなんだもの。幼稚園は言わずもがな、小学校卒業までも友人と呼べる存在がなかった僕だ。話しはするけどなんというか、壁があって気安い感じではなかったと断言できる。
それが!今や!!こうして帰り道駄弁りながら歩き、あまつさえ買い食いもしてしまうという!!!この進歩!!!!
…………あれ、なんでだろ、嬉しいのに何故か涙が出てくる……。
ま、まぁそれはともかくとしてだ。いくら親しい友人とはいえ、これから起こる事件にだけは巻き込まれてほしくはない。だからこそ、こんな楽しい時間ではあるが、寄り道せずにここはさっさと立ち去るのが吉だろう。
そうとなれば、善は急げ。然り気無く彼に商店街を出るように仕向ける。何の疑問を持つことなく歩みを進めていくのを見て内心ホッと息を吐いて、瞬間その脇の路地から聞こえてきた音に小さくビクリと肩が跳ねた。
「─────!!!、~~~!、!!?」
なんだろうか。喧嘩?いや、これは……。
嫌な汗が垂れる。
友人もその物音に気が付いて、恐る恐るとその路地を覗き込んだ。その行動に何故か腹の中が混ぜくちゃにされたような違和感。気持ちが悪い。
「っ、かっ、!!」
悪寒がして咄嗟にその子の口を塞いだ。ダメだ。なんか、これは、感じたことのある空気だ。
本能が警鐘を鳴らす。それに従って友人の頭を掴んだまま思いきり後ろに引っ張りその反動で反対側の手を前に出してそのまま爆破させた。その爆破の衝撃で友人諸ともふわりと空中に数瞬漂い、後方へと着地した。
次の瞬間、その路地からは無数の針が射出され、先まで友人の居た場所付近に深く突き刺さった。あーっとこれは。
ぐちゃり。なにか粘着質なものの音がすると思った。ぬるりとそれは出てきた。
緑色のヘドロ。その隙間から見える“誰か”と弧を描いた剥き出しの歯に、ぎょろりと蠢くその瞳は下品な程に歪んでいた。
◆
緑谷 出久side
三年始業式の帰り道、お気に入りの赤いシューズを見つめながらトボトボと歩いていた。
脳裏によぎるのは先程まで居た学校での記憶だった。
『かっちゃんはさ……、どこの高校志望なの?』
何故そんなことを訊いたのかと思われただろう。でも僕は、その問い掛けの意味を話すことなく彼の返答を待った。
小さい頃からのヒーローへの憧れ。それは一朝一夕で諦めきれるものではなくて。
無個性と診断されたあの日、僕は社会の理不尽さを知り世の中がどれ程の個性主義で溢れているのかも知ることとなった。
無個性と知った瞬間の彼等の瞳は冷たく見下すものばかり。言葉の暴力は日常茶飯事で心は磨耗していった。傍観する者、嘲笑う者、様子を伺う者。他。
それでも。そんな、周囲からの反応のなかでかっちゃんは小さい頃から何一つ態度を変えることはなかった。
幼少時ならばまだしも、歳を得るにつれて周囲からの反応に敏感になることは誰にだって起こりうる。けれどかっちゃんは、そんな周りの反応に一切の感情を揺らすことなく同じ態度を取り続けた。しかし僕は、逆に堪えきれずにかっちゃんから距離をおいた。
怖かった。これ程まで積み重ねてきた年月が、いつか。壊れてしまうんじゃないかと。
かっちゃんは僕をどう思って接してくれているのか。ある種の信頼を形を、僕は自分勝手な恐怖で壊したのだ。どうしようもなく、僕は弱くて、卑怯者だった。
距離をおいた後も、彼の反応が気になってその動向を眼で追いかけるうち、それが習慣となり観察癖が付いてしまった。まぁ、そこら辺はヒーローノートに役立つので嬉しくはあったけど。
見えない位置で汗が滲む掌を拭いながら彼の返答を待った。この際、どう答えようとも僕には関係なくて、ただ彼が“返答”してくれるという事実が欲しかった。
彼は、無個性の癖にヒーロー志望の僕を幻滅しただろうか。嘲笑うだろうか。失笑と共に冷厳な言葉を投げ付けられたら、僕は、
『雄英志望だ。獲るなら、俺はトップに立つ』
言葉をくれた。失笑でもなく、嘲笑いでもなく。僕の目を見て、言葉をくれた。
それでも、その言葉は、今の僕には嬉しくて、でも未来の僕には優しくない言葉で。
こんな、こんなにも。彼と僕との差は歴然としていて。その高い気概は僕には眩しく映った。
彼の隣に立ちたいと、思った。けどそれは、どれ程険しくて厳しいだろう。
幼少期、彼の背中を見続けて思ったそれは今や願いとなりつつある。
─────だって、僕は
「いーいところに、ガキがいやがるじゃねぇか」
「!!?」
背後から投げ掛けられた声に振り向く前に突然息が苦しくなった。
「む、っぐ、~~~~!!!!?」
「いい人質になるぜぇこりゃ。安心しろよ、体乗っ取るだけだからよぉ」
じたばたと暴れる手足はいとも容易く封じられて息が出来ずに、意識は遠くなる一方で。
脳を埋め尽くす助けて、苦しい、の言葉の羅列。
意識が飛ぶ寸前、ぼやける視界に映ったのは、金髪の、
マッチョモリモリキン肉マン。
感想に勘の良い奴がいるぞ!!!!捕まえろ!!!ドドドドド