爆豪勝己に成ってたんだが以下略   作:大仙

12 / 12
連投………になるのか?これ。


一先ずこれで原作一話終了。長い。長いよ。


君が救けを求める顔をしてた

爆豪 勝己side

 

 

 

 

 

  飛来してきたバットほどの太さがある針を避ける。敵が出たのに気付いたのか商店街で買い物や談話に夢中になっていた市民たちは顔を青ざめさせ、誰かが悲鳴をあげた瞬間に散り散りに逃げ出した。首根っこ掴んで引っ張った友人は急な事態に追い付けていないのか母音を微かに発しながら尻餅をついて震えている。まぁ、無理もないよね。僕もそうだったし。

  けれど今は一刻も早く此所を離れなければいけない。物怖じして震えていても捕まってしまうか最悪殺される。

  というかまさか此処で来るのか!結局巻き込まれちゃってるじゃん!しかも原作にはなかった人質が既にいるんですけどぉ!!

  内心ギャン泣きしながら次々と飛来してくる針を爆破で防ぐが、背後の友人を守りながらはキツかった。ので早く逃げてもらおうと声を掛ける。ここは危ないから早く逃げて、と。

 

「何ぼさっとしてやがる!!さっさと行けや!!そこ居られても邪魔だくそ!!」

 

  何故だか超絶口悪くなってる。なんでや。

  いきなりキャラ変わったかのように超絶罵倒された友人は、膝を震わせながら這々の体で逃げていった。よしよし、これでいい。……友人無くしてボッチ確定だけど。

 

「いいなぁ、お前。その“個性”!!コイツよりもよっぽどいい隠れ蓑じゃねぇかよぉ!?」

「黙れやクソカス!!!んでもってさっさと死ね!!」

 

  自然罵倒マウスと化した口とはこれ如何に。

  口調とは裏腹に頭のなかは冷静でBOOOOOM!!!と爆破を食らわせるが、相手は流動体の上に人質持ち。迂闊に爆破を食らわせていれば人質が怪我をおう可能性は十分にあり得た。圧倒的に此方が不利な状況では、他のヒーローたちが来てくれるのを待つしかないがそれでもこのヘドロに有利な個性を持ったヒーローはいなかった筈だ。なら、ヒーローたちを待っているのではなく僕がやらなければ。

  そう思考を巡らせていたらヘドロが何か言ってきた。

 

「お前、逃げねぇってことはコイツ助ける気なのかぁ?ヒーローでもねぇのに」

「うるせぇ!てめぇのその面見てっとムカつくんだよ!!」

「はっはぁ!口の減らねぇガキだなぁ!!分かってんだろ。お前は今の俺に勝てねぇってことぐらいよぉ!!」

 

  グゥ、と思わず喉を鳴らした。確かに彼奴の言うとおり。人質を取られている限り僕は勝てない。

 

「取引といこうじゃねぇか?コイツを離す代わりにテメェが人質になる。なぁに苦しくねぇよ。たった45秒程息が出来なくなるってだけだ!意識手放した身体をくれりゃそれでいい!!コイツを救いてぇんだろぉ?!」

「いいぜ、ノってやる。その取引に」

 

  間髪いれずの返答に驚いたのか目を丸くしたヘドロは、次の瞬間にはまたニヤついた笑みを浮かべていた。

  人質を離した瞬間、それが攻撃のチャンスだ。向こうもそれは分かっている筈だから警戒している。

  原作を思い浮かべるに、彼奴の個性は流動体になれるだけで力は平均ちょい上しかない。だから原作では暴れまわった爆豪君を押さえ付けるのに必死だった。暴れる人を押さえ付けるのは一人が限界なのだ。そこを突くしかない。

  近くに歩み寄って彼奴の目の前に立つ。弧を描いた口元はそのままにヘドロを此方に伸ばしてくるのに比例して人質を包み拘束していたヘドロは除けていくのが見えた。あと、もう少し。

  ……………今っ!!

 

  ヘドロの大半が人質から離れた瞬間、僕は下げていた腕を頭上に上げて手を合わせる。

 

スタン・グレネード(閃光弾)!!!!」

「ぎ、ぃぁあああ!!!!???」

 

  両手の狭間で小規模な爆破が起きて光が明滅し、やがてその光とそれに伴う高音はあっという間に大きくなって辺りを包む。

  眼前で発動させたから最悪失明の可能性もあるだろう。それに頭に響く高音も中々取れないだろう。今の内だ。

  発動させる前に大方の位置は掴んでおいたからすぐに分かった。

  指先に触れた布地を引っ掴んで自分の方へ寄せると同時に商店街出入り口の方へと全速力で駆け出す。本当は爆走ターボで行きたいが意識がない人がいる以上それは出来なかった。

  白光が晴れたのか瞼の向こう側が少し暗くなるのを感知して恐る恐る開くが走るスピードは緩めない。こういう時ほど運動神経高くてよかったなぁとつくづく思う。

 

「待てやクソガキィ!!」

 

  どぅぇぇえええええ!!?復活はやっ!!流石に眼前で手翳したから反応も早かったのか!?

  怒声を背中に浴びながら尚も振り返らずにひた走った。振り向いてる暇なんてないない。

  重苦しい悪意がすぐ後ろに迫ってきているのを感じ取って、咄嗟に抱えていた人を投げたと同時、手足を拘束された。

 

「チ、…………!」

「こっっの、ガキィ!!やっと捕まえたぞ!!!!」

「っん、~~~~~むぐ、んんんん"ぅ"!!!!(離せこの変態くそヘドロ!!!死ね!!うっぇええ気持ちわりぃ!!!死ねクソカス死ね!!!!)」

 

  これ以上ないほどの罵詈雑言だ。自分でも若干引くほどの言葉ばかりだ。超絶罵倒マウス進化しすぎでしょ。

 

 

  手足からの拘束は徐々にキツくなっていくと感じるのは僕の力が入っていないからだろうか。酸素が薄くなって呼吸も浅くなっていく中で出来うる限り最大の力でもがいて爆破しても、更に苦しくなっていくだけだった。

  キツい、苦しい、という至極単純な単語の羅列が頭を埋め尽くしていくけれどそれで意識を手放したらダメだ。纏わり付いてくるヘドロを振り切るように顔を反らしても意味はなく。

 

「─────中学生が人質に!!」

「─────有利な個性持ちが居ねぇ!このままじゃ、」

「─────『ダメだ』!!これ解決できんのはこの場に居ねぇぞ!!」

 

  聞こえてくる野次馬どもの声。謗念に包まれたヒーローたちの声。

  いつもなら何とも思わなかったその声は、今はとても頭に響いて心に重い石を積み上げていく。

  苦しい、つらい、苦しい。くるしい!!

 

  それでも意識を手放すなと本能が五月蝿く訴えるから切れそうな意識の糸を必死に繋ぎ止める。意識が朦朧としているからなのか聴覚が鋭くなっては色々な音を拾っていく。

  原作知識があるからと調子に乗っていたのかもしれない。もう少し慎重な考えをしていれば何か変わったのではないかという後悔の念は、馴染みのある声で掻き消された。

 

「かっちゃん……!!!!」

「いず、く……っ?!な、……で!」

 

  遠目に見える深緑の癖っ毛はどんどん此方へ近付いてくる。その後ろで、焦ったように手を伸ばしたヒーローが見えた。

 

「馬鹿が!!自殺行為かぁ!!?」

 

  嘲笑うヘドロの目玉に向かって出久君は背負っていた鞄を投げ付ける。見事に命中したのか悲鳴をあげたヘドロの拘束が大分緩んで、咄嗟に酸素を吸い込むも、辺り一面火が燻っていて苦しかったが意識は先よりも大分はっきりとしてきた。

  咳き込みながら眼前でヘドロを掻き分ける幼馴染みは、恐怖にか涙を目の縁に溜めながら震えていた。

 

「げほっ、かは、っはぁ、逃げろ!!出久!!!何で来た!!」

「だって、かっちゃんが、!体が、勝手に!!……どうしてって、分かんないけど!!」

 

  甦るのは、原作での台詞。彼は、この後─────。

 

「─────苦しんでる幼馴染みを、放っておける訳ないだろ!!!」

「────────……!!!」

 

  恐いだろうに、口元を歪ませながら型どった笑みは大層歪で、でも、これ以上無いほどに僕の心を勇気づけた。

 

「もう少しなんだから、邪魔すんじゃねぇクソガキがぁ!!!」

 

  憤怒に満ちた敵の声が、鼓膜に響く。眼前の幼馴染みは、顔を青ざめさせる。

 

「うるせぇ」

 

  たった一言。それは、自分でも驚くくらいに激情を押し込んだような冷たくて苛烈な音を宿していた。

  口角が上がる。眦を上げて背後の敵を睨み付けた。瞳が燃えるようだ。掌も、汗腺も熱い。それでも"それだけ"だ。

  腹の底からマグマが噴出したみたいに身体中が熱かった。

  “拘束されていた”腕を力任せに抜いてその反動のままに、ヘドロ野郎の目玉へと容赦なく爆破を食らわせる。

 

 BOOOOOM!!!!

 

「ぎゃぁぁあああああ!!!!???」

 

  痛みで身を引いたヘドロ野郎は尻餅をついて悲鳴を上げた。拘束から解かれた手足を動かして背後の敵を振り返った。掌で爆発が起こる。目の奥が熱い。

 

「─────デトロイト………!!!!」

 

  ……追撃のために振りかざそうとした右腕は、がしり、と大きな手に掴まれた。

 

「スマァァアアアアッシュ!!!!!」

 

 

  後ろから吹く強風はヘドロを跡形もなく吹き飛ばし、発生した上昇気流で水滴が空からポツポツと降ってくる。

 

  観衆たちの歓声が商店街に響くなかで、ヘドロ事件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

  事件解決後、どこかぼんやりとした思考の中で、確かこの後はヒーローたちにサイドキック云々言われたのだったかと思い立ってさっさとその場を後にすることにした。勿論、オールマイトと出久君にはお礼を言った。何だったら後日改めて菓子折りも持っていくべきだろうか。そう考えて立ち去ろうとした瞬間、幼馴染みに呼び掛けられた。

 

「か、かっちゃん……その……」

「………?」

「怪我、その腕、大丈夫……?」

 

  その問い掛けに自分の両腕を見下ろすと、右腕の部分が赤く染まって黒の制服から覗く白シャツにも赤い染みが出来ていた。結構重傷じゃないですかやだー。てかこの出血量で痛み感じてないってヤバイね。でもこれ以上帰り遅くなるのもアレだし、治療は家でやろう。うん。

  一人そう納得して、大丈夫だと伝えると不服そうな顔をしながらもそれ以上深い追求はせずに「そ、そう?じゃあまたね、かっちゃん」と別れの挨拶をして各々帰宅した。

 

 

 

  途中、帰路に着きながら今頃オールマイトに弟子認定されたかなと思ってちょっとばかし名シーンを逃したことに落ち込んだ。いや、まぁ、ストーカーみたいなことしないけどさ。

 

 

 

 

 





助けるときの台詞が変わった出久君。そして罵倒マウスに進化した主人公。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。