真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十七章 青州解放戦・中編・8

 南武陽の敗走から五日、袁紹軍は曹操軍を捉えた。正面十里先、小高い丘に展開している曹操軍は、約三万と見られた。脱走兵が居るとはいえ、九万近い袁紹軍が普通に戦えば、本来は楽に勝てる兵数差である。

 袁紹もそれを分かっており、将兵達に進軍を命じた。大軍という数に任せた、戦法と言えるか微妙な戦い方だが、「華麗に前進」というのが袁紹の基本戦法である為、間違ってはいない。そして、前述の通り、普通ならこの兵数差で負ける事はまず有り得ない。

 だが、兵数差が違ったらどうなるだろうか?

 最初に異変に気付いたのは、南武陽の時と同じく先鋒を務めていた張郃だった。曹操軍の左側に、明らかに曹操軍とは軍装が違う一団が現れたのだ。

 黒を基調とした曹操軍と違い、蒼や緑を基調としたその一団は、「劉」と「清宮」、二つの牙門旗を掲げていた。

 この二つの旗が意味する事を、張郃は正しく受け取った。すなわち、徐州軍が曹操軍の援軍として現れた、という事である。

 しかも、曹操軍の援軍はこれだけではなかった。徐州軍の左側から、今度は紅を基調とした一団が現れた。牙門旗の文字は「孫」。それは揚州(ようしゅう)軍を意味していた。

 この事態に、張郃は慌てて袁紹の許へと駆けた。敵の援軍が現れたというだけでなく、その“兵の総数が自分達と変わらないかも知れない”という憶測を伝える為に。

 

「な、なんですってえぇっ‼」

 

 袁紹は驚愕し、暫し言葉を失った。

 徐州軍が来るかも知れないというのは、流石の袁紹でも予想出来た。名目は兗州から追い出すと言っても、曹操軍の動きが袁紹軍の徐州侵攻を妨害していたのは明らかであり、両者が秘密裏に手を結んでいるのではないかと考えるのは容易だった。

 だが、揚州軍まで来るとは袁紹は予想していなかった。徐州が兗州や揚州と同盟関係にあるのを知らないのだから無理はない。尤も、郭図以外の軍師たちはこの状況をある程度予測していた。

 前述の通りに兗州と徐州が手を結んでいるのなら、徐州が揚州と手を結んでいる可能性は充分にあった。元々、徐州の清宮と揚州の孫家の蜜月振りは噂になっていたし、そんな関係の清宮率いる徐州が、兗州と手を結んで揚州と手を結ばないという事の方が、有り得ない事だった。

 軍師達はこの可能性について献策すべきだったが、曹操軍の奇襲や、公孫賛軍に鄴が攻められた事などが重なって、伝える機会が無かった。袁紹軍にとって不運としか言いようが無い。

 袁紹軍は動きを止めた。兵の数による優位性を瞬く間に無くした事により、袁紹軍の将兵の動揺は大きくなった。しかも相手が曹操、孫策(そんさく)、そして劉備(りゅうび)(勿論、桃香はここには居ないが)と清宮という、現時点の有力諸侯が集まっているのだから、その度合いは何倍にも膨れ上がっていた。

 そんな袁紹軍を丘の上から見下ろす曹操こと華琳。彼女は遥か先に見える袁紹の牙門旗を見つめながら、憐みとも悲しみともとれる表情を浮かべている。

 

「なーに湿気た顔してるのよ。それが曹孟徳のする顔なの?」

「……別に良いでしょ、伯符。」

雪蓮(しぇれん)で良いわよー。これから一緒に戦うんだし。」

「……真名の扱いって、こんなに軽くて良いのか?」

 

 それぞれの部隊から徒歩で華琳の許にやってきたのは揚州軍の総大将である孫策こと雪蓮と、徐州軍の副将である清宮涼。二人共、軍師を連れている。徐庶(じょしょ)こと雪里(しぇり)と、周瑜(しゅうゆ)こと冥琳(めいりん)だ。

 

「まあ、人によっては軽い扱いの人も居るでしょう。鈴々(りんりん)とか、一人称が真名ですし。」

「ああ見えて、雪蓮も考えて真名を許しているのだから、深く考えなくて良いぞ、清宮。」

 

 苦笑しながらそう言う雪里と冥琳。当の雪蓮は何か文句を言いたそうだが、一応戦闘前なので自重した。そんな雪蓮たちを見ながら、華琳も苦笑しつつ、言葉を紡ぐ。

 

「まあ良いわ。雪蓮だけでなく、周瑜も華琳と呼んでちょうだい。」

 

 そうして真名の交換が終わると、それまでとは一気に雰囲気と周りの空気が変わり、袁紹軍と戦うについてどうするか話し合う。

 

「貴女達が来てくれたお陰で、数的不利は解消されたわ。このまま戦っても勝てるでしょうけど……。」

「それでは被害が大きくなるばかりね。」

「うむ。損害を少なくしなければ、兗州まで来た意味が無いからな。」

「袁紹はともかく、周りの武将にはこの状況を不利と見る者も多いんじゃないか? 撤退を進言してくれたら良いんだが……。」

「清宮殿、そう思うのは仕方ありませんが、戦法を考える際はその様な楽観的な考えは捨てるべきです。常に最悪の状況を想定し、策を練る事が最善に繋がるのです。」

 

 涼が雪里に説教されそうになり、慌てて自分の非を認める。いくらこの世界に来て一年以上が経ち、徐州の州牧補佐をしているとはいえ、元々は現代に住む高校生なのだから、考えが甘いのは仕方が無い。しかも、周りに居るのが曹操、孫策、周瑜、徐庶という、三国志に名を残す人物なのだから相手が悪いとしか言い様がないだろう。

 

「まあ、麗羽がどう動くかはともかく、一応手は打ってるから、その結果によってはもう少し兵数が減るかも知れないわね。」

「なら、大丈夫かな。」

 

 華琳の策がどんなものか分からないのに、涼は安心している。それは、彼女が曹操であるからという、涼自身が持つ知識によっている訳である。

 そうして各々の意見を出し合ってから、涼たちはそれぞれの場所に戻っていく。袁紹軍に対してどう動くか決まったらしい。

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