真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十七章 青州解放戦・中編・9

 間もなく、決戦が始まる様だが、ここで徐州軍と揚州軍がここ兗州に来た経緯を説明しよう。

 涼が華琳との会談を終え、徐州に帰り着いたのは、華琳が袁紹軍に対して軍を動かし始めた頃だった。留守居の雪里たちに会談の結果を伝え、色々な感想その他を言われた翌日、下邳(かひ)に雪蓮達揚州軍が到着した。

 尤も、その揚州軍を率いる雪蓮の第一声は緊張感の無いものだった。

 

「はーい、涼。来ちゃった♪」

「何万も兵を連れて来ているのにそんな軽い言葉て、どうなんだ?」

 

 涼は呆れながらそう言った。後ろに居る徐州軍諸将も同じ様な表情をしている。

 とはいえ、雪蓮が連れてきた揚州軍の面々を見れば、その表情も引き締まっていく。

 揚州軍の牙門旗は勿論「孫」。雪蓮たち孫家を表す旗であり、普段は雪蓮の母である孫堅(そんけん)こと海蓮(かいれん)が使う旗であるが、今回の揚州軍には海蓮は居ないので、代わりに雪蓮が使っている。

 海蓮は揚州に残っている。山越(さんえつ)袁術(えんじゅつ)に睨みを効かせなければならない為、孫堅と、黄蓋(こうがい)以外の四天王は揚州に残る事になった。

 そうして今回遠征軍に選ばれたのは、孫策、孫権(そんけん)孫尚香(そん・しょうこう)、周瑜、黄蓋、陸遜(りくそん)甘寧(かんねい)凌統(りょうとう)周泰(しゅうたい)蒋欽(しょうきん)呂蒙(りょもう)諸葛謹(しょかつ・きん)といった、三国志を知る者にとってはほぼ孫呉オールスターと言えるメンバーである。

 

「細かい事は良いじゃない。それより、涼たちはいつ出撃するの?」

「細かくはないが……まあ良いか。出撃に関してはまだ決めてないよ。」

 

 涼は雪蓮の問いに答えながら、彼女達を予め決めていた場所へと誘導した。なお、兵達の誘導は孫乾(そんかん)こと霧雨(きりゅう)がしている。

 下邳城のとある一室、城の中央部に在る為に外への窓が無いその部屋は、今回の軍議用としてあてがわれた部屋である。従来の軍議で使っている部屋はこことは大きく違う場所に在る。同じ部屋を使わないのは、機密保護の観点からである。

 この部屋を用意する際、涼はその辺に気が付かなかったらしく、やはり雪里に怒られていた。

 この部屋には、青州に遠征中の武将を除いた徐州軍の全武将と、揚州軍の諸将が集まっている。議題はこれからどう動くか、である。

 最初に口を開いたのは涼だった。

 

「この間話した通り、俺達徐州軍は現在、約十万の兵を青州遠征に割いている。最新の報告によれば、青州軍と共に各地の黄巾党を駆逐し、このままなら間もなく臨淄に向かえるという事だった。」

 

 涼のその報告に、揚州軍諸将からどよめきが起こる。揚州軍が事前に集めた情報がどうだったかは分からないが、この間の会談などから、黄巾党の数が物凄く多いという事くらいは知っていただろう。それだけに時間がかかると思っていた様だが、予想以上に早い展開に驚いているのかも知れない。

 尤も、揚州軍の筆頭軍師を務める冥琳はこれも想定内だったらしく、然程驚いていない。

 

「では、青州への増援は必要無いと見て良い様だな。」

 

 冥琳の言葉に涼は頷いて答える。

 実際、青州兵と合流した徐州軍は当初の倍以上の兵数を擁しており、将兵の質を考えればこのままでも黄巾党を倒せるだろうというのが、雪里や鳳統こと雛里の判断だった。

 

「ならば、我々の採るべき策はそう多くない。外敵が現れた場合にこの徐州で迎え撃つか、徐州から出て先制攻撃を仕掛けるか、くらいだな。」

「その外敵だけど、冥琳達は誰を想定している?」

「愚問だな。」

 

 涼の問いに短くそう答えた冥琳は、目の前にある軍議前に出されていたお茶を一口飲み、それから涼や雪蓮を見ながら言葉を紡ぐ。

 

「ここ徐州は北に青州、西には兗州と豫州、南には揚州、東には東海と四方を囲まれている。が、それらの州はどこも徐州の味方だ。なら、敵はそれ以外の所から、になるが……。」

「桃香の親友が治めている幽州はまず敵にならないし、荊州や益州などはここから遠い。なら、比較的近くて尚且つ徐州と敵対しそうなのは……冀州の袁紹しか居ないわ。」

 

 冥琳の言葉を雪蓮が補足する様に紡ぐ。同じ考えだったらしく、冥琳は雪蓮を見て頷くと、更に続けた。

 

「袁紹はその立場上、本来はここを攻める必要は無い。徐州が急成長しているとはいえ、いまだその勢力はこの国における諸侯の中で群を抜いているし、何より大義名分が無いからな。」

 

 徐州、揚州、両方の諸将が同時に頷く。

 

「だが、袁紹は清宮や劉備に対して私怨を抱いている様に感じる。先の十常侍誅殺の際の事を雪蓮から聞いたが、どうやら袁紹は清宮を良く思っていない節がある。それと、玄徳殿の出自に関して複雑な様子だとの情報もある。」

 

 そう言われた涼は当時を思い出し苦笑する。もしこの場に桃香が居たら、同じ反応をしたか、キョトンとしたか。どちらにせよ困っていただろう。

 

「斗詩たちが俺に真名を預けた事を、すっかり忘れていたみたいだしなあ。けど、そんな事でわざわざ戦を仕掛けるんだろうか。」

「さっきも言ったが、確かに普通は攻める事は無いだろう。が、袁紹は自尊心の塊の様な人物だ。先の十常侍誅殺も、本来は良い所だけ取って自分の手柄にしたかったのではないか、と思っている。」

 

 冥琳の想像は恐らく当たっているのだろう。実際は涼が二人の皇子を救出するという一番手柄を立て、袁紹の欲した手柄や栄誉は手に入れられなかったのだが。

 

「迷惑な。こっちは平和に暮らせればそれで良いんだけどな。」

 

 涼は両腕と背筋を伸ばしながらそう呟く。それは現代に生まれ育った涼の偽りない言葉だ。

 だが、それを言葉通りに受け取った者がこの場に何人居ただろうか。少なくとも、冥琳は額面通りに受け取らなかった。口にはしなかったが。

 代わりに、平和に関する冥琳自身の考えを述べた。

 

「……平和というものは、そう簡単に手に入るものでもなければ、維持が簡単なものでもない。手に入れる為に力を得て、更にそれを維持し、内外に示さなければ人はすぐに侮り、そこから平和は崩れ去る。呆気無くな。」

 

 続けて、力の誇示の塩梅も難しいがな、と付け加えた。力を見せなければ統治出来ず、力を見せ過ぎれば人々は反発し、分裂する。それは歴史が証明していると続けたが、それは涼も知っている。

 だからこそ、涼はやはり素直に心情を述べる。

 

「まあね。その為に俺達は試行錯誤している。どんな結果になるかは分からないけど、最善の為に動いているつもりだ。」

「ならば、今から我々がどう動くべきか分かっているのかな?」

 

 そんな涼に問いかける冥琳。涼は彼女が自分を真っ直ぐに見据えている事を確かめつつ、ゆっくり、ハッキリと言葉を紡ぐ。

 

「ここで敵が来るのを待たずに、こちらから打って出る、かな。」

「簡単に言うとそうなるな。」

 

 冥琳は涼の答えに満足したのか瞳を閉じ、口角を僅かに上げた。

 涼がそう考えた理由はいくつかある。一つは徐州に被害を出さない為だ。余所なら被害が出て良い訳ではないが、徐州に被害が出るよりは良いのは確かである。

 もう一つは先に揚州と結んだ盟約が原因だ。この盟約には、青州遠征時限定ではあるが、「揚州軍の兵糧や金子の六割を徐州が負担する」という一文がある。

 つまり、青州遠征時に徐州と揚州が共闘する事態になると、それが長引けば長引く程、徐州の負担が大きくなるという訳だ。いくら桃香が州牧になって以降の徐州が大きな発展を続けてきたとはいえ、当然ながら物もお金も限りがある。

 それでもこの様な約を交わしたのは、是が非でも揚州と同盟を結ばなければならないと考えていたからであり、必要経費と割り切ったからであるが、それでも支出を抑えたいのは当然だ。ならば、先に動いて早めに戦いを終わらせる方が賢明なのは、自明の理である。

 涼は隣に座っている雪里に訊ねた。

 

「雪里、今動かせる兵の数はどれくらい?」

「万が一に際する徐州の守りを考慮して……そうですね、四万程でしょう。尤も、周りが皆味方ですから万が一は無いでしょうが。」

 

 雪里がそう言うと、室内に居る諸将から笑いが起きた。

 尤も、雪里も心の底から言っている訳では無い。同盟など、利が合う者同士が結ぶものであり、利が合わなくなれば簡単に無くなるものだと、聡明な彼女は解っている。

 だがその考えをそのまま口にしては、徐揚同盟にヒビが入ってしまう。だからこそ雪里は代わりに「周りに敵は居ない。皆さんを信頼している」という意味合いの言葉を口にしたのである。

 そしてそれは揚州側も理解しているので、徐州側に合わせて笑ったのである。大人の対応と言えなくもないが、これも必要な事であった。

 

「なら、その数で編成をしよう。武将は……。」

 

 涼のその言葉をきっかけとして、軍議は徐揚両軍の編成についての話し合いへと移っていった。軍議が終わった頃は皆、お腹が空いていた。

 その後、揚州軍の疲労回復や交友の宴などで数日を要し、華琳からの連絡が来て、いよいよ翌日には出陣となった日、徐州側にちょっとした問題が起きた。

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