真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十八章 青州解放戦・後編・4

 桃香が部下達に連れられていくのを横目で見ながら、地香は自分に迫ってくる男を見据える。当然ながらその顔には覚えがあった。かつて、賊の首領の一人だった頃の彼女の傍に付き従い、親衛隊として活躍していた男なのだから。

 その男が今、地香に向けて得物を振り下ろしている。それを彼女はどんな思いで見ていただろうか。

 鈍い金属音と共に、地香の体に衝撃が走る。

 何とか管亥の剣を受け止める事が出来たものの、その力に思わず落馬しそうになった。

 だが、管亥はそんな体勢の地香に追撃を仕掛けなかった。その事を疑問に思いつつ正面に向き直った。そこで疑問は解けた。

 

(こいつ……! ちぃを狙ってる!?)

 

 下卑た表情を浮かべ、得物を構え直す管亥。それを見た瞬間、地香の全身を怖気が走り、汗が噴き出した。尤も、豪雨の為に雨か汗かの見分けはつかないが。

 だが、管亥が地香の命を狙っていないのはほぼ確実だった。地香は武術に秀でた武将ではない。そもそも、本来は武将ですらない。一応武術の訓練はしているが、現代からやってきて、生きる為に武術を学んでいる涼と同じか、それより低いくらいの実力しかない。

 従姉という事になっている桃香ですら、地香よりは武術が上である。人を斬った経験もある。地香はまだ、無い。

 そんな地香が、徐州軍の兵士を何人も斬り殺してやってきた管亥の一撃を防げる筈がない。明らかに手加減していたのだ。ならば、何故?

 

(ちぃを捕えてこの状況を乗り切ろうとしているのか、と思ったけど、この顔を見る限りじゃ、そんな考えは無さそうね。)

 

 確かに、現状を何とかしようとする人間は、下卑た表情をしないだろう。

 

(なら、こいつはちぃを捕まえて……考えたくもないわね。)

 

 捕まった後の事を想像し、頭の中でブルリと震える地香。恐らくそれが正解なだけに、厄介である。

 どうやってこの状況を乗り切ろうかと考えながら、横目で周りを伺うが、管亥と共に来た青州黄巾党と徐州軍との戦闘が、乱戦の如く展開されており、暫くの間、援護は来ないと考えた方が良さそうと結論付けた。

 後ろに居る筈の桃香達の部隊も、前に居る筈の愛紗達の部隊も、戦闘中だ。図らずも一騎討ちとなった地香と管亥は、そんな乱戦の中で切り離されたかの様に存在している。

 雨の勢いは若干衰えてきたが、それでも雨音は強く、地面にいくつもの水溜まりを作っている。

 そんな中で管亥は、にやあっとしながら話し掛けてきた。

 

「会えて嬉しいよ、“地和ちゃん”。」

「っ!?」

 

 管亥の言葉に、少なからず反応する地香。そして、管亥にはそれだけで充分だった。

 

「やっぱり地和ちゃんだ。覚えてますか、かつて貴女たちの親衛隊の一人だった管亥です。」

「……何の事かしら。人違いよ。私に賊の知り合いは居ないわ。」

 

 剣を構え直しながら、地香は努めて冷静にそう返した。それが無駄かも知れないと解ってはいたが、言わないといけないとも思っていた。

 管亥はその答えに対して特に反応しなかった。予想通りだったのか、それとも答えは求めていないのか。

 

 「そうですか。それならそれで構いません。やる事は同じですから。」

 

 管亥も得物を構え直し、相変わらず下卑た表情を浮かべ、舌なめずりをした。どこかの軍曹が見たら「三流のすることだな」とか言いそうだが、賊である管亥はなるほど三流で合っているのかも知れない。

 それから二人は、数合打ち合った。明らかに力の差があるのに、地香が無傷だったのは、管亥が尚も手加減している事と、地香の得物「靖王伝家(せいおうでんか)(予備)」のお陰である。

 この剣は「予備」とある様に、桃香が持っている「靖王伝家」の予備である。いつ造られたかは分からないが、大きさが一回り小さい事と装飾が少ない事以外は殆ど同じこの剣は、普通の剣よりも頑丈で切れ味が良い。

 その為、多少打ち合っても刃こぼれせず、力の差を若干ながら縮めている。それでも元々の実力差があるので、時間が経つにつれ地香の劣勢は際立ってきた。

 それに気づいている管亥は、戦いながら猫撫で声で話し掛ける。

 

「地和ちゃ~ん、そろそろ諦めて俺のものになりなよ~。」

「だから人違いですし、そもそも貴方は好みではありません。」

 

 それは地香の本心だった。

 デカくてごつい管亥よりも、もう少し細くて優しい男の方が好きなのだ。そして今、その想いを秘めている。

 そんな地香の心境を知らない管亥は、彼女の言葉を素直に受け取らず、まるでストーカーの様に都合の良い解釈をした。いや、既にストーカーだったか。

 管亥が手加減しているのは、地和を出来るだけ傷つけずに手に入れたいからであり、そうでなければとっくに斬り殺しているだろう。

 管亥としては、早々に地和に力を示し、それによって屈服させたいという思いがあったのかも知れない。ここが戦場でなければ、もっと別の方法で捕まえようとしただろう。ある意味、地香は幸運であった。

 どれくらい時が経ったか。地香の息はあがっていた。管亥が待ちに待った時である。

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