真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十九章 帰還、それから・2

 そんな二人を見ている人物は複数居るが、その中の一人である華琳が言葉を紡いだ。

 

「まるで恋人同士みたいね。」

「「「「「!?」」」」」

 

 複数の、それもかなりの数の人物がその言葉に反応した。

 驚く者 、戸惑う者と様々だったが、一番驚き戸惑っていたのは当事者である桃香だった。

 「えっ?」と小さく声を出した後、周りを見て、膝元の涼を見て、それから華琳を見て、正面を見ながら顔を更に赤くして俯いた。もちろん、耳まで真っ赤である。

 そんな桃香の様子を見ながら、華琳と雪蓮は同じ事を思っていた。

 

(ひょっとして、自覚無かったのかしら。)

 

と。

 二人はてっきり、桃香が涼に対してそういった感情を持っていて、或いはそれに近い事を意識して行動しているものと思っていた。

 何せ、年頃の男女が四六時中一緒に居るのである。そうした感情を持ったとしても不思議ではないし、むしろ健全だ。この世界では二人の年齢で結婚していてもおかしくはないし、子供がいても良いだろう。

 二人が見てきた限りでは、桃香は仕事で離れている時以外は殆ど涼の傍に居た。客観的に見れば、涼の隣に居るのは自分だと言わんばかりであったし、隣に居るのが当然という雰囲気を作っていた。

 現段階では涼に思慕の情を特段持っていない華琳はともかく、公私に渉って涼に好意を持ってきた雪蓮は、そんな桃香を羨ましく思った事もあるし、邪魔だなと思った事もある。

 その桃香が、恐らく無自覚に涼の隣に居て、それが当たり前と思っていたという事に雪蓮は驚かざるを得なかった。

 

(そう言えば、桃香は涼をいつも“涼義兄さん”って呼んでるけど、呼び捨てや“義兄”を付ける以外の呼び方はしてないわね。)

 

 涼、桃香、愛紗、鈴々の四人で「桃園の誓い」をして以来、桃香の涼に対する呼び方は何回かの変遷があったものの、「涼義兄さん」と呼ぶ事で落ち着いた。

 涼は桃香たちを「妹よ!」と、どこかのガキ大将みたいには呼ばなかったが、義兄としてしっかりしようと努めてきた。結果はどうか別にして。

 そんな「義兄妹」の関係が一年以上続いてきたのだが、そこから何らかの進展があってもおかしくはなかった。儒教や倫理観とか色々問題はあるかも知れないが、男女の仲に関しては些末な事とも言えた。少なくともこの世界では。

 それよりも、雪蓮は先程の華琳の言葉が新たな好敵手を生んでしまったのではないかと危惧していた。

 

(これは……ひょっとしたら華琳が余計な事をしてくれたのかもね。まあ、婚約してる分私が一歩前に出てるけど……。)

 

 そんなもの、何の意味もなさないかも知れない。雪蓮はそう思う。

 彼女がそう思う理由の最たる物は、「距離」である。

 涼は徐州に、雪蓮は揚州にそれぞれ居を構えている。この二つの州は南北に隣り合わせという位置にあるので、行き来しようと思えばそれなりに行ける。

 だが、現代の様に自動車や電車といった交通手段が無いこの世界では、移動に使えて速いのは馬くらいしかなく、船もモーター等は無いので、当然ながら時間がかかる。徐州と揚州の間に長江が流れているのも、移動の際の障害と言えるだろう。

 また、それぞれの立場というものもある。

 涼は自称とはいえ「天の御遣い」であり、公式には州牧補佐という役職を仰せつかっている。

 雪蓮はそうした役職はまだないが、母である孫堅(そんけん)こと海蓮(かいれん)によって後継者として鍛えられてる為、いくら婚約者といってもそう簡単に涼に会う事は出来ない。また、揚州の南に居る山越(さんえつ)の事もあるので余計に動けないという事情もある。

 それと比べれば、同じ徐州に居て、同じ街に居て、同じ屋敷に居るという、会おうと思えばいつでも会える距離に居る桃香はどれだけ有利か。

 今までは桃香に自覚が無かったのでそうした危惧をする必要も無かったが、華琳の余計な一言で、恐らく桃香は涼を異性として見るだろう。

 そうなれば、涼も桃香を異性として見るのは時間の問題だ。ひょっとしたら、既に見ているかも知れないが、義兄妹という関係や雪蓮たちとの婚約の事があるので本心を隠しているのかも、とまで邪推してしまう雪蓮である。

 実際には、涼は桃香たちを異性として見た事は何回かある。

 最初は涼がこの世界に来たばかりの頃。

 自分に何が起きたか分からず、だが持ち前の楽天的な考えで何とかなると思いながら桃香たちと話し、取り敢えず暫くの間は彼女たちと同じ家で暮らすという事になった時、とあるハプニングで彼女たちの肢体の一部に目を奪われた事がある。

 他にも、董卓(とうたく)こと(ゆえ)を初めて見た時はその可憐な姿を素直に評し、その所為で一悶着あったり、雪蓮と何やかんやあってキスされたりと、当初はそうしたハプニングに心動かされた事は多かった。

 だが、黄巾党の乱で人を斬った事や、その後に経験した様々な事などの結果、涼は色恋に関して極力避ける様になった。それは何故か。

 涼はこの世界の人間ではない。いつの間にかこの世界に来ていた。

 ならば、いつの間にかこの世界から居なくなる事も考えられる。だとすれば、極力親しい人間を作らない方が良いと考えているのかも知れない。

 勿論、それは涼しか分からない事である。

 一つだけ確かなのは、だからといって涼は雪蓮たちとの婚約を、当然ながら軽々しくは思っていないという事だ。

 「天の御遣い」という自分の価値と孫家との婚姻関係を、政治的なもの“だけ”としては考えていない。そこには多少なりとも彼自身の好みは反映されていた。

 いくら政治的に必要だったとしても、もし雪蓮たちが醜女だったら婚約というカードは切らなかっただろう。普通の男としてある意味当然な、そういった感情は涼にもあるのだ。

 だからこそ、今回の婚約で涼は桃香たちに負い目を感じているとも言える。もし、涼が割り切って行動する人物だったなら、この事で狼狽えたり謝ったりはしなかっただろう。

 そして、そうした人間味のある人物だからこそ、雪蓮たちは婚約の話に乗ったのである。

 雪蓮たちは涼より割り切って考える事が出来るが、だからといって将来の伴侶を決める事まで完全に割り切って考える事はしない。それは女性としての自分達を否定する事になるからだ。

 あくまで、涼の人となりに好意を持ち、婚約したのである。それがいくら政治的な意味合いも大きいとは言え、彼女達にとってはついでに過ぎないのだ。

 だからこそ、雪蓮はこの事態を悩ましく思っているのである。もし涼との関係が政治的な意味合いだけの関係なら、桃香について何ら興味も不安も抱かなかっただろう。

 

(まあ……私はともかく、孫家の為ならいくつか考えはあるけど。)

 

 心中で軽く嘆息すると、雪蓮は二回目線を動かし、人知れず頷いた。彼女なりの「恋愛」と「割り切り」が合わさった瞬間である。

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