真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第二十一章 それぞれの決意・1

 徐州(じょしゅう)軍が袁紹(えんしょう)の提案を飲み、行動を共にすると決める少し前、既に曹操(そうそう)こと華琳(かりん)孫堅(そんけん)こと海蓮(かいれん)も同じ返答を袁紹に寄越していた。その思惑、真意は涼たちと全く同じでは無かったが、現状では袁紹と戦うのは得策ではないと判断したのは同じだった。

 先の戦いでは勝ったとはいえ、彼我(ひが)の戦力差は大きい。しかも今回は、恐らく袁紹の嘘ではあろうが(みかど)の為に董卓(とうたく)を討つという大義名分を掲げている。もしこれに呼応しない場合、漢王朝に敵対する意思ありとみなされて攻撃される危険性が高い。

 袁紹だけなら、先の戦いの様に三者で連合すれば何とか勝てるかも知れない。だが、そこに他の諸侯が加わったら勝率は限りなく零になる。しかも漢王朝を敵に回しては、例えかつての威光は無いとはいえ帝に刃を向ける事になるので、それを口実に攻め滅ぼされるのは必定。その様な危ない橋を渡る事は無い。

 彼女達はそれぞれの思いを抱えつつ、着々と軍備を整えていた。その様な内容の手紙が両者から来たのは、奇しくも徐州が袁紹と共に戦うと決めた日の夕刻だった。

 

「……以上が、曹操さんと孫堅さん、それぞれの手紙の内容です。」

 

 そう言ったのは諸葛亮(しょかつりょう)こと朱里(しゅり)。今回の遠征では筆頭軍師として従軍する事が既に決まっている。

 徐州軍の筆頭軍師は義勇軍時代からの流れもあって徐庶(じょしょ)こと雪里(しぇり)が務めていたが、その雪里の推薦もあり、今回の抜擢となった。実績も、先の青州遠征があるので反対する者は居なかった。

 その彼女が華琳と海蓮という、同盟を結んでいる両者の手紙を読み上げている中、徐州の州牧という地位にいる劉備(りゅうび)こと桃香(とうか)の表情は常の明るいものではなく、大いに陰を含んだものだった。

 

「……やっぱり、華琳さんも海蓮さんも袁紹さんと共に戦うんですね……(ゆえ)ちゃん達を倒す為に。」

 

 予想していたとはいえ、現実を知った桃香は大きく落ち込んでいる。両者の事情は解る。そもそも自分達も彼女達と同じ決断をしているのだから、文句を言う資格は無い。

 それでも、もし両者が、せめてどちらかが董卓に味方する、と言っていたら、桃香も涼の決断を翻意に出来たかも知れないと思わずにはいられなかった。自分勝手で他人任せなのも理解しつつ、そう思っていた。

 そんな桃香の思いを知ってか知らずかは判らないが、趙雲(ちょううん)こと(せい)が口を開いた。

 

「まあ、それは我々も同じですがな。」

「星!」

 

 星は事実を口にしただけである。その彼女を咎める様に真名(まな)で呼んだ関羽(かんう)こと愛紗(あいしゃ)もまた、当然ながら現状は正しく把握している。把握はしているが、義姉(あね)の事を思うとそれを口に出来なかった。

 

「良いんだよ、愛紗ちゃん。本当の事だもの。」

「桃香様……。」

 

 桃香は自身を気遣う義妹(いもうと)を優しく見つめ、星の言動を不問にした。それを受けて、星は静かに拝礼する。

 

「それに、今一番辛いのはその決断を下した涼義兄(にい)さんだよ。」

 

 そう言って、誰も座っていない椅子に目をやる桃香。星も愛紗も、この場に居る他の者も皆、同じ様に見つめる。

 やがて、愛紗は桃香を見ながら訊ねた。

 

「……義兄上(あにうえ)はまだ部屋に?」

「うん……さっき夕食だよって呼んだんだけど、要らない、って……。」

「やれやれ、主殿(あるじどの)も仕方ない御仁ですな。」

「……星。」

「愛紗よ、だってそうであろう? 主殿には小蓮(しゃおれん)殿という婚約者が居るというのに、その主殿ときたら他の女性の事で頭を悩ませているではないか。」

 

 小蓮とは海蓮の末の娘、孫尚香(そん・しょうこう)の事であり、政略結婚によって今は徐州に滞在している。尤も、まだ正式に結婚はしていない。

 確かに、客観的に見たら涼はひどい奴かも知れない。一応、涼の事をフォローするならば、今の彼には月に対する恋愛感情は無い。そもそも、いくら楽天的な性格とはいえ、二股三股どうしよう? 別に良いんじゃない? 等と考える様な性格ではないのだが。

 

「星、言い方が人聞き悪いわよ。」

「ふむ……地香(ちか)は主殿に興味はないか。ならば代わりに私が主殿に迫ってみるとしようか。少しは元気になられるやもしれぬのでな。」

「誰もそんな事言ってないでしょ!?」

 

 星のからかい口調に過剰な反応をする地香。からかっていると分かっていてもこんな反応をしてしまうのは、彼女の性格や他の理由によるものだろう。

 そんな二人を微笑ましくも苦笑しつつ見ながら、桃香はふとした事に気づく。

 

「そう言えば、その小蓮ちゃんは?」

 

 年下ながらも将来の義姉になるかも知れない少女を、顔を動かして探すが、この部屋には居ないのか姿が見えない。どこに居るのかと思い始めた桃香に対し、朱里が言葉を紡ぐ。

 

「孫軍からの手紙に小蓮ちゃん宛の手紙もあったので、今頃それを読んでいらっしゃる筈です。さっき部屋に戻るとおっしゃってましたから。」

 

 その説明を受けた桃香は納得した。孫軍、つまり孫家は小蓮の実家である。家族や友人からの手紙も来るだろう。だから今はゆっくりさせようと彼女は思い、意識をこれからの事に切り替えた。

 この辺りは桃香の、ひいては徐州軍の甘さと言える。いくら同盟関係にあるとはいえ、義兄の婚約者の実家とはいえ、こうしたプライベートの手紙を調べもしないのは危機感がないと言わざるをえない。

 もっとも、これが徐州軍の良いところでもあるのだが。

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