真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第二十一章 それぞれの決意・4

 結果的に言えば、涼たちは先の二人に加えて椿(つばき)糜芳(びほう))や霧雨(きりゅう)孫乾(そんかん))などを選んだ。また、遠征の留守居は陶謙(とうけん)たちに任せる事と、彼等には真意を伝えない事も同時に決まった。

 

「陶謙さん達に内緒ってのも心苦しいけど。」

「彼等からすれば私達は所詮、余所者です。いくら勅命(ちょくめい)で州牧の地位を譲ったとはいえ、敵との内通を疑われる事をすると知られれば、彼等に州牧の地位を取り戻す大義名分を与えてしまいます。」

 

 雪里の言に他の軍師三人も大きく頷く。

 陶謙自身は勅命以前から州牧を辞めて跡継ぎを誰にするか模索していたのだが、勅命が無ければ恐らく陶謙の子供の中から新しい州牧を選んでいただろう。例え自分の意とは違っていても。

 その為、もし涼たちが州牧に相応しくないと親・陶謙派が判断すれば、とっくの昔に反乱が起きていただろう。今の平穏は、帝の勅命によって桃香が州牧になったという事実があるからだ。これを無視する事は帝に弓引く事と同義であり、漢王朝の忠臣である陶謙は勿論、その臣下もそんな事は出来ない。

 此度の戦いの大義名分は「悪逆董卓から帝を助け出す」である。その大義名分の許に連合に参加する涼たちが、実は董卓と繋がっているかも知れないと疑われる様な動きを見せる事は出来ない。よって、陶謙たちには知らせる事が出来ないのだ。

 

「月殿たちを本当に助けたいならば、心苦しくてもここは我慢してください。」

 

 雪里にそう言われては頷くしか出来ない涼であった。

 

「けど、羽稀さん達には伝えるんだよね? 彼女達から陶謙さん達に伝わる事は無いの?」

 

 涼は疑問であり不安を口にした。

 既に触れた様に、羽稀たちは元々徐州軍に居た。いろいろあって皆一度は離れていたりしたが、桃香が州牧になって徐州軍が再編される過程で再び加入したという経緯がある。

 つまり、彼女達はまだ陶謙への忠誠心が残っている可能性がある。少なくとも慕ってはいるだろう。

 そんな彼女達が涼の真意を知ればどうするか、という懸念を涼は持っていた。

 それに対しても、雪里はすぐに答えた。

 

「全く無いとは言えませんが、まず大丈夫でしょう。」

「どうして?」

「理由は二つ。一つは、彼女達は今の徐州軍の一員という事。ここで陶謙殿に密告すれば、間違いなく徐州は二つに割れます。そうなると無用の血が流れます。兵にも、民にも。昔からの徐州軍人であり、桃香殿の治世によって発展した徐州を見てきた彼女達がそれを望むとは考えにくい。」

「なるほど。あと一つは?」

 

 雪里の説明に納得しつつ、涼は先を促す。

 

「先程述べた事と似ていますが、清宮殿や桃香殿の人となりを知っている彼女達はこう考える筈です。“あのお二人がそうまでして助けたいのならば、董卓は悪い人間ではないのでは?”と。」

「そう考えるとどうなるの?」

「人間という生き物は、自分が正しいと思う事には迷いなく行動出来ます。“悪逆董卓を討つ”なんていう分かりやすい正義に対しては特に。」

 

 確かに、「正義の味方」なんて称号や名誉で呼ばれる者は気分が良いし動き易いだろう。少なくとも「悪の味方」と呼ばれるよりは。

 

「ですが、“董卓は実は良い人で、倒すのは間違っているのでは?”と一度認識すれば、その分かりやすい正義を行えなくなります。そう認識した時点で、“分かりやすい正義”は“分かりやすい悪”に変わるからです。」

「そっか、みんな悪人より善人でいたいもんな。」

「はい。例えば史記に名がある趙高(ちょうこう)は悪人とされていますし、その通りなのですが、恐らく本人はそんな認識はしていなかったでしょう。“秦の為、自分の為に自分のやっている事は正しい”と思っていたのではないでしょうか。これは(いん)紂王(ちゅうおう)なども同じだったと推察されます。」

 

 趙高は秦王朝の宦官(かんがん)であり、始皇帝の遺言を捏造して彼の嫡男である扶蘇(ふそ)を自害せしめ、自身が傅役(もりやく)を務めた始皇帝の末子である胡亥(こがい)を二世皇帝とした一人。これが秦王朝の崩壊の序曲となったが、肝心の趙高、そして胡亥はそれに全く気づかず、どちらも愚かな最期を迎えた。

 紂王は殷(商)の最後の王であり、帝辛(ていしん)とも言う。最初は賢王として名をはせていたものの、妲己(だっき)という愛妾を得た頃、もしくはその前から暴君になり、人心が離れていった。その後、殷打倒を掲げた姫発(きはつ)(武王)とその側近である呂尚(りょしょう)(太公望)率いる周軍によって殷は滅んだ。

 

「そして、そう認識したら陶謙殿に密告など出来なくなります。もし密告すれば、“陶謙殿を悪に引きずり込んでしまう”危険性が生じるからです。陶謙殿への忠誠心が残っているなら尚更。」

「忠誠心がこちらに移っているならそもそも心配する必要は無い、か。」

「その通りです。」

 

 そう言って恭しく頭を下げる雪里。涼はその彼女を見、次いで他の三人に目をやる。

 三人は皆その視線に気づいた。その中の風が口を開く。

 

「風はここに来て日が浅いですが、風も雪里ちゃんと同意見ですね~。」

 

 常ののんびりとした口調であったが、その端々には真面目なトーンが含まれており、それは軍師達は勿論、涼にも分かる程だった。

 

「それに加えてですが、人間は誰しも自分がかわいいのです。他人は二の次です。忠誠心というのは言い換えれば思い込みに過ぎません。ですから、陶謙さんへの密告は無いでしょう。下手をすれば、“お前も同じ意見だったのではないか?”と思われかねません。」

「なるほど。けど、陶謙さんじゃなくて袁紹たちに密告される危険性はないのかな?」

 

 涼のその懸念は尤もだった。先に雪里が「徐州への裏切りになりかねない」と言ったが、それはつまり反董卓連合軍への裏切りにもなりかねないからだ。いや、そもそも董卓を排除しようとしている袁紹からすれば明らかな裏切り行為であり、更に言えば先日交戦した相手でもあるので裏切りというより最初から敵だとも言えるだろう。

 袁紹の勢力は諸侯の中で最大であり、影響力も馬鹿にできない。そんな袁紹を恐れた徐州軍の中から袁紹、または他の連合軍諸侯に密告される危険性はないのだろうかというのが涼の懸念である。

 だが、それに対して風はやはりのんびりとした口調ながらも、真面目なトーンを含んだ声でさらりと答えた。

 

「他の諸侯にはともかく、袁紹さんに密告しようとする無謀な人は居ないでしょうね~。」

「何でそう言い切れるんだ?」

「だって、“あの”袁紹さんですよ?」

 

 その答えを聞いた涼は勿論、軍師達も何故か納得してしまっていた。

 袁紹は確かに名門袁家の当主である。三公を何度も輩出し、後漢王朝の歴史に名を残している袁家の当主である。

 だが、その袁紹自身はまだ三公ではないし、何よりその難儀な性格によって人気は無かった。

 彼女の周りに居るのは、心から主と思い仕えている変わり者か、その権力や財力に引き寄せられている愚か者ばかりで、何とか袁家をもり立てようとしている良識人は残念ながら少数派だ。

 そんな中に自ら飛び込む人間が居るだろうか。居ないとは言えないが、なかなかのチャレンジャーと言える。そもそも、仮に密告して涼たちを排除したとしても、その功を袁紹が認めるかどうか。何しろ、徐州軍と袁紹軍はつい先日交戦したのだから。

 風は袁紹と会った事は無いが、彼女についての情報は得ている。涼たちからも聞いている。そうした理由から、袁紹への密告は無いと判断した。

 他の諸侯への密告の危険性は無くはないが、その諸侯だけでどうこうできる案件では無いし、最終的には袁紹なり袁術なりに伝えなくてはならなくなり、厄介事になりかねない。諸侯からしたらそんな事はしたくないだろう。

 よって、風たちは危険性は残るが無視して良いと結論づけた。

 その説明を聞いた涼は思った事をそのまま言った。

 

「それって、賭けじゃないかな。」

「お兄さん、そもそも今回の事は成功率が低いのです。その成功率を少しでも上げるには賭けも必要なのですよ。」

 

 風がそう言うと、涼は確認する様に他の軍師達にも目を向けた。どの軍師も頷いた。

 軍師達によると、今から涼がする事は風が言う様に成功率が低い。よってある程度は賭けになるが、それも仕方ないと思って行動しなくては成功に繋がらないというのである。

 それに気づいた涼は納得し、話を進めていった。

 そうして話を続け、終わったのは現代で言えば日付が替わる直前だった。この世界では夜更かしどころではない深夜である。

 こんな時間に起きてるのは見張り以外では夜盗か、伽の最中の恋人たちくらいであろう。涼たちはそんな関係ではないのでそのまま部屋に戻り、就寝となったが。

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