真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第二十一章 それぞれの決意・5

 翌日、涼は朝議の前に軍師たちを伴って桃香が居る州牧執務室に向かい、そこに愛紗、鈴々(りんりん)、地香、星を呼び出すと、昨夜決めた事を告げた。

 桃香たちは涼が元気になった事を喜んだが、彼が話す内容を聞いていく内に神妙な顔になっていった。

 そんな時にまず口を開くのは大体決まって愛紗であり、やはり今回もそうだった。

 

「義兄上、月殿を助けたいお気持ちは解りますし私達も同じ気持ちです。ですが、失敗すれば徐州と民を失う事になります。それはお解りなのですか?」

 

 前日の雪里たちと同じ様な確認をする愛紗。涼はもちろん同じ様に答え、それを聞いた愛紗は納得した様な、誇らしい様な表情を浮かべて頷いた。また、桃香たちも愛紗と同じく頷いていた。

 はっきり言って、涼の判断や思いは施政者としては間違っているだろう。地位や命を危険に晒し、治めるべき領民をも巻き込みかねないのだから。

 だが、長く涼と共に過ごし、その性格を知り抜いている桃香たちからすれば、ここで月たちを見捨てるという判断をくだしていたら、その判断が施政者としては正しいと解っていても涼を見損なっていたかも知れない。

 涼との付き合いが短い星でさえ涼のこの判断を好ましく思っているのだが、彼女は何故そう思ったのか。それは星自身にしか分からないが、ひょっとしたらそういった人物を主君として求めていたのかも知れない。勿論、正確に言えば徐州の施政者は涼ではなく桃香であり、それも星は解っているが。

 そうして一同が同じ気持ちになった事に涼が気づいているかどうかは判らないが、そんな桃香たちを見据えながら涼は言葉を紡いだ。

 

「それに関係してシャオについてなんだけど……しばらく揚州に戻した方が良いかなって思うんだが、どうかな?」

 

 だが、その言には桃香たちも同じ気持ちにはなれなかった。驚いたり同意したり、はたまた意味を解っていなかったりと様々だった。

 涼はそんな桃香たちを見ながら説明をする。

 

「知っての通り徐州は揚州と、個人単位で言えば俺と孫家は同盟を結んでいる。同盟に関しては華琳とも結んでいるけど、孫家と華琳とでは大きく違う事がある。」

「主殿と婚約しているかどうか、ですな。」

 

 星がからかう様な表情で答えた。一部の者が様々な反応をし、それを星は面白そうに見る。

 

「星の言う通りだ。現に今、ここ徐州には孫家の末娘のシャオが来ている。表向きは婚約したから、って事だけど、そこには恐らく“人質”の意味も含まれていると思う。」

「義兄上の仰る通りかと。同盟は場合によっては簡単に崩れ去るものですから。」

 

 涼の言葉に愛紗が同意、補足する。

 日本にしろ世界にしろ、最初から最後まで続いた同盟、または主従関係は多くない。例えば、反秦を掲げて共に戦った項羽(こうう)劉邦(りゅうほう)は秦滅亡後に対立し、楚漢戦争(そかん・せんそう)に繋がった。その楚漢戦争中も項羽陣営だった韓信(かんしん)英布(えいふ)陳平(ちんぺい)などが劉邦陣営に鞍替えしている。

 日本においても、関ヶ原合戦では徳川方(東軍)だった大野治長(おおの・はるなが)が大坂の陣では豊臣方(大坂方)だったり、黒田長政(くろだ・ながまさ)の家臣だった後藤又兵衛(ごとう・またべえ)(後藤基次(ごとう・もとつぐ))が大坂の陣では黒田家と戦うなどしている。

 忠臣だらけのイメージがある徳川家康(とくがわ・いえやす)の家臣団でさえ、本多正信(ほんだ・まさのぶ)石川数正(いしかわ・かずまさ)の様に家康から離れた者も多い。尤も、家康の場合は一度敵にまわった者でも許し、家臣に戻すという例も多い。先に上げた正信や、渡辺守綱(わたなべ・もりつな)などが該当する。

 最後まで同盟・主従関係が続いたのは、その家康が織田信長(おだ・のぶなが)と結んでいた清洲同盟、古代中国で言えば劉邦と張良(ちょうりょう)などが有名だろう。

 

「雪蓮たちとの同盟は、別に人質なんて無くても続けるつもりなんだけどね。」

「義兄上はそう仰られても、孫家は違うかも知れませんし、仮に孫家も同じであっても揚州軍全体もそうとは限りませんから。」

 

 同盟とは、利害が一致していなければ成り立たない。片方だけの条件が良かったらそもそも成り立たないし、無理に成立しても早期に破綻するのは必然。

 徐揚同盟が成立しているのは、隣り合う州で争わないで済む事が双方に先ず有り、揚州側には「天の御遣い」の威光を得られる事も有る。

 徐州側には余り旨味が無い様に見えなくもないが、徐州の位置関係からすれば四方のどこかと友好関係を結んでいるだけでも充分だ。それはこの同盟が「青州遠征」によって出来たという成立過程を見れば明らかである。敵を増やさず味方を増やす。それも施政者に必要な事だ。

 では、何故揚州側が「人質」を寄越しているのか。理由はいくつかあるが、その一つは孫家が「山越(さんえつ)」と争っているからだ。少なくとも山越と決着がつくまでは敵を増やしたくないだろう。尤も、そんな理由より単純に「涼を気に入っているから」という理由も大きいかも知れない。

 涼は男である。そして孫家には女しか居ない。ならば女をあてがえば籠絡出来るかも知れない、と考えた可能性もある。

 だが、孫家の後継者である孫策(そんさく)こと雪蓮は立場上嫁に出る事が難しく、次女の孫権(そんけん)こと蓮華(れんふぁ)はその雪蓮に何かあった時には代わりに後継者になると考えられる。よって、消去法で末妹の小蓮が選ばれたのであろう、というのが徐州軍の見解であり、恐らくそれは正しいだろう。

 ならば、もし小蓮に万一の事があったらこの同盟がどうなるかは想像に難くない。

 いくら三姉妹全員と婚約しているとはいえ、前述の理由により姉二人とは今すぐ結婚出来ない。それに、大切な妹や娘を喪ったら孫家が今まで通り接してくるとは思えない。

 それらの危険を回避する為にも、これから大戦(おおいくさ)に向かう涼たちと小蓮を同行させる訳にはいかないし、徐州に留守番させるのも万一を考えると避けたい。よって、こちらも消去法で「揚州に一時的に帰す」という選択肢が選ばれる。

 涼はそうした理由を述べ、仲間の意見を聞いた。同盟の維持と小蓮の安全、両方を考えればそうするのが一番であり、皆も頷いた。

 だが、一人だけこれに賛同しない者が居た。

 

「シャオの居ない所で勝手にシャオの事を決めないでよ、涼!」

 

 ほかでもない小蓮本人が真っ向から反対したのである。

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