真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第二十一章 それぞれの決意・6

「シャオ!? いつの間に入ってきたの!?」

「そんな事はどうでも良いの! それより、シャオを置いて行くってどういう事!?」

 

 突然の乱入者に驚き戸惑う涼。だがそんな彼の心情を無視して小蓮は言葉を矢継ぎ早に紡いでいく。

 

「シャオだって戦えるわ! そりゃ、愛紗たちみたいにはいかないけど、雑魚くらいなら倒せると思うし、戦い以外でも何か手伝える事がある筈よ!」

 

 涼は小蓮の言葉を聞きながら、「そりゃまあ、シャオは弓腰姫(きゅうようき)と呼ばれた孫夫人と同じ名前だし、ある程度は強いんだろうなあ」等と考えていた。まだ混乱している様だ。

 

「小蓮殿、義兄上を困らせるものではない。貴女が義兄上の婚約者だと言うのであれば尚更です。」

「愛紗は黙ってて!」

 

 涼を助けようとした愛紗であったが、小蓮の迫力に圧されて二の句が継げなかった。既に弓腰姫の片鱗を見せているかの様である。

 小蓮は涼に向き直ると、今度は幼い子を諭す様に穏やかな口調で話し始めた。

 

「涼がシャオの事、同盟の事を考えてそう決めようとしているのは理解してる。けどね、もし本当にシャオを揚州に戻したら、却って同盟関係は危うくなるからね。」

「ど、どういう事?」

 

 ようやく落ち着いてきた涼が聞き返す。愛紗たちも同じだったらしく、静かに二人の会話を見守っている。

 

「揚州は豪族の集まりなの。それも結構めんどうなくらいの実力主義かつ縁故主義で、それでいていつ他の豪族に足を引っ張られるか分からない。」

 

 一度息を継いで、小蓮は続ける。

 

「その中でも特に影響力が強いのは、“呉の四姓”と呼ばれる人達。(りく)()(しゅ)(ちょう)の四つの一族。涼は(のん)とは会った事あるわよね? 穏もこの四姓の一族の一人よ。」

 

 穏とは陸遜(りくそん)の真名であり、涼は同盟締結時に会っている。穏は揚州人には珍しく? 肌が白く、揚州人らしく? 胸が大きい軍師だ。

 小蓮の説明を聞いている涼は、「ああ、陸康(りくこう)の件とかいろいろあったし、呉の四姓に関しては優秀な人材も多かったけど面倒な事も沢山あったよなあ」なんて思っていた。陸康とは陸遜の従祖父(じゅうそふ)であり、史実では孫策といろいろあった人物だ。この世界ではどうなのだろうか。

 

「母様が揚州をまとめられたのは、母様自身の実力ももちろんだけど、呉の四姓の協力を得られたのが大きいの。だから母様は彼等を重用してるし、それは姉様たちも同じ。もちろんシャオもね。」

 

 小蓮の口調から、彼女達が呉の四姓をめんどくさいと思いつつも信頼している事がうかがえる。 

 ちなみに呉の四姓とは、孫呉の四姓という意味ではなく、「揚州呉郡の四姓」という意味だ。この揚州呉郡は優秀な人材を多く輩出しており、陸遜の他にも、孫呉の二代目丞相(じょうしょう)となった顧雍(こよう)、寡兵で曹魏(そうぎ)曹仁(そうじん)を撃退した朱桓(しゅかん)孫登(そんとう)(孫権の長男)の教育係や蜀漢への使者を務めた張温(ちょうおん)など名だたる人物が出ており、孫呉を支えていった。

 涼は小蓮の話を聞きながら自分達が徐州に来てからの事を思いだし、呟いた。

 

「確かに、地元の人達の協力なくして領土運営は難しいよな。」

「その通りです。ちなみに徐州だと糜家や陳家などが呉の四姓に該当すると思われます。」

 

 愛紗がそう言うと、桃香たちも頷いた。余所者である涼たちは徐州に来てから細心の注意を払って豪族達と接してきた。

 「天の御遣い」や「漢王朝の縁戚」というネームバリューもあったとはいえ、地元の豪族達の協力を得られなかったら今頃どうなっていたか。少なくとも、青州に救援に行くという余裕は無かっただろう。

 

「涼たちも豪族達の苦労を経験しているなら分かるでしょ? 孫家は豪族に弱味を見せる訳にいかないの。もし見せたら内乱になってもおかしくないんだから。」

「? シャオを孫家に一時的とはいえ戻したら、それは孫家の弱味になるのか?」

「とーぜんでしょ! 例え実際には“孫家の姫の安全の為”、って理由でも、それを“徐州と関係が悪化した為に送り返された”、なんて曲解して批難するバカも出てくるかも知れないわ!」

「な、なるほど。なら、そんな豪族の目的はそれを口実に孫家の影響力を下げる、もしくは……。」

「孫家を追放、または滅ぼして実権を奪うのが目的でしょうか。」

 

 涼の言葉を補完したのは朱里だった。見れば、他の軍師達も頷いていた。

 朱里は続ける。

 

「小蓮ちゃんの言葉通りだとすると、揚州は一枚岩ではありません。ならば徐揚同盟に反感を持っている豪族も当然居るでしょう。その理由は単に同盟に反対している、同盟による孫家の影響力の増大を懸念、などいろいろ考えられますが、いずれにしても危うい状況になりかねないと推測できます。」

「海蓮さんや雪蓮たちが居ても、やっぱり?」

「恐らくは。勿論、もし孫家が豪族と戦闘する事になっても、まず負けはしないでしょう。ですが、戦では何が起こるか分かりません。裏切り、事故、他所からの介入といった不慮の事態が起こりえます。そうなると、例え孫家が勝っても被害は甚大ですし、その結果揚州を維持出来るか分かりません。」

 

 そうなったら、確かにとても同盟どころではないかも知れない。孫家を保護する事も考えられるが、それはつまり揚州の火種をそっくりそのまま抱えるという事でもある。涼の心情的にはそうしたくても、徐州の事を考えると難しいだろう。只でさえ月たちを助けようとしているのだから。

 

「だから、シャオを揚州に戻しちゃダメなの。分かった?」

「分かったけど、それならここで留守番をするってのは……。」

「シャオの安全を考えて揚州に返そうとしたのに、留守番させちゃ本末転倒でしょ?」

「おっしゃる通りです、はい。」

 

 涼は苦笑しつつそう答えた。小蓮はどこか満足そうにその言葉を聞いた。

 結局、小蓮も反董卓連合遠征のメンバーに入れる事になった。戦に巻き込む危険はあるが、目の届かない所に居られるよりも近くに居た方が守る事が出来ると判断した結果だった。

 小蓮は「戦える」と言ったものの、部隊戦闘の訓練をしていない、確認もしていない状況で前線に出す訳にいかないので、基本的には本陣、つまり涼の側に居る様に厳命した。尤も、言われるまでもないといった感じだったが。

 そんなどこか満足げな小蓮を見ながら、涼は思った事を口にする。

 

「ところでシャオ。」

「なーに?」

「そんなに揚州の内情を言ってしまって、後で海蓮さん達に怒られない?」

「あ。」

 

 どうしよー! と叫ぶ小蓮であった。

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