真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第二十二章 いざ、連合へ・2

 出立の日まであと数日といったある日、涼の(もと)に一人の少女が訪ねてきた。

 ここは州牧補佐を務める涼の執務室。ここでは書類整理が主な仕事になっているが、時々こうして来客を迎える事もある。

 上座に座る涼の左右には二人の少女が立っている。仕事の手伝いをしていた風と、来客の為に呼ばれた小蓮である。

 

「この前届いた姉様たちの手紙には貴女が来るとは書いてなかったんだけど、ひょっとして何かあったの、明命(みんめい)?」

 

 涼が訊ねる前に来客の少女、明命に訊いたのはその小蓮だった。明命とは孫軍こと揚州(ようしゅう)軍の武将、周泰(しゅうたい)の真名である。

 

「いえ、特には何もありません。ただ、徐州軍が連合に参加するのなら一緒にどうかと海蓮(かいれん)様が仰られたので。」

「一緒に?」

「はい。徐州と揚州、孫家と清宮様は同盟を結んでいるので、此度の会戦でも共に戦う事は多々あると思います。ですから、今の内から行動を共にして将兵の(よしみ)を深めておくのが良いというのが海蓮様のお考えです。」

「それはまあ、確かに。」

 

 涼はそう言いつつ右隣に立つ小蓮と左隣に立つ風を見た。小蓮は家族に会えると聞いて表情を明るくしている。風はいつもの様に眠そうな顔をしている。

 

「……ぐう。」

 

 というか、寝ていた。立ったまま寝るとは器用な事をするものだ。

 

「風、こんなとこで寝るな。」

 

 ていっ、と軽く手刀を風の肩に当てる涼。途端に目を覚ます風。

 

「これは失礼しました~。最近“何故か”忙しいのでつい居眠りをしてしまいました~。」

「……あとで昼寝して良いから、今は起きてて。」

「はい~。」

 

 そう言った風だが眠そうな顔は変わらない。明命はというと目の前で行われたコントに困惑している様である。

 そんな明命を薄目に見ながら、風は涼が聞きたい事を答えていく。

 

「一緒に行軍と言うのは良い考えかと思いますよ~。勿論、こちらも出立の準備といった事情があるのでその辺りを考慮してもらえれば、ですが~。」

「それについては海蓮様は徐州軍に合わせると仰られていました。出立の日にちを教えていただければ、その日に合わせて揚州軍を動かすと。」

 

 涼はそこまでしてもらって良いのかなと思いつつ風に確認し、了承した。

 

「それで、合流地点はどこにするの? ここ……下邳(かひ)で待っていれば良いのかな?」

「そうですね、下邳から若干南東に下っていただければよいかと思います。」

「南東?」

 

 涼は首をかしげた。涼たちが目指す洛陽は徐州の遥か西である。なのに何故逆方向に進むのかと。

 

「はい。我々は泗水(しすい)を上ってくる予定ですので、皆さんには船を停める場所まで来ていただければよろしいかと。」

「えっ、雪蓮(しぇれん)たちは船で会盟の地に行くの!?」

 

 いつも通り陸路を行くつもりだった涼からしてみれば、明命の提案は考えもしていない事だった。

 

「はい。幸いにも建業(けんぎょう)の北に在る長江(ちょうこう)の支流が徐州を通り、会盟の地である河内まで繋がっているので、船団を組んで進んだ方が早いと決まりました。」

 

 明命はそう言うと航路についての説明を始めた。

 建業の北を流れる長江。その建業の東、武進(ぶしん)から見ると西北西の位置に徐州への支流がある。

 その川は射陽湖(しゃようこ)という湖に繋がり、下邳の南を流れる泗水へと到る。その泗水は西の豫州(よしゅう)に流れると睢水(すいすい)となり、兗州(えんしゅう)陳留(ちんりゅう)を通り官渡(かんと)を過ぎ、河内の(かい)で他の川と合流する。以上が明命の説明である。

 現代や史実の河川の流れとは違うかも知れないが、この世界ではそうなっているらしい。

 日本人の感覚では川を大船団が行くというのはピンと来ないが、中国は広いので単に川と言っても大きさが違う。三国志で一番有名な戦いである「赤壁(せきへき)の戦い」も夏口(かこう)の流れを組む河川一帯で起きた戦いだ。この戦いの()軍は号数百万、実数二十五万の大軍を展開させたと言われているので、中国の川の大きさがイメージ出来るだろう。

 よって、数万の軍勢が川を進むのは比較的簡単な事である。尤もそれは水軍を擁する揚州軍だからではある。

 

「船なら行軍で兵士さん達が疲れるという事は無いので楽ではありますね~。」

「それは確かに。けど明命、うちも今回の出兵には数万人を予定しているんだ。揚州軍の船の数がどれくらいか分からないけど、船が足らなかったり却って行軍が大変にならない?」

「その心配には及びません。冥琳(めいりん)さまは徐州軍の数を予想し、徐州軍用に最大で十万人が乗れるだけの船を用意しました。」

「マジか。」

 

 涼は冥琳こと周瑜(しゅうゆ)の読みと、この時期の揚州軍がそれだけの船を用意出来る事に驚愕していた。

 揚州軍、後の孫呉(そんご)は水軍が強いというのが定説である。あの「赤壁の戦い」は史実、演義ともに孫軍と劉備軍の共闘ではあるが、その勝利は八割方孫軍の水軍による手柄といえるだろう。

 古代中国には「南船北馬」という言葉があった。読んで字の如く、「南方は水軍が、北方は騎馬が強い」という意味である。

 赤壁の戦い直前まで曹操(そうそう)軍はまともな水軍を持っていなかった。河北を転戦していた彼等に水軍は不要だったのだから仕方がない。だが、いざ中国南部を攻めるには広大な長江流域を進む事になり、水軍が必要となった。

 その為に荊州(けいしゅう)を攻め落とした際に荊州水軍を吸収し、しかる後に揚州の孫軍と戦ったのだろう。演義ではこの戦いの際に周瑜の策によって荊州水軍の蔡瑁(さいぼう)張允(ちょういん)が処刑されているが、史実ではその様な記述はない。

 この赤壁の戦いに孫軍は二万から三万を動員したといわれる。孫権(そんけん)の時代になり揚州で確固たる地位を得ていた時期でこの数である。それを知っているからこそ涼は驚いたのだ。

 尤も、この世界に来て長い涼はそれと同時に「この世界ならそれもありなのかな」とも思っていた。

 

「じゃあ、詳しくはこの後みんなと話して決めるから、明命はしばらく待っていて。シャオ、彼女の話し相手よろしくね。」

「りょーかいっ☆」

 

 シャオはそう言うと、孫家の姫に話し相手になってもらうという事態に戸惑う明命の手をとって、慌ただしく執務室を出ていった。

 そんな二人を見送ってから風が呟く。

 

「……本当は“今の立場のシャオちゃん”を揚州軍の人と二人っきりにするのはどうかと思うんですけどね~。」

「それって、徐州の情報を聞かれるから?」

「はい~。シャオちゃんは今はまだお兄さんの婚約者であって妃ではありません。その状況では、いつ縁談が無くなってしまうか分かりませんから~。」

「それも分かるけど、遅かれ早かれうちの事は知られるし、それに……。」

「シャオちゃんや幼平(ようへい)ちゃんの楽しそうな顔を見たい、ですか?」

「まあ、そんなとこ。」

 

 風はやれやれといった表情とジェスチャーをした。頭上の宝譿(ほうけい)も何故か同じ様な表情とポーズをとっていた。涼は突っ込まなかった。

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