真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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黄巾党の首領、天公将軍・張角には二人の妹が居る。

一人は地公将軍・張宝。

一人は人公将軍・張梁。

その内の一人である張宝が、まさに今、涼達率いる連合軍の前に立ちふさがろうとしていた。

数では両者共ほぼ互角。
激闘は避けられそうに無かった。



2010年1月10日更新開始。
2010年2月15日最終更新。

2017年4月10日掲載(ハーメルン)


第五章 黄巾党征伐・後編・1

 翌日、出陣の準備を終えた(りょう)達連合軍は張宝(ちょうほう)率いる黄巾党(こうきんとう)の本陣が在る山へと向かった。

 昨日の夕方迄に合流した曹操(そうそう)軍は約五千。更に兵を補充した盧植(ろしょく)軍約一万も合流した為に、連合軍の総数は七万を超えている。

 

(ゆえ)ぇ、本当に総大将にならなくて良かったの?」

「うん……私は余り戦いに向いてないし、だったら清宮(きよみや)さんや曹操さんに任せた方が良いと思う……。」

「折角の名を上げる好機なのになあ……。」

 

 その先頭集団の中程で並んで進む董卓(とうたく)賈駆(かく)は、そんな会話をしていた。

 昨日の軍議で、総大将を決める事になった。

 最後に合流した盧植は早々と辞退したが、桃香(とうか)達は涼を、荀彧(じゅんいく)は曹操を、そして賈駆は董卓を推薦した。

 

徐庶(じょしょ)はボク達との約束を守れずに敵将を討てなかったんだから、ここは辞退しなさいよっ。』

『私の落ち度は清宮様の落ち度ではありません。混同されては困りますね。』

『あら、軍師の実力を見極められない指揮官なんて、無能では無いの?』

『確かに。……では、荀彧殿の実力を見極められなければ、曹操殿も同じく無能という訳ですね。』

『な……な……何ですってーっ‼』

 

 こんな感じの口喧嘩が四半刻も続いた。

 結局、仲違いを好まない董卓が辞退すると、次いで曹操も連合軍に参加したばかりと言う事で辞退し、残るは涼だけになった。

 慌てた涼は桃香に替わって貰おうとしたが、当然ながら桃香が首を縦に振る筈は無く、そのまま涼が総大将の任に就く事になった。

 

「まあ……“天の御遣い”が総大将って事で、兵の士気はかなり高まっているけどね。」

 

 賈駆は、連合軍の士気が今迄になく高まっているのを感じながら、涼が総大将になったのも悪くは無いと思っていた。

 一方、曹操と荀彧、そして盧植は董卓達より少し先を進んでいた。

 

「……華琳(かりん)様ぁ〜。」

「総大将の件ならさっき言った通りよ。」

「そんなあ……。」

 

 荀彧の言葉を曹操が切って捨てると、荀彧は悲しげな声を出した。

 曹操が総大将を辞退した事は、荀彧にとってかなりのショックだったらしく、それから何度も考え直す様に言ってきた。

 だが、一度辞退したものをやっぱりやってみたい等とは、曹操が言う筈もない。

 なので、曹操は荀彧の話が総大将の件と解ると、今みたいに直ぐ話を終わらせている。

 また、曹操が総大将を辞退したのは、連合軍に参加したばかりという理由以外にもあった。

 

(フフ……噂の“天の御遣い”の実力、見せて貰うわよ……。)

 

 曹操は涼の実力を見る為に辞退していた様だ。

 それが何を意味するかは、曹操以外誰も知らない。

 

「……という訳だから、ちゃんと涼の命令を聞くのよ。」

「そ、そんなっ! 華琳様ぁっ!」

 

 荀彧が涙を浮かべながら懇願するも、曹操はそれ以上何も言わなかった。

 

「華琳ちゃんは相変わらずね。」

 

 そう言ったのは、少し前を進んでいた妙齢の女性だった。

 

「……ちゃん付けは止めて下さいと、以前にも申した筈ですよ、翡翠(ひすい)様。」

「あら、そうだったわね。ごめんなさい、華琳ちゃん。」

「……はあ。」

 

 言った側からちゃん付けされたので、曹操は溜息しか出なかった。

 

「ふふ……。それで、曹操さんはこれからどうするのかしら?」

「どうするも何も、天の御遣いの采配通りに動くだけですよ、盧植様。」

 

 曹操は前を向いたまま、翡翠――盧植の問いに答える。

 曹操の視線の先には、部下である関羽達と共に進む天の御遣いの姿があった。

 この世界には無い生地で出来ている白い衣服に身を包み、背中に一つ、左腰に二つの剣を差している天の御遣い――清宮涼の姿が。

 

「ふふ……華琳ちゃんが力になるのなら、清宮様も心強いでしょうね。」

「……翡翠様は、涼についてどう思っているのですか?」

「あら、もしかして清宮様は華琳ちゃんの好み?」

「違いますっ! 私は只、翡翠様が天の御遣いをどう評価しているのか知りたいだけですっ!」

「あら、そうだったの。……ふふ。」

 

 曹操はからかわれていると理解しながらも、必死になって反論した。

 盧植はそんな曹操を見ながら、口元を袖で隠して笑みを浮かべる。

 

「そうね……。今は未だ経験に乏しく、護られるだけの存在。けど、少しは兵法に通じている様だし、これからの成長に期待出来る程の大きな可能性を秘めている、と、私は見ているわ。」

「……そうですか。」

 

 曹操はやはりという様な表情をして呟いた。

 盧植が自分と同じ様な評価をしているのを知って、嬉しくもあり複雑でもあった。

 

「涼は張宝を討てるでしょうか?」

「大丈夫でしょう。彼には優秀な仲間が居ますし、華琳ちゃんも居ますから。」

「あ、いえ、私が聞きたいのは……。」

 

 曹操は一度口を閉じ、暫く迷ってから尋ね直した。

 

「涼が、その手で張宝を殺せるか、という事です。」

 

 曹操達がそんな話をしている頃、先頭を行く涼と桃香は一言も口にせずに進んでいた。

 

「……清宮殿、気持ちは解りますが、もう少し落ち着かれては如何ですか?」

「そ、そんな事言ったって……。」

 

 そう言った涼の声は少し震えていた。

 馬上の涼は姿勢正しく座っており、真っ直ぐ前方を見つめている。

 一見とても落ち着いている様だが、実際はそうではなかった。

 

「俺なんかが董卓達を差し置いて総大将になるなんて、やっぱり無理だよ。」

 

 その声はとても弱々しく、とても総大将の言葉とは思えない。

 それでいて体はガチガチで、緊張しまくっている。

 

「そ、そんな事無いよ。涼兄さんならちゃんと出来るからっ。」

 

 その緊張が隣を行く桃香にも移ったのだろうか、何故か桃香の口調も若干震えている。

 

「やれやれ……。」

 

 そんな二人を見ながら、雪里(しぇり)は小さく嘆息していた。

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