劉表軍の挨拶が終わり、残るは袁術軍と袁紹軍だけになった。
誰もがどっちからか? と思ったが、ここで思わぬ声が出てきて挨拶は終わりとなった。
「袁家を知らない人間なんてこの場に居ないでしょうから、
「なんとっ!?」
「っ! ……それもそうですわね。四世三公の袁家を知らない人なんて、この漢の国に居る筈がありませんものね。」
袁術こと美羽と袁紹は、それぞれ発言の主である華琳を見ながら驚き、次いでこの様に反応した。
袁紹は何か言いたそうにしている様にも見えたが、全国から諸侯が集まっているからか言葉を飲み込んだ。もう一人の袁家である美羽はというと、不満そうではあるが隣に居る
何はともあれ、こうして諸侯の挨拶は終わり、漸く軍議が始まった。
始まった、のだが。
「本気で董卓が居る洛陽を目指すのなら、まずはここ河内だけでなく、東の
「何を言ってますの華琳さん。これだけの大軍が集まっているのですから、このまま前進して攻めいるだけで董卓さんの軍勢など圧し倒せますわ。」
「麗羽こそ何を言っているの? このまま西進すれば程なくして
「それは勿論知っていますが……。ですが、この二つの関以外にも洛陽の周囲には
「麗羽のくせに言うわね……。」
と、この様に華琳と袁紹の独壇場になってしまっていた。二人の迫力に他の者達は誰も口出しできず、ただ黙って見守るしかなかった。この世界の袁紹はおバカと言われるが、一応名門袁家の人間なので知識だけはある。それでおバカと言われるのは、恐らく知識の使い方が間違っている場合が多いのであろう。
なお、洛陽八関とは函谷関、
この他にも洛陽周辺には前述の虎牢関など複数の関所が点在しており、“敵”が帝都洛陽を攻めるにはこれらの関所のいずれか、もしくは複数を突破しなければならない。連合軍は数十万もの大軍とはいえ、これらの関所を攻略するのは大変であろう。
暫しの間、華琳と袁紹は黙って向き合い続けた。そのまま両者の意見がぶつかり続けるのかと思われたが、ここは聡明な華琳が折れた。ふう、と一つ息を吐く。
「……いいわ、麗羽の作戦でいきましょう。けど、このまま進むとしても周囲の注意を怠る訳にはいかないわ。その為にも私の軍は左翼か右翼に配置してほしいのだけど。」
「構いませんわ。何ならもう一翼も華琳さんが決めてよろしくてよ?」
「そう? なら……もう片翼は涼と雪蓮に頼みたいのだけど。」
華琳は両者を見ながらそう言った。瞬間、袁紹の眉間がピクリと動いた。
「私達が?」
「ええ、これだけの大軍の両翼にはある程度兵力がある部隊を配置しておきたい。万が一の時に対応できるだけの兵力、戦力、統率力がなくては両翼がもがれて全滅するわ。」
華琳の説明に納得したのか、雪蓮は静かに頷いた。
確かに、連合に参加している軍の中で兵数が多いのは袁家を除けばこの三人の軍である。華琳は敢えて言っていないが、実力や連携面を考えてもベストな配置と言えるだろう。
「私は良いけど……涼はどうするの?」
「考えはあるにはあるけど、これ自体は俺が決める事じゃないよ。桃香に訊いてくれ。」
「えっ、私っ!?」
急に話を振られた桃香が困惑の声をあげる。しっかりしなさい州牧様。
桃香は慌てつつも小声で涼に話し掛ける。
「……涼
「俺も雪蓮と同じで良いと思ってるよ。」
「そうなんだ……。朱里ちゃんはどう思う?」
「はい。連合軍がこのままの進路で洛陽に進むのなら、曹操さんが仰る様に道中の安全を考えて両翼を固めるのは最上の策です。徐州軍がそちらに配置されるのは
義兄と筆頭軍師のお墨付きを貰った桃香は納得し、華琳の提案を受ける事にした。
その間、袁紹はずーっと機嫌が悪かったが、それに気づいた者が何人居たかは判らない。尤も、例え気づいていても、
(華琳さんは相変わらずあの男達とつるんでいますの!? せっかく私が花を持たせてあげたというのに……!)
と、こんな風に怒っているとは誰も思わないだろう。先の戦いがあったのに、袁紹自身は華琳を憎みきれていなかったらしい。
そんな袁紹としては涼たちを一翼に配置したくはなかった。華琳と違ってこっちは憎しみの度合いが強い。が、先ほど華琳に人選を任せると言った手前、反対も出来なかった。機嫌を悪くするのが精々だった。
それからも軍議は続き、進軍時の配置が決まった。
会戦時には先陣となる可能性が高い最前列には左に公孫賛軍、右に馬謄軍が列び、そこから青州軍、袁術軍、袁紹軍と続き、
そうしてほぼ全ての議題が終わったので、軍議は終了になるかと思われた。
だがここで、袁紹がまだ決めていない事があると言った。何かあったっけ? と涼は思いつつ袁紹を注視する。桃香たちも自然と同じ様に袁紹を見た。
その袁紹はいかにも重大な事を告げるという風に姿勢を正し、ハッキリとした声で言葉を紡いだ。
「肝心の総大将がまだ決まっていませんわ!」
直後、天幕の中にしばしの沈黙が流れた。
そういえばまだ決まってなかったな、と涼は思った。それは他の者も同じだったらしく、皆一様に涼と同じ表情になっている。
とは言え、総大将を決めるというのは充分に大切な事なので無視する訳にもいかない。その為に華琳が立ち上がる。
「じゃあさっさと決めましょう。」
華琳がそう言うと、袁紹は待ってましたと言わんばかりに表情を輝かせ、再び言葉を紡いだ。
「この連合を取りまとめる総大将には名門袁家の私、
「そうね、それで良いんじゃないかしら。貴方達はどう思う?」
袁紹が立候補し、華琳が採決をとった。ほとんどの者が頷いた。
もう一つの袁家の主である美羽は袁紹に対抗しようとしたが、隣に居る七乃に耳打ちされると慌てて挙げかけた手を引っ込めた。何を言われたのだろう。
「満場一致のようね。麗羽、この連合軍の総大将としてしっかりしなさいよ。」
「か、華琳さんに言われるまでもありませんわ!」
袁紹はそう言うと常の「おーほっほっほ」という高笑いをした。が、実は内心拍子抜けしていた。
(な、何で美羽さんだけでなく華琳さんも立候補しませんの!?)
いや、拍子抜けというより、困惑していたと言うのが正しいかも知れない。
既に触れたが、袁紹はまだ華琳を憎みきっていない。それは華琳をいまだに信頼していると言える。そして袁紹は華琳も自分と同じ様に思っていると「無意識かつ勝手」に思っている。
実に自分本意な袁紹らしいが、華琳からすれば迷惑な事この上ない。先の戦いに於いて華琳は、袁紹との関係や袁家の勢力を敵に回す覚悟をもって臨んだ。一生憎まれても恨まれても仕方ないとすら思ったかも知れない。
それなのにいまだに好敵手として見られている等、それこそ華琳は困惑してしまうだろう。
尤も、華琳が今回の総大将に立候補しなかったのは袁紹との関係だけが理由ではない。
(こんな茶番の総大将になってもなんの得も無いわ。こういうのは言い出しっぺの麗羽に任せるに限るわね。案の定ご機嫌だったし。)
華琳はこの反董卓連合という茶番劇の盟主になどなるつもりはない。華琳は華琳なりに、月が帝を蔑ろにする訳がないと思っている。彼女も月と少なからず交流があり、それなりに現状を調べていたからだ。
だが、人の性格は変わるという事も理解している華琳は最終的に連合に参加を決めた。
その上でどうするのが最善かを考えた。いや、今も考えている。
そうした彼女なりの美学というか生き方に、「反董卓連合の総大将になる」という選択肢が無かったに過ぎない。ただそれだけなのである。
華琳を信頼し、ともすれば親友と思っている袁紹もそこまでは理解していなかった様だ。
こうして、涼たちを交えて行われた反董卓連合の初めての軍議は幕を閉じたのだった。
という訳で、「英雄達の集結」でした。
読者の皆さんお久し振りです。一応まだ書いています。
今回は「反董卓連合編」に登場する勢力や人物を紹介する回になりました。「真・恋姫」未登場のキャラをまた出しましたが、この後もそういったキャラは出てくる予定です。三国志で有名なキャラは勿論、この武将出すの!? ってキャラも出す予定です。……出し過ぎてパンクしそうですが。
あまりにも長いし場面は変わらないのでもう少し上手い展開を書ければ良かったのですが、そこまでは出来ませんでした。これを書いていた当時は入院中だったので時間はあった筈なんですけどね。
で、申し訳ないんですが次も余り動きはありません←
流石に今回よりは動きますが、次は今回の軍議を受けて桃香たち各勢力がどうするかという話です。いやまあ、反董卓連合の一員として戦うのは変わらないんですが、これからの事も兼ねてちょっとした話を加えたかったので。
それが終わればようやく戦闘になる筈です。多分。
大まかな流れは決めてるんですが、本を読んで得た情報を小説に取り入れたくて文章やプロットを書き直したりチェックしてる日々です。年内に続きを投稿出来ればと思っています。
随分長い事書いていてまだ終わりが見えませんが、どうかお付き合いいただければ幸いです。
ではでは。
2020年12月10日更新。
2022年12月25日後書き更新。