真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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目前にまで迫った戦いの足音。

出来れば避けたい、けど賞賛は受けたい、でも誰も失いたくない。

三者三様、その気持ちは互いに知らないでいる。

2023年1月1日更新開始
2026年3月31日最終更新


第二十四章 汜水関へ向けて・1

 反董卓連合(はん・とうたく・れんごう)最初の軍議が終わり、諸将は各々の陣営へと戻っていった。

 (りょう)桃香(とうか)たちと共に自分達の陣営へと戻っていく。道中は雪蓮(しぇれん)たちと一緒になったが、方向が同じなのである意味当然と言えた。ちなみに華琳(かりん)は既に居ない。男である涼の側に居るのを桂花(けいふぁ)が嫌がったのもあるが、華琳が急ぎ軍を整えたいと言ったのが主な理由だ。勿論、それを止める権利は涼にも雪蓮にもない。

 足早に進む華琳たちを眺めながら、涼たちはゆっくりと自陣へ向かっていた。(ちな)みに、袁紹(えんしょう)の陣営からは足早に去った。流石にあの場にいつまでも居る度胸は涼にも桃香にもなかった。

 虎口を脱したかの様な気分になった桃香は汗を拭いながら大きく息を吐いた。傍を行く愛紗(あいしゃ)時雨(しぐれ)も同様だった。雪蓮たちはケロッとしている様に見えるが、内心はどうだろうか。

 

「やっぱり気まずいよねえ、涼義兄(にい)さん。」

 

 桃香は隣を歩く涼に向かって苦笑しつつ言った。

 桃香と袁紹はついこの間、戦をした間柄である。厳密に言えばその戦に桃香は居らず、袁紹と戦ったのは涼と雪蓮、それに華琳なのだが、徐州牧(じょしゅう・ぼく)であり徐州軍全軍を統括する立場にある桃香が気まずく思うのは当然だった。因みに桃香自身は青州(せいしゅう)遠征の指揮をしていた。

 袁紹との戦に参加していない桃香でさえこうであるから、涼はもっと気まずいのではないかと思い、彼女は先の言葉を紡いだ。だが、その涼からは特に反応がない。

 不思議に思った桃香は涼の顔を覗きこんだ。何やら考えているのか、口許に手をやり、人差し指をブラブラと動かしている。

 

「涼義兄さん、どうかしたの?」

 

 桃香がもう一度声をかけると、ようやく涼の意識が桃香に向けられた。いつの間にか近くに桃香の顔があって少し驚いたものの、涼はすぐに平静を取り戻して暫し思案してから、今まで考えていた事を口にした。

 

「いや……さっきの荊州(けいしゅう)軍についてちょっとね。」

 

 それは涼の疑問だった。この世界での諸侯達の領土(・・・・・・・・・・・・)を思い出しながら考えても、やはり解けない。その疑問とは、

 

“荊州全土は袁術(えんじゅつ)の領土ではないのか?”

 

というものだった。

 この世界の諸侯達は、涼が知る歴史とは違う立場や領土を持っている。

 例えば先程述べた桃香がそうである。桃香、つまり劉備(りゅうび)は本来、この時点では州牧などという立場ではない。反董卓連合時の劉備は正史でも演義でも誰かの配下であり、正史に至っては反董卓連合に参加していない可能性が高いほどである。

 それを踏まえて思い直すと、やはりこの世界の荊州は全土が袁術の領土であると揚州(ようしゅう)遠征時に確認している。それから荊州で大きな政変が起きたという情報は入っていない。なお、孫軍の領土は豫州(よしゅう)全域と、十常侍(じゅうじょうじ)誅殺(ちゅうさつ)の恩賞で賜った揚州の北中部、厳密に言えば南昌(なんしょう)南城(なんじょう)建安(けんあん)を結ぶライン迄で、そこから南は何故か袁術の領土になっている。

 では何故、袁術軍とは別に「荊州軍」が在るのか? 涼は頭を悩ませた。が、その疑問は雪蓮によってすぐに、呆気なく、つまり解けた。

 

「荊州軍は袁術第二の軍と言えるのよ。」

 

 そう言った雪蓮の顔を涼と桃香が同時に見た。雪蓮は二人の双眸を交互に見ながら説明を続けた。

 

黄巾党(こうきんとう)の乱の直後、袁術は南陽郡を支配したのよ。無能な太守を討った母様の手柄を横取りにしてね。」

(それって……ひょっとして、本来は反董卓連合直前に起きる事がそんな前に起きてた?)

 

 涼は雪蓮のその言葉だけで何となく事情を察した。

 正史では、反董卓連合の前に孫堅(そんけん)南陽(なんよう)太守・張咨(ちょうし)を排除している。その前には荊州刺史(しし)王叡(おうえい)も同じ様に排除していた。その後に孫堅が南陽郡に来ていた袁術に謁見すると、袁術は孫堅を破虜将軍(はりょ・しょうぐん)代行と豫州刺史に任じ、自身は南陽郡を支配した。

 この一連の流れが、時期は違うといえこの世界でもあったと涼は知った。役職についてはどうか判らないが、任じられていないのかも知れない。史実ではこの後、孫堅は袁術の配下になるのだが、この世界では独立した立場・存在である。少なくとも今のところは。

 雪蓮の説明が続く。

 

「母様も苦々しかったでしょうけど、当時は将兵の数が違いすぎて抵抗は断念したわ。その後、袁術は荊州全土を支配下に置いた。表向きは黄巾党の乱で乱れた荊州を建て直す為と奏上して、それが認められた訳だけど……。」

 

 そこで雪蓮は苦笑した。涼はどうしたのかと一瞬思ったが、すぐに思い至った。

 荊州、それも南陽は涼と雪蓮が初めて会った場所である。

 当時は黄巾党に対する連合軍と呼ばれる一団の総大将だった涼は、南陽黄巾党征伐の為にその地に派遣された。連合軍はそこで南陽黄巾党と激戦を繰り広げ、援軍として孫軍が合流すると一気に敵を撃滅した。

 その後しばらくの間、周辺地域の平定を行っていった涼と雪蓮はいろいろあったが最終的には仲良くなり、雪蓮が真名(まな)を涼に預けるにまで至った。

 そうした思い出の地でもある荊州、ひいては南陽が自分達ではなく袁術に横取りされた事が、何とも悔しく、馬鹿馬鹿しい事だと思ったのだろうと、涼は結論づけた。

 

劉表(りゅうひょう)はその袁術に代わって統治を任されているのよ。統治の苦労はしたくないけど良いとこだけは自分のものにしたいとでも思ったんじゃない?」

 

 そう言った雪蓮はさっき以上に苦笑していた。

 結果として袁術は南陽に、劉表は襄陽(じょうよう)にそれぞれ本拠を構えた。荊州は表向きは袁術が統治している事になっているが、実際には劉表が統治しており、しかも兵や富の殆どは袁術が有するという訳が分からない状況になっているらしい。

 今回の連合に袁術軍ではなく荊州軍として参戦している以上、表向きも何もない気がするが、ひょっとしたら袁術の勢力が大きいので誰も何も言わないのだろうか。

 

(劉表が袁術の配下……か。)

 

 涼は元々知っている三国志の知識とこの世界の状況を組み合わせ、この後に起きるかも知れない事を考えた。目の前に雪蓮が居るので余計に気が滅入ったが、今は先の事を考える余裕はないと気づきかぶりを振った。

 

(……今回の事が終わったら小蓮(しゃおれん)に相談しよう。)

 

 沢山の情報を得て頭の整理が出来ていない今は、そう思うので精一杯だった。

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