出来れば避けたい、けど賞賛は受けたい、でも誰も失いたくない。
三者三様、その気持ちは互いに知らないでいる。
2023年1月1日更新開始
2026年3月31日最終更新
足早に進む華琳たちを眺めながら、涼たちはゆっくりと自陣へ向かっていた。
虎口を脱したかの様な気分になった桃香は汗を拭いながら大きく息を吐いた。傍を行く
「やっぱり気まずいよねえ、涼
桃香は隣を歩く涼に向かって苦笑しつつ言った。
桃香と袁紹はついこの間、戦をした間柄である。厳密に言えばその戦に桃香は居らず、袁紹と戦ったのは涼と雪蓮、それに華琳なのだが、
袁紹との戦に参加していない桃香でさえこうであるから、涼はもっと気まずいのではないかと思い、彼女は先の言葉を紡いだ。だが、その涼からは特に反応がない。
不思議に思った桃香は涼の顔を覗きこんだ。何やら考えているのか、口許に手をやり、人差し指をブラブラと動かしている。
「涼義兄さん、どうかしたの?」
桃香がもう一度声をかけると、ようやく涼の意識が桃香に向けられた。いつの間にか近くに桃香の顔があって少し驚いたものの、涼はすぐに平静を取り戻して暫し思案してから、今まで考えていた事を口にした。
「いや……さっきの
それは涼の疑問だった。
“荊州全土は
というものだった。
この世界の諸侯達は、涼が知る歴史とは違う立場や領土を持っている。
例えば先程述べた桃香がそうである。桃香、つまり
それを踏まえて思い直すと、やはりこの世界の荊州は全土が袁術の領土であると
では何故、袁術軍とは別に「荊州軍」が在るのか? 涼は頭を悩ませた。が、その疑問は雪蓮によってすぐに、呆気なく、つまり解けた。
「荊州軍は袁術第二の軍と言えるのよ。」
そう言った雪蓮の顔を涼と桃香が同時に見た。雪蓮は二人の双眸を交互に見ながら説明を続けた。
「
(それって……ひょっとして、本来は反董卓連合直前に起きる事がそんな前に起きてた?)
涼は雪蓮のその言葉だけで何となく事情を察した。
正史では、反董卓連合の前に
この一連の流れが、時期は違うといえこの世界でもあったと涼は知った。役職についてはどうか判らないが、任じられていないのかも知れない。史実ではこの後、孫堅は袁術の配下になるのだが、この世界では独立した立場・存在である。少なくとも今のところは。
雪蓮の説明が続く。
「母様も苦々しかったでしょうけど、当時は将兵の数が違いすぎて抵抗は断念したわ。その後、袁術は荊州全土を支配下に置いた。表向きは黄巾党の乱で乱れた荊州を建て直す為と奏上して、それが認められた訳だけど……。」
そこで雪蓮は苦笑した。涼はどうしたのかと一瞬思ったが、すぐに思い至った。
荊州、それも南陽は涼と雪蓮が初めて会った場所である。
当時は黄巾党に対する連合軍と呼ばれる一団の総大将だった涼は、南陽黄巾党征伐の為にその地に派遣された。連合軍はそこで南陽黄巾党と激戦を繰り広げ、援軍として孫軍が合流すると一気に敵を撃滅した。
その後しばらくの間、周辺地域の平定を行っていった涼と雪蓮はいろいろあったが最終的には仲良くなり、雪蓮が
そうした思い出の地でもある荊州、ひいては南陽が自分達ではなく袁術に横取りされた事が、何とも悔しく、馬鹿馬鹿しい事だと思ったのだろうと、涼は結論づけた。
「
そう言った雪蓮はさっき以上に苦笑していた。
結果として袁術は南陽に、劉表は
今回の連合に袁術軍ではなく荊州軍として参戦している以上、表向きも何もない気がするが、ひょっとしたら袁術の勢力が大きいので誰も何も言わないのだろうか。
(劉表が袁術の配下……か。)
涼は元々知っている三国志の知識とこの世界の状況を組み合わせ、この後に起きるかも知れない事を考えた。目の前に雪蓮が居るので余計に気が滅入ったが、今は先の事を考える余裕はないと気づきかぶりを振った。
(……今回の事が終わったら
沢山の情報を得て頭の整理が出来ていない今は、そう思うので精一杯だった。