真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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黄巾党との戦いは一先ず終わった。

だが、これで全てが終わった訳では無い。

寧ろ、これから始まるのだと、何人が気付いていたのだろうか。
気付いても気付かなくても、時は流れていった。



2010年2月15日更新開始。
2010年4月1日最終更新。

2017年4月16日掲載(ハーメルン)


第六章 戦いが終わり、戦いが始まる・1

「皆、お疲れ様。」

 

 張宝(ちょうほう)率いる黄巾党(こうきんとう)を倒したその夜、連合軍の本陣では戦勝を祝した宴が開かれようとしていた。

 名目上とは言え総大将を務めた(りょう)が正面中央の席に着き、その右隣に桃香(とうか)、左隣には曹操(そうそう)が座っている。

 更に桃香の右隣には董卓(とうたく)が、曹操の左隣には盧植(ろしょく)が座り、連合軍の各指揮官が一列に座っていた。

 その他の武将や軍師達は、涼達から見て正面左右に在る席に座り、総大将である涼の言葉を聴いている。

 

「苦しい戦いの中、皆よく頑張ってくれた。残念ながら敵将張宝は捕り逃してしまったが、今回の敗戦で黄巾党の勢いは大きく失われるだろう。」

 

 愛紗(あいしゃ)鈴々(りんりん)雪里(しぇり)達が頷く。

 

「勿論、未だ黄巾党の全てを倒した訳では無いから油断は出来ない。けど、今日は皆で勝利を祝い、疲れを癒してくれ。」

 

 そう言うと涼は杯を手に取り、掲げながら宣言した。

 

「では、戦勝を祝して、乾杯!」

「乾杯!」

「御遣い様に乾杯!」

 

 涼の音頭をキッカケに皆思い思いの言葉を言いながら、杯に注がれていたお酒を飲んでいった。

 因みに、未成年の涼はお酒の代わりにお茶を飲んでいる。

 この世界ではお茶も高級品なので、宴で飲んでいてもおかしくはない。*1

 とは言え、こうした席では通常お酒を飲むものだから、お茶を飲むのは珍しい事でもある。

 

「涼、折角の宴なのだからお茶ではなくお酒を飲みなさいよ。」

 

 そう言ったのは曹操だ。

 手にはお酒が入った徳利を持っており、涼に勧めようとしている。

 

「有難う曹操。けど俺、未成年だし。」

「未成年って……確か、貴方は十七歳だって言ってなかったかしら?」

「そうだよ。この国じゃどうか知らないけど、俺の国では成人は二十歳からなんだよ。それ迄は飲酒も喫煙も禁止されているんだ。」

「だから飲まないと言うの?」

「ああ。」

「真面目なのね、貴方。」

「どうだろ? ただ、ルール……規則を破って迄する事じゃ無いと思っただけさ。」

 

 涼は苦笑しながらそう言うと茶碗を手にし、グイッとお茶を飲み干す。

 

「ここは貴方が居た世界では無いのに?」

 

 曹操はそう言いながら、いつの間にか持っていた水差で涼の茶碗にお茶を注いだ。

 

「あ、有難う曹操。それじゃ……。」

 

 涼はお茶のお返しとして曹操の杯にお酒を注ぐ。

 

「有難う、涼。」

 

 その杯を丁寧に口に運び、静かに飲み干していく曹操。

 片手でグイッと飲む涼とは対照的に優雅な仕草だ。

 

「例え住む場所が変わっても、それ迄の習慣ってそう簡単には変わらないだろ? お酒に関してもそれと同じさ。」

 

 涼は先程の問い掛けに答えながら、宴の為に振る舞われた料理を口にする。

 肉料理も野菜料理もバランス良く配膳されているが、皆肉が好きらしく出席者の大半は肉ばかりを食べている。

 因みに涼も肉料理を少し多く食べていた。

 

「まあ、一理有るわね。」

 

 曹操は笑みを浮かべながら料理に手をつけた。

 やはり静かに優雅に食べていく。

 因みに涼は普通の食べ方なので、特に優雅でも無いし、また汚くも無かった。

 

清宮(きよみや)様。」

「何ですか、盧植さん?」

 

 そんな中、盧植が涼に声をかけてきた。

 涼は一旦箸を休め、口の中に有る食べ物を胃の中に送り込んでいく。

 

「先程も言いましたが、改めて戦勝おめでとうございます。」

「有難うございます。けど、さっきも言った通りこれは俺だけの手柄ではありません。皆さんのお陰で手にする事が出来た勝利です。」

 

 盧植の祝辞を素直に受けつつ、同時に盧植達を労う涼。

 因みに二人が言っている「先程」や「さっき」とは、涼が張宝を保護した後、山頂で盧植達と合流した時の事を指している。

 山頂での戦いが一段落した頃、真っ先に涼と桃香の(もと)にやって来たのは雪里だった。

 雪里は涼の顔やコートに着いた血を見て一瞬驚いたが、直ぐに落ち着いて涼に手拭いと羽織を手渡した。

 

『この場に居る黄巾党は、その殆どが討ち取られるか投降しています。ですから顔に着いた返り血を拭き、お召し物を着替えても宜しいかと思います。』

 

 そう言って促された涼は、雪里の言う通りに返り血を拭い、コートを脱いで代わりに羽織を羽織った。

 その後、愛紗と鈴々が部隊を引き連れて合流すると、涼は自分の考えを三人に打ち明けた。

 当然の如く驚き反対されたが、共に戦い始めて約一ヶ月。涼の性格を熟知している三人は意外と簡単に同意した。

 それから、愛紗は雪里が戦術の為に手に入れていた情報に有った道の確認に行き、鈴々と雪里は各部隊の状況確認をし、涼と桃香は張宝の探索に向かった。

 その後、無事張宝を保護した涼は桃香や(せい)達に張宝を預け、部隊に戻った。

 その時には完全に戦闘が終わっており、曹操達が部隊に合流していた。

 

『清宮様、戦勝おめでとうございます。』

 

 そこで涼に対して祝辞を述べたのが盧植であり、また、曹操達もそれに倣っていった。

 

「けど、貴方や劉備が奇襲攻撃を仕掛けなければ勝つ事は難しかったし、例え勝てても甚大な被害を被っていた筈。だから、今回の一番の功労者は貴方よ。」

 

 二人の話を聞いていた曹操がそう言うと、涼は照れながら言った。

 

「それなら、桃香達もその中に加えてくれよ。俺なんかよりずっと頑張ってくれたんだから。」

「確かに、関羽(かんう)張飛(ちょうひ)、そして徐庶(じょしょ)の活躍には目を引くわね。でも……。」

 

 曹操は涼の顔を、そして手を見つめると、顔を近付けて小さな声で言った。

 

「人を斬った事が無かった貴方が人を斬った。それだけでも、やっぱり貴方が功労者だと思うのだけど?」

「……俺が人を斬った事が無かったって、何故解ったんだ?」

「そりゃ解るわよ。貴方にはそんな雰囲気が無かったし、それに……。」

「それに?」

「それに、戦場で白い服を着るなんて普通しないしね。」

 

 返り血を浴びる可能性が高いのだから、その意見はもっともだ。

 現代でも、白い服は汚れが目立つという理由で敬遠される事が有る。

 

「まあ、あの服は俺が違う世界から来たって証みたいなものだしなあ。」

 

 涼はそう言うと再びお茶を飲む。因みに、理由はそれだけでは無いのだが。

 

「それに、人を初めて斬ったのは俺だけじゃない。桃香……劉備(りゅうび)も同じだしね。」

「どうやらその様ね。あの娘も少し雰囲気が変わったみたいだし。」

 

 そう言うと、涼の右隣に居る桃香を見る。

 桃香は隣に居る董卓と話が弾んでいるらしく、笑顔を浮かべながら食事をしていた。

 だが曹操は気付いていた。その笑顔の中に有る「陰」に。

 

(まあ、これは戦いに身を投じた人間全てにかかる病気みたいなもの。これに勝てないのなら、戦場に身を置くべきではないわ……。)

 

 戦いを続ける以上、これからも人を斬る事が有るだろう。

 その度に落ち込んでいては、何れその心身を壊してしまう。

 

(劉備……そして清宮涼。貴方達はどうなるかしらね。)

 

 それとなく二人を見ながら、曹操は思った。

 どうせなら、強くなってその姿を私に見せろ、と。

 何れ敵対するかも知れない相手に対してついそう思ってしまうのは、曹操の悪い癖である。

 曹操がそんな事を思っているとは涼や桃香は露程にも思っておらず、曹操は勿論、董卓や盧植、更には愛紗達と飲み交わしている。

 そこに、二人の少女がやってきた。

 

「清宮、見回り終わったぞ。」

「今の所、異常は有りません。」

 

 涼の前に並んで立つ二人は、対照的な外見と雰囲気を持っていた。

 

「二人共お疲れ様。ゆっくり休みながら宴の料理を堪能していってね。」

「有難うございます、清宮様。」

「よしっ、俺もう腹ペコなんだよな。(しずく)、早く食いに行こうぜ。」

「ちょっと時雨(しぐれ)ちゃんっ、ちゃんと清宮様達に挨拶しないとっ。……ああもうっ!」

 

 丁寧に挨拶した少女――雫に対し、もう一人の少女――時雨は挨拶もそこそこにして空いている席に向かった。

 残された雫は、困りながらもきちんと涼達に挨拶してからその後を追った。

 

「あの……清宮さん、あの人達は?」

 

 そんな二人を見ていた董卓が、涼に向き直りながら尋ねる。

 

「ああ、彼女達はさっき仲間になった娘達だよ。」

「さっきって事は……投降した黄巾党の兵なのかしら?」

 

 曹操も董卓と同じく気になっていたらしく、推測を述べてみる。

 

「いや、二人は桃香の友達なんだ。」

「劉備の? ならあの二人は義勇軍に入ったの?」

 

 曹操のもっともな疑問を受け、涼と桃香は説明を始めた。

 時雨達は、黄巾党の殲滅と桃香との合流を目的として旅をしていた事。

 戦場となったあの山に、連合軍とは反対側の小道から登った事。

 そして戦いの最中に偶然出会い、そのまま仲間になった事等を簡潔に説明していった。

 

「……それじゃあ、その方達全員が義勇軍に参加したって事ですか?」

 

 説明が終わると、董卓が確認の為の質問をした。

 

「いや、少なくとも三人は未だ旅を続けるらしいよ。仕える主を見極めたいってさ。」

「つまり、私達じゃ仕えるに値しないって事かしら?」

 

 涼が董卓にそう答えると、曹操が不満そうに言った。

 

「そうじゃないと思うけど。多分、簡単に決めたくないんじゃないかな?」

「ふうん……。まあ良いわ。それで、その残りの娘達はどこに居るのかしら?」

「皆この中に居る筈だよ。……ああ、さっきの二人と一緒みたいだね。」

 

 涼が時雨達の居る方を指差すと、曹操だけでなく董卓や盧植も目を向けた。

 そこには確かに時雨と雫が並んで座っていた。

 そして、時雨の右側にセミロングの茶髪の少女と水色の髪の少女、雫の左側に眼鏡の少女と長い金髪の少女が同じ列に並んでおり、仲良く食事をしていた。

 

「皆さん仲が良いんですね。」

「一緒に旅する様になって、それなりの時間が経っているみたいだからね。けど、何だかずっと前からの知り合いみたいだ。」

 

 時雨達の様子を見た董卓が、微笑みながら言った。それは涼も同じ感想だった。

 何よりも驚いたのは、“その場に居る張宝”迄もが何の違和感無く時雨達と接していたからだ。

 

(まあ、変にビクビクして怪しまれるよりマシか。)

 

 張宝を宴に参加させるのは流石に反対意見も多かったが、「木を隠すなら森の中」という理由から最終的には皆納得した。

 勿論、涼の性格から仕方無くといった感じもあったが。

 

「成程ね……。後で勧誘してみようかしら。」

「するのは勝手だけど、彼女達の意思も尊重してやりなよ?」

「解っているわよ、それくらい。」

 

 当然の事を注意されたからか、曹操は少し機嫌を悪くした様だ。

 なので涼は話を変える事にした。

 

「ところで、これからの事なんだけど。」

「何?」

「張宝の部隊は倒せたけど、黄巾党には未だ張角(ちょうかく)張梁(ちょうりょう)の部隊が残っている。だからこれからも戦いは続く筈だよな?」

「そうね。」

 

 曹操は涼の話に乗ってくれたのか、真剣な表情になって聞きだした。

 

「なら、俺達はこれからどう戦うかの指針を決めないといけない。」

「……つまり、このまま連合を続けるかどうかという事かしら?」

「ああ。」

「私としては、このまま連合を組んでも良いのだけど……。」

「何か問題でも有るの?」

 

 口籠もった曹操に違和感を感じた涼は、曹操を見つめながら尋ねる。

 曹操は暫く間を置いてから答えた。

 

「私の軍の兵数は連合軍の中で二番目に少ない。このままでは、余り戦力になりそうも無いわ。」

「そんな事言ったら、義勇軍の数は三千弱だから連合軍の中で一番少ないんだけど。」

「けどそっちには関羽と張飛という武将に、徐庶という軍師が居る。それに比べたら、こっちは軍師の桂花(けいふぁ)くらいしか連れてきていないから、どうしても見劣りするわ。」

 

 そう言うと曹操は杯を口に着け、お酒を飲み干した。

 

「……だから、一旦連合軍から離れて部隊を再編成し、それから改めて合流したいのだけど……どうかしら?」

「良いんじゃない? 連合軍としても、戦力が増強されるのは心強いし。」

「有難う、助かるわ。」

 

 涼から了承を得た曹操は笑みを浮かべながら再びお酒を飲み、そして左隣に居る盧植に向き直った。

 

翡翠(ひすい)様はどうなさいますか?」

 

 話を振られた盧植はお酒を飲んでいたので、一旦杯を置いてから質問に答えた。

 

「私はこのまま連合軍に残る予定ですよ。……董卓さんはどうします?」

 

 盧植は、曹操の問い掛けに簡潔に答えると、続けて董卓に質問を投げかけた。

 急に話を振られた董卓だが、慌てる素振りは全く無く、常の静かな口調で答えていった。

 

「……元々、連合軍は私達の軍と清宮さんの義勇軍が手を取り合って出来たものです。その結果、この様な大勝に繋がったのですから、私達はこの共闘を止めるつもりはありません。」

「なら、後は涼がどうしたいかで方針は決まるわね。」

 

 董卓が答え終わると、曹操が涼を見ながら言った。

 それにより、皆の視線が自然と涼に向けられる。

 

「さっき曹操にも言ったけど、連合軍の中では俺達義勇軍が一番兵数が少ない。だから(むし)ろ、連合軍に参加し続けるのをこちらから求めたいくらいだよ。桃香も、それで良いよね?」

「うん。私も、涼兄さんと同じ考えだよ。」

「なら、決まりですね。」

 

 涼や桃香の言葉を聴いた董卓が、両手を合わせながら微笑む。

 曹操は一時的に離脱するものの、最終的には戦力を増強して合流する。

 なら、負ける事は無い筈。

 董卓の笑みは、戦いの終わりが見えた為の笑みだった。

 連合軍の指針が定まると、涼達は再び宴会モードに戻っていった。

*1
その割にちょくちょくお茶を飲んでなかったか? とは言ってはいけない←

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