真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第六章 戦いが終わり、戦いが始まる・2

 そうして宴は夜更け迄続き、やがて解散した。

 

「うーん、頭が痛いよー。」

「飲み過ぎだよ、桃香。」

 

 顔を紅らめ、フラフラになりながら歩く桃香を支えながら、涼は自分達の天幕に向けて戻っていた。

 途中迄同じ道なので、董卓や曹操、盧植も同行している。

 

「フフ……玄徳(げんとく)は昔からはしゃぎ過ぎる傾向にありましたが、今も変わらない様ですね。」

「うう……面目無いですぅ……。」

 

 盧植に言われてうなだれる桃香。それを見て笑う涼達。

 宴の余韻もあって、皆朗らかな気分になっていた。 そんな中、一人の兵士が息を切らせて涼達の許にやってきた。

 

「どうかした?」

 

 一応、今日一杯は未だ連合軍の総大将である涼が兵士に尋ねる。

 兵士は息を整える事もせずに答えた。

 

「はっ! さ、先程っ、洛陽(らくよう)からの官軍が参りまして、盧植将軍に話が有るとの事でしたっ。」

「私に?」

 

 突然の事に盧植は少し戸惑いながら声を出した。

 

「ひょっとして、今回の勝利に対する恩賞かな?」

「まさか。今日の勝利の報が洛陽に届いたとしても、その返事がこんなに早く来る筈が無いわ。」

「それに、もし今回の勝利に対する恩賞なら、盧植さんだけというのはおかしいです。」

 

 桃香は笑みを浮かべながら推測するも、曹操と董卓によってそれは否定された。

 涼が居た世界なら、情報の伝達は数秒も有れば可能だが、この世界にはインターネットといった便利な物は疎か、電話すら無い。

 交通の手段にしても、飛行機は疎か電車も自動車も無い。

 そんな世界では遠くの街に情報が届くのに時間が掛かるし、当然ながら返事も遅くなる。

 因みに、現在涼達は広宗(こうそう)の南西に居るが、ここから洛陽迄はどんなに馬を飛ばしても一日で往復出来る距離では無い。

 また、黄巾党との戦いに勝利した事による恩賞だとしても、盧植だけというのは確かにおかしい。

 少なくとも、奇襲部隊を率いた涼や劉備に無いのは変だし、盧植と共に本隊を率いた董卓と曹操に無いのも不自然だ。

 なので、洛陽から来たその官軍が恩賞を届ける為に来た訳では無いのは確実だ。

 

「一体何の用かしら……? 皆さん、済みませんが私は一足先に帰らせてもらいますね。」

「解りました。では盧植さん、お休みなさい。」

「お休みなさい。」

 

 そう言って涼達は盧植と別れ、各々の天幕へと戻っていった。

 翌朝、昨日の疲れもあって天幕の中に在るベッドで熟睡していた涼は、桃香に強引に起こされようとしていた。

 

「ん……あと五分……。」

 

 未だ寝足りない涼はそんな呑気かつ定番の言葉を口にする。

 だが、この後に桃香が言った言葉によって、そんな眠気は一瞬にして吹き飛んだ。

 

「涼兄さん、早く起きて下さい! 先生が……盧植先生が捕まりそうなんですっ‼」

「……何っ!?」

 

 予想外の事に驚いて飛び起きた涼は、桃香に詳しい事情を訊こうとするも、慌てている所為か説明がよく解らなった。

 

「と、兎に角早く来て下さいっ‼」

 

 そう言って桃香は涼の手を引っ張って天幕から連れ出そうとするが、寝間着姿の涼は着替える時間をくれと言って天幕から出るのを躊躇った。

 

「直ぐ着替えて下さいねっ!」

 

 桃香はそう言って天幕を出て行った。流石に着替えの最中迄天幕の中に居るつもりは無かった様だ。

 桃香が出て行った後、涼は急いで着替えを済ませた。時間がかかっては桃香が戻ってくるかも知れなかったし、何より涼自身も焦っていたからだ。

 着替えを終えた涼が天幕を飛び出すと、直ぐ側で桃香が待っており、彼女に案内されて盧植の許に向かった。

 桃香に連れられてやってきたのは、それぞれの陣からの合流地点となっている広場。

 そこには各陣営の武将や軍師、兵士達が多数集まっていた。

 

「ですから何故、盧植将軍が捕まらないといけないのですか‼」

 

 そんな中、洛陽から来た官軍の兵士達に向かって、一人の少女が凄い剣幕でまくし立てていた。

 膝迄有る長い銀髪に野球帽の様な橙色の帽子を被り、黄色いワンピースを着ているその少女は、涼がよく知る人物だった。

 

「雪里、落ち着け。」

 

 そう言って雪里――徐庶に声をかける涼。

 だが雪里の怒りは一向に治まる気配は無い。

 

「これが落ち着いていられますかっ‼」

 

 雪里は振り向き様に涼に向かって大声をあげる。その形相は普段の冷静な雪里とは、余りにもかけ離れていた。

 涼はその迫力に圧されるも、何とか平静さを保ちながら尋ねる。

 

「そう言っても、俺はさっき起きたばかりで事態を把握していないんだ。済まないが説明してくれないか?」

 

 涼がそう言うと、雪里は怒りを治めないまま説明を始めた。

 

「どうもこうもありませんっ! 洛陽の連中は、盧植将軍を職務怠慢という有り得ない容疑で逮捕するつもりなんですっ‼」

「先生が職務怠慢だなんて、絶対に有り得ません‼」

 

 雪里の説明を聴いていた桃香が否定の声をあげる。すると、その場に居た連合軍の人間全てが頷いた。

 

「ですが、洛陽の連中はそう思っていない様です。彼等を派遣したのがその証拠!」

 

 雪里は視線だけを洛陽からの兵士達に向けた。その視線には明らかに殺意が籠もっており、眼力だけで人が殺せそうな感じだ。

 

「落ち着きなさい、徐庶。」

 

 そんな彼女に、一人の女性が優しく、かつ諫める口調で話し掛けてきた。

 

「先生!」

「盧植殿‼」

 

 桃香と雪里を始めとして、その場に居た連合軍の人間全てが盧植に目を向けた。

 盧植はストレートヘアに常の服装である和服とドレスを足して二で割った感じの服を着ていたが、その手には枷が填められていた。

 その姿を見た桃香達は嘆きの表情を浮かべ、ある者は涙を流し、またある者はいたたまれなくなって視線を逸らした。

 

「先生……!」

 

 桃香と雪里、そして涼が盧植の許に向かう。盧植の周りには洛陽からの兵士が居て、彼等を疎んでいる様だった。

 その直後に董卓や曹操迄も現れると、尚更その雰囲気は強くなったが、誰もそんな事を気にはしなかった。

 

「玄徳、そう嘆く必要は有りません。」

「でも……。」

 

 盧植に心配されるも、やはり表情は曇ったままの桃香。そんな桃香の手を握りながら盧植は続ける。

 

「私は何も(やま)しい事はしていません。ですから、何れ誤解は解けるでしょう。」

 

 そう言われて少しだけホッとした表情になる桃香。

 勿論、そう簡単にいかない事は桃香もよく解っていたが、それは表情に出さない様にしている。

 

「ですが、この状況で盧植殿が居なくなっては、兵達の士気に係わります。」

「でしょうね。でも、それを解決する為の手は有ります。」

 

 雪里に指摘された盧植は、そう言うとゆっくりと涼を見据えた。

 急に視線を向けられた涼は、何事かと思い緊張する。

 

「清宮様、貴方に私の軍全てを委ねます。」

「えっ!?」

 

 突然の事に驚く涼。

 それは桃香達も同じだったらしく、皆驚きながら涼と盧植を交互に見つめた。

 

「貴方は天の御遣いであり、昨日の戦いではその知略と行動力を私達に見せてくれました。そんな貴方になら、安心して兵達を預けられます。」

「……解りました。未だ未だ若輩者ですが、謹んでその申し出をお受け致します。」

「有難うございます、清宮様。」

 

 安心した盧植は頭を下げて感謝を示した。

 

「でも、一つだけ良いですか?」

「何でしょう?」

「俺はあくまで盧植さんの兵士達を預かるだけです。盧植さんが戻ってきたら、その時はきちんと兵士達をお返しします。」

「……解りました。これ以上は気を使わせるだけの様ですし、それで構いませんよ。」

 

 今度は逆に、涼からの申し出を受ける盧植。

 盧植はその優しさに微笑み、口を開いた。

 

「では、清宮様には兵達だけでなく私の真名(まな)も預けましょう。」

「良いのですか?」

「ええ。これは私の信頼の証と思って下さい。」

「解りました。」

 

 涼が承諾すると、盧植は姿勢を正してから改めて自己紹介を始めた。

 

「私は、姓は“盧”、名は“植”、字は“子幹(しかん)”、真名は“翡翠”。この真名、貴方に預けます。」

「丁重にお受けします、翡翠さん。俺には真名が無いので、これからは名前の“涼”でお呼び下さい。」

「解りました、涼様。」

「あの、“様”は別に付けなくて良いですから……。」

「フフ……これも私なりの信頼の証ですから、お気になさらぬ様に。」

「わ、解りました。」

 

 悪戯っぽく微笑む盧植――翡翠に対して、涼は苦笑しながら承諾した。

 一連の話が終わると、洛陽からの兵士達が翡翠を急かし始めた。一応今迄待っていた様だ。

 

「解っています。……董卓さん、連合軍を頼みますね。」

「はい、盧植様。どうか御安心下さい。」

 

 董卓は表情を引き締めて翡翠に応える。

 

「華琳ちゃん、皆さんと力を合わせ、この戦いを一日でも早く終わらせてね。」

「解っています、翡翠様。……今暫くの辛抱ですから。」

 

 曹操は怒りを押し殺した表情のままそう言った。

 

「徐庶さん、貴女は軍師です。ならばその本分……忘れてはなりませんよ。」

「はっ……しかと心に刻み付けておきます……っ。」

 

 雪里は必死に涙を堪えながら頭を下げた。

 

「玄徳……涼様や皆と力を合わせるのですよ。そうすれば、皆が望む平和な世の中に必ず戻るのですから。」

「はいっ……先生……っ‼」

 

 桃香は涙を堪える事が出来ず、遂に翡翠に抱きついて声をあげて泣いた。

 抱き締める事が出来ない翡翠は、優しい言葉をかけて桃香を宥めていった。

 

「では涼様……後を頼みます。」

「はい、翡翠様。」

 

 涼は恭しく頭を下げて返事とした。

 その後、翡翠は洛陽からの兵士達に連れられて連合軍から去っていった。

 翡翠が連合軍を去った後、兵士達は動揺していたが、涼達の指導によって何とか落ち着きを取り戻した。

 また、翡翠から涼に託された盧植軍の兵士達は前もって伝えられていたらしく、大きな混乱は無くそのまま義勇軍に組み込まれた。

 本来なら大軍である盧植軍に義勇軍が組み込まれそうだが、その辺りも翡翠がちゃんと指示していた様で、盧植軍の兵士達は誰一人として不満を口にしなかった。

 その後、曹軍は軍備増強の為連合軍から離脱するも、周辺地域に住む若者達が参加した為、兵の数はさほど変わらなかった。

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