真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第六章 戦いが終わり、戦いが始まる・3

 こうして再編成と休息を終えた連合軍は進軍を再開した。

 広宗に残る旧張宝軍と対峙していた皇甫嵩(こうほ・すう)将軍や朱儁(しゅしゅん)将軍率いる部隊と合流し、旧張宝軍を撃破。

 その後、皇甫嵩将軍と朱儁将軍が豫州(よしゅう)に向かうと、連合軍は荊州(けいしゅう)南陽(なんよう)へ向かった。

 連合軍はそこで張曼成(ちょう・まんせい)趙弘(ちょうこう)韓忠(かんちゅう)孫夏(そんか)といった黄巾党南陽部隊と交戦。四ヶ月もの長き戦いの末、これに勝利する。

 これ程時間がかかったのは、敵が苑城(えんじょう)に立て籠もって籠城戦に持ち込んだ為である。

 だが、孫堅(そんけん)を始めとした部隊が朱儁将軍から派遣されると、彼等の活躍もあって均衡が崩れ、遂に勝利を収めたのだった。

 その後、各地での官軍の勝利が伝えられる様になった。黄巾党の勢いは完全に無くなっていたのだ。

 そんな中、荊州・苑城にて周辺地域の安定に努めている連合軍に、ある一報が届いた。

 

「どうやら曹操が、張角・張梁を討ったらしい。」

 

 その報せを受けた涼が、連合軍の軍議で発表した。

 因みに、翡翠や曹操が連合軍を去ってからも涼が連合軍の総大将を務めている。

 

「では、黄巾党は壊滅したという事かしら?」

 

 先の戦いから連合軍に参加している孫堅が尋ねる。涼の予想通り、孫堅も女性だった。

 孫堅は、桃色の長髪を結い上げた所謂ポニーテールの髪型をしており、服装は深紅のチャイナドレスを大胆に加工した物を着ている。

 年齢は涼より一回り以上上の筈だが、その美貌や色香は年齢を感じさせない程若々しい。

 その隣には孫堅と似た姿と服装の少女が座っている。

 彼女の名は孫策(そんさく)。孫堅の娘であり、後継者と目されている人物。孫堅の若い頃はこんなだったのかなと思わせる程、二人は良く似ていた。

 

「実質的にはそうなるね。張角と張梁が討たれ、残る張宝は依然として行方不明だ。もし張宝が再起したとしても、以前の様に混乱が広がる事は無いだろう。」

 

 涼は孫堅達を見ながら言った。

 百戦錬磨の豪傑と言われるが、今はそんな雰囲気を微塵も感じさせず、柔らかな物腰の孫堅と、常に殺気立たせている孫策。

 二人は良く似た姿をしているが、印象は全く違っていた。

 

「けど、残党は居るんでしょ? だったら戦いは未だ終わらないわ。」

 

 孫策は刺々しい口調でそう言った。

 確かに残党は居る。涼達連合軍が苑城に留まっているのも、先の戦いで投降せず逃げ出した黄巾党を討伐し、地域の治安回復を図る為だ。

 

「確かにね。だから今情報収集をしている所だよ。それが終わったら作戦を練って……。」

「遅い! それでは奴等を逃がすだけよ‼」

 

 涼の言葉を遮って孫策が叫んだ。

 その瞬間、その場に居た全員に緊張が走る。

 因みにここには、上座に涼と桃香、雪里が、涼から向かって左側に董卓と賈駆(かく)、そして旧盧植軍の武将と軍師が一人ずつ。右側に孫堅と孫策、そして孫堅の右腕たる武将、程普(ていふ)といったメンバーが居た。

 その程普が孫策に言った。

 

「若君様、少し落ち着かれると宜しいかと存じます。」

 

 孫策を見ずに静かな口調で言った程普を、孫策はキッと睨み付ける。

 因みに、やはり程普も女性だった。

 

「何よ、泉莱(せんらい)は私より清宮の味方をするつもり?」

 

 程普の真名と思われる名前を呼びながら、孫策は程普の前に立った。

 場の空気がより一層張り詰めていく。

 涼を始めとしたメンバーは皆どうするべきか悩んでいるが、孫堅は悩むどころか一向に動こうとしなかった。

 

「そうですね……今の若君様よりかは、総大将の味方をするでしょうね。」

「……孫家を裏切るつもり?」

「ふむ……若君様はもう少し言葉の勉強をなされた方が宜しいようですな。私は、若君様よりは総大将と言いましたが、殿より総大将とは一言も言っておりませぬよ。」

 

 段々と語気が強くなっていく孫策に対し、相変わらず冷静な口調と態度のままの程普。

 その態度が気に障ったのか、孫策は益々苛立っていく。

 

「……つまり、私は清宮より劣っていると言うの?」

「さて、それくらいは御自身でもお分かりになるのでは有りませんか?」

 

 程普のその一言で、孫策の堪忍袋の緒がバッサリと切れた。

 程普の真名を叫びながら、孫策は座ったままの程普の左側頭部に向けて右足を蹴り上げた。

 だが、程普は左手を瞬時に動かして孫策の右足首を楽々と掴んだ。お陰で孫策は動けなくなった。

 すると、程普がそのまま立ち上がったので、足を掴まれたままの孫策はバランスを崩して床に倒れた。

 孫堅と同じく大胆な露出が有るチャイナドレスを着ている孫策は、倒れた際に下着を露出させている。

 幸い、この場に居る男は涼一人だったので、恥ずかしさは少ないかも知れない。

 

「二人共、そこ迄よ。」

 

 そう言ったのは、今迄静観していた孫堅だった。

 途端に程普は手を離し、孫策もハッとして孫堅を見た。

 孫堅の表情は先程迄とは打って変わって、厳しく険しいものになっている。

 

「これ以上軍議を乱し、私の顔に泥を塗るつもりなら……幾ら愛娘や戦友とは言え、容赦はしないわよ。」

「承知致しました。」

「わ、解ったわよ……。」

 

 孫堅は氷の様に冷たい口調で喋り、まるで見た者を射殺す様な眼を二人に向けた。すると、先程迄あれ程怒っていた孫策が、瞬時に大人しくなった。

 孫策が席に戻るのを確認すると、孫堅は涼に向き直って口を開いた。

 

「お騒がせしたわね。軍議を続けてちょうだい。」

「あ、ああ。」

 

 そう言った孫堅の口調と表情はとても穏やかなものだった。激昂していた孫策を瞬時に萎縮させた人と同一人物とは、とても思えない。

 その後再開された軍議では、情報収集を進める事、食糧危機に陥っている民の為に食糧を分け与える事、そして、治安回復の為に連合軍の各部隊を周辺に配置する事が決まった。

 軍議終了後、孫策が軍議中の振る舞いについて涼に謝罪した。

 勿論涼は許したが、孫策は簡単に許された事を意外に思ったらしく、暫く涼を見つめていた。

 

「……貴方、変わってるわね。」

 

 孫策はそう言って退室した。

 

「……変わってるかなあ?」

 

 涼のそんな呟きに対し、雪里と賈駆は「変わっている」との評を下したのだった。

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