真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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漢は高祖劉邦によって作られ、光武帝劉秀によって再建された統一国家。

前漢・後漢併せて約四百年続く漢王朝も、今や落日の兆しが見えている。

その原因の一つが、ほんの一握りの宦官によるものだとは、劉邦も劉秀も予期出来なかっただろう。



2010年5月2日更新開始。
2010年7月11日最終更新。

2017年4月26日掲載(ハーメルン)


第八章 十常侍の暗躍・1

 自陣を出て約半刻後、(りょう)洛陽(らくよう)の城壁を見上げていた。

 古代中国の街はその(ほとん)どが城壁都市だったと言われており、「三国志」の世界と似たこの世界もまた、殆どの街が城壁に囲まれている。

 少なくとも、桃香(とうか)の故郷である楼桑村(ろうそうそん)を始めとして、涼が今迄訪れた街は全て城壁都市だった。

 勿論それは漢王朝の首都である洛陽も例外では無く、(むし)ろ最大規模の大きさの城壁に囲まれていた。

 

「どうしたの?」

「いや……本当にでっかいなあと思ってさ。」

 

 初めて見た訳でもないのに、そんな感想しか出てこない。

 現代ではもっと大きな建造物が在るし、見た事もある。

 それでも目の前の城壁を驚いて見上げてしまうのは、この世界でもこんな建造物が造れるという驚きと、その迫力によるものだろう。

 

「確かに大きいわね。……でも、大きいだけじゃ意味は無いわ。」

「まあな。」

 

 雪蓮(しぇれん)はそう言って馬を洛陽の入口である正門に進める。

 城壁が大きいだけに門もそれなりに大きい。横に三十人並んでも余裕があるくらいだ。

 

「これから先は何があるか判らないわ。……覚悟は良い?」

「ああ、大丈夫だよ雪蓮。」

 

 そう答えて涼は馬を進め、分厚い門を潜っていった。

 洛陽の街は静けさに包まれていた。

 十常侍(じゅうじょうじ)の一人が殺された事が住人に伝わっているのか、涼達を見る人々の目には警戒心が強く表れていた。

 

「巻き添えにならないか不安なんでしょ。」

 

 そんな住人達を見ていた涼に、雪蓮はそう言った。

 言われてみれば、力を持たない住人にとって、兵を引き連れている自分達は争いの種である事は間違い無い、と涼は認識した。

 

「……巻き込まない様にしないとな。」

「ええ。」

 

 二人はそう言って目的地へと急いだ。

 目的地は、洛陽中心部にほど近い場所に在る大きな屋敷。

 以前洛陽に来た際にも滞在した屋敷に、今回も向かう。

 

義兄上(あにうえ)、どこに十常侍の刺客が居るか判りません。充分に御注意下さい。」

「お前に何かあったら桃香が悲しむからな。取り敢えず守ってやるよ。」

 

 愛紗(あいしゃ)時雨(しぐれ)がそう言いながら涼の隣に並び、辺りに目を光らせる。

 その雰囲気は、何人たりとも涼に近寄らせないという感じだ。

 

「あら、泉莱(せんらい)が居るわ。」

 

 そんな中、雪蓮が進行方向に居る泉莱――程普(ていふ)を見つけ、馬を進めた。

 すると程普もゆっくりと雪蓮達に近付いてこう言った。

 

「若君様、総大将、お待ちしていました。」

 

 雪蓮達を出迎えた程普は、以前連合軍に参加していた時と同じ漆黒のコートの様な長袖の衣服を身に纏っていた。

 その為、紅く長い髪がより映えて見える。(ちな)みに、雪蓮や孫権(そんけん)周瑜(しゅうゆ)達と同じ褐色の肌なので、尚更強調されていた。

 

「御久し振りです、程普さん。……未だ“総大将”って呼び方なんですね。」

「連合軍での活躍を見た者なら、皆そう呼ぶかと存じます。」

「そ、そうかなあ……?」

 

 涼は戸惑いながら答え、程普の案内通りに馬を進めた。勿論、その隣には愛紗と時雨が並んでいる。

 暫く進むと、見覚えのある屋敷が視界に入ってきた。

 

「こちらで、殿や盧植(ろしょく)様がお待ちです。」

「案内有難う、泉莱。そう言えば、何進(かしん)も居るの?」

「何進様は先程迄居られましたが、一度御自宅へ戻られました。」

「十常侍の恨みを買っている時に単独行動なんて、大丈夫なの?」

「まあ、念の為、護衛は付けている様ですし問題無いかと存じます。」

「だと良いんだけど……。」

 

 不安な表情になる雪蓮達だったが、大将軍である何進に意見出来る立場では無いので、気持ちを切り替える事にした。

 目の前に在る屋敷で、早急に話をしなければならないのだから。

 屋敷に入った涼達を真っ先に出迎えたのは、この屋敷の主人だった。

 

清宮(きよみや)様、御久し振りです。」

「御久し振りです、翡翠(ひすい)さん。お元気そうで何よりです。」

 

 涼が翡翠と呼んだ屋敷の主人は、名を盧植という。

 後漢末期を代表する学者であり文官であり武将でもある盧植――翡翠は、柔らかな表情で涼達を見つめている。

 

玄徳(げんとく)伯珪(はくけい)は一緒じゃないのですね。」

「桃香と白蓮(ぱいれん)には、洛陽の外で万一に備えて貰ってます。」

「この状況ですから、それが良いでしょうね。」

 

 翡翠はそう言って涼達を屋敷の奥へと招き入れた。

 以前来た事があるので、屋敷の構造は大体覚えていた。

 入口から真っ直ぐ進み、突き当たりを右に。そのまま真っ直ぐ行くと、沢山の人数が集まる事が出来る広い部屋に着く。

 現代で言うなら「リビング」にあたるだろう。

 その「リビング」には、先程程普が言った様に、先客が居た。

 

「久し振りね、涼。」

 

 部屋に入ってきた涼を見ながら、最初にそう言ったのは金髪の巻き毛の少女。

 見かけは小さいながらも、彼女が持つ雰囲気は限り無く大きな感じがする。

 そんな少女に涼は挨拶を返した。

 

「久し振りだな、華琳(かりん)。元気だったか?」

「ええ、病気になる暇が無い程忙しかったからかしら、元気に過ごせたわ。」

「それは良かった。」

 

 華琳は笑みを浮かべながらそう応え、涼もまた微笑みながらそう言った。

 因みに華琳とは真名(まな)であり、彼女の名は曹操(そうそう)と言う。

 「三国志」における三英雄の一人、もしくは最大の敵である人物と同じ名を持つ少女も、今は未だ名が売れてきた武将の一人でしかなかった。

 そして、そんな彼女の傍らにはネコミミフードの少女――荀彧(じゅんいく)が居る。

 華琳の軍師である彼女の真名は桂花(けいふぁ)と言い、華琳は勿論ながら涼もその名を呼ぶ事を許されている。

 

「桂花も久し振りだな。」

「ふん、馴れ馴れしく真名を呼ばないでくれる? 孕んじゃうじゃない。」

「呼んだだけで孕むか!」

 

 ……許されているのだが、どうやら彼女は極度の男嫌いらしく、涼に対していつもこんな感じだったりする。

 それなのに何故真名を許されているかというと、華琳が自身の真名を涼に預けた後、半ば強制的に桂花も自身の真名を涼に預けさせられたのだ。

 勿論、桂花は物凄く嫌がっていたが、華琳が真名を預けている事もあって結局は預けた。

 ……一番の理由は、華琳が「命令したから」だったりするのだが。

 

「華琳様、只今戻りました。」

 

 と、そこに、右目が水色の髪で隠れている少女と、長い黒髪をオールバックにした少女がそう言いながら現れた。

 二人は殆ど同じデザインだが色違いの、チャイナ服の様な肩出し袖有りの服を着ており、その上には主に体の左側を、または体の右側を守る紫色の胸当てをそれぞれ着けていた。

 因みに、水色の髪の少女の服は青色、黒髪の少女の服は赤色で、色以外の違いは服の留め具が前者は右肩の位置に、後者は左肩の位置に有る事だ。

 また、細長い髑髏の腕当てをそれぞれ左腕と右腕に付け、足には黒いニーソックスと黒い靴を履いている。

 とまあ、二人はこの様に対称的な姿形をしていた。

 そんな二人に対して、華琳は真剣な表情で尋ねる。

 

「お帰りなさい、秋蘭(しゅうらん)春蘭(しゅんらん)。……それで、どうだったの?」

 

 すると、秋蘭と呼ばれた水色の髪の少女と、春蘭と呼ばれた黒髪の少女はそれぞれこう報告した。

 

「はい、今の所は十常侍達に動きはありません。」

「何進も今は自宅で休んでいる様です。」

 

 報告を受けた華琳は(しばら)く考えてから二人に指示を出す。

 

「そう……なら、二人は何か起きた時の為に、暫くの間休んでいて。」

「はっ。……ですが、我々は華琳様の護衛をしなくても良いのでしょうか?」

「心配しなくても大丈夫よ。ここには孫堅(そんけん)孫策(そんさく)といった名だたる武将が居るし、勿論私も戦える。それに……涼も居るわ。」

「えっ?」

 

 華琳の言葉に驚いたのか、春蘭と呼ばれた少女はそう言って振り返り、涼を見た。すると、何故か瞬時に嫌な顔になった。

 

「なんだ貴様、居たのか。」

「ご挨拶だな、春蘭。俺は最初から居たぞ。」

「嘘をつくな。私は気付かなかったぞ、なあ秋蘭?」

「いや、私は気付いていたぞ姉者。」

「しゅ〜ら〜んっ。」

 

 秋蘭と呼ばれた少女が同意しなかったからか、春蘭と呼ばれた少女は、それ迄の威勢の良さが全く無い声を出した。

 涼はそんな二人を苦笑しながら見つめ、声をかける。

 

「二人共相変わらずだね。まあ、あれから三ヶ月しか経ってないから仕方ないか。」

「ええ、仕方ないわね。」

 

 涼の言葉に華琳が同意すると、春蘭と呼ばれた少女は更にヘコんでいく。

 一方、秋蘭と呼ばれた少女はそんな光景を見て微笑んでいた。何故だろう?

 

「フフ……春蘭、いつまでもヘコんでないで早く秋蘭と一緒に休んできなさい。」

「は、は〜い……。」

 

 春蘭と呼ばれた少女は未だヘコんでいたが、やがて秋蘭と呼ばれた少女と共に部屋を出て行った。

 

夏侯惇(かこうとん)夏侯淵(かこうえん)、共にまた強くなった様ですね。」

 

 それを見ていた愛紗は、春蘭と呼ばれた少女を夏侯惇、秋蘭と呼ばれた少女を夏侯淵と呼んだ。どうやらそれが彼女達の名前であり、春蘭や秋蘭とはやはり真名だった様だ。

 

「流石は関羽(かんう)、見ただけで相手の実力を見極められるのね。」

「これくらい、武人として当然です。それが出来なければ、戦いで命を落としかねませんからね。」

 

 愛紗がそう言うと、華琳は何故か満足した様に微笑んだ。

 

「良いわね……益々欲しくなったわ。」

「……それについては既に返答した筈ですが。」

「そうね。……けど、私は簡単に諦める様な人間じゃないのよ。」

 

 華琳はそう言いながら、愛紗と涼を見ていった。

 涼はやれやれと苦笑しながら華琳に向き直る。

 

「華琳、義勇軍の筆頭武将であり俺の義妹(いもうと)である愛紗を、俺の目の前で引き抜こうとするなよ。」

「あら、貴方の目の前だからこそ、引き抜こうとしているのよ。」

「……このドSめ。」

 

 小悪魔の様な笑みを浮かべる華琳を見ながら、涼は小さな声で感想を漏らした。

 小さな声で言ったのは聞こえない様に気をつけたからだが、仮に聞こえても意味は解らないだろう。

 

「……涼、何か言ったかしら?」

「さてね。」

 

 どうやら聞こえたらしいが、大して興味が無かったのか直ぐに話題を愛紗に戻した。

 

「……まあ良いわ。兎に角、先の黄巾党(こうきんとう)の乱で敵将の程遠志(てい・えんし)趙弘(ちょうこう)を討ち取ったその実力を、私は認め、欲しいと思っているのよ。」

「そう仰って下さるのは有り難いのですが……私は涼様や桃香様の義妹であり臣下。お二方以外の将に仕える気は毛頭ありません。」

 

 華琳は愛紗を褒め称え、自軍に引き入れようとするも、肝心の愛紗は全く聞き入れなかった。

 流石に華琳の機嫌が悪くなるんじゃないかと涼は焦ったが、その華琳は逆に満足した様な表情を浮かべていた。

 

「……断られてるのにご機嫌だな?」

「それはそうよ。簡単に寝返る様な兵なら却って要らないけど、関羽の様に忠誠心に溢れる兵なら沢山欲しいもの。」

「つまり、愛紗は合格って事か。」

「その通りよ。」

 

 涼と愛紗は殆ど同時に溜息を吐いた。

 華琳の諦めの悪さは、良くも悪くも彼女の特徴である。

 その事は知っていたが、改めて思い知らされた二人だった。

 

(この間ここで断られてるのに、ポジティブかつアクティブな奴だな。)

 

 涼は、自信に満ち溢れた表情を浮かべる華琳を見ながら、そう思った。

 三ヶ月前、洛陽で何日にも渡って戦勝祝いの祭りが繰り広げられた中で、華琳は愛紗を勧誘していた。

 更に鈴々(りんりん)雪里(しぇり)、時雨、(しずく)と、義勇軍の主力を次々と勧誘していったのだから、涼や桃香にとっては堪らなかっただろう。

 まあ、皆断ったので事なきを得たのだが。

 因みに地香(ちか)(地和(ちいほう))は、万が一の場合を考えて余り華琳と接触させなかったからか、勧誘されなかった。

 

「……まあ良いわ、今は退いてあげる。……けど、諦めた訳じゃ無いから覚悟しておく事ね。」

「はあ……。」

 

 不敵な笑みを浮かべる華琳に、愛紗は溜息混じりの返答をするしか出来なかった。

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