真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第九章 宴と少女・2

 だが、そんな涼達とは違い、何だか重苦しい雰囲気の一団が居た。

 

「……気に入りませんわ。」

「はい?」

「どうしたんですか、姫ー?」

 

 金髪の巻き髪をした少女がそう呟くと、おかっぱ頭の少女とツンツン髪の少女は、キョトンとした顔でそう応えた。

 

「どうしたんですか、じゃありませんわよ文醜(ぶんしゅう)さん! 貴女はあれを見て何とも思いませんの!?」

「んー……アニキ達が仲良く喋っているなあと思います。」

「……それだけですの!?」

 

 文醜と呼んだツンツン髪の少女の答えが不満だったのか、姫と呼ばれた金髪巻き髪の少女は文醜を睨み付ける。

 因みにおかっぱ頭の少女は、姫と呼ばれた金髪巻き髪の少女が何を言いたいのか解った様だが、何故か小さく溜息をついていた。

 

「えーっと……豪華な顔触れだなあ、と……。」

「まあ……華琳様や白蓮様、それに孫策(そんさく)さん、董卓さんに丁原さん達が一緒だからね。」

 

 文醜の答えにおかっぱ頭の少女も続いて答えた。すると、姫と呼ばれた金髪巻き髪の少女は、右手人差し指で文字通り二人をビシッと指差しながら、強めの語気を更に強めた。

 

「そう! そこですのよ文醜さん、顔良(がんりょう)さん‼ ……何故、四代に渡って三公を輩出した名門袁家の当主である私、袁本初(えん・ほんしょ)ではなく、“天の御遣い”という胡散臭い肩書きのあの男がチヤホヤされていますの!?」

「あー……成程。だから麗羽(れいは)様の機嫌が悪いのか。」

「いつもの事なんだから早く気付こうよ、文ちゃん。」

 

 そう話す文醜――猪々子(いいしぇ)とおかっぱ頭の少女――顔良――斗詩(とし)は、金髪巻き髪の少女――袁紹(えんしょう)――麗羽を見ながら、深々と溜息をついた。

 

「……二人共何ですの、その疲れた表情は。」

「そりゃ疲れますよ……。」

「文ちゃんっ。……あ、あの麗羽様、今回ばかりは清宮様があの様に褒め称えられるのは仕方が無いかと……。」

「どうしてですの?」

「清宮様は十常侍の一人であった趙忠を討っただけでなく、連れ去られた二人の皇子を助け出しました。ですから、清宮様が高評価を得るのは当然だと思いますよ。」

 

 誰が見ても当然な結果に納得がいかない麗羽に対し、斗詩は簡潔且つ丁寧に説明をした。

 普通ならこれで理解する筈だ。

 だが、やはりと言うか麗羽は違った。

 

「そんなのは言われなくても解ってますわ。……ですが、だからと言って私が(ないがし)ろにされる理由にはなっていませんわ。何しろこのわ・た・く・しは! 大陸屈指の名門、袁家の当主なのですから‼」

「「…………。」」

 

 余りにもいつも通りな主人に、呆れて何も言えない斗詩と猪々子。

 そう、麗羽こと袁本初は、世界は自分を中心に回っていると思っているだろうなと他人が思う程、自意識過剰な少女なのだ。

 

「……そもそも、これでは当初の計画とかけ離れ過ぎですわっ!」

「……当初の計画?」

「文ちゃん忘れたの? 本来なら麗羽様と何進(かしん)様の軍だけで十常侍を誅殺(ちゅうさつ)出来たのに、そうしなかったのは……。」

「ああ、最近力を付けてきた諸侯の軍を使って十常侍の兵を削って、良い所だけかっさらおうってやつだよな。」

「……言葉は悪いけど、そうだね。」

 

 斗詩は今日何度目か解らない溜息を、やはり深々とついた。

 これ等の話から解る様に、麗羽は自軍の損耗を避けつつ諸侯を損耗させ、手柄を得ようとしていた。

 その為に何進を説得して諸侯を呼び寄せたのだが、その何進が十常侍に討たれたり、一番の手柄を他軍に取られたりと誤算続きだった。

 名門だなんだ威張っている割にセコい手を使うから、そんな結果になるのだろう。

 もし、猪々子が段珪(だんけい)を討っていなかったら、麗羽は今以上に機嫌が悪くなっていた筈だ。

 

「……あ、麗羽様、あれを見て下さい。」

「何ですの?」

 

 小さく驚いた斗詩が指差す方向に、麗羽は目をやる。

 そこには、歓談中の涼に近付く見知った顔が有った。

 

美羽(みう)さんがどうかしまして?」

「えっと、多分なんですが……。」

 

 斗詩が自分の考えを麗羽に伝えている間に、美羽こと袁術(えんじゅつ)は涼に声をかけていた。

 

「これ、清宮とやら。」

「ん?」

 

 後ろから少女に声を掛けられた涼は直ぐに振り返る。

 が、そこには誰も居なかった。

 

「あれ、居ない?」

「どこを見ているのじゃ? (わらわ)はここじゃ。」

 

 やはり振り向いた方向から少女の声は聞こえてくるが、何故か涼の視界には誰も居ない。

 

「声はすれども姿は見えず……。」

「なっ!? 失礼じゃぞっ‼」

 

 少女の声は少し不機嫌さを含み始めた。

 

「……どこ?」

「……仕方の無い奴じゃ。……見ー下ーげてーごらんー♪」

「ん?」

 

 涼が「新喜劇?」と思いながら言われた通りに目線を下げると、そこには今日会ったばかりの少女が居た。*1

 

「確か君は、袁術だよね?」

「そうじゃ、妾は名門袁家の一人、袁公路(えん・こうろ)じゃ♪ ……って、誤魔化すでない! 妾の姿を見つけられぬとは失礼であろう!」

 

 袁術は自身の背の低さをからかわれた様に感じたらしく、頬を膨らませながら涼に怒っている。

 だが、怒られてるにも拘わらず、涼は平然としながらこんな事を思っていた。

 

(怒ってるけど、いかにも子供の癇癪って感じで可愛いもんだな。)

 

 涼は袁術を普通の子供の様に見ていた。事実、この袁術の年齢は未だ十一歳だったりする。

 

「コラッ、そちは妾の話をちゃんと聞いておるのかや?」

「勿論、ちゃんと聞いてるよ。」

 

 だからだろうか、涼はそう言いながら袁術の頭を撫でていた。

 

「にゃっ!?」

 

 すると何故か、袁術は驚いた猫の様な声を出した。

 

「どうした?」

「きゅ……急に妾の髪を撫でるでない!」

 

 袁術は頭や顔を両手で隠しながら僅かに後ずさる。

 その反応を見た涼は、「あれっ?」という表情を浮かべながら考え込んだ。

 

(おかしいなあ……鈴々(りんりん)(しずく)はこうすると直ぐ機嫌を直してくれるんだけど。)

 

 何気なく自分の掌を見ながら、涼はどうしたら袁術の機嫌を直せるか考え続けた。

 その間、袁術は俯きながら顔を真っ赤にしていた。

 もっとも、袁術が両手で頭や顔を隠していた為、涼はその表情を確認出来なかったが。

 

「……仕方無いのじゃ。」

「えっ?」

 

 暫しの間沈黙していた袁術がそう呟くと、ゆっくりと手を下ろし、涼を見ながら言った。

 

「妾は心が広いから、先程の無礼な振る舞いは水に流してやるのじゃ。有り難く思うのじゃぞ♪」

「う、うん。有難う?」

 

 袁術の表情の変化に涼は少し戸惑いながらも、どこかホッとしていた。

 

(マセた事言ってるけど、やっぱり子供だなあ。直ぐに機嫌が直ったよ。)

 

 そう思いながら、自然と微笑む涼。

 そんな涼を見て、袁術も更に微笑む。何故か顔を紅らめながら。

 

「と、ところで清宮よ、名前は何と言ったかえ?」

「涼だよ。」

「涼かえ。なら、字と真名は何なのじゃ?」

「俺はこの国の人間じゃないから、字も真名も無いよ。」

「そう言えばお主は“天の御遣い”じゃったの。……で、では、どう呼べば良いのかの?」

 

 袁術は何故か口ごもりながら訊ねる。

 それを涼は袁術が遠慮してるのかと思いながら、笑顔のまま答えた。

 

「袁術が好きに呼ぶと良いよ。」

「そ、そうかえ? ……な、なら、涼と呼ぶ事にするのじゃ!」

 

 袁術は右手を挙げながら、笑顔でそう宣言する。

 だが直ぐにまた口ごもりながら、上目遣いで続けた。

 

「な、なら……妾の事も真名で呼んで良いのじゃ。」

「良いの?」

「妾が良いと言っておるのじゃから、勿論良いのじゃ♪」

「解った。じゃあ改めて自己紹介を頼むよ。」

 

 涼がそう言うと、袁術は笑顔になって居住まいを正し、言葉を紡いだ。

 

「妾の姓は“袁”、名は“術”、字は“公路”、真名は“美羽”なのじゃ! 気軽に美羽様と呼ぶが良いぞ♪」

「解った。宜しくね、美羽ちゃん。」

 

 涼が袁術――美羽に笑顔でそう言うと、美羽もまた頬を朱に染めた笑顔を返してきた。

 と、そこに、聞いた事のある間延びした声が聞こえてきた。

 

「御嬢様〜どこですか〜?」

 

 涼と美羽が声がした方を見ると、そこには張勲(ちょうくん)の姿があった。どうやら美羽を捜しているらしい。

 

七乃(ななの)ー、妾はここじゃー。」

 

 美羽が右手を振りながら呼び掛けると、張勲は直ぐ気付き、小走りで駆け寄ってきた。

 

「捜しましたよ、美羽様〜。迷子になったのかと思って心配してました〜。」

「それは悪かったの、七乃。……そうじゃ、折角じゃから七乃も涼に自己紹介すると良いのじゃ。」

「自己紹介、ですか?」

 

 美羽にそう言われた張勲は、キョトンとしながら美羽と涼を交互に見る。

 

「そうじゃ♪ 因みに妾は真名を涼に預けた故、七乃も預けると良いのじゃ。」

「はあ、真名を預ける、ですか……って、ええっ!? 美羽様、清宮さんに真名を預けたんですかっ!?」

「だからそう言っておるではないか。聞こえてなかったのかえ?」

 

 美羽はそう言いながら呆れた様な表情で張勲を見る。

 その張勲はと言うと、苦笑しながら二人の顔を交互に見続けていた。

 

「聞こえていたからビックリしたんですよ〜。……けど美羽様、そんな簡単に真名を預けちゃって良かったんですか?」

「涼は妾が認めた人物じゃから構わないのじゃ。」

「なら良いんですけどね〜。」

 

 そう言って張勲はチラッと涼を見る。

 視線に気付いた涼は何故か苦笑していた。

 

「えっと……無理に真名を預けてくれなくても良いですよ。この国の人間じゃない俺でも、真名がどういうものかは解っていますから。」

 

 涼が苦笑していた理由は、単に張勲に気を遣っていたからだった。

 それに気付いた張勲は、不意に可笑しくなった。

 「天の御遣い」と呼ばれ、義勇軍の象徴であり、今回最大の功労者である涼が、美羽の側近とは言え今回手柄らしい手柄を得ていない自分を気遣っている事が、何故か可笑しかったのだ。

 そして、同時に理解した。そんな涼だからこそ美羽が真名を預けたのだと。

 

(まあ、勢いで預けた可能性も有りますけどねー。)

 

 ……(むし)ろ、そっちの方が可能性が高いかも知れない。

 とは言え、張勲の心は既に決まっていた。

 

「美羽様が真名を預けていらっしゃるのに、家臣の私が預けない訳にはいきませんよ。」

「良いんですか?」

「はい、良いんですよ。」

 

 涼が確認すると、張勲はニッコリと微笑みながら答えた。

 

「解りました。では、自己紹介をお願いします。」

「はい。私の姓は“張”、名は“勲”、字は“玲源(れいげん)”、真名は“七乃”。我が主袁術共々、宜しくお願いします。」

 

 自己紹介をしながら軽く会釈をする張勲――七乃に対し、涼もまた改めて自己紹介をした。

 それから三人は、暫くの間歓談した。何の変哲もない話から、それぞれの価値観やら何やらを話していった。

 難しい話になると美羽の頭に「?」マークが浮かんでいたが、涼達は構わず続けた。

 どうやら、涼も七乃も美羽で遊んでいた様だ。

 その様子を見ていた三人――袁紹、斗詩、猪々子は三者三様の反応を見せる。

 

「……み、美羽さんは何をしていますの!? あんな簡単に真名を預けるなんて‼」

「ですから、さっき説明したじゃないですかあ。“天の御遣い”である清宮さんと、繋がりを持ちたいんじゃないかって。」

「ほえー、アニキって本当に人気なんだなあ。あの美羽様がすっかり懐いてるよ。」

 

 猪々子が感心した様な声を出している隣で、袁紹は斗詩に詰め寄りながら説明を受けている。

 やがて、斗詩が何度も説明して漸く理解したのか、袁紹は難しい顔をして考え込んだ。

 

「むむむ……美羽さんがそんな事を考えていたなんて……やりますわね。」

「何がむむむですか……。*2兎に角、麗羽様も清宮さんに真名を預けた方が良いかと思いますよ。」

「嫌ですわ!」

「即答ですか!?」

「名門袁家の当主たるこの私が、あんな男に何故真名を預けなければならないのです?」

「ですからそれは、さっき説明したじゃないですかあ。」

「そうでしたわね。ですが、理解はしましたけど、納得はしていませんわ!」

「そんなあ……。」

 

 袁紹がそう断言すると、斗詩は頭を押さえながら深々と溜息をついた。

 周りの者が皆、「天の御遣い」の威光を利用しようとしている中、袁紹だけが利用しないのは明らかに間違っている。

 これから先、何が起こるか解らないのだから、保身の為の手段は取れるだけ取っておくべきだ。

 斗詩はそれが解っているだけに、憂鬱な表情を浮かべる。

 

(私、益々苦労しそうだなあ……。)

 

 その内、胃に穴が開きそうな程苦労性な斗詩だった。

*1
吉本新喜劇の池乃めだかさんの定番ネタですね。

*2
こちらは横山光輝三国志の定番ネタですね。

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