真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第九章 宴と少女・3

 結局、祝勝会は夜遅く迄続いた。

 そんな時間になっても、涼の周りには「天の御遣い」の威光を得ようとする者や、単に傍に居たいという者がひっきりなしに現れる。

 お陰で、祝勝会が終わった時の涼の顔には疲労の色が出ていた。

 そうして祝勝会が終わり、涼達が祝勝会会場を出た時、月と詠が涼達に話しかけてきた。

 どうやら二人も帰るところらしく、涼達は話しながら歩いていった。

 

「……では、清宮さん達は明日にはもうお帰りになるのですか?」

「ああ。未だ張譲(ちょうじょう)が見つかっていないとはいえ、十常侍は事実上居なくなった。なら、後は洛陽に駐留する軍だけで何とか出来る筈だからね。」

「……そうですね。それに清宮さんは徐州(じょしゅう)州牧(しゅうぼく)になる訳ですし、これから忙しくなりますものね。」

「あー……その事なんだけど……。」

 

 月がそう言うと、涼は何故か口ごもった。

 頬を人差し指でポリポリと掻きながら、暫く中空に視線を漂わせ、やがて月と詠を交互に見ながら小声で言った。

 

「これは内緒なんだけど……実は、州牧になるのは俺じゃなくて桃香なんだ。」

「えっ?」

「……何でそうなってる訳?」

 

 内緒と言われたからか、月と詠も小声になっていた。

弁皇子(べん・おうじ)……いや、もう即位されたから少帝(しょうてい)陛下だね。*1その少帝は今回の恩賞として俺を州牧にしてくれるって仰って下さったけど、俺はそれを断ったんだ。」

「ええっ!?」

「月っ、声が大きいわよっ。」

 

 詠に言われて、慌てて月は両手で口を塞いだ。

 幸いにも、今涼達の近くには誰も居ない。

 最も話を聞かれてはいけない桃香達は、涼達の前方、少し離れた所に固まって歩いている。

 涼が月と詠と話し始めた時、桃香達は空気を読んで少しだけ前を歩き始めた。

 内心は色々と複雑だっただろうが、義兄(あに)、もしくは主君や友人の邪魔はしたくないという気持ちが僅かに勝った様だ。

 勿論、護衛の任は忘れておらず、愛紗や鈴々、そして時雨(しぐれ)達は桃香の護衛をしつつ、涼に不審者が近付いてこないか警戒している。

 そんな中、愛紗は月の声に反応して振り向いたが、話の最中だと確認すると再び前を向いて歩き出した。

 涼達はそれを確認してから話を再開する。

 

「……それで、辞退したのはどういう訳なの?」

「理由は簡単、義勇軍の総大将は桃香だからさ。なので、俺じゃなくて桃香――劉玄徳を州牧にして貰う様に頼んだんだ。」

「そして、少帝陛下はそれを認められたのですね?」

「ああ。そもそも桃香は中山靖王(ちゅうざんせいおう)劉勝(りゅうしょう)の末裔だから、自分より州牧に相応しいだろうしね。」

「天の御遣いだって相応しいでしょうに。」

「それに、何だかめんどくさそうだし。」

「それが本音か!」

 

 涼の一言に的確なツッコミを入れる詠と、苦笑する涼。

 月はそんな二人を見ながら微笑んでいた。その笑みに僅かに影が差していたのは、月自身は勿論、涼と詠も気付かなかった。

 やがて、月と詠の宿舎前に着いた。涼達の宿舎はこの先に在るので、月達とはここで別れる事になる。

 

「結果的に送って貰っちゃいましたね。皆さん、有難うございます。」

「どう致しまして♪ まあ、どうせ通り道なんだし、気にしないで良いよ。」

 

 涼が笑顔でそう返すと、月もまた笑顔を見せる。

 それと同時に、愛紗達や詠が少しだけ不機嫌になるのは、最早日常茶飯事にも等しくなっていた。

 

「それでは皆さん、お休みなさい。」

「ああ、お休み。また明日ね。」

 

 涼と月、そして各々がそれぞれ挨拶を交わし、涼達は再び帰路に就く。

 月と詠は、涼達の後ろ姿を見送ってから宿舎に入っていった。

 その途中、二人は何か話していたが、その会話を聞いた者は誰も居なかった。

 翌日、宿舎に居た涼達は幽州(ゆうしゅう)への帰り支度をしていた。

 

「何か、お手伝いしましょうか?」

 

 そこにそう言いながら現れたのは、私服姿の月だった。

 いつもの服装とは違い、白と淡い桃色で構成された長袖ロングスカートのワンピースを着ている。

 

「有難う、月。でも殆ど終わってるから大丈夫だよ。」

「そうですか……なら、少し早めに来れば良かったですね。」

 

 月はそう言いながら微笑んだ。

 その笑みは美しく、涼は思わず見とれてしまいそうだったが、どこか違和感を感じてもいた。

 それが何か考えていると、そこに、やはり私服姿の詠がやってきた。

 

「月、やっぱりここに居たのね。」

 

 そう言った詠の私服は月と同じ色の長袖のワンピースだが、スカートが黒のミニスカートになっている。

 どうやら走ってきたらしく、詠の息は少し乱れていた。

 

「あっ、詠ちゃん。ひょっとして、何かあったの?」

「別に何も無いけど……出掛ける時はちゃんと言付けてからにしてよね。急に居なくなったから、心配したじゃないの。」

「へぅ……ゴメンね、詠ちゃん。」

 

 詠に注意された月は、俯きながら謝った。すると今度は、詠が慌てながら月を元気付けだした。

 

(本当に詠は月に弱いなあ。)

 

 と、涼が思いながら見ていると、それに気付いた詠が慌てて居住まいを正し冷静さを保とうとした。

 今更手遅れなのは誰が見ても判るのだが。

 その後、帰り支度を終えた涼達は休憩がてら少し話をした。

 その内容は、お互い時間が出来たらゆっくりと遊びたいという、たわいもない話。

 そう、たわいもない話の筈だった。少なくとも涼にとっては。

 十数分後、休憩を終えた涼達は、部隊に洛陽の正門に先行する様指示してから、少帝に別れの挨拶をする為に宮中に向かう準備をした。

 

「じゃあ月、詠、また今度ね。」

「はい。清宮さん達もどうかお元気で。」

「ま、無事を祈っておいてあげるわ。」

 

 涼は二人と別れの挨拶を交わしてから、桃香達と共に宮中へと向かった。

 月と詠は涼達が見えなくなる迄見送ってから、ゆっくりと帰り出す。

 その最中、詠が静かに口を開いた。

 

「良かったわね、月。」

「うん……最後に私服姿を見て貰えて、本当に良かった。でも……。」

「……でも?」

 

 俯く月に詠が訊ねると、月は一度目を閉じてから呟く様に答えた。

 

「……出来れば、このまま残って私を……“殺してほしかった”な……。」

 

 月がそう呟いてから約半刻後、少帝への別れの挨拶を済ませた涼達は洛陽を離れた。

 その少帝との面会時に、州牧になるのが桃香だとバレてしまったが、少帝の決定に桃香が口を出せる訳が無く、その場は大人しくしていた。

 結局、涼は幽州への帰路に就いてからずっと、桃香の恨み節を聞き続ける事になる。

 因みに、涼の様に洛陽から本拠地へと直ぐ戻ったのは、華琳と孫堅・雪蓮の二組。

 袁紹や美羽、そして遅れてきた丁原や月達は、そのまま残って張譲や十常侍派を掃討する為に兵を動かしている。

 黄巾党の乱、十常侍誅殺と続いた動乱も、(ようや)く終わろうとしていた。

 一方、幽州に戻った涼達は義勇軍を解散させていた。

 これは、義勇軍の総大将である桃香が徐州の州牧になる為、今迄の様に幽州で暮らすか、各々の地元に戻るか、桃香達について徐州に来るかの判断を任せる為である。

 その結果、殆どの者が桃香達についてくる事になり、その後、幽州での引き継ぎを終えた涼達は、一万二千以上の兵やその家族を伴う事になった。

 

「気を付けてな、桃香。」

「有難う♪ 白蓮ちゃんも元気でね!」

 

 涼達は白蓮とその部下達に見送られ、新天地である徐州へと向かっていった。

*1
ここも以前の霊帝の時と同じで書き方としては正しくはないです。




第九章「宴と少女」をお読みいただき、有難うございました。

今回は今まで以上にタイトル通りのお話でした。それにしても袁家のキャラは使い易さに差があり過ぎるなあ。単に自分の実力不足なだけでしょうが。
前回の霞に続き、今回は恋が登場しました。陳宮が居ないのはとある理由からなので、音々音ファンの方は今しばらく御待ち下さい。

七乃の字と月と詠の私服は自分のイメージから作ったので、多分元ネタは無い筈。単に忘れただけかも←
最後の月の台詞がどう繋がるのかお楽しみに。


今回のパロディネタ

「声はすれども姿は見えず……。」「……仕方の無い奴じゃ。……見ー下ーげてーごらんー♪」→「声はすれども姿は見えず。」「見ー下ーげてーごらんー♪」
吉本新喜劇で御馴染の池野めだかさんの持ちネタより。元ネタはこの後泣くんですが、流石にそれはやめました。

「むむむ……美羽さんがそんな事を考えていたなんて……やりますわね。」
「何がむむむですか……。兎に角、麗羽様も清宮さんに真名を預けた方が良いかと思いますよ。」→「むむむ……。」「何がむむむだ!」
「横山光輝三国志」ネタ。「むむむ……。」は、「項羽と劉邦」「殷周伝説」等でも使われていますが。

次回から徐州編に入ります。暫く戦闘シーンはありませんので、退屈かも知れませんが、宜しければ御付き合い下さい。
ではまた。


2012年11月29日更新。

2017年5月5日掲載(ハーメルン)
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