結局、祝勝会は夜遅く迄続いた。
そんな時間になっても、涼の周りには「天の御遣い」の威光を得ようとする者や、単に傍に居たいという者がひっきりなしに現れる。
お陰で、祝勝会が終わった時の涼の顔には疲労の色が出ていた。
そうして祝勝会が終わり、涼達が祝勝会会場を出た時、月と詠が涼達に話しかけてきた。
どうやら二人も帰るところらしく、涼達は話しながら歩いていった。
「……では、清宮さん達は明日にはもうお帰りになるのですか?」
「ああ。未だ
「……そうですね。それに清宮さんは
「あー……その事なんだけど……。」
月がそう言うと、涼は何故か口ごもった。
頬を人差し指でポリポリと掻きながら、暫く中空に視線を漂わせ、やがて月と詠を交互に見ながら小声で言った。
「これは内緒なんだけど……実は、州牧になるのは俺じゃなくて桃香なんだ。」
「えっ?」
「……何でそうなってる訳?」
内緒と言われたからか、月と詠も小声になっていた。
「
「ええっ!?」
「月っ、声が大きいわよっ。」
詠に言われて、慌てて月は両手で口を塞いだ。
幸いにも、今涼達の近くには誰も居ない。
最も話を聞かれてはいけない桃香達は、涼達の前方、少し離れた所に固まって歩いている。
涼が月と詠と話し始めた時、桃香達は空気を読んで少しだけ前を歩き始めた。
内心は色々と複雑だっただろうが、
勿論、護衛の任は忘れておらず、愛紗や鈴々、そして
そんな中、愛紗は月の声に反応して振り向いたが、話の最中だと確認すると再び前を向いて歩き出した。
涼達はそれを確認してから話を再開する。
「……それで、辞退したのはどういう訳なの?」
「理由は簡単、義勇軍の総大将は桃香だからさ。なので、俺じゃなくて桃香――劉玄徳を州牧にして貰う様に頼んだんだ。」
「そして、少帝陛下はそれを認められたのですね?」
「ああ。そもそも桃香は
「天の御遣いだって相応しいでしょうに。」
「それに、何だかめんどくさそうだし。」
「それが本音か!」
涼の一言に的確なツッコミを入れる詠と、苦笑する涼。
月はそんな二人を見ながら微笑んでいた。その笑みに僅かに影が差していたのは、月自身は勿論、涼と詠も気付かなかった。
やがて、月と詠の宿舎前に着いた。涼達の宿舎はこの先に在るので、月達とはここで別れる事になる。
「結果的に送って貰っちゃいましたね。皆さん、有難うございます。」
「どう致しまして♪ まあ、どうせ通り道なんだし、気にしないで良いよ。」
涼が笑顔でそう返すと、月もまた笑顔を見せる。
それと同時に、愛紗達や詠が少しだけ不機嫌になるのは、最早日常茶飯事にも等しくなっていた。
「それでは皆さん、お休みなさい。」
「ああ、お休み。また明日ね。」
涼と月、そして各々がそれぞれ挨拶を交わし、涼達は再び帰路に就く。
月と詠は、涼達の後ろ姿を見送ってから宿舎に入っていった。
その途中、二人は何か話していたが、その会話を聞いた者は誰も居なかった。
翌日、宿舎に居た涼達は
「何か、お手伝いしましょうか?」
そこにそう言いながら現れたのは、私服姿の月だった。
いつもの服装とは違い、白と淡い桃色で構成された長袖ロングスカートのワンピースを着ている。
「有難う、月。でも殆ど終わってるから大丈夫だよ。」
「そうですか……なら、少し早めに来れば良かったですね。」
月はそう言いながら微笑んだ。
その笑みは美しく、涼は思わず見とれてしまいそうだったが、どこか違和感を感じてもいた。
それが何か考えていると、そこに、やはり私服姿の詠がやってきた。
「月、やっぱりここに居たのね。」
そう言った詠の私服は月と同じ色の長袖のワンピースだが、スカートが黒のミニスカートになっている。
どうやら走ってきたらしく、詠の息は少し乱れていた。
「あっ、詠ちゃん。ひょっとして、何かあったの?」
「別に何も無いけど……出掛ける時はちゃんと言付けてからにしてよね。急に居なくなったから、心配したじゃないの。」
「へぅ……ゴメンね、詠ちゃん。」
詠に注意された月は、俯きながら謝った。すると今度は、詠が慌てながら月を元気付けだした。
(本当に詠は月に弱いなあ。)
と、涼が思いながら見ていると、それに気付いた詠が慌てて居住まいを正し冷静さを保とうとした。
今更手遅れなのは誰が見ても判るのだが。
その後、帰り支度を終えた涼達は休憩がてら少し話をした。
その内容は、お互い時間が出来たらゆっくりと遊びたいという、たわいもない話。
そう、たわいもない話の筈だった。少なくとも涼にとっては。
十数分後、休憩を終えた涼達は、部隊に洛陽の正門に先行する様指示してから、少帝に別れの挨拶をする為に宮中に向かう準備をした。
「じゃあ月、詠、また今度ね。」
「はい。清宮さん達もどうかお元気で。」
「ま、無事を祈っておいてあげるわ。」
涼は二人と別れの挨拶を交わしてから、桃香達と共に宮中へと向かった。
月と詠は涼達が見えなくなる迄見送ってから、ゆっくりと帰り出す。
その最中、詠が静かに口を開いた。
「良かったわね、月。」
「うん……最後に私服姿を見て貰えて、本当に良かった。でも……。」
「……でも?」
俯く月に詠が訊ねると、月は一度目を閉じてから呟く様に答えた。
「……出来れば、このまま残って私を……“殺してほしかった”な……。」
月がそう呟いてから約半刻後、少帝への別れの挨拶を済ませた涼達は洛陽を離れた。
その少帝との面会時に、州牧になるのが桃香だとバレてしまったが、少帝の決定に桃香が口を出せる訳が無く、その場は大人しくしていた。
結局、涼は幽州への帰路に就いてからずっと、桃香の恨み節を聞き続ける事になる。
因みに、涼の様に洛陽から本拠地へと直ぐ戻ったのは、華琳と孫堅・雪蓮の二組。
袁紹や美羽、そして遅れてきた丁原や月達は、そのまま残って張譲や十常侍派を掃討する為に兵を動かしている。
黄巾党の乱、十常侍誅殺と続いた動乱も、
一方、幽州に戻った涼達は義勇軍を解散させていた。
これは、義勇軍の総大将である桃香が徐州の州牧になる為、今迄の様に幽州で暮らすか、各々の地元に戻るか、桃香達について徐州に来るかの判断を任せる為である。
その結果、殆どの者が桃香達についてくる事になり、その後、幽州での引き継ぎを終えた涼達は、一万二千以上の兵やその家族を伴う事になった。
「気を付けてな、桃香。」
「有難う♪ 白蓮ちゃんも元気でね!」
涼達は白蓮とその部下達に見送られ、新天地である徐州へと向かっていった。
第九章「宴と少女」をお読みいただき、有難うございました。
今回は今まで以上にタイトル通りのお話でした。それにしても袁家のキャラは使い易さに差があり過ぎるなあ。単に自分の実力不足なだけでしょうが。
前回の霞に続き、今回は恋が登場しました。陳宮が居ないのはとある理由からなので、音々音ファンの方は今しばらく御待ち下さい。
七乃の字と月と詠の私服は自分のイメージから作ったので、多分元ネタは無い筈。単に忘れただけかも←
最後の月の台詞がどう繋がるのかお楽しみに。
今回のパロディネタ
「声はすれども姿は見えず……。」「……仕方の無い奴じゃ。……見ー下ーげてーごらんー♪」→「声はすれども姿は見えず。」「見ー下ーげてーごらんー♪」
吉本新喜劇で御馴染の池野めだかさんの持ちネタより。元ネタはこの後泣くんですが、流石にそれはやめました。
「むむむ……美羽さんがそんな事を考えていたなんて……やりますわね。」
「何がむむむですか……。兎に角、麗羽様も清宮さんに真名を預けた方が良いかと思いますよ。」→「むむむ……。」「何がむむむだ!」
「横山光輝三国志」ネタ。「むむむ……。」は、「項羽と劉邦」「殷周伝説」等でも使われていますが。
次回から徐州編に入ります。暫く戦闘シーンはありませんので、退屈かも知れませんが、宜しければ御付き合い下さい。
ではまた。
2012年11月29日更新。
2017年5月5日掲載(ハーメルン)