真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十章 徐州の日々・2

「それじゃあ、次は人材についての報告をお願いします。」

 

 軍議室で各々からの報告を受けている桃香が次の報告者を指名し、その報告者――雪里がゆっくりと立ち上がる。

 雪里は手元に有る竹簡(ちくかん)を時々見ながら、ハッキリとした声で話し始めた。

 

「はい。私達が徐州に来て以来、軍の再編成及び新人の登用や育成を行って来ました。その甲斐あって徐州軍の兵数は七万を超え、それ等を率いる将や補佐する文官の数も順調に増えています。」

「ほう。これはやはり、招賢館が機能しているという事なのか?」

「はい。愛紗殿の仰る通り、招賢館が出来る前後で登用した人材の数が大きく違います。また、それに伴って労働者の殆どがきちんと仕事に就いている為、民の生活が安定し、結果的に治安も良くなっています。」

「お陰で鈴々(りんりん)は暇なのだ。」

「だが、俺達が暇なのは良い事だぞ。」

「それは解ってるのだ。けど、暇過ぎてお腹があんまり減らないのだ。」

「それで何であんなに食べられるのよ……。」

 

 鈴々の言葉に時雨(しぐれ)地和(ちいほう)がそれぞれ反応する。

 因みに、鈴々と時雨、地和の三人は徐州軍の部隊だけでなく、街の警邏(けいら)も担当している。それだけ人材が居なかったのだ。

 人材が増えてきた今は鈴々達が警邏をしなくても良いのだが、まだまだ安心出来ないのか、はたまた街のおじちゃんやおばちゃんがくれる点心が目当てなのか、鈴々は警邏を続けている。

 その為、必然的に時雨と地和も警邏を続ける事になった。

 

「……まあ、それは確かに良い事なのですが……。」

「何か問題が有るの?」

 

 桃香が訊ねると、雪里は頷きながら竹簡に目を落とし、話を再開した。

 

「確かに人材は集まりましたが、私は余り納得していません。」

「ふむ……何故だ?」

「将にしろ文官にしろ、最低限の能力を持った者ばかりで、飛びっきり優秀な人材は残念ながら未だ登用出来ていないからです。」

 

 雪里がそう言うと、愛紗を始めとした将や文官達は皆一様に表情を暗くした。

 どうやら、皆も同じ感想を抱いていた様だ。

 

「……まあ、こればっかりはどうしようも無いからなあ。」

「清宮殿の仰る事も解りますが、やはりもう少し優秀な人材が欲しいところです。」

「これから先の事を考えると、人材はどれだけ居ても多過ぎる事は無いですし、優秀なら尚良いですからね。」

 

 雫がそう言うと、やはり皆一様に頷いた。皆も同じく優秀な人材が欲しいのだ。

 

「涼義兄さん、何か良い方法って無いかなあ?」

 

 桃香は左隣に居る涼に訊ねる。すると涼は、難しい表情のまま髪を掻きながら答えた。

 

「有ったらとっくにやってるよ。まあ……敢えて言うなら、宣伝をする事かな。」

「宣伝?」

 

 涼の言葉に桃香はキョトンとしながら聞き返す。

 涼はそんな桃香と、涼に注目している愛紗達を見ながら説明を始めた。

 

「要するに、俺達が人材を求めているって事を徐州全体は勿論、豫州や青州(せいしゅう)といった他州に広めるんだ。そうすれば、他州に活躍の場が無い人材がこちらに流れて来る可能性が高くなる。」

「ですが、その様な人材はやはり余り優秀な人材では無いのでは? また、我々が人材を集めている事を他州の州牧達が知ったら、却って人材を穫られてしまうのではないですか?」

「確かに愛紗の言う通りだと思う。けど、徐州内の人材だけで足りないのなら、余所からも捜すしか無いよ。」

 

 涼のその言葉に愛紗は勿論、雪里達も頷くしか無かった。

 結局、人材確保については招賢館と他州からの来訪に頼るという方針に決まった。

 

 

 それから数日後、桃香と涼が居る執務室に雪里が訪れた。

 

「実は、少しお暇を戴きたいのですが。」

 

 雪里がそう話を切り出したので、桃香は涙目になりながら慌てて言った。

 

「わ、私、何か雪里ちゃんに酷い事したかな!? もししてたなら謝るから、どこにも行かないで〜っ‼」

「えっ? ……ああ、いえ、そうではなくてですね、人材を捜しに旅に出たいと思いまして、お暇を戴きたいと申しただけで……。」

 

 雪里が説明すると、桃香は自分の勘違いに気付き顔を真っ赤にした。

 涼はそんな桃香を見てから、雪里に訊ねる。

 

「捜しに行くって言うけど、当ては有るのかい?」

「はい、荊州(けいしゅう)隆中(りゅうちゅう)に私と同じ私塾に通っていた者が居ます。その者なら、必ずや桃香様や清宮殿のお役に立てる筈です。」

「けど、荊州ってかなり遠いよ? 何人くらい兵の皆さんを連れて行くつもりなの?」

「いえ、一人旅の予定ですが。だからお暇を貰いたいと申した訳ですし。」

「ええっ!?」

 

 あっけらかんと言った雪里に対し、桃香は大袈裟過ぎる程に驚いた。

 だが涼は比較的冷静に雪里の言葉を受け取り、向き直って再び訊ねる。

 

「まあ、桃香が驚くのも解るけど、雪里の事だから無事に戻って来れる自信が有るんだよな?」

「勿論です。お忘れかも知れませんが、私は皆さんと行動を共にする前は一人旅をしていたのですよ。」

「そ、それはそうだけど、雪里ちゃんは武将じゃなくて文官だし……。」

「御安心下さい。私とて身を護る術は心得ていますし、実際に人を斬った事も一度や二度ではありませんから。」

「そ、そうなんだ……。」

 

 またも衝撃的な事をサラッと言う雪里に、桃香は苦笑するしか出来ないでいる。

 だが涼はやはり比較的冷静に受け止めていた。勿論、「三国志」を知っているからの冷静さなのは間違いない。

 

「……解った、雪里の一人旅を許可しよう。」

「涼義兄さん!?」

「大丈夫だよ、桃香。雪里は無謀な事を言い出す様な()じゃない。ちゃんと無事に帰って来るよ。」

「涼義兄さんがそう言うなら……。けど雪里ちゃん、幾ら慣れていても絶対に無茶しちゃダメですからね!」

「はい、肝に命じておきます。」

 

 涼と桃香の許可を貰った雪里は、恭しく平伏してから退室し、旅支度をしに自室へと戻っていった。

 そして翌日の早朝、雪里は涼達に挨拶をしてから荊州へと旅立った。

 真面目な彼女らしく、前日迄に残っていた仕事は全て片付けていた。

 一時的とは言え筆頭軍師が居ないので、その間は副軍師の雫が筆頭軍師代理となり、政務や招賢館に来る人材の面接を取り仕切った。

 

 

 そんなある日、招賢館に二人の少女が訪れてきた。

 

「暫く離れている内に、色々と変わっているみたいね。」

「そうね。そもそも、州牧からして違うし……。」

「まあ、善政を行ってくれるのなら、誰が州牧でも構わないけど。」

「フフ……貴女らしいわね。」

 

 その二人の少女は、招賢館の待合室の椅子に座りながら談笑をしている。

 前の人の面接が未だ終わらない為、空いた時間を使って喋っている様だ。

 そうしてると、面接を受けていた人物が面接室から出て来た。

 溜息を吐いている事から察するに、芳しくない結果だったらしい。

 

「それでは次の方、どうぞ。」

 

 その面接室から一人の女性が出て来て、次に面接を受ける者を呼んだ。

 

「あの、私達姉妹なんで出来れば一緒に面接して頂けないでしょうか?」

「……通常は一人ずつ面接をしているのですが……少々お待ち下さい、面接官に伺ってきます。」

 

 女性はそう言って面接室に戻り、それから一分もしない内に戻ってきた。

 

「二人でも大丈夫だそうです。どうぞ中へ。」

 

 女性がそう言うと、二人の少女はゆっくりと面接室に入っていく。

 中には面接官の雫が一人座って待っていた。

 

「どうぞお掛け下さい。」

 

 雫が目の前に在る二つの椅子に手を向けながらそう言うと、二人の少女は一礼してから着席した。

 

「では、先ずはお二人の名前と出身地をお聞かせ下さい。」

「はい。私の名前は糜竺(びじく)、字は子仲(しちゅう)東海郡(とうかい・ぐん)の出身です。」

「自分の名前は糜芳(びほう)、字は子方(しほう)。姉である糜竺と同じく、東海郡の生まれです。」

「糜竺さんに糜芳さんですね。……あれ、ひょっとしたらお二人は、前徐州牧の陶謙殿に仕えていた糜姉妹ですか?」

 

 雫が面接用の竹簡に二人の名前を書いていると、途中で何かに気付いたらしく、二人の少女――糜竺と糜芳に尋ねた。

 すると、姉である糜竺が居住まいを正しながら答えた。

 

「はい、確かに私達は以前陶謙殿にお仕えしておりました。」

「やはりですか。……以前、陶謙殿が仰っていました。『糜姉妹が残って居れば、劉備殿もきっと喜ばれた事でしょう。それだけあの姉妹は優秀でしたから。』と。」

「勿体無いお言葉です。」

 

 雫の言葉を聞いた糜竺は恭しく平伏した。

 まるで目の前に陶謙が居るかの様だ。

 

「確か、黄巾党征伐後に軍を辞めて旅に出たと聞きましたが、何故また徐州軍に?」

「元々、ある程度見聞を得る事が出来たら戻るつもりでした。勿論、一度軍を辞めている訳ですから、一からやり直す覚悟は出来ています。」

 

 雫が尋ねると、糜竺は真っ直ぐに雫を見つめながら、淀みの無い口調でそう言い切った。

 次に雫は、糜芳の考えを知る為に向き直って尋ねてみた。

 

「成程……姉君はこう仰っていますが、糜芳さんはどう思っているのですか?」

「個人的には、元徐州軍の一員だったって事で、また一武将として用いて貰いたいんですが……。」

「私達は一度軍から離れた身なのですよ。それを忘れてまた武将として取り立てて貰う等、厚かましいにも程があります。」

「……と言っている姉の意見は(もっと)もだと思うので、自分も姉と同じで良いです。」

 

 糜芳は苦笑しながらそう答えると、頬をポリポリと掻き始めた。

 雫はそんな糜芳と糜竺を見比べながら考えを巡らす。

 

(……対照的な姉妹ですね。個人的には糜竺さんだけを採用したい気もしますが……今は一人でも多くの人材が欲しい時。贅沢は言っていられませんね。)

 

 結局、雫は糜竺と糜芳を二人共採用した。

 

 

 糜竺と糜芳が徐州軍に採用された翌日、招賢館に新たな人材が現れた。

 

「……陳珪(ちんけい)さんに陳登(ちんとう)さんですか。」

 

 雫は、目の前に居る妙齢の女性――陳珪から受け取った書簡を見ながら、確認する様に呟く。

 

「はい。私達は以前陶謙殿にお仕えしておりましたが、私は病気になったので療養の為に、この娘は私の看病の為にそれぞれ軍を辞めたのです。」

「成程……。それがこうして招賢館に来られたという事は、お身体の方は心配無いと考えて良いのですね?」

「はい。私は復調する迄長く掛かると思っていたのですが、華佗(かだ)という旅の医者に診て貰ったところ、直ぐに良くなりました。」

「へえ……それ程の名医ならば、我が軍で取り立てたいですね。」

 

 陳珪の話を聞いて興味を持った雫は何気なく、だが本気でそう思った。

 名医が一人でも多く居れば、君主や将兵の病気や怪我の治療は勿論、街で流行り病が起きた時に、いち早く対処出来るからだ。

 

「そうですね。……ですが恐らく、登用する事は出来ないでしょうね。」

「何故です?」

「あの医者は、出来るだけ沢山の患者を助ける為に旅をしていると仰っていましたから、一ヶ所に留まる様な事はしないと思いますよ。」

 

 陳珪がそう言うと、雫は残念そうな顔をしながら諦めた。

 話を聞く限り、華佗は是非とも欲しい人材だが、だからといって無理矢理登用する訳にはいかない。

 世の中には無理矢理登用する者も居るが、雫は勿論ながら桃香や涼もそんな事はしない人間だ。

 

「それなら仕方有りませんね。……話を戻しますが、お二人は一度辞めていますから、役職についてはこちらで決めて構いませんか?」

「勿論です。丁度良い機会ですから、これを機に心機一転頑張っていきたいと思ってます。」

「解りました。陳登さんも宜しいですか?」

 

 確認の為、陳珪の隣に立つ陳登に話し掛ける雫。

 

「はい、私も母上と同じ気持ちです。」

「成程、よく解りました。では、お二人共採用しますので、明日改めて登城して下さい。」

「はい。」

「親子共々、宜しくお願いします。では……。」

 

 陳珪と陳登の親子はそう言ってから一礼し、面接室を出て行った。

 それから暫くは面接者が来る予定が無い為、雫は案内役の人に休憩をとらせ、一人思案に暮れた。

 

(少しずつですが、人材が集まってきましたね。……けど、未だ足りない……。)

 

 徐州軍の人材不足は、完全には解決していなかった。

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