真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十一章 旧友と新友・3

 朱里と雛里の勧誘に失敗した雪里は、徐州に帰還すると直ぐに桃香と涼に事の次第を報告し、朱里と雛里の代わりに得た二万を超える兵達を徐州軍に組み入れる了承を得た。

 そしてその兵達の調練を、調練場に居る愛紗(あいしゃ)に頼もうとすると、そこで思い掛けない人物と出会った。

 

「……貴女が来ていたとは。いつ此処に?」

「三週間程前に。今ではこうして兵の調練を任されている。」

 

 その人物は白を基調とした振り袖の様な衣服を身に纏い、頭には両端に紅い飾り紐が付いた白いナースキャップの様なものを付けている。

 衣服について詳しく言うと、帯の色は濃紺、袖には黄色い蝶の羽根が大きく描かれている。

 また、胸元はその豊満な胸を強調するかの様に開いており、長く伸びてミニスカートの役割も兼ねている衣服の下から覗く太股と共に、妖しい色気を漂わせている。

 その太股には白のニーソックスを履いており、上部には紫色の三角形が連なる様に幾つも付いている。

 靴は、薄紫色の厚底下駄になっていて、全体的に和装っぽい服装だ。

 水色の髪は左右が長く、他は首に掛かる程度。但し真後ろの髪だけは細く長く伸ばしている。

 朱い瞳を持つその人物の名前は趙雲(ちょううん)、真名を(せい)と言う。

 

「そうでしたか。星殿なら安心して調練を任せられます。」

「ふふ、世辞でも嬉しいものだな。しかし、私が徐州軍に参加した事を筆頭軍師殿が知らなかったのは少し拙いのではないか?」

「私は先程帰還し、桃香様と清宮殿に今回の旅の報告をしただけで、(しずく)達からの報告は未だ受けていませんから。何せ一刻も早く、あの者達の調練を始めてもらいたかったので。」

 

 雪里はそう言いながら、調練場に並ぶ二万以上の兵達に目をやる。

 星も其方に目をやり、雪里が集めてきた兵達を吟味するかの様に見ていった。

 

「とは言え、知らなかったのは事実ですから。どう言われても仕方がないのですけどね。」

「ふっ……知らなかったのなら、知れば良いだけではないか。」

 

 冗談めかして雪里が言うと、星もまた、口元に指を置き、妖しい笑みを浮かべながら返した。

 

「……それもそうですね。では、兵の調練は星殿に任せて私は報告書を読んでくるとしますか。」

「ああ、それが良いだろう。武官は調練に、文官は報告書に、正に適材適所だ。」

「まったくです。」

 

 雪里はそう言って星に一礼すると、同じく調練場に居た愛紗と鈴々にも挨拶をしてから、自室へと戻っていった。

 雪里が自室に入ると、そこには大量の書簡が有った。

 旅に出る前に、残っていた仕事は全て片付けていたものの、二ヶ月程留守にしていたので、当然ながらその間の仕事が溜まっていた。

 勿論、急を要する案件は雫達が処理しているので、此処に置いてあるのはそれ程急がなくても良い案件ばかりだ。

 

「覚悟はしてましたが……これは骨が折れますね。」

 

 机の上は勿論、食卓や寝台の上に迄置かれている書簡を見ながら、雪里は溜息を吐いた。

 それから暫く目をつぶると、意を決した様に表情を引き締め、書簡の山に取り掛かった。

 筆頭軍師を務めているだけあって、雪里の処理能力は高い。一刻も経たない内に、机の上に山の様に積まれてあった書簡は無くなった。

 

「取り敢えず、これで良しとしますか。」

 

 そう呟くと、書簡の山とは離して机の上に置いてあった報告書を手に取る。報告書と言っても、竹の板を使った竹簡だが。

 

「……糜竺(びじく)糜芳(びほう)の姉妹に陳珪(ちんけい)陳登(ちんとう)の母娘。元黄巾党の廖淳(りょうじゅん)に、文武両道の孫乾(そんかん)。そして、恐らく愛紗殿や鈴々殿と同じくらいの実力の持ち主である趙雲殿。ふむ……私が居ない間に、随分と色んな人材が集まったものですね。」

 

 報告書には、雪里が不在の間に徐州軍の一員になった者達の一覧が書かれており、その中でも比較的優秀な者達については、別の書簡に名前と詳細なプロフィールが書かれていた。

 その数は十や二十では足りない程だった。

 

「人材の質は兎も角、数は揃ってきましたね。」

 

 それが、報告書を読み終えた雪里の感想だった。

 正直に言えば、もっと色んな人材が欲しいと思っているが、桃香が州牧になって数ヶ月でこれなら充分だとも思っていた。

 雪里はプロフィールが書かれている書簡を懐に入れると、ゆっくりと立ち上がり部屋を出た。

 

「先ずは、直接会ってみますか。」

 

 そう呟きながら、雪里は城内を歩き始めた。

 帰還した時は、報告を済ませようという気持ちが強かった為に気付かなかったが、改めて城内を見渡すと見慣れぬ顔が増えているのに気付かされる。

 女性が多いのはこの世界では普通だから気にする事ではないが、器量が良い女性が多いのはちょっと気になった。

 

「早くも英雄の片鱗……という訳では無いでしょうけど、ね。」

 

 苦笑しながら辺りを見渡すと、目的の人物達を見つけた。訓練の帰りなのか、それぞれ武器を携帯している。

 

「歓談中申し訳ありませんが、少し宜しいですか?」

「はい、何ですか?」

 

 その中の一人が応えると、雪里は先ず自己紹介を始めた。

 

「私は、徐州軍筆頭軍師の徐元直と申します。失礼を承知で訊ねますが、貴女方は糜竺将軍と糜芳将軍、それと廖淳将軍と陳登将軍ではありませんか?」

「はい。ああ、貴女が噂に聞く筆頭軍師殿なのですね。」

 

 四人の中で一番年長者っぽい落ち着きさをはらった少女が応対すると、他の三人も雪里を見つめ始めた。

 

「ええ。私はつい先程帰還したばかりなので、貴女方についてよく知らないのです。それで、宜しければ少しお話をさせて戴ければと思いまして。」

「それは勿論構いませんが、私達に対してその様にへりくだる必要はございません。どうか、いつも通りにして下さい。」

「これがいつも通りなのですが……解りました、善処しましょう。」

 

 雪里がそう応えると、五人は話をする為に場所を移した。

 その途中で、雪里以外の四人もそれぞれ簡単な自己紹介をした。

 落ち着きはらった年長者の少女は「糜竺」、その糜竺にどことなく外見が似ている少女は「糜芳」、明るい雰囲気で栗色の髪と瞳を持つ少女は「廖淳」、四人の中で一番背が小さな少女は「陳登」と名乗った。

 歓談室に着いた五人は、小さな円卓を中心にして座り、話を始めた。

 話していくにつれて、雪里は四人の人柄について把握していった。

 先ず、四人の中で最年長――と言っても未だ十八歳なのだが――の糜竺は兎に角礼儀正しい。

 凜として尚且つ透き通る声で紡がれる口調は丁寧だし、所作は貴族のそれと変わらないのではないかと思う程だ。

 聞いてみると、糜家は代々裕福な家系らしく、それに伴って礼儀作法も身に付いたらしい。

 外見を詳しく見ると、胸の辺り迄伸びている黒髪は艶やかで、窓から差し込む陽の光を受けてキラキラと輝いている。

 髪の色と同じ黒い瞳は見る者の心を捉える様だし、白を基調としたワンピースタイプのゆったりとした服の上からも判る胸の膨らみも相俟って、清楚ながらに少なからず妖艶さも持ち合わせている。

 スカートの丈は膝下迄の長さで、短めの青い靴下と茶色のブーツタイプの靴を履いている。

 装飾品は余り付けておらず、緑色の宝石がはめ込まれたブレスレットを右手首にしているくらいだ。

 武器は背中に大型の弓矢を背負っており、左腰には短剣も所持している。こっちは恐らく護身用だろう。

 

「得物は弓矢なんですね。」

「ええ。(もっと)も、妹と違って私は将として部隊を率いた事は、未だ一度も無いのですが。」

「けど、姉の弓矢の腕は確かですよー。軍師殿もビックリするかも知れませんねー。」

 

 糜竺が困った様に答えると、右隣に座っている少女が明るくそう話す。

 その口調がどこか軽かった所為か、糜竺はその少女を窘める。

 窘められた少女の名前は糜芳。糜竺を「姉」と呼んだ事から解る様に、彼女は糜竺の妹である。

 確かに外見はどことなく似ている。髪や瞳の色は同じだし、身長も同じくらいだ。

 だが、その口調や所作は姉とは対照的に軽く、雑だ。

 服装にしても、基本的に白だけで構成している糜竺と違い、糜芳の服装は黒やら赤やら青やらと、カラフルな色合いになっている。

 スカートも、糜竺がロングなのに対してミニスカート。色は前述の黒。

 白のオーバーニーソックスにスニーカーの様な黄色い靴を履いており、姉と比べたら活発的な格好だ。

 装飾品も、ブレスレット一つだった糜竺とは違い、ブレスレットにネックレス、アンクレットと沢山身に着けている。

 只、それだけ着けても派手さが抑えられているのは、糜芳の顔立ちや体型がボーイッシュだからかも知れない。

 豊満な胸を持つ姉と違い、彼女の胸は同年代の平均より少し小さい。勿論、大きければ良い訳では無いが。

 髪は首迄のショートヘア、ラフなTシャツタイプの服、武器は腰に下げている剣。年齢は十六歳。

 それが糜芳という少女である。

 

椿(つばき)お姉ちゃんは、いつも山茶花(さざんか)お姉ちゃんに怒られてるよねー。」

 

 ケラケラと笑いながら、子供特有の甲高い声でそう言うのは、雪里の左隣に座っている小さな少女だった。

 名前は陳登、年齢は十三歳で、この場に居る五人の中では最年少だ。

 年齢の割には小柄なその少女は、顔つきも体型も幼く、十歳やそれ以下の年齢と言ってもおかしくはない。

 栗色のショートの髪はふんわりとしており、丸顔によく合っている。

 丸く大きな碧色の瞳に薄い唇、短い手足に僅かに膨らんだ胸と、いかにも子供らしい体型だ。

 頭には赤いワンポイントが有る白いベレー帽。Tシャツっぽい赤い服の上には白いジャケットを羽織り、プリーツスカートも白と、服装は殆ど白で構成されている。勿論、靴下も靴も白だ。

 武器は腰の真後ろで横一文字に下げている長剣の様だ。下手したら身長と余り変わらない長さに見えるが、ちゃんと扱えるのだろうか。

 

「まあ、椿さんだから仕方ないですね。」

「そうだねー♪」

「残念ですが……。」

「お姉ちゃんも皆も酷いーっ。」

 

 栗色の髪と瞳を持つ少女――廖淳が言ったのを皮切りに、陳登や糜竺が椿――恐らく糜芳の真名だろう――をからかう様に言葉を紡ぐ。

 からかわれた糜芳はそんな三人を見ながら怒っているが、その表情は笑っていた。どうやら本気で怒ってはいない様だ。

 廖淳は地和の副官として街の警邏をしているらしく、今では街の事を知り尽くしているらしい。

 年齢は十四歳で、背は雪里と同じか少し大きいくらい。胸もそんなに変わらない大きさの様だ。

 栗色の髪には黄緑色のバンダナを巻いて、ポニーテールにしている。本当は黄色いバンダナを巻きたいのだが、勿論、雪里達はそれを知らない。

 服装は黄緑色を基調としたノースリーブに黒いホットパンツと、運動に最適な格好をしている。

 本来は黄色い布を巻いていた右手首には、空の様に澄みきった青い布が巻いてあり、ポニーテールのバンダナと共に装飾品代わりになっていた。

 靴下やニーソックスは履かず、素足に青いスニーカータイプの靴を履いている。

 武器は黄緑色の鞘に納められた剣で、左腰に下げている。

 見た所真新しい様なので、最近手に入れた剣なのかも知れない。

 それから半刻の間、五人は軍について政治について、更には雪里と四人は初対面だというのに、プライベートについても大いに語り合った。

 それは雪里の真面目な人柄が、四人に安心感を与えたからかも知れない。

 その雪里が四人と話してみて解った事は、彼女達は少なくとも悪い人間では無いという事だった。

 性格的に気になる人間は居たが、それは軍に悪影響を与える程では無い。

 話しただけなので実力については解らないが、調練や政務の様子を見て判断すれば良いので後回しにする事にした。

 

「それでは皆さん、これから宜しくお願いしますね。」

 

 話の最後に雪里がそう言うと、四人もまた同じ様に応え、平伏しながら雪里を見送った。

 因みに、雪里は四人から真名を預けてもらい、自分の真名も預けている。

 四人の真名はそれぞれ、糜竺が「山茶花」、糜芳が「椿」、陳登が「羅深(らしん)」、廖淳が「飛陽(ひよう)」といった。

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