真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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人材を得る為に、州牧自ら赴く。

普通なら有り得ないだろう。事実、呆れかえる人も居た。

だが、その評価が正しいかは誰も知らない。

もっとも、他人の評価を気にしないのが桃香の良い所でもあるのだが。



2010年12月6日更新開始。
2011年2月10日最終更新。

2017年5月16日掲載(ハーメルン)


第十二章 三顧の礼・1

「良い天気だねー。」

「本当ですね……雲一つ有りません。」

「とっても晴れ晴れで愉快なのだっ。」

 

 三人の少女が、それぞれの馬に乗って進んでいる。

 空を見上げながら、最初に言葉を発した長い桃色の髪の少女の名は劉備(りゅうび)真名(まな)桃香(とうか)

 徐州(じょしゅう)州牧(しゅうぼく)という立場に居るのだが、そうは見えない。誰に対してもフレンドリー過ぎるからだろうか。

 その桃香の声に応えた黒髪サイドテールの少女の名は関羽(かんう)、真名は愛紗(あいしゃ)

 徐州軍筆頭を務める程の実力の持ち主であるクールな彼女は、桃香の義妹(いもうと)でもある。

 最後に明るく応えた赤い髪の少女の名は張飛(ちょうひ)、真名は鈴々(りんりん)

 徐州軍では愛紗に次ぐ立場である彼女も桃香の義妹であり、愛紗の義妹でもある。パッと見は元気一杯な小さい女の子だが、その実力は愛紗に勝るとも劣らないらしい。

 彼女達が居るのは隆中(りゅうちゅう)という小さな村。未だ陽は高く、周りに目をやれば畑仕事に精を出す人々の姿が見てとれる。

 

「……と、現実逃避してみたけど、これからどうしよっか?」

 

 何故か急にテンションが下がった桃香が愛紗に訊ねる。

 

「私に聞かれても困ります。……それに、どうするも何も、既にお決めになられているのではありませんか?」

「まあ、そうなんだけどねー。」

 

 桃香はそう言うと再び空を見上げ、溜息を一つ吐いた。

 

「まさか、留守だとは思わなかったからなあ〜。」

「仕方ありませんよ。先方には、私達が訪ねる事を知らせていないのですから。」

 

 愛紗がそう応えると、鈴々も言葉を繋ぐ。

 

「それに、あの女の子は結構おっかなかったのだ。」

「そうだったね〜。最初は笑顔だったのに、私達が徐州から訪ねてきたって知ると、凄い剣幕で怒ったし……。あの子、何て名前だったっけ?」

「確か、“黄月英(こう・げつえい)”と名乗ってましたね。あの様子だと、どうやら諸葛亮(しょかつりょう)殿の親友の様です。」

 

 つい先程の出来事を思い出しながら、三人は馬の歩を進める。

 諸葛亮の家に着いて門から声をかけると、玄関から鈴々と余り背丈の変わらない一人の少女が現れた。

 紅く長い髪に健康的に焼けた肌、大きな碧眼に活発そうな雰囲気の少女は、突然の来訪者を最初は訝しがりながらも、やがてきちんと笑顔で応対していた。

 勿論愛想笑いだろうが、その時に見えた八重歯が可愛いなと、桃香は思っていた。

 だが、その笑顔は怒りの表情へと豹変する。

 

『また徐州からなの!? 朱里(しゅり)ちゃんは居ないから帰って!!』

 

 桃香が『私は漢の別部司馬(べつぶ・しば)、領は徐州の牧、下邳(かひ)劉備玄徳(りゅうび・げんとく)です。』と自己紹介をした途端に、少女の顔から笑みが消え、烈火の如く怒りだしたのである。

 突然の事に驚き戸惑いながらも、桃香達は何とか話をしようとした。

 だが、少女はそんな桃香達の言葉には耳を貸さず、

 

『この黄月英が居る限り、朱里ちゃんには指一本触れさせないんだからっ‼』

 

と叫びながら、何処からか取り出した短剣を振り上げた。

 これには桃香は勿論、愛紗達も驚き、慌てて馬に乗ってその場から離れた。

 そして今に至る。

 

「あんな恐い女の子が居るなんて、雪里(しぇり)ちゃんは言わなかったのになあ。」

「雪里の性格なら、知っていれば教えたでしょう。……命に関わりますし。」

「本当に危なかったのだー。」

 

 そう言いながら桃香は勿論、愛紗と鈴々も冷や汗を浮かべていた。

 

「けど……折角ここ迄来たのに、諦める訳にはいかないよね。」

「何せ、義兄上(あにうえ)達には内緒で出て来ましたからね。」

 

 桃香の言葉に愛紗が応える。その口調は、元来真面目な愛紗らしくない、少し意地悪な感じだった。

 

「うぅ……このままじゃ(りょう)義兄(にい)さん達にすっごく怒られちゃうだけだよー。」

「だったら、何回も訪ねて行ったら良いのだっ。そうすれば、その内に孔明(こうめい)とも会えるかも知れないのだっ。」

 

 鈴々がそう言うと、落ち込んでいた桃香の表情が一気に明るくなっていった。

 

「そ、そうだよねっ。元々そのつもりだったし……よーし、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、諸葛亮さんと会う迄頑張ろうねっ。」

「はい、頑張りましょう。」

「頑張ろー、なのだっ!」

 

 元気になった桃香が右手を高々と突き上げながらそう言うと、愛紗と鈴々もそれぞれ手を上げて応えた。

 そうして先程迄の暗い雰囲気から完全に脱却した桃香達は、そのまま宿へと馬を走らせる。

 そんな中、愛紗は笑顔の桃香と鈴々を見ながら一人思案に耽っていた。

 

(しかし……先程の少女が言った様に、諸葛亮殿は本当に留守だったのだろうか?)

 

 今来た道を振り返りながら、愛紗は考えを続ける。

 

(もし、本当に留守だったのだとしたら、家人が居ない家に何故あの少女が居たのだ? 留守番を頼まれた、という事も考えられるが、普通に考えれば居留守を使った、と考えるべきであろうな。)

 

 そこ迄考えて、引き返すべきか迷ったが、今戻っても同じ事の繰り返しだろうと判断する。

 どうやら、またあの少女に襲われるのは嫌な様だ。

 

「愛紗ちゃーんっ、何してるのー?」

「あ、はい、今行きますっ。」

 

 いつの間にか遥か前方に居る桃香が、馬を止めて愛紗に向かって手を振っている。

 愛紗は馬を走らせ、距離を詰める。

 愛紗が隣に来るのを確認すると、桃香と鈴々は再び馬を進めた。

 一先ず今日は帰ろう、と改めて桃香が言うと三人は頷き、その場から離れていった。

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