真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十三章 青州からの使者・5

「青州遠征及び、南方外交遠征の部隊構成が決まりました。」

「そっか、じゃあ早速発表してくれるかな。」

 

 二日前と同じメンバーが集まっている執務室で、軍議が行われている。

 その中で雪里の発言の番になり、先程の様に言ってから報告を始めた。

 

「では、先ずは青州遠征の陣容から。第一陣を愛紗さんの関羽隊、第二陣を山茶花さんの糜竺隊、第三陣を椿さんの糜芳隊、第四陣を朱里の諸葛亮隊、本隊である第五陣を桃香様の劉備(りゅうび)隊、そして後詰めの第六陣を時雨さんの田豫隊に、それぞれ担当してもらいます。」

「結構多いな。兵数はどれくらい連れて行くんだ?」

「関羽隊が二万五千、糜竺隊と糜芳隊が一万ずつ、諸葛亮隊が五千、本隊が三万三千、田豫隊が一万七千。合計十万ですね。」

 

 涼の問いに雪里は即座に答える。

 すると今度は、兵数を聞いて驚いた桃香が訊ねた。

 

「徐州軍の約半数になる程の兵士さん達を連れて行くの?」

「本当はもっと多い方が良いんですけどね。何せ、太史慈さんの報告によれば青州黄巾党の数は十万を軽く超えている様ですから。」

 

 雪里は軽く溜息を吐きながらそう答える。相変わらず黄巾党の数が多いので、辟易している様だ。

 

「そっかあ……けど、これ以上増やすと徐州の守りが手薄になっちゃうし……。」

「その通りです。まあ、黄巾党といえど所詮は賊ですから、余程の事が無ければ少しくらいの数的不利があっても、負けはしないでしょうが。」

 

 雪里は自信あり気げな表情でそう言い切った。

 地香と飛陽が複雑な表情をしているのは、勿論気付いている。

 この場に居る者は皆、二人が元・黄巾党だと知っている。最近来た朱里と雛里には、涼と桃香、地香の判断で事実を教えている。勿論驚かれたが、桃香たちならそういう事もするだろうと納得していた。

 なので多少なりとも気を遣っているのだが、雪里は敢えて気を遣わない様だ。

 それは、二人が黄巾党と決別していると知っているから。

 今の二人は黄巾党の張宝や廖淳(りょうじゅん)ではなく、徐州軍の劉燕と廖淳なのだから、気を遣い過ぎると却って変だと思っていた。

 だからこそ、雪里は普段と変わらずに接している。

 地香と飛陽の二人もそれに気付いているのか、そんな雪里に対して特に反応していなかった。

 そんな訳なので話が滞る事無く、軍議は続いていく。

 

「それに、清宮殿の部隊にも兵を割かなければなりません。」

「けど、俺への兵はそんなに要らないんじゃないか?」

「何を仰います。清宮殿は徐州軍の州牧補佐、そして何より“天の御遣い”なのですから、兵は絶対に多く必要です。」

「そうだよ涼義兄さん。涼義兄さんに何かあったら大変なんだから、護衛の兵士さんは沢山居ないとダメだよ。」

「まったく、相変わらず義兄上は御自身の立場を理解しておられませんね。」

「お兄ちゃんはバカなのだ。」

「それ、鈴々にだけは言われたくないんだが。」

 

 義妹達から散々に言われた涼がツッコミを入れると、鈴々がふてくされてしまい、次いで桃香達から笑いが起きる。

 それから暫しの間、執務室に笑い声が響いた。

 やがて軍議が再開されると、議題は先程少し話した外交遠征に関する事に移っていった。

 

「南方外交遠征の部隊の内訳ですが、第一陣は鈴々の張飛(ちょうひ)隊、第二陣は雫の簡雍(かんよう)隊、第三陣は本隊の清宮隊、そして後詰めの第四陣は霧雨さんの孫乾(そんかん)隊です。」

「四部隊か……兵数は?」

「こちらは戦をしに行く訳では無いので少なめです。張飛隊が千、簡雍隊、孫乾隊はそれぞれ五百、本隊の清宮隊が二千ですね。」

「合計四千か……。確かに青州への部隊と比べると少ないけど、話し合いに行くにしては少し多くないか?」

「確かに。ですが、道中で賊に襲われる危険性はありますし、曹操や孫策が敵対しないとも限りませんから。」

「賊は兎も角、今は華琳や雪蓮(しぇれん)と敵対しないと思うけどなあ……。」

 

 そう言いながら涼は、二人ともいつかは敵対する事になるだろうなと思っていた。

 今は友好的とは言え、彼女達が「曹操」と「孫策」である事に変わりはない。

 「三国志」に登場する英雄達の中でも類い希な才能を持ち、三国で一番多くの領土を獲得し、結果的には()王朝の礎を作った曹操。

 一方、孫堅の跡を継いで江東を統治し、やはり後々の()王朝の礎を作った孫策。

 それぞれ、存命中には建国していないものの、その功績は息子の曹丕(そうひ)、または弟の孫権(そんけん)が受け継ぎ、「魏」と「呉」が建国された。

 そこに劉備が建国した「(しょく)」を加えて、漸く三国が揃う事になる。

 二人はその英雄と同じ名前を持ち、その名に恥じない実力を持っている、と、涼はそう思っていた。

 因みに、建国の順番としては「魏」の建国に対抗する様にして「蜀」が建国され、「呉」の建国はその二ヶ国より少し遅れて行われた。

 「三国志」と言っても、実際に三国が出来たのは物語のかなり後であり、また、三国が揃っていた期間も意外と短かった。

 涼がそんな事を考えていると、やれやれといった表情の雪里が言葉を紡ぎ出した。

 

「確かに、あの二人が今の私達と明確に対立してくる事は無いでしょう。ですが、清宮殿を拉致して私達を脅したり、自分達の御輿として担いだりする可能性が無いとは言い切れません。」

「まさか。」

 

 雪里が言った仮定に対し、涼はそんな事は有り得ないと笑い飛ばす。

 

「……若しくは、色仕掛けで籠絡しにくるかも知れませんね。」

「「「っ!?」」」

「ま、まさかぁ。」

 

 雪里が続けて言った思い掛けない言葉に一同が絶句し、涼もまた先程とは違って弱々しく否定する。

 だが、涼は否定しつつもどこか納得していた。

 

(華琳は兎も角、雪蓮はそうする可能性が有るのは確かだよなあ……。何せ、結婚したいとか言ってたし……。)

 

 黄巾党討伐の際、真名を許されたあの一件以来、雪蓮は何かと涼にアプローチしてきた。

 それが単純に恋愛感情によるものか、政治的目的によるものか、はたまたその両方かは判らないが、少なくとも雪蓮が涼に対して必要以上の好意を見せていたのは確かだった。

 

(キス……しちゃったしな……。)

 

 正確には、したというよりされたと言うのが正しいのだが、キス自体は本当なので、その事を思い出した涼の顔は自然と紅くなった。

 

「……何で顔が紅くなってるんですか、涼義兄さん?」

「えっ……?」

 

 左隣から聞こえてきた声に驚きながら振り返ると、そこには頬を膨らませた桃香が居た。

 

「恐らく、曹操殿や孫策殿の事でも考えていたのでしょう。」

「えーっと……。」

 

 更に、右隣には仏頂面のまま涼を睨み付けている愛紗。

 

「まったく……涼、素直に言いなさいっ。」

「えっと、その……。」

 

 そして、桃香の左隣に居る地香が明らかに不満な表情のまま、ビシッと右手の人差し指を涼に向けて突き出していた。

 その仕草や口調は、地香というより地和に戻っているのだが、今の涼にそれを指摘する余裕は無かった。

 二人の義妹と義従妹(いとこ)に追及され、言葉に詰まる涼。天の御遣いと呼ばれ、民から慕われ、敵からは畏怖されている彼も、彼女達に対しては弱いらしい。

 因みに雪里達はというと、いつもの事だからと特に止める事も無く、只静かに見守っていた。

 というか、何人かは面白がっていた様な気がする。

 

「取り敢えず、部隊に関しては以上です。呼ばれなかった人は徐州の守りや内政をしてもらいたいのですが。」

「賊を倒したい気が無い訳では無いが、私はそれで構わぬぞ。」

「ちぃ……私も構わないわ。また、桃香姉さんの代わりをやってれば良いんだしね。」

 

 星と地香がそれぞれ了承し、それが居残り組全員の総意となった。

 これで軍議は終わりかと思われたが、朱里が静かに手を挙げると、地香と飛陽を交互に見ながら静かに言葉を紡いだ。

 

「誰も……雪里ちゃんも訊かないので私が訊ねます。……地香さん、飛陽さん。」

「何かしら?」

「何です?」

 

 真名で呼ばれた二人が真剣な表情になって朱里に向き直る。

 因みに、朱里は徐州軍の主要メンバーとは真名を預け合っている。

 

「青州黄巾党の首領、管亥(かんがい)について知っている事があるなら、教えて頂けませんか。」

 

 紡がれた言葉は、まるで機械が発したかの様に冷たく、平淡だった。

 だがそれは、本来なら真っ先に二人に訊ねられるべき事柄である。

 それなのに、何故か今迄誰もそうしなかった。

 二人を気遣っての事か? いや、流石にこれは気遣って良い事ではない。

 

 なら何故?

 

 そう疑問に思ったからこそ、朱里は訊ねたのだった。

 

「管亥……ね。」

「……? どうかした? もし知らないのなら、そう言ってくれて構わないよ。」

「いえ、知らない訳じゃないわ。ただ……。」

 

 何故か歯切れが悪い地香に対して、疑問の表情を浮かべる涼達。

 そんな地香に代わって、飛陽が言葉を継いだ。

 

「出来れば、管亥の事は余り思い出したくないんです。」

 

 飛陽がそう言うと、地香は静かに頷いた。

 

「えっと……それって、どういう事?」

「皆さんは、黄巾党の実態を御存知なんですよね?」

「実態って……黄巾党の中心が、実は張三姉妹の追っ掛けばかりだったって事?」

「はい。」

 

 皆を代表した形になった涼の答えに、肯定の意を返す飛陽。

 涼達は地香が未だ地香という名前を使う前、つまり地和の時に黄巾党の実態について彼女から直接聞いている。

 正確には、聞いたというよりは愚痴として聞かされた、というべきだが。

 その地和曰く、

 

『ちぃ達は只、三人で大陸を旅をしながら歌を唄っていただけ。』

 

 曰く、

 

『偶然手に入れた“太平要術(たいへいようじゅつ)”を使ったら沢山人が集まった。』

 

 曰く、

 

『やがて大きな集団となったが、その中には血の気が多い人も沢山も居たので、彼等を纏める為にちぃ達が首領になった。』

 

 曰く、

 

『やがて、その集団は“黄巾党”という名前の賊になっていき、段々とちぃ達でも制御出来なくなっていった。』

 

 曰く、

 

『集団が肥大化したのは、多分“太平要術の書”が原因だと思うけど、それは妹の張梁(ちょうりょう)に渡していたので、その後の行方も効果についても解らない。』

 

との事だった。

 尤も、これはあくまで地和の考えなので、実際は少し違うかも知れない。

 

「あの黄巾党の乱で暴れていたのは、殆どが元々賊として暴れていた奴等。張三姉妹の本来の取り巻きは、そいつ等に影響されて暴れていたんだよな。」

「そうよ。まあ、だからと言って黄巾党が被害者とは言わないわ。どんな理由があれ、黄巾党が人々を苦しめた事に変わりないし……。」

 

 そう言うと、地香は神妙な顔をして俯いた。

 彼女は黄巾党の中心人物だった訳だから、申し訳無い気持ちがあるのだろう。

 自然と空気が重くなる。が、それを察した涼が飛陽に話しかけ、空気を変えていく。

 

「それで、管亥についてなんだけど……。」

「あっ、そうでしたね。……管亥は元々、その取り巻きを纏める張三姉妹親衛隊の一人だったんです。」

「親衛隊の一人“だった”……?」

 

 星が「だった」を強調すると、飛陽は星を見ながら頷いた。

 

「管亥は……あいつは、親衛隊を辞めたんです。……人殺しを楽しむ為に。」

「……闇に堕ちた、と言う訳か。」

 

 星が目を閉じながらそう言うと、地香と飛陽は神妙な顔のまま同時に頷いた。

 

「……以前の管亥は、張三姉妹の親衛隊として皆を纏める優等生だったわ。けど、悪い奴等の影響を受けて残忍な男になってしまった……。」

「私の村を助けてくれた一員でもあったんですが……そんな優しかった面影は無くなりました。そして、管亥の一番の悪事は……親衛隊員であった管亥が率先して暴れる様になった為に、他の黄巾党員も皆それに倣っていった事です。」

 

 地香と飛陽が喋り終わると、数秒間の静寂が辺りを包んだ。

 さっきより重苦しい空気に包まれたまま、愛紗が口を開く。

 

「……上が悪事を働いているのだから、下も悪事を働く、か。」

「管亥は悪い見本になったって訳だな。」

「ええ。後は、皆が知っている通りの黄巾党が出来上がったわ。……張三姉妹が居ても、その暴走を制御しきれないくらいの賊がね。」

 

 愛紗の言葉に涼が続くと、地香が更に続いて自嘲気味に言った。

 実際、今の地香はその当時の事を思い出していた。

 暴走する黄巾党員に対して虚勢を張りつつも、内心では怖いと思っていた、張宝だった頃の自分自身を。

 少なくなったとはいえ、未だまともな黄巾党員が居なかったら、自分達の命も危なかっただろう。

 ひょっとしたら、命を落とす前に生き地獄を味あわされたかも知れない。

 そう思った地香の体は自然と震え、次いで自らの体を抱き締める。

 その様子に気付いた涼が、またも飛陽に話し掛けて先を進めた。

 管亥について話す飛陽もまた辛そうだった。かつての恩人を倒そうとしているのだから、それも仕方無いのだが。

 

「管亥の部隊は、今迄皆さんが相手にしてきた黄巾党とは違います。恐らく、黄巾党の中で一番残虐で、一番強く、一番倒さなくてはいけない相手です。」

 

 だが、そんな飛陽が表情を引き締めて話の最後にそう言うと、皆もまた気を引き締めた。

 一番倒さないといけないという事は、絶対に倒さないといけないという事。

 張三姉妹が居なくなって瓦解した黄巾党だが、残党である青州黄巾党は張三姉妹が居なくても勢力を維持し、暴れている。

 言わば、青州黄巾党は鎖が外れた狂犬。血に飢えた獣と同義。だからこそ、一刻も早く倒さないといけない。

 涼達はそう決意をし、互いに確認するとその日の軍議を終え、青州北伐と外交遠征の準備に戻っていった。

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