真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十四章 江東の虎達・6

 黛との挨拶が終わると、今度は正面に視線を移す事になった。そこには右から雪蓮、孫堅、孫権、そして小蓮が座っており、その後ろに甘寧、陸遜、凌統、蒋欽、周泰が立っている。気の所為か、陸遜は笑顔を引き攣らせている様だ。

 

(まあ、甘寧と凌統に挟まれてたらそうなるよなあ。)

 

 涼は何となく事情を察し、事実その通りだった。

 それは兎も角、自己紹介は続いた。

 前と後ろのどっちからかなと涼は思ったが、前列の四人は既に顔見知りであり、その内の二人からは真名を預かっているのもある為、後ろの五人の番となった。

 その中で最初に自己紹介を始めたのは、左端に居る少し小柄で長い黒髪の少女だった。

 

「私の名前は周泰、字は幼平(ようへい)、真名は明命(みんめい)と申します。御遣い様、若輩者ですが宜しくお願いしますっ。」

 

 明るくハキハキと名乗る周泰こと明命に、涼は好感を持った。

 この屋敷に来た時に接客したのはこの明命と、その隣に居る蒋欽である。勿論、そこには少なからず(はかりごと)が有ったのだろうが、屈託の無い笑顔を向ける彼女を見ると本当にそうだったのかなと思う程だ。

 そんな彼女の外見は、繰り返しになるが長い黒髪が特徴的だろう。

 どれくらい長いかといえば、彼女の膝下よりも長い。ひょっとしたらもっと長いかも知れない。

 彼女も他の将と同じく褐色の肌だが、この活発そうな表情を見ると元々の肌の色というより、動きまわって日焼けしたのではないかと思ってしまう。

 まあ、日焼け止めクリームとかは無い世界だから、それも間違いでは無いのだろうが。

 服装は表現するなら小豆色の忍者服、それも所謂「くノ一」と呼ばれる者が着ている様な服という表現がピッタリな服であり、袖は短く足も大胆に露出している。

 とは言え、先程の快活さも相まって、露出の割には色気が無い。どちらかと言えば「美しい」と言うより「可愛い」という言葉がよく似合う。

 あと、この中では明命の胸が比較的小さいのも、少なからず関係しているのかも知れない。というか、他がでか過ぎるのだが。

 そもそも、胸の大きさで女性の価値は決まらないのだから、大小をどうこう言っても仕方が無い。……誰に対するフォローではない。断じて違う。

 話を戻そう。明命は前述の通りに明るく活発そうな少女であり、その様子から察するに彼女は活動的な人物なのだろう。彼女は「周泰」の名を持つのだから当然武官だろうし、その実力も確かな筈だ。

 とは言え、今目の前に居る彼女はそこ迄の手練れとは見えない。

 勿論武将である分、実力者なのは確かであり、涼よりは遥かに強いだろう。そもそも涼は、戦えるとはいえ強くはない。彼が戦えるのはあくまで黄巾党の様な賊レベルの強さしかない相手だけであり、周泰の様な将クラスの強さを持つ者が相手では数合もしない内に負けると思われる。

 あくまで、この場に居る将の中では手練れではないというだけで、彼女の実力は折り紙付きに違いない。そんな風には見えない程のあどけなさを、明命は持っていた。

 あと、外見について補足するなら、素足にサンダルのような靴を履いている事くらいか。

 涼は明命にも今迄と同じ対応をし、好きな様に呼んで良いと答えた。

 すると明命は花が咲いた様な笑顔で「宜しくお願いします、涼様!」と言った。御遣い様という堅苦しい呼び方ではなくなった分、涼は嬉しく思った。

 続いて自己紹介を始めたのは、明命の隣に立つ蒋欽だった。

 

「私の名前は蒋欽、公奕、真名は美怜(みれい)と申します。私も明命同様若輩者ですが、宜しくお願いします。」

 

 蒋欽こと美怜は落ち着き払った口調で名乗り、恭しく礼をした。

 その際に肩にも満たない程短い栗色の髪がさらりと揺れ、漆黒の瞳が真っ直ぐに涼を見詰めていた。

 その口調が示す様に、彼女の所作はゆっくりで、かつ優雅だ。生まれ育ちが良いのか、様々な事を学ぶ内に身に付いたのかは判らないが、少なくともその所作が好意的にとられるのは間違いない。

 自身の所作に合わせる様に、服装もキッチリしている。

 緑を基調としたその服は、涼の世界では「唐装」と呼ばれる服の一種であり、その名から唐の時代の服と連想されるが、一説には清末の服装とも言われており、更に広義では単に中国の服、つまりはチャイナ服と呼ばれる事も多い。

 とは言え、今彼女が着ている服は日本人がイメージする一般的なチャイナ服、つまりは胸元が空いていたり深いスリットがある物では無く、子供が着ている様な露出が無い服であり、昔流行った映画、何とか道士のヒロインが着ていた服をイメージすれば良いだろう。

 異世界とはいえ、後漢末の時代に唐代や清末の服が何故あるのかという疑問が出て来るが、この世界ではそうした事は些末な事だろう。何せ、本来なら未だ火薬が貴重な時代なのに花火が普通に打ち上げられているのだから。

 また話が逸れてきたので、元に戻そう。

 彼女の服は前述の通り緑を基調としているが、袖や襟の部分は深紅となっている。また、下の部分には鴬の絵が幾つか刺繍されている。

 唐装の特性上、靴は服に隠れていて見えないが、恐らく唐装に合う靴を履いていると考えられる。

 既に触れたが、正史の蒋欽は呂蒙と共に勉学に励み、孫権に賛嘆された程の努力家である。周泰だけでなく何気に呂蒙とも縁があり、二人が亡くなった時期も近い。ともすれば蒋欽も呂蒙同様にあの「呪い」によって亡くなったと言えるかも知れない。

 涼はそうした事を知っている為に少し気になったが、この場でそれを言っても仕方ないので、明命達と同じ様に普通に接した。

 また、涼は先程、美怜が明命と共に自分達に接してきた為に二人を一纏めにして意識しており、活発そうな明命と冷静そうな美怜をコンビとして認識している。

 実はその認識は間違っておらず、孫軍では若手であるこの二人はよく二人一組で行動している。尤もそれは、若手の育成に時間をかけずに済むという理由もあるのだが。

 そうして美玲との挨拶が終わると、順番通りというか凌統が口を開いた。

 

「自分の名前は凌統、字は公績(こうせき)、真名は莉秋(りしゅう)。先の二人同様、宜しく頼みます。」

 

 鋭い眼つきとは違い、丁寧かつ温和な声で自己紹介をする凌統こと莉秋。何故か雪蓮を始めとした数人が笑いを堪えている。

 莉秋はその反応を見て僅かに顔を赤らめ、コホンと咳払いをした。その際、笑っていない甘寧をひと睨みしたのは何故だろう。因みにその甘寧は意に介していない様だ。

 

(この世界でも甘寧と凌統は仲が悪いのかな。)

 

 二人の様子を見た涼はそう思った。

 涼の世界の正史では、甘寧と凌統は不仲であったと伝えられている。

 それは、甘寧がかつて江夏(こうか)太守(たいしゅ)だった黄祖(こうそ)の部下だった事に由来している。黄祖はとある事情から孫家にとって憎んでも憎みきれない敵であり、結果として孫権に敗れ戦死している。

 或る時、孫権率いる孫軍と黄祖が戦った時、部下である甘寧も孫軍に対して戦った。

 黄祖は敗れて敗走し、その殿を甘寧が務めた。当然ながら追撃があったが、甘寧はよく戦い、追撃隊の将を討ち取るといった活躍を見せた。その将の名は凌操(りょうそう)といい、凌統の父である。

 つまり、凌統にとって甘寧は父親の仇であり、可能なら討ち取りたいと思うのは当然だった。事実、何度か二人は一触即発の状態となっており、孫権や呂蒙といった周りの人々の制止がなければ先ず間違いなく殺し合いになっていただろう。

 尚、演義においても両者は仲が悪いが、とある戦いを切欠に和解するというエピソードがある。正史にはその記述が無いので、演義の創作とされている。

 ここで凌統こと莉秋の外見について述べよう。

 胸は余り大きくなく、服は青を基調とした袖無しミニスカワンピースの様な服で、スカート部分は薄水色。両手首と足首には緑色の布をリストバンドや靴下の様に巻いており、靴は明命の様なサンダルタイプで色は黄色。

 揚州人特有なのかは判らないが彼女も褐色の肌である。茶色の髪は肩より少し下迄の長さで、瞳は金色。小顔な童顔だが、鼻が高いからか少し大人びた雰囲気もある。

 先程の自己紹介を聞く限り、莉秋は大人しく真面目という印象を涼達は受けた。だが、その際に雪蓮達が笑いを堪えていたのも気になっている。

 公式な会談は既に終わり、今は歓談をしている面々だが、自己紹介という真面目な場面で苦笑される事は普通は無いだろう。

 その理由を訊くべきか涼は一瞬迷ったが、訊く事で莉秋が困るんじゃないかと思い、止めた。

 続いて自己紹介は陸遜の番となった。

 

「わたしの名前は陸遜、字は伯言(はくげん)、真名は(のん)と申します~。宜しくお願いしますね、御遣い様~。」

 

 陸遜こと穏はにこやかに微笑みながら、間延びした口調でそう言った。

 彼女はこの場に居る孫軍諸将の中では珍しく、白い肌の持ち主である。珍しいといえば、彼女の衣服は布の面積が大きく、温暖な揚州の気候からすれば暑くないのかと思う程だ。

 尤も、その分という訳では無いだろうが、胸元は大きく開いている。その為、彼女の大き過ぎる胸が露わとなっている。

 何度も触れているが、孫軍は平均的に大きな胸の持ち主が多い。穏はその中でも特に大きく、また、若いという事もあって張り艶があり、若い涼にとって抗い難い光景と言えた。

 

(この土地で採れる作物には、巨乳になる成分でもあるのか?)

 

 と、思ってしまったくらいに内心では動揺し、平静に努めようとした程である。

 なお、当然ながらその様な成分は無いし、巨乳じゃない者も居る。

 穏の外見について更に補足しよう。

 先ず、彼女の髪は緑色である。

 涼の世界では緑色の髪は染めなければ見る事は出来ないが、この世界では普通にあるらしい。まあ、他にも色々な色の髪を持つ人が居るのだから、余り大した事では無いのだろう。

 その緑色の髪は、左右にふんわりと広がっており、何らかの整髪料で固めているのか、重力を無視した髪型になっている。頭には黄色い長方形の冠の様な物を乗せているが、官位を示すのかファッションかは判らない。

 目が悪いらしく眼鏡をかけているが、そのサイズはとても小さく、鼻にちょこんと乗せているだけであり、果たしてちゃんと見えるのか疑問だが、わざわざ伊達眼鏡をかけているとも考え難いので、恐らく見えているのだろう。因みに瞳は紺色だ。

 服や袖は朱色であり、前述の通り布面積が大きい。尤も、その大部分は長く大きな袖になるのだが。

 そして、これも前述の通り、胸元は大きく開いている。序でに言えばおへそも見えている。そうした所を見ると、結局は薄着になっていると言える。

 足にはニーソックスの様なものを穿いており、それは内側から外に向かって上がっているデザインで、お陰で内太腿が綺麗に見える。勿論、涼がまじまじと見る訳は無いが。

 そんな風に魅力的な外見を持つ少女ではあるが、彼女も「三国志」に名を残す名将と同じ名というのを忘れてはいけない。

 

(口調はのんびりしてるけど、仮にも陸遜の名を持ってるんだからきっと優秀なんだろうな。)

 

 それを忘れていなかった涼は、穏を見ながらそう思った。

 陸遜は、正史では「呉郡の四姓」と呼ばれる有力豪族の一つ、陸家の一員と記されており、孫権に仕えて孫呉の重臣としてその実力を発揮している。

 だが、演義では何故か初め無名の将として登場し、最初はその才能を疑われている。また、周瑜の様に美男子という記述があり、一部の創作作品を除き、後の時代に作られた三国志の作品では美形に描かれている。

 それに関連しているのかは判らないが、目の前に居る「陸遜」こと「穏」は美少女である。しかも巨乳である。

 

(……うん。気をつけよう、色々と)

 

 涼は正史での陸遜の活躍が、結果として劉備達に大きな影響を与えた事を思いつつ、同時に穏という少女の別の要素についても注意をする事を心に決めた。

 続いて、後列最後の人物の自己紹介に移った。

 

「私の名は甘寧、字は興覇、真名は思春(ししゅん)。君命によって真名を預ける。」

「こちらこそ宜しく。」

「……宜しくするかは、これからの貴様次第だがな。」

 

 甘寧こと思春は静かに目をとじると、冷たく言った。

 どうやら思春はクールな性格なんだな、と、涼は思いつつ、今迄と同じ様にそれとなく観察する。

 彼女の髪は黒っぽい紺色で長い。明命程では無いが、結構長い。その髪を頭の後ろで布を巻いて纏めているらしく、白い布で髪を包み込み、紅い紐で結んでいる。

 服装は赤いチャイナ服の服の部分に白い長袖を足した様な服。上半身の露出度は他の呉将と比べて高くは無いが、下半身は靴下代わりに布で巻かれた部分と靴以外は何も穿いていない様に見えるので、逆に高くなっている。

 因みに、下着代わりに褌をしているので、角度によっては丸見えだ。

 他には、手首を中心にして腕にも布を巻いており、手は黒い指貫き手袋。首には黒いマフラーの様な厚手の布を首に巻いている。

 

「……他に何かあるのか?」

 

 観察しているのがバレたのか、涼をギロリと睨む思春。それに対して涼は苦笑するしか出来ない。約二年、戦乱の世を生きて来たとはいえ、元の世界では普通の高校生だった少年には、呉を代表する武将と同じ名前を持つ少女に抗う術は無いに等しい。

 思春が涼を睨んだ事で若干場の空気が悪くなったが、孫権が思春を窘めた事と涼が気にしていない事等で大事にはならなかった。

 残るは孫家の四人だが、先程自己紹介をした小蓮と、以前から真名を預けている雪蓮は簡単な自己紹介をするに留まった。

 続いて名乗ったのは、孫家の家長であり孫軍の総大将である孫堅だった。涼は姉妹の中で唯一自己紹介をしていない孫権の番かと思っていたが、その予想は外れた。また、孫権自身も自分の番と思っていたらしく、先に孫堅が自己紹介をすると言った時は驚いていた。

 

「私の名は孫堅、字は文台、真名は海蓮。改めて宜しくしますね、婿殿。」

 

 孫堅こと海連は、両腕と両足を組みながらそう名乗った。

 雪蓮と似た様な服裝である海連は、年齢を感じさせない若々しさと妖艶さを持ち併せており、その仕草に涼も一瞬ドキリとした程である。

 その瞬間、複数の鋭い視線を感じたのはまた別の事だが。

 一方、最後に自己紹介をする事になった孫権こと蓮華は、少なからず緊張していた。

 彼女と涼は今回が初対面では無い。十常侍誅殺の時に会ってはいるが、前述の通り涼達が長く洛陽に滞在しなかった事もあって、それ程の交流は無かった。

 「天の御遣い」という胡散臭い肩書きを持つ、自分と然程変わらぬ年齢の少年に対し、元来真面目な彼女は警戒の色を隠さなかった。

 そうした感情には、姉である雪蓮が涼を評価しているのが、信じられなかったというのもある。彼女にとって雪蓮は母・海蓮と共に目標としている人物であり、その姉が傍目からは頼りにならなそうな優男を評価し、果ては婚約するという事が、孫家の為と頭では理解出来ても納得は出来ないのである。

 とは言え、既に同盟は結ばれ、涼と雪蓮の縁談も纏まっている。ひょっとしたらその縁談によって自分も結婚させられるかも知れないという状態で、自分だけ自己紹介をしないというのは、下手をすれば同盟や縁談が白紙に戻ってしまうかも知れない。

 孫家の一員として、それは出来なかった。

 蓮華は孫権であり、正史での孫権は孫堅から「仲謀は只者では無い、貴人の相をしている」と言われ、孫策からは「才能ある者を用い、江東を保っていくことについては、私はお前に及ばない」と評された人物である。

 この世界の孫権である蓮華もまた、その才能を持っていると思われ、実際に三姉妹の中では一番の良識持ちである。

 まあ、姉や妹が豪快過ぎるとも言えるが。

 彼女は孫家の事を思い、自身の不安や戸惑い、苛立ちをグッと抑えて心を整理し、表情を出来るだけ柔らかくした。

 それでも若干固かったのは、真面目な彼女の愛嬌と言えるだろう。

 

「……私の名は孫権、字は仲謀、真名は蓮華。雪蓮姉様や妹の小蓮共々、宜しく頼むわね。」

 

 そう言った蓮華の表情は前述の通り若干固く、彼女が彼女なりに作り出した笑顔は誰から見ても無理してると判るものの、元来が整った顔立ちの為とても美しく、同年代の涼が暫しの間思わず見とれてしまう程である。

 隣に居る霧雨がコホン、と咳払いをしたので涼は我に返り、無事に蓮華との挨拶を終えた。

 こうしてこの場に居る孫軍全ての自己紹介が終わると、そのまま雑談へと移っていった。

 その内容は、互いの近況や統治している州での政治経済といった、プライベートな話からシリアスな話迄多岐に渡る。

 その際に、当然の様に色恋の話もあり、雪蓮だけでなく小蓮迄もが涼を誘惑しようとし、蓮華がそれに過剰反応を示すなど色々あった。

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