真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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黄巾党の残党が居るのは青州だけではない。
解ってはいたが、その事実に涼はどう向き合うのか。

そして、仲間との再会、新たな人物との出会いはこの世界に何をもたらすのか。


2013年9月25日更新開始。
2014年2月5日最終更新。

2017年6月10日掲載(ハーメルン)


第十五章 再会と決意・1

 揚州(ようしゅう)建業(けんぎょう)での会談により、徐揚同盟(じょよう・どうめい)、またの名を清孫同盟(せいそん・どうめい)は無事締結され、(りょう)は肩の荷が一つ降りた気がしていた。

 (もっと)も、その同盟締結の為にきったカードの代償について、帰ったら色々言われるだろうなあと、少なからず不安になっていたりもするのだが。

 それは兎も角として、涼に課せられた二つの同盟締結という使命の内の一つが成せたのは確かであり、このまま曹軍(そう・ぐん)との同盟も無事結べたら良いなと思っている様だ。

 現在、涼達徐州(じょしゅう)軍の外交部隊約三千五百は、曹操(そうそう)こと華琳(かりん)が居る兗州(えんしゅう)陳留(ちんりゅう)を目指して進軍していた。

 そのルートは建業から長江(ちょうこう)(揚子江(ようすこう))を渡って豫州(よしゅう)合肥(がっぴ)寿春(じゅしゅん)を通り、そこからまた船に乗って北西の(ちん)に到り、そこから更に北上して陽夏(ようか)扶楽(ふらく)を抜けて兗州・扶溝(ふこう)に、そして北北東に在る雍丘(ようきゅう)、最後に北北西に進んで(ようや)く陳留へと到る。

 この部隊の総数は当初は約四千だった。

 居なくなった約五百の兵は、先日締結した孫軍との同盟文書を徐州に逸早(いちはや)く届ける為に、簡雍(かんよう)こと(しずく)と共に徐州への帰還の途についている。

 孫軍との同盟締結が徐州に伝われば、少なくとも南方へ注意を向ける必要は無くなる。

 主力がごっそり居なくなっている今の徐州を狙う輩が居ないとは限らない以上、戦力の分散は出来るだけ避けたい。その為に少しでも早く同盟の成否を伝え、防備を整えなくてはならないのだ。

 そうした理由から部隊を再編した涼達は、既に建業を経ってから十日が経過しており、今朝早くには雍丘を経っている。どんなに遅くとも明日には陳留に着くだろう。

 現在、部隊は小さな山間を進んでおり、間もなく平原に出るという位置に居る。

 

「このまま何事も無ければ、いよいよ明日は曹操殿との会談です。……清宮(きよみや)様、お覚悟を。」

 

 行軍中の馬上で隣に居る涼に対してそう言ったのは、孫乾(そんかん)こと霧雨(きりゅう)。雫が居なくなったので、この外交部隊の文官は彼女一人だけである。

 

「お、脅かすなよ。」

「脅かしてなどいませんよ。曹操殿は、雪蓮(しぇれん)殿達と比べれば清宮様とそれ程友好的ではありませんから。」

「そうかなあ? 黄巾党(こうきんとう)の乱や十常侍(じゅうじょうじ)誅殺(ちゅうさつ)で一緒に戦ったし、そんなに変わらない気がするけど。」

「……それはそうかも知れませんが、婚約する程仲は宜しいですか?」

「た、確かにそこ迄じゃ無いけど。」

 

 ニヤニヤしながら霧雨がそう言うと、涼はたじろぎながら答え、それを見た霧雨は更にニヤニヤした。

 雪蓮とは宛城(えんじょう)での一件以来、何かと好意を持たれ、遂には先日正式に婚約した程の仲だが、華琳とはそうした仲になっていない。

 かといって仲が悪い訳では決して無く、良いか悪いで言えば間違いなく良い。

 そんな両者との関係の差を考えると、長い時間を共に過ごしたかどうかの差でしか無いと推察出来る。

 例えば、両者と共に戦った事がある黄巾党の乱の時は、雪蓮とは数ヶ月間を共に過ごしたが、華琳とは戦後を合わせても数日しか一緒ではなかった。

 当然ながら、たった数日で親密な仲になるのは難しく、長い時間を共に過ごせば誰でも少なからず好意を持つのもまた当然であり、そうした事を考えると、やはり共に過ごした時間の差が両者との親密さの違いなのだろう。

 涼もまたそう結論付け、話を戻した。

 

「婚約する様な仲じゃなくても、普通に話せる仲だし問題無い気がするけど。」

「それもそうですが、曹軍も清宮様との婚約を同盟の条件にしてきたらどうするおつもりですか?」

「うっ……。」

 

 霧雨の指摘に涼は返す言葉を持たなかった。

 そう、可能性は低いがこの指摘は全く有り得ない話ではない。

 孫軍が雪蓮との婚約を暗に求めていたのは、孫家に天の御遣(みつか)いの血を入れるという事とその威光を手にしたいからである。

 黄巾党の乱、十常侍誅殺で活躍した「天の御遣い・清宮涼(きよみや・りょう)」の名は、この漢大陸の隅々に迄知れ渡っている。

 何せ、少帝(しょうてい)(劉弁(りゅうべん))の勅命(ちょくめい)を受けた涼達が徐州に本拠を移して以来、その徐州から遠く西方の涼州(りょうしゅう)、または南西の益州(えきしゅう)から使者がやってきて貢物や美辞麗句を並べ立てたり、はたまた涼に縁談を持ち込んだりと様々あった程だ。

 尤も、縁談に関しては雪里(しぇり)達が「清宮様は今は誰とも結婚する気が無い」とか、「既に席が埋まっている」とか言って断っている。

 (ちな)みにこの事は長く涼の耳に入る事は無かったが、涼がそうした事実を知ってからも縁談に関しては雪里達に任せている。

 そうした事情もあった為、先の雪蓮との婚約は涼が使えるカードとしては最大級のものだった。そう何回も使っていいカードではない。

 だがもし、華琳がそのカードをきる事を要求してきたら?

 涼はその問いに暫し考えこみ、苦笑しながら答えた。

 

「……そうなったらその時に考えるよ。」

 

 その答えに、霧雨はわざとらしく溜息を吐いて返す。

 丁度その時、山を下り終えて平原に出る所だった涼は霧雨に何か言おうとしたが、その涼の耳に鈴々(りんりん)の声が届いた。何やら驚いている様だ。

 声につられて鈴々を見て、次いで彼女が指差す方向を見ると、涼は瞬時にその表情を険しくした。

 前方約十里(古代中国の一里は約四百メートル)先に在る小さな集落から、黒い煙が上がっているのが見えた。しかもその数や大きさは尋常ではない。

 涼は思わず息を飲んでから、隣に居る霧雨に問いかける。

 

「霧雨、あれって……!」

「……十中八九、賊の襲撃を受けていますね。しかもこの煙の大きさから察するに、ひょっとしたら既に……。」

 

 霧雨は最後まで口にしなかったが、彼女が何を言いたいのかは言わなくても解った。

 だから涼は直ぐ様、鈴々に対して適切と思われる指示を出す。

 

「鈴々、部隊を率いてあの集落に向かってくれ! 俺達も直ぐに行くから!」

「わかったのだ! 張飛(ちょうひ)隊のみんな、悪いやつをやっつけに行くから、全速力でついてきて‼」

 

 鈴々がそう叫ぶと、張飛隊の兵士達は気合が入った声で返事をし、既に駈け出している鈴々を追って馬を走らせていった。

 涼はその様子を見ながら部隊を整え、指示を飛ばし、部隊と共に集落へ向けて駆けて行った。霧雨の孫乾隊は輜重(しちょう)隊も兼ねている為、それ以外の兵を集めてから集落へと向かった。

 集落に近付くにつれ、被害の大きさが目の当たりとなってきた。

 既に触れたが、古代中国の街は基本的に城塞都市である。

 それはどんな小さな集落でもそうであり、そうでない集落は少ない。これは、外敵から生命、財産を守る為の方法として導き出された答えであり、広大な土地を持ち、隣町迄の距離が長い古代中国ならではの知恵である。

 眼前に迫った集落もやはり城塞都市の様だが、出入り口となる門は無残な姿を露呈し、その近くには門番らしき男性の死体が二つ転がっていた。

 涼はその二つの遺体に哀悼の意を表しながら、集落の中へ駆けて行った。

 そこには破壊と死しか無かった。

 建物は壊され、人は斬られて息をしておらず、炎は燃え盛り、人も物も焼き尽くさんばかりに広がっていた。

 凄惨な現場を目の当たりにし、吐き気を催す涼。この世界に来る前の涼ならば、間違いなく嘔吐するか失神しているだろう。

 幸か不幸か、今の涼はこうした場面に慣れている。吐き気はしても、実際に吐く事は殆ど無い。

 だからと言って、この惨状を見て何とも思わない程感情が無い訳では当然ない。

 涼は腰に提げている二振りの刀の内、青い(つば)の「蒼穹(そうきゅう)」を抜刀し、自分の部隊に向かって号令を発した。

 

「あの声を聞く限り、張飛隊は右側に展開している。なら俺達は左側に居ると思われる要救助者の捜索、そして賊の掃討をする。……全員、気を抜かずに進め‼」

 

 清宮隊は「応!」と応え、集落の左側に向かった。

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