真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十五章 再会と決意・2

 その集落の左側の最奥に在る建物の中に、数十名の村人が隠れていた。

 (ほとん)どが女、子供や老人であり、若い男性は数える程しか居ない。その男性達も、体の何処かに傷を負っており、健康な者は一人も居なかった。

 そんな集団の中で、数人の少女が武装していた。どうやら、ここに居る人々の護衛をしている様だ。

 その中の一人、銀髪の少女の(もと)に、栗色の髪を右側でサイドテールっぽい三つ編みにしている少女がやってきた。

 

沙和(さわ)、怪我をした人達の様子はどうだ?」

「殆どの人は命に別状は無いけど、一人だけ早くちゃんとした治療をしないと危ない人が居るの。」

 

 「沙和」と呼ばれた三つ編みの少女は、そう言うとちらりと後ろを振り返り、奥に寝かされている兵士らしき男性に目をやる。

 銀髪の少女もそちらを見て、険しい表情を更に険しくした。

 視線の先に居る男性は、頬や腹部から出血しており、傷口を覆う包帯は真っ赤に染まっている。

 頬の出血は兎も角、腹部の出血は早めに治療しなければ死に至る。この世界は外科治療が未発達であり、医師であってもそれがきちんと出来る者は数少ない。

 そもそも、この時代において医師というのは社会的地位が低い。それが医師の少なさと優れた医師が少ない事に関係している。

 だが、今そんな事を言っても医師が増える訳では無く、現実に出来る事をするしかない。

 

「沙和、兎に角止血を最優先でやってくれ。このままでは失血死してしまう。」

「それは解っているけど、傷口が深いから縫わないと止血出来ないと思うの。」

「沙和は縫えるか?」

「そんなの無理に決まってるの。(なぎ)ちゃんは?」

「私も出来ない。仮にやってみても、素人の自分がやっては、却って悪化させてしまうかも知れない。……どれくらい保ちそうだ?」

「このままじゃ、多分一刻くらいだと思うの。」

「一刻か……。この村の医師が生きていれば……。」

「……けど、そんな事を言っても仕方ないの。」

「……そうだな。」

 

 沙和から「凪」と呼ばれた銀髪の少女は、沈痛の表情をしながらそう呟いた。

 賊がこの村に侵入してから、既に沢山の人が殺された。男女も老若も職業も関係なく殺され、その中には医師も居た。

 小さなこの村には医師が一人しか居らず、だが小さいからこそ一人だけで充分だった。

 しかし今は、医師が一人しか居なかった為に、救えるかも知れない命が救えないかも知れないという状況に陥っている。

 どうすれば良いのか悩む凪達の許に、部屋の奥から一人の小さな少女がやってきた。

 その少女は腰は疎か膝近く迄あるウェーブ状の金髪を靡かせ、何故か頭に小さな人形らしき物を乗せていた。

 

文謙(ぶんけん)ちゃん、少し冷静になった方が良いのですよ~。」

仲徳(ちゅうとく)殿。しかし、このままでは……。」

「あの声が聞こえませんか?」

「あの声?」

 

 凪が「仲徳」と呼んだ少女からそう言われ、「文謙」こと凪と沙和は耳を澄ました。

 相変わらず戦闘は起きているが、さっき迄とは何かが違っていた。

 

「……賊が混乱している?」

真桜(まおう)ちゃん達が上手くやったのかな?」

 

 沙和がそう言うと、凪は一瞬納得しかけたが、現実的に考えてそれは恐らく難しいだろうと結論付けた。

 因みに沙和が口にした「真桜ちゃん」とは、二人の仲間の事である。

 

「それもあるでしょうが、どうやら援軍が来たみたいですねえ。」

「援軍、ですか?」

「それって、陳留から曹操様の軍が来たって事なのかな?」

「かも知れないな。…………仲徳殿。」

「何でしょうか~?」

 

 凪は表情を引き締めて仲徳に向き直り、言葉を紡いだ。

 

「ここは“お二人”にお任せしても宜しいでしょうか?」

「構いませんよ~。うって出るんですね?」

「はい。誰かは判りませんが、賊が混乱しているのならば、この機を逃す事はありません。」

「体力は戻りましたか?」

「七割程は。これならまた戦えます。……沙和はどうだ?」

「沙和は六割くらいなの~。けど、真桜ちゃんもそろそろ限界だろうから、弱音吐いてなんていられないのっ。」

 

 沙和はそう言うと、腰に有る二つの鞘から剣を二振り抜いて両手に構え、心身共に戦闘態勢に入る。どうやら彼女は双剣使いの様だ。

 一方の凪は、武器らしい武器は何も持っていない。胸当てや手甲等は身に着けているが、剣を収める鞘も、矢を撃つ為の弓も無い。どうやって戦うのだろうか。

 先程の会話から察するに、武装している二人がこの建物に居る理由は、避難民を守る為と、先程迄戦闘に参加していたので、その疲労回復の為に休んでいたという事だろう。

 その二人がこの建物を出るという事は、ここを守る人が居なくなるという事であり、凪の確認はそれでも良いかという意味でもある。

 

「大丈夫ですよ、少しくらいなら持ち堪えられます。」

 

 そう言ったのは仲徳ではなく、部屋の奥、つまりは先程仲徳が出て来た場所と同じ所からやって来た少女だった。

 

戯志才(ぎ・しさい)殿。」

 

 凪はその少女を見ながら「戯志才」と呼んだ。

 戯志才は仲徳より背が高く、スタイルもそれなりに良い。近視なのか眼鏡を掛けており、その所為かどこか知的に見える。茶色の髪は比較的短く見えるが、後ろで編み込んでいる部分があるので意外と長いかも知れない。

 戯志才はそのまま仲徳の隣に立つ。お陰で二人の身長差、スタイルの違いがよく解るが、勿論今はそんな事は重要ではない。

 

「しかし、貴女方は軍師(ぐんし)志望の筈。戦闘に関しては本当に大丈夫なのですか?」

「ご心配なく。(せい)殿……子龍(しりゅう)殿と別れてからここ迄は(ふう)と二人で旅を続けてきたのです。身の守り方は幾つかありますよ。」

「そうまで仰られるのなら……。」

 

 凪はそれ以上言わずに沙和と共に出入り口へと向かう。

 

「私達が出たら直ぐに扉を閉めて下さい。あと、真桜が戻って来たらお願いします。」

「解りました。……ご武運を。」

 

 戯志才の言葉に頷いて応える凪と沙和。

 それから一拍程間が空いてから、ほぼ同時に二人は飛び出し、戦いへと戻っていった。

 二人が瓦礫の向こうに消えて行ったのを確認してから、戯志才は扉を閉め、念の為に支え棒を立て掛けた。例え賊がやってきても、これで少しは時間を稼げる筈だ。

 

(りん)ちゃんは嘘を吐くのが上手いですねえ。」

「いきなり何よ。」

 

 仲徳に「稟ちゃん」と呼ばれた戯志才は、先程「風」と呼んだ仲徳を見下ろしながら応えた。

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