真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十五章 再会と決意・3

「風達が戦えるなんて言うからですよ。剣すら握った事が無いのに。」

「……ああでも言わなければ、あの二人は中途半端な気持ちのまま戦場に行かなければなりませんでした。それでは、賊相手でも不覚をとってしまうかも知れません。」

「それはそうなんですけどねえ。もし、その賊さんがこちらに来たらどうするんです?」

「建物を利用して、援軍が来るまで上手く守ります。……火を使われたらどうしようもありませんが。」

「随分と運頼みの軍師志望さんですねえ。」

「軍師を志す者として、こんな策しか使えないのは情けないと思っているわよ。けど、今の状況で他に何か策があるの?」

「無いですねえ。人員も籠城する場所も問題ありありですから。」

「なら文句言わないで。……それより風、貴女は援軍が誰か判る?」

 

 稟は表情を引き締めながらそう訊ねた。

 一方の風は変わらずにのんびりした口調で答える。

 

「先ず、曹操軍では無いでしょうね。こちらが送った救援の使者は今陳留に着いた頃でしょうし。」

「運良くこの近くに来ていた、なんて事が無い限りはそうでしょうね。」

「なら、考えられるのは……思いつきませんねえ。」

 

 風はそう言うと小首を傾げる。何故か頭上の人形も同じ様なポーズをとっている。(しば)し考えを巡らせるが、やはり答えは出てこない。

 だが、不意に妙案が浮かんだのか両手をポンと叩き、近くの窓へと向かった。

 

「ちょっと外を見てみましょうか。」

「風!?」

 

 稟は驚いて止めようとする。ここの窓は中が見えない様に板等で塞いでいる。だが、一足早く風はその板を取って外を見た。

 

「……成程、そういう事でしたか。」

 

 風は外を見ると瞬時に現状を理解し、自然と笑みを浮かべていた。

 稟はそんな風を訝しげに見ていたが、風に手招きされて窓の外を見ると、彼女も風が笑った理由が解った。

 

「あれは“清宮”の旗……援軍の正体は徐州軍でしたか。」

「その様ですねえ。……おや、あれに見えるはお兄さんじゃないですか。」

「……相変わらず、総大将自ら前線に立っているのですね。」

「十常侍誅殺でもそうだった様ですし、意外とお兄さんは武将に向いているのかも知れませんねえ。」

()項羽(こうう)みたいな事をしなくても良いでしょうに……。」

 

 楽しげに見る風と違い、稟は溜息混じりに外を見ている。

 稟が発した「楚の項羽」とは、この時代から約四百年程昔に活躍した武将の事であり、「反秦戦争(はんしん・せんそう)」では後に漢王朝の初代皇帝となる劉邦(りゅうほう)と共に(しん)を倒し、その劉邦と天下を争った「楚漢戦争(そかん・せんそう)」では約五年もの間戦い続けた楚の覇王である。

 この時代は総大将自ら前線で戦う事が基本であり、項羽もその様に戦った。それでも稟が項羽を例えに出したのは、項羽の武力が桁外れだったからであり、総大将の一騎駆けの代名詞に使われているからである。

 

「まあ、お兄さんの性格を考えたらこうなるのは当然だとは思いますけどね。」

「確かに。」

 

 風の一言に稟も同調し、クスリと笑った。

 ほんの僅かな期間ではあるが、二人は涼と行動を共にした事がある。その時に互いに自己紹介をし、その人となりを知った。

 「天の御遣い」という胡散臭い肩書きを持つ者だから、当初は二人もそれなりに警戒していたのだが、実際に会って話してみると何のことはない、普通の少年だった。

 数日を共に過ごした後、二人は涼達と別れ、それ迄と同じ様に子龍こと趙雲(ちょううん)と共に旅を再開した。その趙雲とも豫州で別れ、以後は二人で旅を続け、ここ兗州に辿り着いた。

 そろそろ旅を終え、主を見つけてその人の為に自分達の力を振るいたい。そう思ってここ迄来た矢先、賊の襲撃に巻き込まれた。

 幸い、それなりに戦える人が何人か居た為、被害を最小限に抑えられている。

 それでも、賊の方が数が多い為、劣勢なのは変わらなかった。そこに現れたのが涼達徐州軍である。

 二人にとっては、いや、この村の人々にとってはこれ程頼もしいものはないだろう。事実、ここが正念場と判断した凪達は疲労が残る体を押して出撃している。

 

「これなら、何とかなりそうですね。」

「そうですねえ~。けど、気を抜いたらダメですよ、稟ちゃん。」

「解っているわよ。」

 

 相変わらずの間延びした口調と眠そうな表情で言う風に対し、稟は短く答えながら風を見た。

 

(見た目だと、貴女の方が気を抜いてる様に見えるわよ。)

 

 心中でそう苦笑しつつ、稟は視線を再び窓の外に向けた。見ると、以前は見なかった「孫」の旗を掲げる一団が涼に合流し、残敵の掃討に移っていた。

 

「“孫”……誰でしょうか? まさか揚州の孫家では無いでしょうし。」

「そうですけど、全く有り得ないという事もないでしょうねえ。何せ黄巾党の乱で共闘して以来、孫家はお兄さんと仲が良いという噂ですし。」

「……天の知識を得ようという所でしょうか。いえ、ひょっとしたらその血を……?」

「恐らくそうでしょうね。もしそうなったら、天の血筋と孫子の血筋が合わさりますねえ。」

「孫家のそれは自称でしょう。」

「それを言ったら、お兄さんのも自称なのです。」

 

 それもそうですね、と言いながら、稟は外の様子を注視する。

 涼は騎馬を巧みに操り、賊を一人、一人と斬り捨てていく。その近くには薄紅色の短髪を靡かせながら賊を倒す少女が居る。周りに居る兵士達とは格好が違うので、恐らく彼女が「孫」の旗を掲げる武将なのだろう。

 華奢な見かけと違い、その太刀筋は確かで鋭く、それを見た人は彼女が基本的には文官として働いているとは思いもしないだろう。

 

(……どうやら、あの孫家の人間ではない様ですね。)

 

 稟は少女の瞳を見てそう判断した。

 噂によると、孫家の人間は皆碧眼の持ち主だという。だが、今稟が見ている少女の瞳は碧眼には見えない。

 遠くだからハッキリとは判断できないが、それでも青系の色では無いのは判った。

 その見当は当たっている。その少女――孫乾こと霧雨の瞳の色は栗色である。

 因みに霧雨は、名前が似ているのでよく親類と間違われるが、瞳の色が違う事で揚州の孫家とは関係が無い事を証明してきたという逸話があるのだが、当然ながら稟達はその事を知らない。

 

「おや、いつの間にか文謙ちゃん達もお兄さんと共闘してますねえ。」

 

 風の声が聞こえた稟は、視線を霧雨から涼へと戻す。

 すると確かに、先程出て行った凪達が涼達と連携して戦っているのが見えた。

 凪達と入れ替わりに出ていたもう一人の少女、沙和が「真桜」と呼んでいた少女も居る。見たところ、大きな怪我はしていない様だ。

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