真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十五章 再会と決意・6

 そこは少し拓けた場所だった。

 もう殆ど居ないと思われた賊が、ここには未だ数十人は居る。

 だが、対する徐州軍はその数倍の人数を擁し、鈴々こと張飛が兵を鼓舞しながら賊を斬り倒している。

 最早大勢は決している。それでも戦闘が続いているのは、賊達が降伏をしないという意思表示でもしたのだろう。幾ら賊相手とはいえ、無用な戦闘は禁じている為、この状況で戦闘が続いているのはそれしか考えられない。

 涼は左右を見回し、先程の声の主を探した。

 簡単に見つかった。何故なら、この場に居る少女は沙和と真桜を除けば、鈴々を含めて三人しか居なかったから。

 只、どちらが許緒で、どちらが典韋か迄は流石に判らなかったので沙和に訊いて確認した。

 一人は、桃色の髪を特徴的なツインテール、薄紅色のヘソ出しノースリーブ、といった格好で、背丈は鈴々と同じくらい。

 もう一人は緑色の髪の少女で、その前髪に大きなリボン、先程の少女と同じ様にヘソ出しノースリーブだが、ノースリーブは袖無しジャケットっぽいデザイン。下はローライズのスパッツといった格好。やはり背丈は鈴々と同じくらいだ。

 その二人はそれぞれ特徴的な武器を使っている。桃色の髪の少女はトゲが沢山付いている鉄球をけん玉の様に、緑色の髪の少女は紐が付いた太鼓みたいな物をヨーヨーの様にそれぞれ振り回して戦っている。

 小学生くらいの背丈の少女が、自分達の頭より大きな得物を楽々と振り回し、賊をバッタバッタとなぎ倒していくという光景は何ともシュールだが、この世界に来て一年以上になる涼にとっては極々ありふれた光景だった。

 

「鈴々が三人居るみたいだなあ。」

 

 この場に居るもう一人の少女である鈴々と同じ様に活躍する少女達を見て、涼は苦笑しながらそう呟いた。

 このまま見物していても戦闘は難なく終わりそうだったが、少しでも早く戦闘を終わらせる為に涼達も加勢する事にした。

 戦況を見た結果、余裕がある鈴々の部隊には沙和が、少し疲れている様に見える桃色の髪の子には真桜が、一番疲れている様に見える緑色の髪の子には涼がそれぞれ兵士達と共に向かった。

 鈴々の部隊には加勢は必要無かったかな、と思いながら、涼は緑色の髪の少女の(もと)へと駆ける。

 涼は先程、その少女を一番疲れている様だと判断したが、それでもバテバテという程疲れてはいない。単に三人の中で一番疲れている様に見えただけであり、その証拠に少女は今もまた一人、賊を倒した。

 まるで巨大なヨーヨーを振り回しているかの様に動く少女を見て、涼は不意にヨーヨーで遊びたくなった。昔、現代的なヨーヨーが流行っていた時に涼も少しばかり遊んでいたのだ。

 勿論、今は遊んでいる暇は無く、そもそも、ヨーヨーが無い為に遊ぶ事は出来ないのだが。

 涼は緑色の髪の少女に近付くと、警戒されない様に優しい声音で訊ねた。

 

「君が仲颯ちゃんだね?」

「……そうですが、貴方は?」

 

 緑色の髪の少女――仲颯は、前方に居る賊から一瞬だけ視線を向けながら訊ね返した。

 賊が一気に間合いを詰めようとしないのは、仲颯の武器を警戒しているからだろう。更に今は涼達も加わったのだから、彼等の警戒レベルは最大と言っていい筈だ。

 

「俺は清宮涼。徐州の州牧補佐をしている。」

「っ!? それでは、貴方は張飛さんの……し、失礼しましたっ‼」

「気にしなくて良いよ。それより今は、彼奴等をやっつける事に集中しよう。」

「は、はいっ!」

 

 涼が仲颯の隣に立ちながらそう言うと、仲颯は前を向いて武器を構え直し、大きな金色の瞳で賊を睨んだ。

 族にとってはこの時が降伏、若しくは逃走の最後のチャンスだったと言えるかも知れない。

 だが、賊はそのどちらも選ばず、戦う事を選んだ。自分達の目の前に居るのが、かつての黄巾党の乱で活躍した清宮涼であり、三国志演義では(いん)の時代の猛将の名をあだ名にされる程の豪傑、典韋だという事を知らなかったのが彼等の不幸だった。

 最初に動いたのは仲颯だった。

 手にしている武器を振り回し、敵を二人吹き飛ばす。

 敵が怯んだ所に涼が斬りこみ、一人を斬り倒す。

 残った敵は当然の様に涼を狙うが、そこに仲颯の援護攻撃が入ってまた一人倒し、涼は目の前に居る敵を斬り、返す刀でもう一人を斬り倒す。

 まるで何度も練習したかの様な連携攻撃により、みるみるうちに敵の数を減らしていく。勿論、二人が練習をしていた訳は無く、寧ろ初対面なのだが。

 それでここ迄連携がとれているのは、二人の才能の成せる技か、それとも運か。なんにせよ、たかが賊程度ではこの二人を止める事は出来ない。

 それに気付いた者はここにきて漸く逃げ出したが、時既に遅し。周りに散っていた兵士達に各個撃破されていき、それは涼が降伏するなら命はとらないと発する迄続いた。

 だが、中にはそれでも降伏しない者が居り、彼等はせめて一矢でも報いろうと攻めかかる。

 そんな賊の標的は仲颯だった。涼と比べれば子供に見える彼女に狙いを定めるのは間違っていないが、それでも相手が悪いとしか言い様が無いのもまた事実だった。

 一斉に仲颯に向かう賊達。

 それに気付いた涼は仲颯の援護に向かおうとするが、残った賊が前を塞ぎ先へ進めない。

 仕方無く賊を斬り倒すが、その分だけ仲颯に近付くのが遅れる。涼は少しだけ、焦った。

 だが、焦る必要は全く無かった。

 仲颯は落ち着いて得物を引き戻しながらバックステップで間合いをとると、得物を時計回りに力一杯に振り回す。仲颯に攻めかかろうとしていた賊の大半がこれをまともに喰らい、戦闘不能に陥った。

 それでも数人の賊が残ったが、仲颯にとっては僅かな時間を作れればそれで充分だった。

 何故なら、その時間だけで「味方」の動く時間には充分だったから。

 突如、仲颯に向かっていた賊の一人が、呻き声と共に倒れた。

 他の賊が振り返ると、そこには体中に返り血を浴びている涼が右手に刀を握ったまま立っていた。

 驚いた賊が涼の後ろを見ると、そこには涼に斬られた賊達が何人も倒れている。

 絶命した者、未だ息がある者の両方が居たが、生きている者も腕や足に深い傷を負っており、最早戦う事は難しいと思われる。

 涼の姿を見た賊達は、思わず後退りした。

 彼等は賊に落ちぶれてから今迄、弱者を斬り、その財を奪う事しかしてこなかった。

 今回この村に来たのも小さくて襲い易いと思ったからで、事実そうだった。

 彼等にとっての誤算は、この村に許緒や典韋といった小さくとも強い少女が居た事、旅の終わりに立ち寄った軍師志望の戯志才と程立、出稼ぎに来ていた楽進と李典と于禁という三人の武将達。そして何より、三千を超す兵と共に徐州軍の将軍の張飛と文官の孫乾、「天の御遣い」こと清宮涼が現れたという、誤算というには余りにも大き過ぎる障害がある事を知らなかった事である。

 風の噂で知っていた「天の御遣い」という存在。どうせ眉唾物だと彼等は思っていた。

 もし本当にそんな存在が居るのなら、何故俺達は賊なんて身に落ちぶれているんだ、と自分達の境遇を嘆きながら嘲笑っていた。

 確かに、彼等の境遇には同情してしまう。

 漢王朝が十常侍を中心とした宦官達によって私物化され、政治が腐敗し、その為に民衆が虐げられていたのは事実であり、生きる為には賊にならなければならなかった者も居ただろう。

 だが、民衆の大半は賊になっていないのも事実であり、賊になる事の正当性は無い。

 時代が悪いからといって人を殺して良い訳ではなく、賊にならずに生活する方法は沢山ある。

 それでも賊になったのは個々人に様々な理由があるとは言え、結局は自身が選んだ事であり、今更責任転嫁してもそれは自分勝手過ぎる。

 だが、賊にはそれが解らない。解らないから結局は世の中が悪いと決めつけ、自分達のしてきた事を正当化する。

 間違いを認めず、正そうともしないから、彼等は再び人を襲い、物を奪い、罪を重ねていく。

 勿論、中には自分の罪を自覚し更生する者も居るが、そうした者は残念ながら少ない。殺人や強盗という重罪に対する刑が命をもって償うものが殆どなのも、更生者が少ない遠因だろう。

 賊は命を惜しむ。誰でも命は惜しいが、賊は他者の命を奪っているだけに余計に自身の命を惜しむのだ。

 そして、今、涼達の前に居る賊達も自分の命を惜しんでいる。そうでなければ心身を恐怖に囚われたりはしないだろう。

 彼等は、生きる為に目の前の障害にどう対処するか考えた。その結果、彼等は障害から逃げるのではなく、倒す事を選んだ。逃げても殺されるだけなら、その前に殺してやるという事なのだろう。

 だが、その判断は間違いだった。

 賊は、近くに居た仲颯に斬りかかった。先程の圧倒的な攻撃を見てもなお、彼女の方が倒し易いと判断したのか。

 勿論そんな筈はなく、その賊は仲颯によって倒された。また、残りの賊も仲颯や涼、兵士達によって討たれ、捕縛されていった。

 その頃には他の所でも賊の掃討が終わっており、戦いが終わった事に気付いた者は皆一様に安堵し、息を吐いていた。

 

「……どうやら、終わったみたいだな。」

「そう……みたいですね。」

 

 涼と仲颯は、周りを見ながら小さく呟いた。

 兵士達は倒した賊を一ヶ所に集め始めており、捕縛した賊に対しては別の場所に移して尋問の準備を始めていた。

 見れば、鈴々と沙和、仲康と真桜が近く迄戻って来ている。皆、顔や体に返り血を浴びているが、怪我らしい怪我はしていない様だ。

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