真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十五章 再会と決意・7

 それを見た涼と仲颯は計らずも同時にホッと息を吐いた。仲間や友が無事でいるのだから、その反応は当然だろう。

 鈴々達も涼達に気付くと手を挙げ、笑みを浮かべながら近付いてくる。涼達も顔を見合わせ、彼女達に近付こうとした。

 その時、涼達の後ろから微かに物音が聞こえた。が、丁度沙和の声が聞こえてきた為に涼達には聞こえなかった。

 それがいけなかった。物音の元は負傷していた黄巾党の賊だった。その男は一見して最早助からないであろうという程の深手を負っていたが、そんな見た目とは違ってその動きは素早かった。最後の力を振り絞ったのだろう。

 男は武器を振り上げ、大声を上げながら仲颯へと向かっていく。仲颯や涼、そして鈴々達は声に気付いて振り向く。

 仲颯は直ぐ様武器を持ち直し、迎撃態勢に移ろうとした。が、一度緊張から解き放たれた心身を再び戦闘状態にするというのは難しい。

 事実、仲颯が構えようとした時、彼女は自身の得物を落としてしまった。元々大きなヨーヨーの様な得物であり、小柄な彼女の得物にしては大き過ぎる。その為落としても不思議では無いが、そのタイミングが悪過ぎる。

 仲颯は慌てて得物を拾おうとするが、拾ってから応戦するには時間が足りなさ過ぎた。

 そこで、彼女は得物を拾わず回避行動を採る事にした。この判断は正しかった。

 何せ、相手は瀕死の重傷である。まともに動き続けられる筈が無く、ほぼ無傷の彼女なら簡単に逃げきれる。そして、その通りになった。

 男の最後の一撃は虚しく空を切った。そして次の瞬間、涼の一太刀によって致命傷を負った男はそのまま倒れ、二度と動く事は無かった。

 

「だ、大丈夫か、仲颯?」

 

 涼は剣を振って血を飛ばしてから納刀すると、そう言って彼女を見た。見たところ、怪我はしていない様だ。

 

「は、はい……ん……っ!」

「どうした?」

 

 涼に返事をしようとした仲颯の表情が一瞬歪んだ。

 

「……ちょっと、足を捻ったみたいです。さっきのはホントに咄嗟の事でしたから……。」

「ちょっと見せて。」

 

 そう言って涼はその場に仲颯を座らせ、痛めたという右足首を見た。腫れ上がってはいないが、触ってみると若干の熱を帯びている。痛めたというのは間違いないようだ。

 

「怪我したなら早く治療しないと。幸い、医者は何人か居るし、旅の医者も居るから直ぐ治せるよ。」

「そんな、大袈裟にしなくても大丈夫ですよ。」

「いや、捻挫を甘くみちゃダメだよ。悪化させたら日常生活に支障が出る。……また今日みたいな事があっても戦えないよ?」

「それは……困ります。ここは清宮様の言う通りにします。」

「それが良い。あと、様付けはしなくて良いよ。どうもそういった堅苦しいのは苦手でね。」

 

 そう言って涼は仲颯の体を抱き上げる。小柄な体躯らしく、とても軽い。それであの得物を使っているのだから、凄いなと涼は思った。

 

「あ、あの……そこ迄してもらわなくても大丈夫ですよ。」

「遠慮しなくて良いよ。さっきも言ったけど、捻挫は甘くみちゃいけないし。」

 

 涼はそう言いながら彼女を連れて行く。その格好は所謂「お姫様抱っこ」というもので、女性はある種の憧れを抱く様だが、実際にされると結構恥ずかしい。事実、今の仲颯は顔を真っ赤にしていた。

 尚、それを見ていた他の面々はというと、

 

「……サラッと凄い事をやっていくの。」

「流石は“天の御遣い”やな。」

「お兄ちゃんはあれが普通なのだ。」

 

と、沙和、真桜、鈴々の三人は。率直な感想を述べた。果たして会話が噛み合っているかは解らない。

 涼が仲颯を華佗の許に連れて行った時、既に手術は終わっていた。この短時間で重傷者の手術を終わらせ、止血その他の処理を完璧に終わらせているとは、流石は華佗と涼は思った。

 

「成程、捻挫か。ここ迄彼女を歩かせなかった清宮殿の判断は正しい。今診てみたが、これは意外と重症になったかも知れない。」

 

 手術終わりで疲れているかと思ったが、華佗は仲颯の診察をしてくれた。寧ろ、彼女が負傷したと知ると積極的に診てくれた。

 

「捻挫ってのは、簡単に言うと関節を損傷している事で、患部が炎症を起こしているんだ。この状態で無理をすれば、幾ら捻挫でも完治に時間がかかる。日常生活に戻りたいなら、無理はしない事をお勧めする。」

 

 真剣な表情で言う華佗の迫力に負けたのか、仲颯は彼の助言を素直に受け、安静にする事にした。適切な治療が行われた為、無理をしなければ悪化する事は無いだろう。

 それにしても、と思いながら涼は周りを見回した。

 文字通り野戦病院と化していたこの小屋には、今も負傷者が沢山居る。

 だが、その殆どは適切な治療を受けており、快方に向かっている。流石は三国志で名医と謳われた華佗と同じ名を持つだけはあると言う事か。

 涼は、仲颯と華佗にそれぞれ一言声をかけてから自分の仕事に戻った。

 比較的小規模とは言え、戦闘が行われたのだ。敵味方の死傷者数と、被害を受けた人々に対して何が出来るか、といった事を今直ぐに把握しておかねばならない。補佐とは言え、涼は徐州の重職に就いており、何よりも彼は「天の御遣い」という肩書きを持っており、ある意味今の皇帝である劉弁(りゅうべん)(少帝(しょうてい))よりも民衆に知られているかも知れない。

 小屋から少し離れた所で、霧雨が各部隊長からの報告を受けていた。涼が彼女達に近付くと霧雨達も涼に気付き、上官に対する仕草をして彼に向き直った。

 開口一番、霧雨が先程の戦闘の詳細を告げてきた。聞く前から答える所が、彼女の優秀さを表している。

 

「戦死者は出ていませんが、負傷者が数十名程出ています。ですが、華佗殿の治療のお陰でその者達も命に別状はありません。」

 

 涼は、戦死者が居ない事と負傷者も大事ない事を聞いて安堵した。

 まあ、普通に考えれば農民上がりの賊に正規兵が負ける訳は無いのだが。

 涼は各々に食料支援等の指示を出すと、周りを見渡した。

 賊が襲ってきただけあって、民家は壊され燃やされ、そこかしこから煙が上がっている。

 壁や地面には沢山の血の跡があり、壊れた武具の残骸が落ちている。

 負傷者の救助を優先している為、未だ遺体の回収は済んでいない。この集落の住人だった遺体も、賊の遺体もその無残な姿を晒していた。

 涼はその場を離れた。

 暫く行くと小さな川が流れていた。子供が水遊びをするには最適な、小さな川だが、ここでも戦闘が行われたらしく、辺りで血の跡が散見された。

 涼は黙って川の中に手を入れた。ゴシゴシと手を洗う。手に付いていた血が流れていき、いつもの手に戻ってからも、涼は手を洗い続けた。

 

「そんな事をしても、その汚れは落ちないわよ。」

 

 凛とした、懐かしい声が涼の耳に届く。

 声のした方を振り向くと、そこにはやはり見知った顔があった。以前と同じく、いや、以前よりも凛々しく、強く、美しくなっているその少女の名を、涼は口にする。

 

「そんな事は解っているよ、華琳。」

 

 それは強がりなのかも知れない、出任せなのかも知れない。

 だが、涼の瞳には確かな意志の光が灯っていた。

 その少女――華琳は、満足そうに微笑んだ。

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