真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十五章 再会と決意・10

 その後、凪達を別室に移してから華琳との会談が始まった。

 と言っても、大体の事は既に昨日の内に話し合っており、今回はその確認と少しの補足と調整、そして調印とスムーズに進み、比較的短時間で終わった。

 これで涼は外交遠征という役目を終えた事になる。だが、だからといって直ぐに帰る事は出来ない。

 先の戦いで負傷した者が居り、そうでなくても揚州から兗州への移動で皆の疲労が溜まっている。その回復の為、数日は滞在する必要がある。

 幸い、華琳がその為の援助をしてくれるというので涼はその言葉に甘える事にした。

 陳留に滞在中、宴会やら引き抜きやら色々あったが、基本的には親交を深める事が出来たと言って良いだろう。

 先の集落襲撃の際は余りゆっくり話せなかった稟と風の二人、凪、真桜、沙和の三人、仲康と仲颯の二人とも色々な事を話し、自然と真名を呼ぶ事も許された。

 その間も、彼女達はそれぞれ考えていた。勿論それは、華琳の誘いを受けるかどうかである。

 彼女達は皆、自分にそれなりの自信を持っているが、かといってあの曹操の許に居るのが当然と思う程自惚れてはいない。

 曹操は今現在でこそその勢力はまだまだ小規模だが、彼女自身が持つ独特の雰囲気、高貴な家柄、それでいてそれを鼻にかけない性格等から高い評価を受けており、少しずつだがその勢力は大きくなっている。

 その総大将自ら誘われたのだから、即答しても良いくらいだが、前述の通り即答は出来ない。尤も、お陰で考える時間が出来たとも言える。

 だがそれも、あと一日となった。涼達が約一週間の滞在を終え、明日の午前中に徐州へ戻る事が決まったのだ。

 そして今、涼達の送別会という名の宴会が行われている。

 華琳の屋敷で行われている為、余計なゴマすりや何かは無く、純粋に彼等の送別会となっている。

 まあ、華琳の引き抜きはあるのだが。

 

「しつこいのだ。鈴々はお兄ちゃんと桃香お姉ちゃんとずっと一緒なのだ。」

「それは残念ね。」

 

 今も鈴々を勧誘していた。それも、鈴々が好きそうな食べ物を山程持ってきて。

 鈴々はその食べ物の山を、ヨダレを垂らしながら見ていたが、華琳の誘いには断固として乗らなかった。

 華琳は言葉では残念がっていたが、この結果は想定内だったらしく、表情はそれ程残念がってはいない。その証拠というか、彼女は断られても食べ物を持って帰る事は無く、そのまま鈴々に渡した。

 流石は華琳様、という声が夏侯惇こと春蘭、荀彧こと桂花から聞こえてきたが、元々この宴会は涼達の送別会であり、そう考えれば当然の事であり大した事ではない。それに、華琳自身も断られたからといって、人にあげる筈だった食べ物を取り上げる様な狭量ではない。

 そんな光景を見ながら、涼は稟達と話していた。

 

「成程、今の青州はその様な状況なのですか。」

「お兄さんが自ら外交に来ているのも納得なのです。」

 

 尤も、その内容は至って真面目なものだが。

 文官として仕官するのが目標である稟と風は、この国の政治や経済、更には戦争について詳しく、興味がある。

 涼は彼女達と話すにあたって、機密以外は包み隠さず話した。機密でない事は、いくらこの世界でも遅かれ早かれ彼女達に伝わるので、隠さないのは当然と言える。

 

「まあね。けど、青州黄巾党との戦いが終われば、恐らく民衆蜂起は一先ず終わると見ているから、ここが踏ん張りどころなんだ。」

「確かに、先の戦いで張三姉妹が討たれて以降、黄巾党は鳴りを潜めていましたからね。青州黄巾党が、最後の抵抗と見て宜しいかと。」

「ですが、それだけに対応を誤ると被害が拡大してしまうかも知れないのです。果たして、十万の軍勢で数十万と言われる大軍に勝てるのでしょうか。」

 

 風はそう言って懸念を示すが、声のトーンや表情からは不安がっている様子は全く無い。

 だが、それも当然の事だろう。

 黄巾党は先の戦いで旗頭であった張三姉妹を失い、瓦解している。例え残党と言えども、最早、往時の勢いは無いと考えられ、どれだけ数を集めても烏合の衆では統制はとれず、正規兵である徐州軍の敵ではない。

 その例がこの国の歴史の中にある。「昆陽(こんよう)の戦い」と呼ばれる戦いがそれだ。

 約二百年前、当時は前漢(ぜんかん)が滅び「(しん)」の時代になっていた。

 だが、新が行った政策は当時においても遥か昔の王朝である「(しゅう)」に倣ったものであり、当然ながら時代にそぐわないものだった。現代日本で例えれば、平安時代の政策を平成時代にする様なもので、その不合理性がよく解るだろう。

 当然ながら民衆は反発し、各地で反乱が起こった。

 その反乱軍の中に、後に「光武帝」と呼ばれる事になる武将が居た。劉秀という名の、武将にしては小柄な人物だったという。

 その劉秀は高祖・劉邦の子孫と言われており、劉邦の様に人を惹き付け、劉邦とは違いとてつもなく武勇に優れ、皇帝になってからは政治もそつなくこなす完璧な人物である。

 その劉秀と新軍が昆陽で激突した。新軍は号数百万、それに対し、劉秀が所属していた更始軍(こうし・ぐん)は数千から一万五千という数。数の上では話にならないくらい差があった。新軍の実数は四十万という説もあるが、それでも戦力差はまだまだ開いている。

 だが、結果は更始軍の圧勝に終わっている。

 確かに新軍は大軍だった。数百人の兵法家全てを軍師とし、輜重隊の隊列は千里を越え、精鋭の兵士に猛獣使い迄居た。

 一方、更始軍はその大軍を見て戦意喪失していた。

 だがそれも無理は無い。百倍の戦力にどうやって立ち向かえるというのか。現代と違い、戦争は兵の数によってその勝敗がほぼ決まっていた時代である。

 だが、そんな中で劉秀は諦めてはいなかった。昆陽城を脱出し、その周辺に居た将兵を集め、昆陽に戻って決戦に望んだ。

 それでも、集まった数は数千。とても勝ち目は無い。それが普通だった。

 だが、劉秀はその勝ち目がない戦いで勝利を収めたのである。

 敵が寡兵と知って油断した新軍の大将、王邑(おうゆう)王尋(おうじん)はこの時、約一万の兵を送った。それだけで事足りると踏んだのだろう。だが、これが致命的な失敗だった。

 大軍故の油断で接敵に時間をかけた新軍に対し、劉秀達は電光石火の如く斬りかかり、瞬く間に千を超える敵を討った。そして、その後数度行われた戦闘でも同様に敵を討っていった。

 寡兵である筈の劉秀達の強さを大いに恐れた新軍には、いつの間にか厭戦気分が漂っていた。そこに、「劉縯(りゅうえん)(えん)を落とし、そのまま昆陽に向かっている」との報せが舞い込んできた。

 劉縯とは劉秀の兄で、更始軍の将の一人である。

 劉秀同様、彼も名の知れた武将である。寧ろ、当時は彼の方が武勇に優れていると認識されていただろう。

 その劉縯が昆陽に向かっているという。

 依然として大軍を擁している新軍だが、劉秀隊との戦闘は連戦連敗。その為に士気が大いに低下しており、新軍は混乱した。

 実はその報せは劉秀による偽報であり、劉秀は敵が混乱している間に別働隊約三千を率いて城を迂回し、それ迄とは違う方向から攻め始める。

 偽報によって混乱していた新軍はその別働隊を「劉縯の部隊」と勘違いし、大混乱に陥った。劉秀はその隙を突いて新軍総大将、王尋を討ち取る。

 昆陽城に立て籠もっていた更始軍はこうした敵の混乱、味方の活躍に気付き、王常(おうじょう)王鳳(おうほう)等が出撃。新軍を挟撃した。

 これだけでも新軍は甚大な被害を被ったが、更に悪天候による暴風雷雨で川が氾濫。また、連れて来ていた猛獣が逃げ出した為に混乱に拍車がかかり、新軍は潰走した。

 新軍の戦死者は数万にのぼった。百万の大軍の割には少ない戦死者だが、それは新軍に戦意が無く、皆敗走した為と考えられる。王邑が洛陽に戻った時、連れていた兵は数千だけだったという。

 この戦いに勝った劉秀の名は一躍有名になり、後に沢山の将がその名声を頼って劉秀の許に集い、漢王室を再興し、天下を統一するのである。

 この様に、数的不利であっても勝てない訳では無い。

 しかも、今の徐州軍は黄巾党の乱、十常侍誅殺といった戦いを潜り抜けてきた名将達の集まりである。余程の事が無い限り、負けはしない。

 

「大丈夫さ。」

 

 涼は只一言、そう言って風に答えた。

 風はそんな涼をジッと見詰める。

 彼女が涼と過ごした日々は、今回を合わせても二週間程である。当然ながらその様な短期間では人となりを知る事は難しい。

 その為、風は完全には涼の真意を計りかねていた。確かに、徐州軍が黄巾党に遅れをとる事は無いだろう。だが、それにしても、彼の安心の具合はとても少し前迄、戦争とは無縁の世界に生きていたとは思えない。

 風の疑問はそれだけではない。華琳が積極的に行っている引き抜きや勧誘を見て、焦らないのだろうか。

 引き抜かれないという絶対の自信があるのなら、この反応は当然だろう。だが、目の前で戦力補強が行われているのに、何も反応しないのは少々のんびりとしてはいないか。

 勿論、反応したからといって華琳に文句を言う事は出来ないし、仮にしても華琳がそれらの行為を止める筈は無い。

 そう考えれば、涼が何もしないのは普通だが、それでもこの危機感の無さには驚くばかりだろう。

 風と同じ事は、やはり文官志望の稟も思っていた。同時に、自分の目に自信を無くしかけた。

 彼女が涼と出会ったのは、風と同じく鉄門峡である。

 旅をしていた彼女達が、当時同行していた田豫(でんよ)こと時雨(しぐれ)、簡雍こと雫の要請もあって連合軍に合流する事になり、やはり当時同行していた趙雲こと星の助けも借りて、連合軍の進軍先である鉄門峡へと向かい、そこで出会った。

 彼女もまた、風と同じ期間しか涼と接していない。その為、彼女が持つ涼についての情報もほぼ同じである。

 情報が同じなら、推測や感想も似通ってしまう。結果として、彼女も風と似た疑問を持った。

 

(清宮殿は、曹操殿や噂に聞く孫策殿と同じ様に才能があると思っていましたが……私の見込み違いだったのでしょうか?)

 

 稟はそう思いつつ、涼の横顔を見る。

 外交という目的を達成したからだろうか、その表情には緊張というものが殆ど無く、皆と談笑し緩みきっている。見方を変えれば、美少女に囲まれて鼻の下を伸ばしているともとれる。

 果たして、自分は間違っているのか? その答えは、稟ですら簡単に見つけられそうにない。

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