真・恋姫†無双 ~天命之外史~   作:夢月葵

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第十六章 青州解放戦・前編・3

 だが、その考えに真っ向から反対する者が現れた。赤を基調とした礼服を身にまとった小柄なその少女は、乱雑に伸ばした金髪を流しながら、袁紹の許に進み出ると、一転して恭しく礼をしてから、その体のどこからそんな声が出るのかと思うくらいの声量で話し始めた。

 

「麗羽様! そんな献策に耳を傾ける必要はありません!」

 

 孔璋と元皓は途端に渋面を作ったが、話の腰を折る訳にもいかないので黙った。それを確認するかの様にチラリと二人を見てから、少女は話を続ける。

 

「袁本初ともあろうお方が、こんな俗物に言いくるめられるとは、何と情けない事か! これでは、袁家が当代で滅亡してしまうではありませんか!」

 

 何とも過激な物言いに、袁紹の表情は渋面を通り越して怒気をはらんでいた。

 二人はそれに気づいて慌てふためくが、少女は尚も話し続けた。

 

「今更言うまでもない事ではありますが、袁家は袁安(えんあん)袁敞(えんしょう)袁湯(えんとう)、そして叔母である袁逢(えんほう)袁隗(えんかい)と四代に渡って三公を輩出した名門中の名門であります。本初様には、その高貴な血が流れているのであります。」

 

 本当に言うまでもない事だ。この国の人間なら、結構な頻度で知っている人が居る歴史的事実である。

 それを今わざわざ言ったのは、袁紹がそれだけの名門の生まれであるという事を改めて強調する為である。何故そうするかと言えば、それは袁紹のプライドを刺激する為である。

 

「その袁家の家長である本初様は、何故に徐州を、劉備などという筵売りの小娘を恐れているのですか!? あんなの、ただ胸が大きいだけの小娘でしかないではありませんか!」

 

 ちなみに、この少女は身長同様、胸もそれ程大きくない。よって、今の叫びには多分に私怨が混じっているのかも知れない。

 とはいえ、今の言葉は袁紹を刺激するには充分だったらしく、すっくと立ち上がるとどこからか扇子を取り出し、少女に向けて笑みを向けた。

 

「よくぞ言ってくれましたわ、公則(こうそく)さん! それでこそ袁家の忠臣ですわ‼」

 

 その言葉に、公則と呼ばれた小柄な少女は恭しく拝礼して応え、孔璋と元皓は同時に天を仰いだ。

 こうなった以上、いくら言葉を紡いでもその決意が覆る事はないだろうと、袁紹に長く仕える二人は分かっていた。だからこそ邪魔が入らない内に最善の策を申し述べていたのだが、その努力も水泡に帰してしまった。

 

郭図(かくと)……何で貴女はそう先見の明が無いの?)

 

 元皓は恨めしそうに公則こと郭図を見つめた。

 一方、孔璋は無駄だと分かっていながらも、一応袁紹に進言した。

 

「麗羽様、徐州と戦うのならばそれも良いですが、大義名分はどう致しますか?」

 

 大義なき戦争は支持されない。大義があれば支持されるとは限らないが、少なくともこの国の歴史に名が残る戦争には大義があった。曰く、堕落した殷王朝を倒す。曰く、暴虐な項羽を討つ等だ。

 袁紹が徐州と戦うならば、それなりの大義名分が必要である。孔璋達が徐州と戦うのを良しとしなかった理由の一つが、大義名分が無いからである。

 だからこそ、孔璋達はここで徐州と争う事をせず、むしろ彼等に恩を着せる形で黄巾党を倒すという選択肢を選んだ。これなら、徐州はその名目上こちらの協力を拒む事が出来ず、青州を、民衆を助けるという名声を独り占めに出来ない。

 一方、袁家も名声の独り占めは出来ないが、元々高貴で名声高い袁家が、自ら黄巾党討伐をするというのは、余程の事が無い限りは名が上がる事はあっても下がる事はない。しかも、漢王室の一族や天の御遣いとの共闘なら、尚更である。

 だが、黄巾党を倒そうとする徐州と戦うなら、それなりの大義名分が必要である。

 一応、無い訳では無い。先程までの会話でも話題になった「黄巾党を兵士にする」等がそれである。

 これを大義名分にして攻めれば、一応は宣戦布告の理由として成り立つ。が、「漢王室の一族」や「天の御遣い」といった存在がそれを打ち消してしまう可能性の方が、現段階では高い。

 何せ徐州軍には、既に何度も黄巾党を倒し、十常侍から皇子を助け出したという実績がある。今までの彼等のやり方を知っている人達からすれば、少しくらいの不安要素は無いに等しい。それを理解しているからこそ、敵対して戦う事より共闘するのが吉と判断したのである。

 一方の郭図の考えは、あくまで短期的で視野が狭く、かつ袁家の誇りに重点を置いての事だ。袁紹を中心に物事を考えるという事は間違っていないのだが、今回はやや偏り過ぎている節がある。

 だからだろうか、孔璋達には郭図が大義名分を軽んじている様に感じられた。そしてそれは、当の袁紹の答えでハッキリしてしまった。

 

「そんなもの、名門袁家が天誅をくだすと言えば宜しいのではなくて?」

 

 予想通りの答えが返ってきて、思わず閉口する二人であった。

 繰り返すが、徐州には天の御遣いが居る。その天の御遣い、清宮涼は孫策や曹操と誼を通じている。これが何を意味するか、どうやら袁紹は理解していないらしい。

 徐州牧就任からの流れを見るに、恐らく機を見るに敏と思われる徐州軍が、袁紹軍に対する備えをしていないとは思えない。また、孫策や曹操もただ単に好意だけで清宮と付き合っている訳ではないだろう。何らかの打算で動いていると見て良い。そう考えれば、ここで徐州軍と事を構えるのはまずいのだが、袁紹と郭図は分かっていない。

 本来なら、ここでそうした理由を述べて君主を止めるべきなのだが、この袁紹という君主は一度決めた事を翻す事は余り無く、決定に反する事を言われたら途端に不機嫌になり、時には罷免されたり投獄されたりする。その為、諌める際は細心の注意を払いながら真っ先に諌めないといけない。今回もそれを見越して説得していたのだが、後から来た郭図の「甘い言葉」に負けてしまった。

 それでも、このままでは軍に甚大な被害が出ると分かっているので、二人は敢えて諌め続けた。

 結果、予想通り袁紹の逆鱗に触れ、二人は投獄されてしまった。

 袁紹が十万の大軍を率いて出陣したのは、最初の軍議から一週間後。涼が兗州で曹操と会談をした日の朝であった。

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