勧誘
目の前には光、周りには死体の山、隣には一緒に戦ってきた友人がいる。
「結局、お前は世界と契約しちまうんだな。」
俺が発したのは諦めたような言葉だった。普段なら隣の奴から活を入れられる所だが今回は違った。
「ああ、そうみたいだな。」
肯定された事で、俺はこれが現実なのだと改めて実感してしまう。
俺達は今まで何人もの命を救ってきた。一を切り捨て十を救うやり方では無く、全てを救うやり方で。最初は失敗ばかりだった。救えなかった命があった。
悔しかった。
でも、前へ進まないわけにはいかなかった。失敗と成功を繰り返し、ここまできた。
だが、現実は残酷だ。
アーチャーから聞いた話では、衛宮士郎は死んでしまった人間を生き返らせるために世界と契約したと言う。そしてそれが今、行われようとしている。これは決まった事なのだろうか。
今から行う衛宮との会話、それはおそらく最後となるだろう。そう思い俺はその内容を慎重に考える。
「あ〜、えーっと……」
いざ切り出そうとしてみれば言葉が詰まる。こいつとの最後が、こんなに早く来るとは思わなかった。そんな俺を気にかけてくれたのか衛宮から話しかける。
「俺さ、お前と出会えてよかった。」
「お決まりのセリフだな、おい。」
「本当に思ってる事だ。」
何を言ったかと思えばそんな事かよ。全く、そんな言葉は女性にでも言え。
「アーチャーが言ってただろ。お前は、お前
……大体、衛宮が言いたいことは判った。俺は
「だからさ、嬉しいんだよ。何というかこう……」
「解った。だからその先を言うな。」
照れるし恥ずかしいから止めろ。だがそっち系には目覚めないからな!!
「これを受け取れ。」
そう言って俺は腕輪を渡す。宝石がついているわけでもない、ただの金属でできた腕輪。ただ、そこには細かい文字が敷き詰められていた。
「この腕輪は?」
「少しだが俺の魔術が使える。使い方は念じて魔力を込めればいいだけだ。俺の最後の贈り物だからな大事にしろよ。」
「ありがとう。皆には上手く説明してくれよな。」
「もちろんだ。」
「じゃあな、創太。」
「ああ、またな衛宮。」
それが最後の会話だった。
「世界よ!! 俺の死後を預ける!! だから、ここにいる人達を生き返らせてくれ!!」
その言葉が終わると同時に光は士郎を包み消えていった。残されたのは俺と生き返った人々だけだった。
「さて、これからどうするかねえ。」
まずはここにいる人達を何とかしなくちゃな。
ーーーーー
俺の名前は古崖創太。魔術師改め、魔術遣い兼正義の味方だ。
この正義の味方というのは、今は亡き友人衛宮士郎からの受け売りだ。といっても、完全に正義の味方となった訳でもない。そもそも、正義とは何かすらも理解していないのだから。
話を戻そう。先ほど話した出来事についてだ。それは三年前の事で、衛宮士郎との最後の思い出である。
今の俺、いや六年ぐらい前から、表の顔は貿易商として世界中にある支部社を見回って管理していると同時に、裏では紛争を解決したり、怪しい組織を監視、場合によっては制圧などを行っている。
もちろん、俺一人でやっているわけではない。同じ貿易商の仲間には何人か俺と同じ魔術師もいる。と言うか古崖の当主である叔父がその貿易商の社長で、前々から俺と同じ事をやっていて、仲間も集めていたらしい。血が繋がっているというかなんというか。
現在、俺はロンドンにいる。仕事で来ているのだが、もうそれは終わった。たまたま時計塔に居た遠坂への挨拶は済んだし、そろそろ次の仕事場に行かなければならない。そういえば、遠坂が最後に何か言っていたな。カルデアがどうのこうのと……。
「貴方、古崖創太さんですね?」
と、考え込んでいるとある一人の少女に話しかけられる。何やら話があるとのことだが、人が歩く往来の道のド真ん中で話す訳にもいかず、場所を変える。
そして、不味い。状況がじゃなくて今飲んでる紅茶の味だ。セイバーや遠坂の気持ちがよくわかる。そんな事はどうでもよくて、現在地は喫茶店。椅子にかけているのは銀髪の女性とシルクハットの緑スーツ、そして俺だ。銀髪の方の名前は……
「それでオマリー。」
「オルガマリーよ! 私の名前は!」
あれ、そうだったけ。多種多様な色を持った植物の生き物を連れていそうな感じがしてたんだが……まあ、いいや。
冗談はさておき、銀髪の少女の名前はオルガマリー・アニムスフィア。どっかの所長らしい。こんな幼いのに、よくそんな大役が務まっているな。
経緯としては、先程道端で声をかけられ、名前を確認された後、この喫茶店に連れて来られた。
「悪い。それで本題の方なんだが。」
「人の名前を間違えるとか……」
「何か言った?」
「いいえ何も。」
絶対言ってたが突っ込むと面倒くさそうなので黙っておく。
「色々と言いたい事はありますが、まずは率直に言います。貴方を人理継続保証機関フィニス・カルデアへ引き入れに来ました。」
それを聞いた瞬間、思い出す。遠坂からその名前を聞いた事を。
遠坂もそんな話が来たとかなんとか言ってたな。未来が来ないからどうのこうのと。詳細は遠坂から聞いたが、まさか本当にいるとは。ちなみに彼女は了承したらしい。
「未来を守るための組織だったな。」
「話が早くて助かります。貴方は人々を救うためと言って、世界中を飛び回っているそうですね。その心中が嘘か、真かは分かりませんが、遠坂の当主からは信頼できる人物だと聞いています。そして、あの聖杯戦争を生き延びた一人とも。」
「あいつ……よくもペラペラと……。」
悪い事を喋っている訳ではないが、人の情報をバラすなよ。けれど、一つ疑問がある。いや、疑問というよりただの確認がしたいというか。
「俺の魔術の事は、遠坂に聞かなかったのか?」
「いいえ。貴方達、古崖家の魔術は代々行使する魔術が変わるとだけ。私達が調べても、それに違いはありませんでした。
けれど、正直に言って、貴方に対して魔術師としての力は求めていません。」
こいつ、はっきり言いやがった。
まあ、遠坂が俺の魔術をバラさなかった事が聞きたかったので、その事はどうでもいいだろう。
「貴方が偶然にもロンドンにいた、という情報を得て、遠坂凛に話を持ち込んだついでに、貴方を引き入れにきました。」
どうでもいいって言ったのは、訂正する。こいつ腹立つ。ついでって何、ついでって。
「私は貴方に指揮官として、組織へと引き入れたいのです。」
「なんで指揮官なんだ?」
「一癖も二癖もある魔術師達を纏めている貴方のカリスマ性を見込んでの事です。」
ああ、なるほど。俺はたしかに色々な魔術師と交流を持っている。今いる仲間もそうだし、貿易相手の中にも魔術師がいる。
そして、カルデアには多くの魔術師が集められる。けれど、普通の魔術師達が勝手に纏まるはずもない。むしろ、空中分解を起こすだろう。
「人々を救うという、魔術師にとっては異端の目標を掲げながらも、なおも今、貴方は魔術師の仲間を引き連れています。
そのカリスマ性があれば、カルデアの指揮官として活躍できる事でしょう。」
「俺の力を評価してくれるのはありがたいけど、俺の叔父には頼まなかったのか?」
仲間を引き連れていると、オルガマリーは言ってはいるが、あくまでも俺は前線に立っているだけで、リーダーをやっているわけではない。
さらに言うと、仲間の大半は父と叔父が集めた人か、その身内だ。俺が引き入れた仲間なんて、数少ない。
「依頼はしました。けれども彼は貴方を推薦していました。」
ちょい待て。あの人そんな事をしてたなら、なんで俺に何も言わないんだ⁉︎俺の居場所分かってるよね⁉︎いつも直接報告してんだからよ!
絶対面倒くさいからだろ! 確かそういう性格だったな!
「そろそろ、答えをお聞きしても?」
……あとで
答えとしては、もちろんイエス・キリゲフンゲフン。もちろん、はいと言いたいが
「俺はパスだ。」
「は!? どうしてよ!!」
おい、ここは公共の場だぞ。うるさくするな。ほら、周りの目線が一気にこっちに向いた。オルガマリーはすぐに気づいて縮こまったみたいだけど。
「理由を聞いてもいいかな?」
オルガマリーの隣にいる緑シルクハット、レフ・ライノールが聞いてくる。
「簡単な話だ。あんたらの言っている事が信じられないからだ。未来が危ないからと言って、はいそうですかと話には乗れない。」
信じられないというのは嘘だ。オルガマリーは真剣な表情で話をしていたから、未来を守るというのは嘘ではないと思っている。だがレフさんよ、お前からはプンプンと胡散臭い匂いが漂ってるんだよ。そんな奴と一緒に居たくはないのが本音だ。
「それなら私達と共にカルデアへ……」
「信用できない奴の本拠地に行けるわけねえだろ。」
それくらい普通に分かれよ。
「悪いが他を当たってくれ。けど俺は俺であんたらが言ってる事が本当かどうかを確かめる。それが真実だったら今度はこっちから連絡を取る。」
「解ったわ。その時はまた貴方をカルデアの一員として迎えいれましょう。」
「あんま期待すんなよ」
良かった。一度断ったから、もう来るなとか言われずに済みそうだ。
「はい、これが連絡先よ。」
「サンキュー。」
そんでもってごめん。本当は使い魔で追跡して、カルデアの場所を特定するつもりだから。
名刺を渡されても全く使わないから。
「そんじゃまたな。」
「ちょっと待ちなさい勘定は……」
ちっ、バレちまったか。
「いいんだよ、俺が払う。断った詫びだ。」
手に持った伝票で、ひらひらと空を仰ぎながら言う。
「……解ったわ。」
「素直でよろしい。んじゃな。」
「でも、最後に一つだけ。
ジアナ・ドラナリク、彼女は今どこに?」
「……さあな。」
お茶を濁しながらも会計を済ませ、俺は喫茶店を出て行く。さて、世界を救う準備でもしますか。
どうも作者です。
無茶苦茶な気がする。何とは言いませけど。